アイツのことが嫌いだった。
『よかろう…貴様の硝子細工の自信を粉々にしてやる!』
勝ちたかった。ぶちのめしてやりたかった。
『立ち上がることもできぬ負け犬め!』
だけどアイツは、とんでもなく強かった。それだけは、認めるしかない。
『<負け犬>から<馬の骨>に昇格させてやる!』
ふざけるな。オレだってやれる。オレだって―――
テメエに、勝ってみせる。
『よかろう…貴様の硝子細工の自信を粉々にしてやる!』
勝ちたかった。ぶちのめしてやりたかった。
『立ち上がることもできぬ負け犬め!』
だけどアイツは、とんでもなく強かった。それだけは、認めるしかない。
『<負け犬>から<馬の骨>に昇格させてやる!』
ふざけるな。オレだってやれる。オレだって―――
テメエに、勝ってみせる。
アルカディア軍と奴隷部隊の戦いは、熾烈を極めた。
赤い紅い鮮血で染まった大地は、まるで死の渚の如く。
その上に横たわる、今は物言わぬ屍―――されど彼ら一人一人に、物語はあったはずだ。愛する者がいたはずだ。
されど今の彼らに接吻(くちづけ)するものは、愛する恋人ではなく―――餓えた禿鷹のみ。
その凄惨なる戦場の一角。
「くそっ!奴隷共め…よもやここまでの勢力になっていようとは!」
「うむ。まさかこれほどの苦戦を強いられるとは…」
アルカディアの将軍、レグルスとゾスマは向かってくる奴隷達を薙ぎ払いながら歯軋りする。
戦況はアルカディアが優勢だった。兵の錬度・装備・規模、どれを取ってもアルカディア軍が勝っているのだから、
当然といえば当然の話だ。しかし―――本来ならば優勢どころか、圧勝して然るべき戦いなのだ。
だが奴隷部隊の兵達は退く事を知らぬように、執拗に喰い下がってくる。
「こやつらの気迫…只事ではないぞ!」
「むう…確かに。これはまるで…」
まるで―――神に其の身を捧げる殉教者のごとく狂信すら感じられるのだ。
「一体、何が奴らを支えて―――」
瞬間、二人の視界を閃光が貫いた。それがそのまま、レグルスとゾスマの見た最期の景色となる。二人は多数の兵
と共に、この世から影すら残さず掻き消されていた。
残されたアルカディア兵は事態が把握できずに、ただ茫然と立ち尽くすだけだ。
「おお…」
対して、奴隷部隊の面々は一様にその場に膝をつき、両の掌を合わせる。まるで、神にそうするように。
「―――ワハハハハハハハ!」
天空より高笑いを響かせ、その男は白き異形と共に大地に降り立つ。
「グォォォォォォーーーーーーッ!」
異形は、蒼き瞳を持つ白龍。それを駆るは、奇妙な兜で顔を覆った怪しい男―――海馬。
「あ…あれが…<白龍皇帝>…!?」
アルカディア兵は眼前の脅威を前に、震えることすら忘れていた。
奴隷部隊を率いる二人の英雄。その片割れである<白龍皇帝>の噂は確かに聞いていた。
曰く―――白き龍神を従え、風神の都を一刻と掛からず吹き飛ばした―――と。
されど、所詮は無責任な噂の類であろうと、タカを括っていた。並外れた偉業を為した者には、そういう荒唐無稽な
伝説が創られてしまうものだ。
だが。眼前に聳え立つ、これは何だ?その瞬間、彼らは全てを理解した。
―――伝説なんかじゃない!全て真実だったんだ!
「クク…雑魚共が、揃いも揃って間抜け面を晒しおって」
海馬は嘲笑いながら、右手を前方に向けて突き出す。
「ブルーアイズよ!奴らの寝惚けた頭を覚ましてやれ!」
破滅をもたらす光が、更に一閃。
「フ…更なる絶望を見せてくれよう!ブルーアイズ―――三体同時召喚!」
空間が歪み、その中から更に二頭の白龍が顕現する。
「ひっ…!」
恐怖も絶望も通り越し、アルカディア兵はもはや生贄に捧げられる子羊の如き心境だった。
いっそ、早く殺してくれ―――早く、この恐怖から救ってくれ―――
三つ並んだ白龍の大口。それが大きく開かれ、滅びの一撃が放たれる―――
赤い紅い鮮血で染まった大地は、まるで死の渚の如く。
その上に横たわる、今は物言わぬ屍―――されど彼ら一人一人に、物語はあったはずだ。愛する者がいたはずだ。
されど今の彼らに接吻(くちづけ)するものは、愛する恋人ではなく―――餓えた禿鷹のみ。
その凄惨なる戦場の一角。
「くそっ!奴隷共め…よもやここまでの勢力になっていようとは!」
「うむ。まさかこれほどの苦戦を強いられるとは…」
アルカディアの将軍、レグルスとゾスマは向かってくる奴隷達を薙ぎ払いながら歯軋りする。
戦況はアルカディアが優勢だった。兵の錬度・装備・規模、どれを取ってもアルカディア軍が勝っているのだから、
当然といえば当然の話だ。しかし―――本来ならば優勢どころか、圧勝して然るべき戦いなのだ。
だが奴隷部隊の兵達は退く事を知らぬように、執拗に喰い下がってくる。
「こやつらの気迫…只事ではないぞ!」
「むう…確かに。これはまるで…」
まるで―――神に其の身を捧げる殉教者のごとく狂信すら感じられるのだ。
「一体、何が奴らを支えて―――」
瞬間、二人の視界を閃光が貫いた。それがそのまま、レグルスとゾスマの見た最期の景色となる。二人は多数の兵
と共に、この世から影すら残さず掻き消されていた。
残されたアルカディア兵は事態が把握できずに、ただ茫然と立ち尽くすだけだ。
「おお…」
対して、奴隷部隊の面々は一様にその場に膝をつき、両の掌を合わせる。まるで、神にそうするように。
「―――ワハハハハハハハ!」
天空より高笑いを響かせ、その男は白き異形と共に大地に降り立つ。
「グォォォォォォーーーーーーッ!」
異形は、蒼き瞳を持つ白龍。それを駆るは、奇妙な兜で顔を覆った怪しい男―――海馬。
「あ…あれが…<白龍皇帝>…!?」
アルカディア兵は眼前の脅威を前に、震えることすら忘れていた。
奴隷部隊を率いる二人の英雄。その片割れである<白龍皇帝>の噂は確かに聞いていた。
曰く―――白き龍神を従え、風神の都を一刻と掛からず吹き飛ばした―――と。
されど、所詮は無責任な噂の類であろうと、タカを括っていた。並外れた偉業を為した者には、そういう荒唐無稽な
伝説が創られてしまうものだ。
だが。眼前に聳え立つ、これは何だ?その瞬間、彼らは全てを理解した。
―――伝説なんかじゃない!全て真実だったんだ!
「クク…雑魚共が、揃いも揃って間抜け面を晒しおって」
海馬は嘲笑いながら、右手を前方に向けて突き出す。
「ブルーアイズよ!奴らの寝惚けた頭を覚ましてやれ!」
破滅をもたらす光が、更に一閃。
「フ…更なる絶望を見せてくれよう!ブルーアイズ―――三体同時召喚!」
空間が歪み、その中から更に二頭の白龍が顕現する。
「ひっ…!」
恐怖も絶望も通り越し、アルカディア兵はもはや生贄に捧げられる子羊の如き心境だった。
いっそ、早く殺してくれ―――早く、この恐怖から救ってくれ―――
三つ並んだ白龍の大口。それが大きく開かれ、滅びの一撃が放たれる―――
「魔法カード―――<スケープ・ゴート>!」
ボワン!と、何もない空間から突如、不可思議な物体が出現する。フワフワの体毛と眠たそうな目をした、愛らしい
四匹の子羊が、モフモフと宙を漂う。
白龍の吐息はアルカディア兵に死をもたらすことなく、その子羊達を消し飛ばしただけに留まった。
「むうっ!?」
海馬は口の端を歪め、天を睨み付ける。そこには、黒き竜に乗った少年がいた。
「海馬ァァァーーーッ!」
叫びながら、少年―――城之内は、黒竜と共に大地に降り立つ。双方の瞳は燃えるような苛烈さを秘めて、海馬を
射抜いていた。三体の白龍にも、決して怯むことなく。
「フン…貴様か、凡骨」
対する海馬は、興味がないとばかりに鼻で笑う。
「何をしに来た?まさかオレを倒すなどと、寝言をほざきにきたわけではあるまい」
「へっ―――そのまさかだよ。海馬!テメエはオレがぶっ飛ばす!ついでにそのふざけたマスクも叩き割ってな!」
「ククク…貴様如きが、よくぞそんな口を利けたものだ。忘れたか?オレと貴様との間に横たわる、決して埋まらぬ
絶望的なまでの力の差というものを」
思い出せ―――傲然と、海馬はそう語りかける。
「今一度、硝子細工の自信を砕かれたいか?そう、あのペガサス島での闘いのように」
「海馬…!」
「おっと、すまん。あれは闘いなどといえる高尚なものではなかったな。うるさい負け犬を棒で叩いてやっただけの
ことだった―――城之内!今なおそれは変わっていない!貴様は永遠にオレに追い縋ることすらできんのだ!」
「…………」
思い出す、痛みと屈辱の記憶。
(あの日オレは、海馬に何一つできないままに負けた…)
赦せなかった。自分のことはともかく、仲間を、親友を傷つけ、あまつさえ殺そうとしたこの男が。
(だけど、負けた…アイツの立っている場所は、とんでもなく高かったんだ)
敗れ、地に這い蹲った自分。傲慢に見下ろすアイツ。
突き付けられた、刃の如き言葉。
『貴様は永遠に負け犬だ!城之内!』
負け犬―――オレは、負け犬なのか?
違う。違う。違う―――!
(オレは…!)
城之内は、一際強く海馬を睨み付けた。
「オレは負け犬でも馬の骨でも凡骨でもねえ!決闘者(デュエリスト)…城之内克也だ!」
その叫びに呼応し、レッドアイズも声の限りに咆哮する。海馬はそれを見据えて、不敵に笑った。
「よかろう―――そのいじましい心意気に免じて、オレが再び教えてやろう!貴様は所詮、どこまでいっても負け犬
にすぎんという永久不滅の歴史的事実をな!」
デュエルディスクに手を当て、海馬は高らかに宣言する。
「来るがいい、負け犬め―――決闘(デュエル)!」
「行くぜ、勝ち豚―――決闘(デュエル)!」
四匹の子羊が、モフモフと宙を漂う。
白龍の吐息はアルカディア兵に死をもたらすことなく、その子羊達を消し飛ばしただけに留まった。
「むうっ!?」
海馬は口の端を歪め、天を睨み付ける。そこには、黒き竜に乗った少年がいた。
「海馬ァァァーーーッ!」
叫びながら、少年―――城之内は、黒竜と共に大地に降り立つ。双方の瞳は燃えるような苛烈さを秘めて、海馬を
射抜いていた。三体の白龍にも、決して怯むことなく。
「フン…貴様か、凡骨」
対する海馬は、興味がないとばかりに鼻で笑う。
「何をしに来た?まさかオレを倒すなどと、寝言をほざきにきたわけではあるまい」
「へっ―――そのまさかだよ。海馬!テメエはオレがぶっ飛ばす!ついでにそのふざけたマスクも叩き割ってな!」
「ククク…貴様如きが、よくぞそんな口を利けたものだ。忘れたか?オレと貴様との間に横たわる、決して埋まらぬ
絶望的なまでの力の差というものを」
思い出せ―――傲然と、海馬はそう語りかける。
「今一度、硝子細工の自信を砕かれたいか?そう、あのペガサス島での闘いのように」
「海馬…!」
「おっと、すまん。あれは闘いなどといえる高尚なものではなかったな。うるさい負け犬を棒で叩いてやっただけの
ことだった―――城之内!今なおそれは変わっていない!貴様は永遠にオレに追い縋ることすらできんのだ!」
「…………」
思い出す、痛みと屈辱の記憶。
(あの日オレは、海馬に何一つできないままに負けた…)
赦せなかった。自分のことはともかく、仲間を、親友を傷つけ、あまつさえ殺そうとしたこの男が。
(だけど、負けた…アイツの立っている場所は、とんでもなく高かったんだ)
敗れ、地に這い蹲った自分。傲慢に見下ろすアイツ。
突き付けられた、刃の如き言葉。
『貴様は永遠に負け犬だ!城之内!』
負け犬―――オレは、負け犬なのか?
違う。違う。違う―――!
(オレは…!)
城之内は、一際強く海馬を睨み付けた。
「オレは負け犬でも馬の骨でも凡骨でもねえ!決闘者(デュエリスト)…城之内克也だ!」
その叫びに呼応し、レッドアイズも声の限りに咆哮する。海馬はそれを見据えて、不敵に笑った。
「よかろう―――そのいじましい心意気に免じて、オレが再び教えてやろう!貴様は所詮、どこまでいっても負け犬
にすぎんという永久不滅の歴史的事実をな!」
デュエルディスクに手を当て、海馬は高らかに宣言する。
「来るがいい、負け犬め―――決闘(デュエル)!」
「行くぜ、勝ち豚―――決闘(デュエル)!」
今、白き龍と黒き竜がぶつかり合う―――