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遊☆戯☆王 ~超古代決闘神話~ 第三十四話「死せる英雄達の戦い―――二度と還らざる、淡き少年の日々」
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「あれが、星屑の矢…光龍を一撃とは、凄まじい威力だ」
「頑張って力込めすぎだろ、星女神様…」
闇遊戯と城之内は、その破壊力に舌を巻くばかりだ。そして。
「がはっ…」
苦通の呻きと共に、海馬は地に膝を付く。
青眼の光龍―――余りにも強大な存在であるが故に、それを打ち破られたことによるダメージのフィードバックも並の
ものではなかった。全身の骨がバラバラに砕けたかのような激痛と、脳髄を掻き混ぜられたような眩暈。
それでもなお、海馬は眼光鋭くオリオンを見据えた。
「…まだだ…オレは敗れてなどいない…!」
「その根性には頭が下がるがよ…観念しな。ここまでだ」
レッドアイズから降りたオリオンは弓を構え、海馬に向けて突き付ける。奴隷部隊の者達は、動揺の余り動くことすら
できなかった。
「命まで取りはしねえ!さっさと降参して、このバカげた集まりを解散させるこったな!」
「くっ…!」
さしもの海馬も、己の絶対的な不利を認めないわけにはいかなかった。この状況―――完全な王手だった。
だからこそ、オリオンは気付かなかった。完全な優位が故に、僅かではあるが油断していた。
突如、背後から襲った小さな衝撃と、それに続く鋭い痛みに一瞬視界が歪む。
「…え」
思わず気の抜けた声が洩れる。振り向けば、そこにいたのは。
「こど、も…?」
「いじめるな」
年端もいかぬ少女が、燃えるような瞳でオリオンを射抜く。その手に握られているのは、先端が紅く濡れたナイフ。
考えるまでもない。これで、背中を刺されたのだ。
「皇帝様を…いじめるなぁぁぁぁっ!」
「ちっ…!」
今度は腹部を狙ってきた刃を手刀で叩き落とす―――少女はその腕に、歯型が残るほどの勢いで噛み付いてきた。
「頑張って力込めすぎだろ、星女神様…」
闇遊戯と城之内は、その破壊力に舌を巻くばかりだ。そして。
「がはっ…」
苦通の呻きと共に、海馬は地に膝を付く。
青眼の光龍―――余りにも強大な存在であるが故に、それを打ち破られたことによるダメージのフィードバックも並の
ものではなかった。全身の骨がバラバラに砕けたかのような激痛と、脳髄を掻き混ぜられたような眩暈。
それでもなお、海馬は眼光鋭くオリオンを見据えた。
「…まだだ…オレは敗れてなどいない…!」
「その根性には頭が下がるがよ…観念しな。ここまでだ」
レッドアイズから降りたオリオンは弓を構え、海馬に向けて突き付ける。奴隷部隊の者達は、動揺の余り動くことすら
できなかった。
「命まで取りはしねえ!さっさと降参して、このバカげた集まりを解散させるこったな!」
「くっ…!」
さしもの海馬も、己の絶対的な不利を認めないわけにはいかなかった。この状況―――完全な王手だった。
だからこそ、オリオンは気付かなかった。完全な優位が故に、僅かではあるが油断していた。
突如、背後から襲った小さな衝撃と、それに続く鋭い痛みに一瞬視界が歪む。
「…え」
思わず気の抜けた声が洩れる。振り向けば、そこにいたのは。
「こど、も…?」
「いじめるな」
年端もいかぬ少女が、燃えるような瞳でオリオンを射抜く。その手に握られているのは、先端が紅く濡れたナイフ。
考えるまでもない。これで、背中を刺されたのだ。
「皇帝様を…いじめるなぁぁぁぁっ!」
「ちっ…!」
今度は腹部を狙ってきた刃を手刀で叩き落とす―――少女はその腕に、歯型が残るほどの勢いで噛み付いてきた。
「くそっ!何なんだよ、お前!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「―――!?」
少女を振り解く暇もなく、今度は横手から体当たりを喰らう。ナイフ少女とどことなく似た少年が渾身の力を込めて
ぶつかってきたのだ。
思わずよろめいたところで、ようやく少女がオリオンから離れる。そして少年と少女が両手を精一杯広げて、海馬の
前で壁を作る。その姿に、海馬が血相を変えて叫んだ。
「ソロル…フラーテル…!?何故ここに来た!」
(ソロルに、フラーテル…こいつらのことか…?どういうこった、一体…)
疑問符を浮かべながらもオリオンは手探りで背中の傷を確認する。疼痛は残るが、そう深い傷ではない。相手が非力
な少女なのが幸いだった。
「くそっ、半端に刺しやがって…何なんだよ、お前らは!」
「…………」
「答えろ!なんでそんな悪党を庇うんだよ!?」
その問いに、ソロルが小さな声で答えた。
「…助けてくれたから」
「なんだと…!?」
「皇帝様とアメジストス様だけだったんだ…僕達を助けてくれたのは!」
フラーテルがそれに続く。
「皇帝様が悪党だって…?そんなことは分かってるよ。この方は立派な御方だけど、凄く悪い人だ…そのくらいすぐ
気付くよ。けれど、それがどうしたっていうんだ。じゃあお前らが正義の味方なのか…?そのお前らが、僕達に何を
してくれた…?僕達が苛められてる時に、そいつをブン殴ってくれたのかよ…!」
「そ、それは…」
「皇帝様は、そうしてくれた…私やお兄様に、手を差し伸べてくれた!」
彼らが内に秘めていた激情が、次々と溢れ出していく。
「何もしてくれなかったお前らが偉そうに説教だけするなよ!奇麗事ばかり並べるなよ!そんなのが正義なら―――
僕達は悪でいい!例えどうしようもない悪人であっても…僕達のために闘ってくれた皇帝様、それにアメジストス様
のために働くと、僕達はそう決めたんだ!」
「そ…そうだ!その子の言う通りだ!」
奴隷部隊の兵達が、フラーテルに続いて次々に気勢を上げる。
「その御方が俺達のために、どれだけのことをしてくれたと思ってるんだ!」
「悪党だって、ちょっと頭がアレだって構わねえよ!」
「誰がどう言おうが皇帝様とアメジストス様は、俺達の英雄なんだ!」
「何も知らない癖に、偉そうなことばかり言うんじゃねえよ!」
口々に浴びせられる非難に、オリオンは先刻のように言い返すことができない。
彼とて、自分が絶対の正義だなどという空想など抱いてはいない。それでも―――彼は、想像していなかった。
まだ幼い少年達に、あれほど苛烈な怒りと憎しみをぶつけられることなど―――考えていなかった。
そして、闇遊戯達もまた困惑していた。
「オレ達は、見誤っていたのかもしれない…」
「見誤ってた…?」
「海馬もエレフも、自分達の目的のために彼らを利用しているだけだと、そう思っていた…しかし、本当にそれだけ
ならば、これほどの支持を得られるものなのか?」
「た、確かに…」
闇遊戯の意見に、城之内も頷く。
「…感じるんだ。彼らから。形は歪だが―――結束の力を」
結束―――それは心を通じ合わせた真の仲間しか発揮し得ない、どんな苦境をも跳ね返す、奇跡的な力。
「バカ者が…」
海馬は悪態を吐きながらも、口元に僅かな笑みを浮かべた。
「言ったはずだ…お前達に楯になってもらうほど、弱くはないと…」
「皇帝様…」
「離れていろ。オレの闘いは―――まだ、終わってはいない」
二人を押しのけ、海馬は再び立ち上がる。その手に、カードという名の剣を握り締めて。
「よせ、海馬!これ以上闘い続ければ、命に関わるぞ!」
「フ…甘い!甘いぞ、遊戯!オレは―――カードを手に死ぬなら本望だ!」
海馬は苦痛すら忘れたように吼える。だが不意に、その身体がよろめく。誰にも気付かれることなく現れた紫眼の男。
彼は手刀で海馬の首筋を素早く打ち据えていた。
「…エレフ…貴様…」
「赦せ、海馬」
紫眼の男―――エレフは小さく詫びた。
「お前は口も態度も性格も捻じ曲がってはいるが、根はいい奴だ。死なせたくはない」
「…く…」
言葉はそれ以上続かない。海馬の意識は深淵に沈んでいった。
「オルフ、シリウス―――海馬と子供達を連れて、下がれ」
「はっ…!」
兵達の中から、エレフの副官である二人が姿を見せる。彼らは海馬を背に抱え、フラーテルとソロルの手を引く。
「さあ、こっちへ来なさい。ここは危険だ」
「け、けど…アメジストス様が…」
「心配するな」
エレフはただ、静かに笑ってみせた。
「ここで、全て終わりにする―――我が手で、全てを終わらせる」
「―――エレフ!」
ダン、と地面を踏み締める音に、エレフは顔をそちらに向ける。そこに、かつての親友がいた。
「…オリオンか。レスボス以来だが、ミーシャは元気にしているか?」
「ああ。てめえのせいで随分疲れちまってるがな!」
「そうか…あの子にも、辛い思いをさせてしまったな。だが、それも今日で終わる」
エレフは愛用の黒剣を、鞘から抜き出す。
「―――アルカディアさえ滅びれば、それで終わりだ!」
「させねえよ、んなこと」
オリオンは揺るがぬ決意を込めて、言い放つ。
「―――俺はお前を、必ず止めてみせる」
エレフとオリオン。向かい合う二人の脳裏を、少年の日の思い出がよぎった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「―――!?」
少女を振り解く暇もなく、今度は横手から体当たりを喰らう。ナイフ少女とどことなく似た少年が渾身の力を込めて
ぶつかってきたのだ。
思わずよろめいたところで、ようやく少女がオリオンから離れる。そして少年と少女が両手を精一杯広げて、海馬の
前で壁を作る。その姿に、海馬が血相を変えて叫んだ。
「ソロル…フラーテル…!?何故ここに来た!」
(ソロルに、フラーテル…こいつらのことか…?どういうこった、一体…)
疑問符を浮かべながらもオリオンは手探りで背中の傷を確認する。疼痛は残るが、そう深い傷ではない。相手が非力
な少女なのが幸いだった。
「くそっ、半端に刺しやがって…何なんだよ、お前らは!」
「…………」
「答えろ!なんでそんな悪党を庇うんだよ!?」
その問いに、ソロルが小さな声で答えた。
「…助けてくれたから」
「なんだと…!?」
「皇帝様とアメジストス様だけだったんだ…僕達を助けてくれたのは!」
フラーテルがそれに続く。
「皇帝様が悪党だって…?そんなことは分かってるよ。この方は立派な御方だけど、凄く悪い人だ…そのくらいすぐ
気付くよ。けれど、それがどうしたっていうんだ。じゃあお前らが正義の味方なのか…?そのお前らが、僕達に何を
してくれた…?僕達が苛められてる時に、そいつをブン殴ってくれたのかよ…!」
「そ、それは…」
「皇帝様は、そうしてくれた…私やお兄様に、手を差し伸べてくれた!」
彼らが内に秘めていた激情が、次々と溢れ出していく。
「何もしてくれなかったお前らが偉そうに説教だけするなよ!奇麗事ばかり並べるなよ!そんなのが正義なら―――
僕達は悪でいい!例えどうしようもない悪人であっても…僕達のために闘ってくれた皇帝様、それにアメジストス様
のために働くと、僕達はそう決めたんだ!」
「そ…そうだ!その子の言う通りだ!」
奴隷部隊の兵達が、フラーテルに続いて次々に気勢を上げる。
「その御方が俺達のために、どれだけのことをしてくれたと思ってるんだ!」
「悪党だって、ちょっと頭がアレだって構わねえよ!」
「誰がどう言おうが皇帝様とアメジストス様は、俺達の英雄なんだ!」
「何も知らない癖に、偉そうなことばかり言うんじゃねえよ!」
口々に浴びせられる非難に、オリオンは先刻のように言い返すことができない。
彼とて、自分が絶対の正義だなどという空想など抱いてはいない。それでも―――彼は、想像していなかった。
まだ幼い少年達に、あれほど苛烈な怒りと憎しみをぶつけられることなど―――考えていなかった。
そして、闇遊戯達もまた困惑していた。
「オレ達は、見誤っていたのかもしれない…」
「見誤ってた…?」
「海馬もエレフも、自分達の目的のために彼らを利用しているだけだと、そう思っていた…しかし、本当にそれだけ
ならば、これほどの支持を得られるものなのか?」
「た、確かに…」
闇遊戯の意見に、城之内も頷く。
「…感じるんだ。彼らから。形は歪だが―――結束の力を」
結束―――それは心を通じ合わせた真の仲間しか発揮し得ない、どんな苦境をも跳ね返す、奇跡的な力。
「バカ者が…」
海馬は悪態を吐きながらも、口元に僅かな笑みを浮かべた。
「言ったはずだ…お前達に楯になってもらうほど、弱くはないと…」
「皇帝様…」
「離れていろ。オレの闘いは―――まだ、終わってはいない」
二人を押しのけ、海馬は再び立ち上がる。その手に、カードという名の剣を握り締めて。
「よせ、海馬!これ以上闘い続ければ、命に関わるぞ!」
「フ…甘い!甘いぞ、遊戯!オレは―――カードを手に死ぬなら本望だ!」
海馬は苦痛すら忘れたように吼える。だが不意に、その身体がよろめく。誰にも気付かれることなく現れた紫眼の男。
彼は手刀で海馬の首筋を素早く打ち据えていた。
「…エレフ…貴様…」
「赦せ、海馬」
紫眼の男―――エレフは小さく詫びた。
「お前は口も態度も性格も捻じ曲がってはいるが、根はいい奴だ。死なせたくはない」
「…く…」
言葉はそれ以上続かない。海馬の意識は深淵に沈んでいった。
「オルフ、シリウス―――海馬と子供達を連れて、下がれ」
「はっ…!」
兵達の中から、エレフの副官である二人が姿を見せる。彼らは海馬を背に抱え、フラーテルとソロルの手を引く。
「さあ、こっちへ来なさい。ここは危険だ」
「け、けど…アメジストス様が…」
「心配するな」
エレフはただ、静かに笑ってみせた。
「ここで、全て終わりにする―――我が手で、全てを終わらせる」
「―――エレフ!」
ダン、と地面を踏み締める音に、エレフは顔をそちらに向ける。そこに、かつての親友がいた。
「…オリオンか。レスボス以来だが、ミーシャは元気にしているか?」
「ああ。てめえのせいで随分疲れちまってるがな!」
「そうか…あの子にも、辛い思いをさせてしまったな。だが、それも今日で終わる」
エレフは愛用の黒剣を、鞘から抜き出す。
「―――アルカディアさえ滅びれば、それで終わりだ!」
「させねえよ、んなこと」
オリオンは揺るがぬ決意を込めて、言い放つ。
「―――俺はお前を、必ず止めてみせる」
エレフとオリオン。向かい合う二人の脳裏を、少年の日の思い出がよぎった。
イリオンを脱走して数日。
幼きエレフとミーシャ、そしてオリオンは、草叢をベッドにして、星空の下で寝転がっていた。
「これから俺達、どうなるのかな…」
「どうにでもなるよ。こうして生きてんだからな」
オリオンは楽観的に言ってのける。
「命さえありゃ、こうして寝てるだけで朝はまた廻り来る。何の問題もねえよ」
「―――ねえ、オリオン」
エレフに続いて、ミーシャが話しかけてきた。
「なんだよ、カワイコちゃん」
「オリオンは…これから、どうするの?」
「どうするって…」
口ごもるオリオン。
「さあて…そういや、どうするかな。俺には家族もいないし、したいこともないしな」
「…ごめん」
「謝るなよ。何にもないってこと、そりゃあ何でもありってことさ」
「じゃあさ、オリオン。お前も俺達と一緒に行こうぜ!」
エレフが身を起こして、オリオンの顔を覗き込む。
「俺達もさしあたり何かやりたいことも、行きたい場所もないけどさ…だったら俺達三人で、好きなようにやって、
好きな所に行こうぜ」
「そうだよ。私達、もう友達だよ。オリオンも一緒じゃないと、寂しいよ」
「はは。そりゃ嬉しいお誘いだ」
オリオンは、からからと笑う。
「ま、仕方ねーか。俺がついててやらねーと、お前らだけじゃ危なっかしいもんな」
「言ってろ。お前が一番間が抜けてやがるくせに」
きつい言葉と裏腹に、エレフの口調に棘はない。オリオンは屈託のない笑顔のままで言う。
「そんなつれないこと言うなよ、親友。俺はいつだって、お前の相棒さ―――エレフ。俺はいつだって、お前と
一緒に闘ってやるよ―――いつだってな」
幼きエレフとミーシャ、そしてオリオンは、草叢をベッドにして、星空の下で寝転がっていた。
「これから俺達、どうなるのかな…」
「どうにでもなるよ。こうして生きてんだからな」
オリオンは楽観的に言ってのける。
「命さえありゃ、こうして寝てるだけで朝はまた廻り来る。何の問題もねえよ」
「―――ねえ、オリオン」
エレフに続いて、ミーシャが話しかけてきた。
「なんだよ、カワイコちゃん」
「オリオンは…これから、どうするの?」
「どうするって…」
口ごもるオリオン。
「さあて…そういや、どうするかな。俺には家族もいないし、したいこともないしな」
「…ごめん」
「謝るなよ。何にもないってこと、そりゃあ何でもありってことさ」
「じゃあさ、オリオン。お前も俺達と一緒に行こうぜ!」
エレフが身を起こして、オリオンの顔を覗き込む。
「俺達もさしあたり何かやりたいことも、行きたい場所もないけどさ…だったら俺達三人で、好きなようにやって、
好きな所に行こうぜ」
「そうだよ。私達、もう友達だよ。オリオンも一緒じゃないと、寂しいよ」
「はは。そりゃ嬉しいお誘いだ」
オリオンは、からからと笑う。
「ま、仕方ねーか。俺がついててやらねーと、お前らだけじゃ危なっかしいもんな」
「言ってろ。お前が一番間が抜けてやがるくせに」
きつい言葉と裏腹に、エレフの口調に棘はない。オリオンは屈託のない笑顔のままで言う。
「そんなつれないこと言うなよ、親友。俺はいつだって、お前の相棒さ―――エレフ。俺はいつだって、お前と
一緒に闘ってやるよ―――いつだってな」
戦場で出会った二人の男は、淡き追想を振り払う。
「…エレフ。俺はお前と闘いたくなんかねえんだ。もうやめろ、こんなこと!」
「私は相手がお前であっても闘うさ、オリオン。ミーシャを護るため…そして、今ここにいる皆を救うためにな」
エレフは右腕を掲げ、奴隷部隊の面々を指し示す。
「彼らを見ろ!皆、かつての私達と同じだ―――理不尽に奴隷の身に堕とされた者達だ!自由も思想も与えられず
ただ辛い日々を耐え忍ぶ、運命の悲しい奴隷だ!そして、祖国が彼らに何をしてくれた!?何もしてくれやしない!
ただ奪うだけ奪い、奪えなくなれば殺すだけ―――そんな祖国(アルカディア)など、我らが滅ぼしてくれるわ!」
オリオンは答えることができない。彼はただ、エレフの瞳の中に深い闇を見ていた。
その闇は怒りと憎しみ、そして。
(なんて悲しい目をしてやがんだよ、お前)
彼の根底にあるのは、愛と優しさだ。妹であるミーシャへの愛と、そして境遇を同じくする同志達への優しさ。
(ホントの所、変わってねえんだな、お前は)
妹想いで優しかった、あの頃のエレフと、何一つ変わってなどいない。
だからこそ―――オリオンは悲しかった。
「エレフ」
オリオンはただ静かに弓を構える。
「これ以上お前が堕ちてしまう前に―――俺が、お前を射ち堕とす」
対してエレフは激情を込めて黒き双剣を構える。
「無駄だ。貴様の弓よりも、私は速い」
戦場を、重い静寂が支配する。そして僅かな夕陽の残照すらも消え去った時、二人は同時に動いた。
そう、動いたのは同時。だが。
「言ったろう、オリオン」
オリオンが矢を番え終わる前に、既にエレフはその懐にまで入り込んでいた。
「お前の矢は届かない」
言い終える前に、オリオンの右肩から左の脇腹にかけて深い傷が刻まれた。一瞬遅れて噴き出す鮮血が、エレフの
姿を紅く染めていく。紫の瞳が見据える先で、星女神の勇者は崩れ落ちる。
「…エレフ。俺はお前と闘いたくなんかねえんだ。もうやめろ、こんなこと!」
「私は相手がお前であっても闘うさ、オリオン。ミーシャを護るため…そして、今ここにいる皆を救うためにな」
エレフは右腕を掲げ、奴隷部隊の面々を指し示す。
「彼らを見ろ!皆、かつての私達と同じだ―――理不尽に奴隷の身に堕とされた者達だ!自由も思想も与えられず
ただ辛い日々を耐え忍ぶ、運命の悲しい奴隷だ!そして、祖国が彼らに何をしてくれた!?何もしてくれやしない!
ただ奪うだけ奪い、奪えなくなれば殺すだけ―――そんな祖国(アルカディア)など、我らが滅ぼしてくれるわ!」
オリオンは答えることができない。彼はただ、エレフの瞳の中に深い闇を見ていた。
その闇は怒りと憎しみ、そして。
(なんて悲しい目をしてやがんだよ、お前)
彼の根底にあるのは、愛と優しさだ。妹であるミーシャへの愛と、そして境遇を同じくする同志達への優しさ。
(ホントの所、変わってねえんだな、お前は)
妹想いで優しかった、あの頃のエレフと、何一つ変わってなどいない。
だからこそ―――オリオンは悲しかった。
「エレフ」
オリオンはただ静かに弓を構える。
「これ以上お前が堕ちてしまう前に―――俺が、お前を射ち堕とす」
対してエレフは激情を込めて黒き双剣を構える。
「無駄だ。貴様の弓よりも、私は速い」
戦場を、重い静寂が支配する。そして僅かな夕陽の残照すらも消え去った時、二人は同時に動いた。
そう、動いたのは同時。だが。
「言ったろう、オリオン」
オリオンが矢を番え終わる前に、既にエレフはその懐にまで入り込んでいた。
「お前の矢は届かない」
言い終える前に、オリオンの右肩から左の脇腹にかけて深い傷が刻まれた。一瞬遅れて噴き出す鮮血が、エレフの
姿を紅く染めていく。紫の瞳が見据える先で、星女神の勇者は崩れ落ちる。
「オリオン!」
「おい、しっかりしろ!」
闇遊戯と城之内が、倒れ伏すオリオンに駆け寄る。それを見つめ、エレフは冷徹に言い放つ。
「オリオンは、甘すぎた」
「何だと…!」
「私とオリオンの間には、決して埋められない程の実力差はない…なのに何故こうなった?それは、奴が私を殺そう
としなかったからだ。口ではどう言おうが、オリオンは私を殺すことなどできなかったろうさ…それが私との違いだ」
「…違わ、ねえ…」
「!オリオン、動くんじゃねえ!今のてめえは大怪我してんだぞ!?」
城之内の制止も聞かず、オリオンは身を起こす。
「お前だって、俺は殺せなかったじゃねえか…現に俺は、こうして…生きてるからな…」
「…………黙れ」
「エレフ…もうやめろ。こんなことは、やめるんだ…俺はもう、見たくねえ…お前が傷つくのを、見たくねえんだ」
「黙れよ、裏切り者め!」
エレフは今にも泣きそうな声で怒鳴り付ける。その顔はまるで、迷子になった子供のように歪んでいた。
「だったらなんでお前は俺から離れていったんだ!どうして俺と一緒に闘ってくれなかった!何故お前は…俺のこと
を分かってくれなかったんだ!俺と一緒に闘ってくれるって言った癖に!相棒だって―――そう言ってくれたのに!」
「だからだろうが…!」
城之内が、遣る瀬無さとそれ以上の怒りを込めてエレフを睨み付けた。
「友達だから、お前を止めたかったんだよ!相棒だから―――お前を助けたかったんだよ、コイツは!」
「黙れ!お前も黙れよ!黙らないと…!」
「おい、しっかりしろ!」
闇遊戯と城之内が、倒れ伏すオリオンに駆け寄る。それを見つめ、エレフは冷徹に言い放つ。
「オリオンは、甘すぎた」
「何だと…!」
「私とオリオンの間には、決して埋められない程の実力差はない…なのに何故こうなった?それは、奴が私を殺そう
としなかったからだ。口ではどう言おうが、オリオンは私を殺すことなどできなかったろうさ…それが私との違いだ」
「…違わ、ねえ…」
「!オリオン、動くんじゃねえ!今のてめえは大怪我してんだぞ!?」
城之内の制止も聞かず、オリオンは身を起こす。
「お前だって、俺は殺せなかったじゃねえか…現に俺は、こうして…生きてるからな…」
「…………黙れ」
「エレフ…もうやめろ。こんなことは、やめるんだ…俺はもう、見たくねえ…お前が傷つくのを、見たくねえんだ」
「黙れよ、裏切り者め!」
エレフは今にも泣きそうな声で怒鳴り付ける。その顔はまるで、迷子になった子供のように歪んでいた。
「だったらなんでお前は俺から離れていったんだ!どうして俺と一緒に闘ってくれなかった!何故お前は…俺のこと
を分かってくれなかったんだ!俺と一緒に闘ってくれるって言った癖に!相棒だって―――そう言ってくれたのに!」
「だからだろうが…!」
城之内が、遣る瀬無さとそれ以上の怒りを込めてエレフを睨み付けた。
「友達だから、お前を止めたかったんだよ!相棒だから―――お前を助けたかったんだよ、コイツは!」
「黙れ!お前も黙れよ!黙らないと…!」
「―――そこまでだ、アメジストス」
その声は、さして大きくも荒くもない。それでいて、全ての澱みを吹き飛ばすような覇気に満ちていた。
「我は勇者デメトリウスが仔にして、アルカディアの王…」
現れたのは、雷神の力を受け継ぎし金色の獅子。
「<雷の獅子>レオンティウス―――」
獅子は風車のように槍を振り翳す。身を裂く烈風が戦場を吹き抜けた。
「奴隷部隊を率いる黒き剣士<紫眼の狼>よ―――お前の蛮行、捨ててはおけん」
「アルカディアの王…貴様が…」
エレフの脳裏に浮かぶ光景。惨殺された両親の姿。
「貴様が憎き地の王…我が父の…母の仇…そして…」
そして危うく生贄にされかけたミーシャ。それを指示したのは―――
「―――貴様がミーシャを殺そうとしたのかぁぁぁぁぁぁぁっ!」
事実は違う。だが今のエレフにはそんなことはどうでもよかった。
目の前の男こそが、憎き祖国を統べる者。ならば―――
この男さえ殺せば、全てが終わる!
振り下ろされた<紫眼の狼>の黒き剣閃。迎え撃つは<雷の獅子>レオンティウスの雷槍。
「私が相手になろう―――アメジストス!」
「望む所だぁぁぁぁぁぁっ!」
遂に出会った二匹の獣―――その咆哮が大地を、そして天をも脅やかす。
「我は勇者デメトリウスが仔にして、アルカディアの王…」
現れたのは、雷神の力を受け継ぎし金色の獅子。
「<雷の獅子>レオンティウス―――」
獅子は風車のように槍を振り翳す。身を裂く烈風が戦場を吹き抜けた。
「奴隷部隊を率いる黒き剣士<紫眼の狼>よ―――お前の蛮行、捨ててはおけん」
「アルカディアの王…貴様が…」
エレフの脳裏に浮かぶ光景。惨殺された両親の姿。
「貴様が憎き地の王…我が父の…母の仇…そして…」
そして危うく生贄にされかけたミーシャ。それを指示したのは―――
「―――貴様がミーシャを殺そうとしたのかぁぁぁぁぁぁぁっ!」
事実は違う。だが今のエレフにはそんなことはどうでもよかった。
目の前の男こそが、憎き祖国を統べる者。ならば―――
この男さえ殺せば、全てが終わる!
振り下ろされた<紫眼の狼>の黒き剣閃。迎え撃つは<雷の獅子>レオンティウスの雷槍。
「私が相手になろう―――アメジストス!」
「望む所だぁぁぁぁぁぁっ!」
遂に出会った二匹の獣―――その咆哮が大地を、そして天をも脅やかす。
英雄達が駆け抜けた神話の時代の最終局面<死せる英雄達の戦い>。
屠り合う狼と獅子は闘いの果てに、残酷な運命を突き付けられることとなる。
屠り合う狼と獅子は闘いの果てに、残酷な運命を突き付けられることとなる。