地上最強の名探偵、範馬勇次郎。
探偵は事件を引きつけ、事件は探偵を引きつける。探偵の宿命か、勇次郎は息子刃牙と
ともに宿泊していたホテルにて殺人事件に巻き込まれてしまった。
ホテルの一室で殺されていたのは、アルバート・ペイン。今年のノーベル物理学賞、受
賞者だ。
通報を受け駆けつけた片平刑事も、勇次郎の名声を知る一人であった。
「いやァ~光栄ですねェ。あなたのような名探偵と出会えるなんて」
「どうでもいいんだよ、ンなこたァ。さっさと終わらせるぜ」
勇次郎はセックスより、食事より、空気より、闘争と事件解決を優先する。
「犯人は決まってるぜ。100%な」
「ジャ、ジャブより疾い……ッ! もう解決してしまったんですか! で、犯人は?!」
勇次郎の推理スピードはプロボクサーの動体視力でも捉えられない。
「ジャックだ」
「ジャック・ハンマーですか……? なぜ……?」
「あれは血が薄い」
意味不明すぎる推理ながら、念のため片平はジャックのアリバイを確認する。
「範馬さん」
「ん、礼には及ばねェぜ」
「残念ながらジャック氏は犯行時刻、居酒屋でトイレをゲロまみれにした挙げ句、ダイア
モンド化していたそうです」
勇次郎はなぜか近くにあった机を叩き壊した。
「奴が犯人でないのは想定通りだ。刃牙ほどでないにせよ、俺の血をひくガキが、下らん
殺人など起こすはずがない」
さっきまでとはあべこべのことをいっているが、片平はあえて触れない。
「……では、真犯人はいったいだれなんでしょうか」
「愚地独歩に違いねェな」
「あの神心会の館長がですか?!」
「おめェ、あいつが人からなんて呼ばれてるか知っているか?」
「いやァ~色々ありますよねェ、武神とか、虎殺し、人喰いオロチだとか……」
突如、勇次郎が眼を見開いた。
「あのヤロウ、とうとう虎だけじゃ我慢できなくなって、殺っちまったんだろうぜ。本当
に人喰いオロチになりたかったんだろうよ。
エフッ、エフッ……アハハハハハハハハハハハッ!」
ホテル中に響くほどの大声で、勇次郎が笑い出した。笑っている間に片平が署に問い合
わせると、すぐに愚地独歩のアリバイは証明された。
「──というわけで、稽古中だったため愚地氏には犯行は不可能ですね」
片平が淡々と告げると、勇次郎はなぜか拳で壁にクレーターを作った。
「あのォ~私はこれで……」
帰ろうとする片平を、勇次郎はあわてて呼び止める。
「待ていッ!」
「な、なんでしょうか」
「今度こそ分かったぜ。犯人がよォ……」
「だれですか」
「本部以蔵だ」
「なぜですか」
「………」
適当に思い浮かんだ名前を挙げただけなので、理由などあろうはずがない。悩みすぎて、
勇次郎の顔がどんどん凶悪な貌(かお)に変形していく。
探偵は事件を引きつけ、事件は探偵を引きつける。探偵の宿命か、勇次郎は息子刃牙と
ともに宿泊していたホテルにて殺人事件に巻き込まれてしまった。
ホテルの一室で殺されていたのは、アルバート・ペイン。今年のノーベル物理学賞、受
賞者だ。
通報を受け駆けつけた片平刑事も、勇次郎の名声を知る一人であった。
「いやァ~光栄ですねェ。あなたのような名探偵と出会えるなんて」
「どうでもいいんだよ、ンなこたァ。さっさと終わらせるぜ」
勇次郎はセックスより、食事より、空気より、闘争と事件解決を優先する。
「犯人は決まってるぜ。100%な」
「ジャ、ジャブより疾い……ッ! もう解決してしまったんですか! で、犯人は?!」
勇次郎の推理スピードはプロボクサーの動体視力でも捉えられない。
「ジャックだ」
「ジャック・ハンマーですか……? なぜ……?」
「あれは血が薄い」
意味不明すぎる推理ながら、念のため片平はジャックのアリバイを確認する。
「範馬さん」
「ん、礼には及ばねェぜ」
「残念ながらジャック氏は犯行時刻、居酒屋でトイレをゲロまみれにした挙げ句、ダイア
モンド化していたそうです」
勇次郎はなぜか近くにあった机を叩き壊した。
「奴が犯人でないのは想定通りだ。刃牙ほどでないにせよ、俺の血をひくガキが、下らん
殺人など起こすはずがない」
さっきまでとはあべこべのことをいっているが、片平はあえて触れない。
「……では、真犯人はいったいだれなんでしょうか」
「愚地独歩に違いねェな」
「あの神心会の館長がですか?!」
「おめェ、あいつが人からなんて呼ばれてるか知っているか?」
「いやァ~色々ありますよねェ、武神とか、虎殺し、人喰いオロチだとか……」
突如、勇次郎が眼を見開いた。
「あのヤロウ、とうとう虎だけじゃ我慢できなくなって、殺っちまったんだろうぜ。本当
に人喰いオロチになりたかったんだろうよ。
エフッ、エフッ……アハハハハハハハハハハハッ!」
ホテル中に響くほどの大声で、勇次郎が笑い出した。笑っている間に片平が署に問い合
わせると、すぐに愚地独歩のアリバイは証明された。
「──というわけで、稽古中だったため愚地氏には犯行は不可能ですね」
片平が淡々と告げると、勇次郎はなぜか拳で壁にクレーターを作った。
「あのォ~私はこれで……」
帰ろうとする片平を、勇次郎はあわてて呼び止める。
「待ていッ!」
「な、なんでしょうか」
「今度こそ分かったぜ。犯人がよォ……」
「だれですか」
「本部以蔵だ」
「なぜですか」
「………」
適当に思い浮かんだ名前を挙げただけなので、理由などあろうはずがない。悩みすぎて、
勇次郎の顔がどんどん凶悪な貌(かお)に変形していく。
──どうやらここまでだな、親父。
刃牙が手を上げた。
すると、四方に伏せていた腕っこきの狙撃手たちが一斉に立ち上がった。
銃声。
銃声。
銃声。
銃声。
銃声。
撃たれる勇次郎。
「予想もしなかったぜ……こんなところで銃とはッ!」
拳を握り締め、荒れ狂うが、さすがの勇次郎もついに力尽きた。
片平刑事は後にこう語った。
「地上最強の名探偵、範馬勇次郎の噂は耳にしていましたが、スゴいもんですわ。突然地
面に崩れ落ちたと思ったら、それまでトンチンカンな推理をしていたのがウソのように、
あっという間に真犯人を暴き出してしまいましたよ。口も動いてなかったし、本当に眠っ
ているようにしか見えなかった。
──あれが“眠りの勇次郎”なんですねェ……」
すると、四方に伏せていた腕っこきの狙撃手たちが一斉に立ち上がった。
銃声。
銃声。
銃声。
銃声。
銃声。
撃たれる勇次郎。
「予想もしなかったぜ……こんなところで銃とはッ!」
拳を握り締め、荒れ狂うが、さすがの勇次郎もついに力尽きた。
片平刑事は後にこう語った。
「地上最強の名探偵、範馬勇次郎の噂は耳にしていましたが、スゴいもんですわ。突然地
面に崩れ落ちたと思ったら、それまでトンチンカンな推理をしていたのがウソのように、
あっという間に真犯人を暴き出してしまいましたよ。口も動いてなかったし、本当に眠っ
ているようにしか見えなかった。
──あれが“眠りの勇次郎”なんですねェ……」
変声機を手に、事件現場から立ち去る刃牙。
目立つことが嫌いな彼は、決して自ら表には出ない。
勇次郎の推理が行き詰まると、毎回子飼いのハンターたちに勇次郎を麻酔銃で狙撃させ、
勇次郎の振りをして事件を解決するのだ。
「地上最強の名探偵」の名声を支えているのが実は彼だということを知る人間はほとん
どいない。
地上最強の名探偵の息子、範馬刃牙。今日も彼は勇次郎とともに事件に立ち向かう。
目立つことが嫌いな彼は、決して自ら表には出ない。
勇次郎の推理が行き詰まると、毎回子飼いのハンターたちに勇次郎を麻酔銃で狙撃させ、
勇次郎の振りをして事件を解決するのだ。
「地上最強の名探偵」の名声を支えているのが実は彼だということを知る人間はほとん
どいない。
地上最強の名探偵の息子、範馬刃牙。今日も彼は勇次郎とともに事件に立ち向かう。
お わ り