「大統領の命(タマ)ァ取ったる……ぞォォォッ!」
「オオオオオッ!」
リーダー北沢に率いられ燃え盛る、一千人からなる大軍勢。
対する大統領陣営は、ホテル東門をオリバから任された柳ただ一人。津波の如く押し寄
せる群れから、柳は冷静に中心人物(キーマン)を見破る。
北沢ではない。おそらく実質のトップは、北沢の横にいる長身で浅黒い肌を持つ若者。
「まずあれを叩くか……」
たった一人でテロリストを迎え撃とうとする柳に、北沢が吠えかかる。
「おい、チビ親父ッ! まさかてめぇ、一人で俺らの相手するつもりかよッ!?」
「おい北沢、あいつは俺にやらせろ。軽く血祭りに上げて、さらにムードを盛り上げる」
「分かったぜ、内藤さん」
柳が標的にした若者は内藤という名だった。わざわざ向こうから来てくれるとは、これ
ほど楽なことはない。
拳を構え、内藤が柳めがけて突っかける。
「死ねやァッ!」
拳が飛んできた。もっとも柳にとっては漂ってきた、といってもよい遅さだ。
「ぬるい」
「えっ?」
柳は拳をやすやすと右手で捌くと、残る左手で内藤の太股に鞭打を決めた。
「ヒィギャアアァァァッ!」
肉を抉られる鋭い痛みに、悲鳴を上げる内藤。柳は容赦しない。鞭と化けた右手を次は
肩へと叩きつけた。
口から泡と絶叫を吐き出しながら、内藤が地面をのたうち回る。柳の目は冷ややかにそ
れを見つめる。
「気絶はさせんよ。拷問は空道では基本に過ぎん」
肋骨につま先を引っかけるような蹴り。横隔膜に多大なダメージを受け、吐しゃ物をま
き散らす内藤。
「ひっ……ゲェッ! ゆ、許してくれェェェッ!」
血祭りに上げるとまでいった威勢はどこへやら、内藤は膝をつき、涙に歪んだ顔で命乞
いをする。
トドメは顔面蹴り。前歯を全壊させ、ようやく内藤は失神を許された。
「なっ、内藤さんがッ!」
「さて……次はだれが来るのかな」
格の違いを見せつけ、一千人に向き直る柳。
「オオオオオッ!」
リーダー北沢に率いられ燃え盛る、一千人からなる大軍勢。
対する大統領陣営は、ホテル東門をオリバから任された柳ただ一人。津波の如く押し寄
せる群れから、柳は冷静に中心人物(キーマン)を見破る。
北沢ではない。おそらく実質のトップは、北沢の横にいる長身で浅黒い肌を持つ若者。
「まずあれを叩くか……」
たった一人でテロリストを迎え撃とうとする柳に、北沢が吠えかかる。
「おい、チビ親父ッ! まさかてめぇ、一人で俺らの相手するつもりかよッ!?」
「おい北沢、あいつは俺にやらせろ。軽く血祭りに上げて、さらにムードを盛り上げる」
「分かったぜ、内藤さん」
柳が標的にした若者は内藤という名だった。わざわざ向こうから来てくれるとは、これ
ほど楽なことはない。
拳を構え、内藤が柳めがけて突っかける。
「死ねやァッ!」
拳が飛んできた。もっとも柳にとっては漂ってきた、といってもよい遅さだ。
「ぬるい」
「えっ?」
柳は拳をやすやすと右手で捌くと、残る左手で内藤の太股に鞭打を決めた。
「ヒィギャアアァァァッ!」
肉を抉られる鋭い痛みに、悲鳴を上げる内藤。柳は容赦しない。鞭と化けた右手を次は
肩へと叩きつけた。
口から泡と絶叫を吐き出しながら、内藤が地面をのたうち回る。柳の目は冷ややかにそ
れを見つめる。
「気絶はさせんよ。拷問は空道では基本に過ぎん」
肋骨につま先を引っかけるような蹴り。横隔膜に多大なダメージを受け、吐しゃ物をま
き散らす内藤。
「ひっ……ゲェッ! ゆ、許してくれェェェッ!」
血祭りに上げるとまでいった威勢はどこへやら、内藤は膝をつき、涙に歪んだ顔で命乞
いをする。
トドメは顔面蹴り。前歯を全壊させ、ようやく内藤は失神を許された。
「なっ、内藤さんがッ!」
「さて……次はだれが来るのかな」
格の違いを見せつけ、一千人に向き直る柳。
北沢軍団でも屈指の実力を誇る内藤が、無残な敗北者として屍を晒している。
柳の計算ではこれで敵の戦意を挫けた──はずだった。
「──ビビッてんじゃねぇぞッ! あの親父がどんだけ強かろうと、数で押せば敗けるは
ずがねぇんだッ! 突撃ィィィッ!」
北沢の号令で、手下たちが息を吹き返した。
再度、津波となって柳を呑み込まんとする北沢軍団。
「やれやれ、やはりそう上手くいくものではないな。……もっとも、この展開の方が私と
しては望ましいのだがね」
ぼそりと独りごちると、柳は靴を脱ぎ捨てる。これで素手に加えて素足となった。
「やっちまえェェェッ!」
「人生の先輩として、君たちにひとつ質問をしよう。地上でもっとも強力な毒ガスとはな
にか分かるかね」
「知るかァッ!」
「──では、身を以って味わうといい」
柳の眼が妖しく光った。
柳の計算ではこれで敵の戦意を挫けた──はずだった。
「──ビビッてんじゃねぇぞッ! あの親父がどんだけ強かろうと、数で押せば敗けるは
ずがねぇんだッ! 突撃ィィィッ!」
北沢の号令で、手下たちが息を吹き返した。
再度、津波となって柳を呑み込まんとする北沢軍団。
「やれやれ、やはりそう上手くいくものではないな。……もっとも、この展開の方が私と
しては望ましいのだがね」
ぼそりと独りごちると、柳は靴を脱ぎ捨てる。これで素手に加えて素足となった。
「やっちまえェェェッ!」
「人生の先輩として、君たちにひとつ質問をしよう。地上でもっとも強力な毒ガスとはな
にか分かるかね」
「知るかァッ!」
「──では、身を以って味わうといい」
柳の眼が妖しく光った。
金属バットを振りかぶる北沢の口元に、柳はそっと右手を添えた。たったこれだけの動
作で、北沢は糸が切れたように崩れ落ちてしまった。
むろん、テロリストたちはこれが空道の技術「空掌」によるものだとは知る由もない。
「てめぇ、よくも北沢さんをッ!」
「えぇい、かまうか、ぶっ殺せッ!」
「囲め、囲めぇっ!」
リーダーを失っても、北沢軍団に勢いの衰える様子はない。ところが、柳は変わらず涼
しい表情だ。
──戦闘開始。
己を狙う殺気で充満した武装集団の中を、液体のようなしなやかさで舞う。
柳が通るたび、道筋に立っていた人間がばたばたとなぎ倒される。絶え間なく繰り出さ
れる手足が、四方の敵の口と鼻を塞ぎ、一瞬にして身体機能を奪い去る。四肢に毒を得た
以上、もはや多勢は意味を成さない。
理解不能の現象に巻き込まれ、北沢軍団から立っている者がいなくなっていく。
空掌による猛毒は息を止めれば防げるのだが、戦闘という緊急事態に興奮した彼らの呼
吸は乱れ切っており、攻略法にたどり着く可能性は絶無。
一千人からなる多勢も、半分を切ると逃亡者が続出、五分も経過すると、もはや警備に
当たる警官だけでも十分制圧できる数にまで減少していた。
「君らも汚名返上をしたいだろう。あとは任せたので、よろしく」
息切れ一つない柳と入れ替わりに、これまでの失態を晴らすべく突撃する警官たち。
かくして東門の平和は保たれた。
作で、北沢は糸が切れたように崩れ落ちてしまった。
むろん、テロリストたちはこれが空道の技術「空掌」によるものだとは知る由もない。
「てめぇ、よくも北沢さんをッ!」
「えぇい、かまうか、ぶっ殺せッ!」
「囲め、囲めぇっ!」
リーダーを失っても、北沢軍団に勢いの衰える様子はない。ところが、柳は変わらず涼
しい表情だ。
──戦闘開始。
己を狙う殺気で充満した武装集団の中を、液体のようなしなやかさで舞う。
柳が通るたび、道筋に立っていた人間がばたばたとなぎ倒される。絶え間なく繰り出さ
れる手足が、四方の敵の口と鼻を塞ぎ、一瞬にして身体機能を奪い去る。四肢に毒を得た
以上、もはや多勢は意味を成さない。
理解不能の現象に巻き込まれ、北沢軍団から立っている者がいなくなっていく。
空掌による猛毒は息を止めれば防げるのだが、戦闘という緊急事態に興奮した彼らの呼
吸は乱れ切っており、攻略法にたどり着く可能性は絶無。
一千人からなる多勢も、半分を切ると逃亡者が続出、五分も経過すると、もはや警備に
当たる警官だけでも十分制圧できる数にまで減少していた。
「君らも汚名返上をしたいだろう。あとは任せたので、よろしく」
息切れ一つない柳と入れ替わりに、これまでの失態を晴らすべく突撃する警官たち。
かくして東門の平和は保たれた。
──柳龍光、完勝。