「あら、私が一番最後だったのかしら、藍?」
物憂げな表情で問う西行寺幽々子へ、藍は頭を下げてこれに答えた。
「左様でございます。幽々子刀自」
「そう……おっとり刀で駆けつけたのだけれど、ちょっと遅れてしまったようね」
残念そうに口元を扇子で覆う幽々子へ、妖夢がそっと耳打ちする。
「あのう、『おっとり刀』とは、『刀を差す暇も惜しんで』という意味ですので、
この通り私が腰に刀を差していては不適当な表現だと思いますが」
「貴女は口を挟まないで、妖夢」
「失礼いたしました」
「意味なんかどうでもいいのよ。『おっとり』という語呂が気に入ったから言ってみただけですもの」
「……御見それしました。さすが幽々子さま」
感服して涙ぐむ妖夢の背後で、なにかネコ耳っぽいのがぴょこぴょこする。
それを目敏く見とがめた藍は、そちらへ声をかけた。
「ここへ来るのだ、橙(チェン)」
総毛逆立てて怯んだネコ耳少女──橙は、おっかなびっくり藍の前に進み出る。
「はい、藍さま……」
「お前を真っ先に白玉楼へ使いに出したはずが、なぜ今頃の御到着になられたのだ?」
「も、申し訳ありません藍さま。あたし、スキマに引っかかっちゃって……」
「お前の伝達が遅れたせいで、幽々子刀自はいらぬ恥をかいた。それについてはどう考えている」
「はい……藍さまの仰る通り、あたしの責任ですぅ……ごめんなさい……」
叱責に肩をすくめて涙をこぼす橙にいたたまれなくなった妖夢が、なんとか仲裁しようと割って入った。
「あの、藍さん……責任というならこの私が悪いんです。私が橙を剣で驚かせてしまったもので……」
「貴女は黙っていただこう、魂魄妖夢! 幽々子刀自の従者と言えど、余計な口出しは無用! これは私と橙の問題だ!」
一喝して妖夢を黙らせるや、再び橙に向き直る。
喝破された妖夢は涙目になって幽々子へ振り返り、幽々子はしょうがないなあよしよし、といった手つきで妖夢の頭を撫でる。
「橙、お前は私が生み出した式だ。お前が事に後れをとれば、それすなわち私の力量が疑われるのだ」
「……ひっ、ひぐっ……うぇ……ごめんなさいぃぃ……」
ついにべそをかき始めたことで、今度こそ霊夢が止めに入る。
「はいはいはいはい。もういいでしょ? あんま厳しくしつけたって、子は思い通りには育たないもんよ。
手塩にかければ万事解決ってんなら、この世の子供が非行に走るわけないでしょ」
「むう……お前がそこまで言うなら。橙、これからも私の式としての誇りと責を忘れないように」
「……はい!」
雨に濡れた後の向日葵が綺麗なように、涙の跡の残る橙の笑顔の破壊力たるや、並の火力では追い付かない代物だった。
ここにロリコンがいたら八割方死んでるに違いない。
「さ、橙。燐があっちにいるから遊んでらっしゃい」
「え、燐ちゃんがいるんですか、霊夢しゃま!」
化猫を依代にしているだけあって、橙の猫好きはかなり熱が入っている。
つい今まで怒られていたこともすっかり忘れ、嬌声をあげて燐を抱きあげ、思いっきり頬ずりした。
「心配しなさんな。あんたの式なんだから、いずれ一廉の妖怪になるわよ」
まだ橙から視線を外さない藍へ、霊夢のダメ押しフォロー。
「なんて可愛らしいんだ……」
「え? なんか言った、藍?」
「なんでもない」
異様な瞬発力で振り向いた。
急に人口密度が増した、もっとも非想天(有頂天)に近い妖怪の山の頂を見渡して、幽々子がほぅっと感嘆の息をつく。
「それにしても……なかなか壮観な図ね。藍、よくもここまで掻き集めたものじゃない」
「恐れ入ります」
「鬼、天人、神……レアモンスター勢揃いね。このメンツでいったいなにして遊ぼうっての?」
「それは紫さまが御到着してからだ、霊夢」
「いつ来るのよ。いい加減もう帰りたいんだけど」
「もう間も無くだ」
ここで、集められた人物について箇条書きで紹介しておく。
物憂げな表情で問う西行寺幽々子へ、藍は頭を下げてこれに答えた。
「左様でございます。幽々子刀自」
「そう……おっとり刀で駆けつけたのだけれど、ちょっと遅れてしまったようね」
残念そうに口元を扇子で覆う幽々子へ、妖夢がそっと耳打ちする。
「あのう、『おっとり刀』とは、『刀を差す暇も惜しんで』という意味ですので、
この通り私が腰に刀を差していては不適当な表現だと思いますが」
「貴女は口を挟まないで、妖夢」
「失礼いたしました」
「意味なんかどうでもいいのよ。『おっとり』という語呂が気に入ったから言ってみただけですもの」
「……御見それしました。さすが幽々子さま」
感服して涙ぐむ妖夢の背後で、なにかネコ耳っぽいのがぴょこぴょこする。
それを目敏く見とがめた藍は、そちらへ声をかけた。
「ここへ来るのだ、橙(チェン)」
総毛逆立てて怯んだネコ耳少女──橙は、おっかなびっくり藍の前に進み出る。
「はい、藍さま……」
「お前を真っ先に白玉楼へ使いに出したはずが、なぜ今頃の御到着になられたのだ?」
「も、申し訳ありません藍さま。あたし、スキマに引っかかっちゃって……」
「お前の伝達が遅れたせいで、幽々子刀自はいらぬ恥をかいた。それについてはどう考えている」
「はい……藍さまの仰る通り、あたしの責任ですぅ……ごめんなさい……」
叱責に肩をすくめて涙をこぼす橙にいたたまれなくなった妖夢が、なんとか仲裁しようと割って入った。
「あの、藍さん……責任というならこの私が悪いんです。私が橙を剣で驚かせてしまったもので……」
「貴女は黙っていただこう、魂魄妖夢! 幽々子刀自の従者と言えど、余計な口出しは無用! これは私と橙の問題だ!」
一喝して妖夢を黙らせるや、再び橙に向き直る。
喝破された妖夢は涙目になって幽々子へ振り返り、幽々子はしょうがないなあよしよし、といった手つきで妖夢の頭を撫でる。
「橙、お前は私が生み出した式だ。お前が事に後れをとれば、それすなわち私の力量が疑われるのだ」
「……ひっ、ひぐっ……うぇ……ごめんなさいぃぃ……」
ついにべそをかき始めたことで、今度こそ霊夢が止めに入る。
「はいはいはいはい。もういいでしょ? あんま厳しくしつけたって、子は思い通りには育たないもんよ。
手塩にかければ万事解決ってんなら、この世の子供が非行に走るわけないでしょ」
「むう……お前がそこまで言うなら。橙、これからも私の式としての誇りと責を忘れないように」
「……はい!」
雨に濡れた後の向日葵が綺麗なように、涙の跡の残る橙の笑顔の破壊力たるや、並の火力では追い付かない代物だった。
ここにロリコンがいたら八割方死んでるに違いない。
「さ、橙。燐があっちにいるから遊んでらっしゃい」
「え、燐ちゃんがいるんですか、霊夢しゃま!」
化猫を依代にしているだけあって、橙の猫好きはかなり熱が入っている。
つい今まで怒られていたこともすっかり忘れ、嬌声をあげて燐を抱きあげ、思いっきり頬ずりした。
「心配しなさんな。あんたの式なんだから、いずれ一廉の妖怪になるわよ」
まだ橙から視線を外さない藍へ、霊夢のダメ押しフォロー。
「なんて可愛らしいんだ……」
「え? なんか言った、藍?」
「なんでもない」
異様な瞬発力で振り向いた。
急に人口密度が増した、もっとも非想天(有頂天)に近い妖怪の山の頂を見渡して、幽々子がほぅっと感嘆の息をつく。
「それにしても……なかなか壮観な図ね。藍、よくもここまで掻き集めたものじゃない」
「恐れ入ります」
「鬼、天人、神……レアモンスター勢揃いね。このメンツでいったいなにして遊ぼうっての?」
「それは紫さまが御到着してからだ、霊夢」
「いつ来るのよ。いい加減もう帰りたいんだけど」
「もう間も無くだ」
ここで、集められた人物について箇条書きで紹介しておく。
「楽園の素敵な巫女」──博麗霊夢(はくれい れいむ)・人間──『空を飛ぶ程度の能力』
「祀られる風の人間」──東風谷早苗(こちや さなえ)・人間──『奇跡を起こす程度の能力』
「半分幻の庭師」──魂魄妖夢(こんぱく ようむ)・人間と幽霊のハーフ──『剣術を扱う程度の能力』
「華胥の亡霊」──西行寺幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)・亡霊──『主に死を操る程度の能力』
「伝統の幻想ブン屋」──射命丸文(しゃめいまる あや)・烏天狗──『風を操る程度の能力』
「小さな百鬼夜行」──伊吹萃香(いぶき すいか)・鬼──『密度を操る程度の能力』
「美しき緋の衣」──永江衣玖(ながえ いく)・妖怪──『空気を読む程度の能力』
「非想非非想天の娘」──比那名居天子(ひななゐ てんし)・天人くずれ──『大地を操る程度の能力』
「山坂と湖の権化」──八坂神奈子(やさか かなこ)・神様──『乾を創造する程度の能力』
「土着神の頂点」──洩矢諏訪子(もりや すわこ)・神様──『坤を創造する程度の能力』
「策士の九尾」──八雲藍(やくも らん)・妖獣──『式神を使う程度の能力』
番外
「凶兆の黒猫」──橙(ちぇん)・妖獣──『妖術を扱う程度の能力』
「凶兆の黒猫」──橙(ちぇん)・妖獣──『妖術を扱う程度の能力』
「地獄の輪禍」──火焔猫燐(かえんびょう りん)・火車──『死体を持ち去る程度の能力』
「これで、揃ったな」
満足げに、だが決して冷静さを失わない藍の頷き。
「だったらさっさとあんたのご主人さまを召喚しなさいよ」
「なにを言っている、霊夢」
「……なによ?」
「我が主上はすでにお出でになられている。
いや──この言い方は正確ではないな。我が主上は最初からここに居られた──これも正確ではないな」
くぱぁ、と、なにかが開く音がした。
「────っ!」
人も神も妖怪も、その別なく一様に、その顔色が驚愕に染まる。
目の前の、背後の、真上の、足元の、ありとあらゆる空間に、スキマ風が吹いていた。
罅割れたような線が無数に浮かび──この世界を歪めて線が開く。
「我が主上にとって、この幻想郷は小さな掌のようなもの……。
時間も、距離も、方位も、指標も、そのすべてを掌中に収めておられる。
どこにでもいるが、どこにもいない……虚と実の狭間にこそ、我が主上は存在して居られる」
開いた線の隙間から、どうっと瘴気が溢れ出す。
開いた線の隙間から、無数の「目」がこちらを視ていた。
開いた線の隙間から、虚無の歌声が近くで遠くで木霊していた。
「為に、我が主上はときにこう綽名される──」
「『境界の妖怪』」
半人部分である肉体はおろか、半霊部分である背後の霊魂までもが凍てつくような冷気に震えを隠せず、魂魄妖夢が呟く。
「その通り(イグザクトリィ)」
その異名を、藍が肯定した。
真黒に染まった風に咳きこみ、口元をマフラーで押さえながら射命丸文が呻く。
「『気味の悪い微笑み』……」
「その通り(イグザクトリィ)」
酔いの醒めた伊吹萃香が、珍しいものでも見たかのように声を弾ませる。
「……『幻想の境界』!」
「その通り(イグザクトリィ)」
どことなく上気した表情で、うっとりと擦れた声で囁く比那名居天子。
「『幻想の狐の嫁入り』……」
「その通り(イグザクトリィ)」
天界から流れる浄気と、隙間から這い出る瘴気がないまぜになった異界のような風廻りでも、
顔色ひとつ変えずに可憐にたたずむ西行寺幽々子の優しげで不吉な呼び声。
「『割と困ったちゃん』」
「その通り(イグザクトリィ)」
満足げに、だが決して冷静さを失わない藍の頷き。
「だったらさっさとあんたのご主人さまを召喚しなさいよ」
「なにを言っている、霊夢」
「……なによ?」
「我が主上はすでにお出でになられている。
いや──この言い方は正確ではないな。我が主上は最初からここに居られた──これも正確ではないな」
くぱぁ、と、なにかが開く音がした。
「────っ!」
人も神も妖怪も、その別なく一様に、その顔色が驚愕に染まる。
目の前の、背後の、真上の、足元の、ありとあらゆる空間に、スキマ風が吹いていた。
罅割れたような線が無数に浮かび──この世界を歪めて線が開く。
「我が主上にとって、この幻想郷は小さな掌のようなもの……。
時間も、距離も、方位も、指標も、そのすべてを掌中に収めておられる。
どこにでもいるが、どこにもいない……虚と実の狭間にこそ、我が主上は存在して居られる」
開いた線の隙間から、どうっと瘴気が溢れ出す。
開いた線の隙間から、無数の「目」がこちらを視ていた。
開いた線の隙間から、虚無の歌声が近くで遠くで木霊していた。
「為に、我が主上はときにこう綽名される──」
「『境界の妖怪』」
半人部分である肉体はおろか、半霊部分である背後の霊魂までもが凍てつくような冷気に震えを隠せず、魂魄妖夢が呟く。
「その通り(イグザクトリィ)」
その異名を、藍が肯定した。
真黒に染まった風に咳きこみ、口元をマフラーで押さえながら射命丸文が呻く。
「『気味の悪い微笑み』……」
「その通り(イグザクトリィ)」
酔いの醒めた伊吹萃香が、珍しいものでも見たかのように声を弾ませる。
「……『幻想の境界』!」
「その通り(イグザクトリィ)」
どことなく上気した表情で、うっとりと擦れた声で囁く比那名居天子。
「『幻想の狐の嫁入り』……」
「その通り(イグザクトリィ)」
天界から流れる浄気と、隙間から這い出る瘴気がないまぜになった異界のような風廻りでも、
顔色ひとつ変えずに可憐にたたずむ西行寺幽々子の優しげで不吉な呼び声。
「『割と困ったちゃん』」
「その通り(イグザクトリィ)」
──この幻想郷が幻想郷として成立した当初から、陰ながらその移り変わりをずううぅっと眺めていた少女がいる。
その少女は『境界を操る程度の能力』という能力を持つ妖怪だった。
万物に存在する物理的境界、万霊に存在する概念的境界、個と世界を隔てる絶対的境界、
そのすべてを操ることのできる、この世の全てを操り得る強力な妖だった。
彼女はその類稀なる能力を使い、「幻と実体の境界」という結界を形成することで、『外の世界』と幻想郷を隔離した。
この隔離計画により、幻想郷は幻想の中の郷となった。
蝶の夢か、夢の蝶か──決して交わらない、二つの世界。
ここに辿りつく者、流れつく物、それらは皆『外の世界』では消えて無くなったモノとなる。
そう、まるで、神に隠されたように跡形もなくなり、彼の世界には幻想だけが残される。
……そして、この隔離計画にもう一役買っている、別の結界がある。
その結界の名は「博麗大結界」──。
その少女は『境界を操る程度の能力』という能力を持つ妖怪だった。
万物に存在する物理的境界、万霊に存在する概念的境界、個と世界を隔てる絶対的境界、
そのすべてを操ることのできる、この世の全てを操り得る強力な妖だった。
彼女はその類稀なる能力を使い、「幻と実体の境界」という結界を形成することで、『外の世界』と幻想郷を隔離した。
この隔離計画により、幻想郷は幻想の中の郷となった。
蝶の夢か、夢の蝶か──決して交わらない、二つの世界。
ここに辿りつく者、流れつく物、それらは皆『外の世界』では消えて無くなったモノとなる。
そう、まるで、神に隠されたように跡形もなくなり、彼の世界には幻想だけが残される。
……そして、この隔離計画にもう一役買っている、別の結界がある。
その結界の名は「博麗大結界」──。
「『神隠しの主犯』──!」
おぞましさ、胡散臭さ、薄気味悪さ、そしてほんの少しの憧れと想いをこめて、博麗霊夢はその二つ名を口にした。
「……その通り(イグザクトリィ)」
その異名を、藍が肯定した。
「我が主上であらせられる八雲紫(やくも ゆかり)さまのお出でだ、畏みて迎えよ」
絹を裂くような音を立て、ひときわ大きな裂け目が開かれる。
その内側からひっそりと顕れたのは、やや長身の、そしてほっそりした少女だった。
フリル装飾の帽子を被り、「伏羲六十四卦方位図」の「沢地萃」を象った装束、丹念にレースの施された傘を携えている。
少女は地を踏むや、ぐるりと首をめぐらせる。だが瞳の焦点はどこにも結んでおらず、茫洋とした視線だけが一同の上を走った。
その虚ろな目が、霊夢の上でぴたりと止まる。
くるん、と傘を振り回し、ぱし、と小さな手で受ける。
「久しいわね──霊夢」
誰に聞かせるでもないような小さな小さな声──それでも、まるで耳元で囁かれたようにはっきりと聞こえた。
「……そうね、出来ればずっと久しいままでいたかったわ」
霊夢はついうっかり、そう答えた錯覚に陥った。
だが、言っていない。言っていない。言おうとしただけ。
なのに……、
「あらあら、それでは、私に二度とこの挨拶を言うなというのかしら?」
にたぁ、と口の裂ける嗤い。
「この言葉を贈りたくなるのは、貴女だけ……ああ、実に久しいわ、霊夢」
おぞましさ、胡散臭さ、薄気味悪さ、そしてほんの少しの憧れと想いをこめて、博麗霊夢はその二つ名を口にした。
「……その通り(イグザクトリィ)」
その異名を、藍が肯定した。
「我が主上であらせられる八雲紫(やくも ゆかり)さまのお出でだ、畏みて迎えよ」
絹を裂くような音を立て、ひときわ大きな裂け目が開かれる。
その内側からひっそりと顕れたのは、やや長身の、そしてほっそりした少女だった。
フリル装飾の帽子を被り、「伏羲六十四卦方位図」の「沢地萃」を象った装束、丹念にレースの施された傘を携えている。
少女は地を踏むや、ぐるりと首をめぐらせる。だが瞳の焦点はどこにも結んでおらず、茫洋とした視線だけが一同の上を走った。
その虚ろな目が、霊夢の上でぴたりと止まる。
くるん、と傘を振り回し、ぱし、と小さな手で受ける。
「久しいわね──霊夢」
誰に聞かせるでもないような小さな小さな声──それでも、まるで耳元で囁かれたようにはっきりと聞こえた。
「……そうね、出来ればずっと久しいままでいたかったわ」
霊夢はついうっかり、そう答えた錯覚に陥った。
だが、言っていない。言っていない。言おうとしただけ。
なのに……、
「あらあら、それでは、私に二度とこの挨拶を言うなというのかしら?」
にたぁ、と口の裂ける嗤い。
「この言葉を贈りたくなるのは、貴女だけ……ああ、実に久しいわ、霊夢」