「弟がいつもお世話になっております。
姉のミュラです、はじめまして」
姉のミュラです、はじめまして」
アフロディーテの案内で中庭へ通されると、輝くヴェールのような金髪の、美しい女性がテーブルの脇に佇んでいた。
まるで陽炎のように儚く、柳のように頼りなく、それでいて艶かしい女性だった。
女慣れしているはずのデスマスクですら一瞬見とれたほどだ、
盟など彼女の微笑みを受けただけで真っ赤になって俯いてしまっていた。
アドニスはそんな母をみて輝かんばかりの笑顔だ。
叔父と母が本当にすきなのだろう。
まるで陽炎のように儚く、柳のように頼りなく、それでいて艶かしい女性だった。
女慣れしているはずのデスマスクですら一瞬見とれたほどだ、
盟など彼女の微笑みを受けただけで真っ赤になって俯いてしまっていた。
アドニスはそんな母をみて輝かんばかりの笑顔だ。
叔父と母が本当にすきなのだろう。
「彼に貴女のような美しい女性に今の今まで出会えなかった運命を呪うばかりですよ。
弟さんとは同期でしてね、いやお話は伺っていましたが、聞きしに勝るとはまさにこのこと…。
美の女神アフロディーテも貴女を羨むでしょう」
弟さんとは同期でしてね、いやお話は伺っていましたが、聞きしに勝るとはまさにこのこと…。
美の女神アフロディーテも貴女を羨むでしょう」
そういって彼女の手をとり、完璧な礼作法でキスをする。
今の彼の装束とあいまって、実に絵になっているのがまた悔しい。
すらすらとデスマスクの口をついて出る歯の浮くような美麗字句に、盟は思い切り唖然とした顔をし、
アフロディーテは変わらぬ笑顔で激怒していた。アドニスは意味がわからず笑っている。
いい女がいて口説かぬは男にあらじ、それもまたデスマスクの中に流れる伊太利亜男の血潮なのだ。
今の彼の装束とあいまって、実に絵になっているのがまた悔しい。
すらすらとデスマスクの口をついて出る歯の浮くような美麗字句に、盟は思い切り唖然とした顔をし、
アフロディーテは変わらぬ笑顔で激怒していた。アドニスは意味がわからず笑っている。
いい女がいて口説かぬは男にあらじ、それもまたデスマスクの中に流れる伊太利亜男の血潮なのだ。
「ジョナサン…。まったく君ときたら」
デスマスクの足元に黒薔薇が打ち込まれ、盟に拳骨が落ちる。この間一秒。
無論、常人のミュラには何が起こっているか分からない。
ただ、アドニスだけがデスマスクの足元に黒薔薇が咲いたことだけに気がついていた。
無論、常人のミュラには何が起こっているか分からない。
ただ、アドニスだけがデスマスクの足元に黒薔薇が咲いたことだけに気がついていた。
「あらあら、仲がいいのね皆」
楽しそうに笑うミュラ、彼女の笑みはどこか儚い。
「そりゃもう、大・親・友ですから」
からからと勤めて明るくさわやかに笑うデスマスクだったが、その心中は複雑だ。
━━なるほどこいつは厄介だ。
積尸気を操る彼には理解できた。彼女の余命が幾ばくもないないことを。
肉体と魂が離れかけている状態では、いくら医学の粋をこらしたところで無駄だろう。
かろうじて彼女が生きているのは、やはりアフロディーテの小宇宙の宿ったこの薔薇のおかげだ。
いや、よくよく探せば薔薇だけではない。
この屋敷の敷地内そこかしこに飾られた花をあしらったオブジェや、構成資材にアフロディーテの小宇宙が宿っている。
構成資材が見覚えのある聖域のものであるのは、そこまでの覚悟ということなのだろう。
神話の昔から伝わる資材の聖域外への持ち出しは極禁、露見すれば黄金聖闘士といえども処罰は免れない。
毒を持って教皇の間への階段を鎧と化す双魚宮の主、魚座の聖闘士は、古今あらゆる毒物に長じている。
魔宮薔薇・ロイヤルデモンローズなどはその集大成ともいうべき秘法であり、
その名は伝説として欧州各国の王宮にて噂に上ったほどだ。
毒と薬は表裏一体、アフロディーテは当代の魚座の聖闘士として当然毒法薬法に通じている。
しかし、そのアフロディーテの知識をもってしても姉・ミュラの命を救う事はできず、
ただ蝸牛のごとくじりじりと絶命の時を引き伸ばすより他に術をもたないのだ。
あえてデスマスクに弱点である姉と甥を見せたのは、サガに対し叛意無しを証明する意味もあるのだろう。
そして、そうまでして姉を助けたいのだ。
━━なるほどこいつは厄介だ。
積尸気を操る彼には理解できた。彼女の余命が幾ばくもないないことを。
肉体と魂が離れかけている状態では、いくら医学の粋をこらしたところで無駄だろう。
かろうじて彼女が生きているのは、やはりアフロディーテの小宇宙の宿ったこの薔薇のおかげだ。
いや、よくよく探せば薔薇だけではない。
この屋敷の敷地内そこかしこに飾られた花をあしらったオブジェや、構成資材にアフロディーテの小宇宙が宿っている。
構成資材が見覚えのある聖域のものであるのは、そこまでの覚悟ということなのだろう。
神話の昔から伝わる資材の聖域外への持ち出しは極禁、露見すれば黄金聖闘士といえども処罰は免れない。
毒を持って教皇の間への階段を鎧と化す双魚宮の主、魚座の聖闘士は、古今あらゆる毒物に長じている。
魔宮薔薇・ロイヤルデモンローズなどはその集大成ともいうべき秘法であり、
その名は伝説として欧州各国の王宮にて噂に上ったほどだ。
毒と薬は表裏一体、アフロディーテは当代の魚座の聖闘士として当然毒法薬法に通じている。
しかし、そのアフロディーテの知識をもってしても姉・ミュラの命を救う事はできず、
ただ蝸牛のごとくじりじりと絶命の時を引き伸ばすより他に術をもたないのだ。
あえてデスマスクに弱点である姉と甥を見せたのは、サガに対し叛意無しを証明する意味もあるのだろう。
そして、そうまでして姉を助けたいのだ。
泣かせる話じゃないか、とデスマスクは思う。
親兄弟もなく、華やかな路地の裏側で力のみを頼り、仲間や友を力無き故に喪い、
それでも力のみを信じて生きてきたデスマスクにとっては、それは自身と反する思考だ。
常なら、鼻で笑って蹂躙するところだ。
親兄弟もなく、華やかな路地の裏側で力のみを頼り、仲間や友を力無き故に喪い、
それでも力のみを信じて生きてきたデスマスクにとっては、それは自身と反する思考だ。
常なら、鼻で笑って蹂躙するところだ。
「おじちゃーん。
ぼくねぇ!ぼくねぇ!ぼくね!」
ぼくねぇ!ぼくねぇ!ぼくね!」
「こら!アドニス!
まったくもう、この子ったら…。あなたが来るのを楽しみにしてたのよ?」
まったくもう、この子ったら…。あなたが来るのを楽しみにしてたのよ?」
だが、この団らんの中にあるアフロディーテを見ていると、何故かそんな気にはなれなかった。
妻を娶り、子をなし、老いて死んでいく。
きっとそれはとてもとても幸福なことなんだろう。
拳を振るい、闇夜に積尸気を煌かせ、教皇(サガ)の殺し屋、死神デスマスクとして生きてきた。
断末魔の叫びと、苦悶の形相の屍の上にしか栄光を築けない彼には、縁遠く、そして理解の及ばない領域。
それがきっとこの団らんなのだろう。
妻を娶り、子をなし、老いて死んでいく。
きっとそれはとてもとても幸福なことなんだろう。
拳を振るい、闇夜に積尸気を煌かせ、教皇(サガ)の殺し屋、死神デスマスクとして生きてきた。
断末魔の叫びと、苦悶の形相の屍の上にしか栄光を築けない彼には、縁遠く、そして理解の及ばない領域。
それがきっとこの団らんなのだろう。
だがそれゆえに、怒りが湧き上がる。
━━お前の手もまた汚れているというのに…。
敵の断末魔を踏み潰した足の上に無垢な子をのせ、
敵をくびり殺した手でその子の頭を撫でている。
お前も、俺も、どうしようもないほどに穢れた存在なのだ。
言いようの無い怒りが、デスマスクの中でくすぶっていた。
━━お前の手もまた汚れているというのに…。
敵の断末魔を踏み潰した足の上に無垢な子をのせ、
敵をくびり殺した手でその子の頭を撫でている。
お前も、俺も、どうしようもないほどに穢れた存在なのだ。
言いようの無い怒りが、デスマスクの中でくすぶっていた。
お茶会はデスマスクが冗談まじりにミュラを口説いたことが功を奏したのか、緊張のほぐれた中で始まったが、
小一時間ほどすぎた頃か、ミュラが咳き込みだした為、彼女が退席する事となった。
小一時間ほどすぎた頃か、ミュラが咳き込みだした為、彼女が退席する事となった。
「アドニス、盟に庭園を案内してやってくれないかな?」
ミュラに付き添っていたアフロディーテが戻ってくると、アドニスにそう声をかけた。
人払いだな、とデスマスクも盟を感づき、素直に従った。
盟は空気の読める子なのだ。
人払いだな、とデスマスクも盟を感づき、素直に従った。
盟は空気の読める子なのだ。
中庭から二人がさるのを見計らい、アフロディーテは切り出した。
「姉は、どうだ?」
肩をすくめ、デスマスクは笑い混じりに「美人だ」とだけ答える。
「回りくどいのは嫌いなんだがな」
「…生きてるだけで奇跡だ。
お前がどれだけチョロまかしたのかは知らないが、かろうじて死ぬのを遅らせているってだけだ。
遠からず、枯れ落ちる。
美人薄命ってやつだな、もったいねぇ」
お前がどれだけチョロまかしたのかは知らないが、かろうじて死ぬのを遅らせているってだけだ。
遠からず、枯れ落ちる。
美人薄命ってやつだな、もったいねぇ」
毒がにじむのはどうしても避けられなかった。
「…そうか。
だが、君ならどうだ?」
だが、君ならどうだ?」
やっぱりな、といった風でため息をつくデスマスク。
「俺は、殺すのが専門だ。
だが、できなくは無い、できなくは無いが、良くて四割。
悪けりゃ零だ」
だが、できなくは無い、できなくは無いが、良くて四割。
悪けりゃ零だ」
賭けるのか?というデスマスクの言葉に、アフロディーテは押し黙るばかりだった。