「アルカディア…」
海馬と共に高台に立つエレフは、眼下に陣取ったアルカディア軍を燃えるような眼差しで見ていた。
「我が故郷にして憎き地…その死すべき者達よ…ついに貴様らを滅ぼす時がきた…!」
「クク…随分とおっかない顔だな?余程憎悪の根が深いと見える」
「…私を軽蔑するか?海馬よ」
エレフはどこか自重するように顔を伏せた。
「自らを育んだ祖国に対し、悪意と敵意しか抱けぬ私を、愚かと嗤うか?」
「オレは父を殺している」
唐突な告白に、エレフは息を呑む。
「血の繋がりも情の繋がりもない、義理の父だがな…オレはその男を、文字通り奈落に叩き落してやったよ」
「…………」
「今なお、奴に対しては憎悪しか感じない。父だから、祖国だからといって、それだけで無条件に愛や情など成立
するものか―――その怒りも憎しみも貴様だけのものだ。横から口を挟む気はないさ」
それだけ言って、海馬はエレフに背を向けて歩き出す。
「往くか…海馬」
「フン。雑魚が雁首揃えたところで、我がブルーアイズの敵ではないと教えてくれよう」
海馬は懐から例のブツ(ブルーアイズ兜)を取り出し、傲岸不遜な笑みを浮かべた―――
海馬と共に高台に立つエレフは、眼下に陣取ったアルカディア軍を燃えるような眼差しで見ていた。
「我が故郷にして憎き地…その死すべき者達よ…ついに貴様らを滅ぼす時がきた…!」
「クク…随分とおっかない顔だな?余程憎悪の根が深いと見える」
「…私を軽蔑するか?海馬よ」
エレフはどこか自重するように顔を伏せた。
「自らを育んだ祖国に対し、悪意と敵意しか抱けぬ私を、愚かと嗤うか?」
「オレは父を殺している」
唐突な告白に、エレフは息を呑む。
「血の繋がりも情の繋がりもない、義理の父だがな…オレはその男を、文字通り奈落に叩き落してやったよ」
「…………」
「今なお、奴に対しては憎悪しか感じない。父だから、祖国だからといって、それだけで無条件に愛や情など成立
するものか―――その怒りも憎しみも貴様だけのものだ。横から口を挟む気はないさ」
それだけ言って、海馬はエレフに背を向けて歩き出す。
「往くか…海馬」
「フン。雑魚が雁首揃えたところで、我がブルーアイズの敵ではないと教えてくれよう」
海馬は懐から例のブツ(ブルーアイズ兜)を取り出し、傲岸不遜な笑みを浮かべた―――
アルカディア軍。その中に闇遊戯達の姿もあった。
「ここが…イリオンか」
闇遊戯は感慨深く、その城壁―――正確には瓦礫の山と化した城壁跡地―――を見つめる。
「そうだ。風神(アネモス)に護られた鉄壁の城塞…のはずだったんだがな。それをこうも見事にぶち壊すとは…
あいつらを褒めたかないけど、ある意味爽快だぜ」
オリオンが溜息をつき、顔を歪める。怒ったものか喜んだものか迷っているような、何とも言えない表情だった。
(そうか…オリオンもここで働かされてたんだもんね)
(ああ。あいつにとっても、イリオンの城壁は憎しみの対象だったんだろうな)
(それを壊してくれた海馬くんやエレフに対して、本当は感謝したいのかもね…)
(…かもな)
ちらりと横目でオリオンを見ると、彼は遊戯達の心情に気付いたように軽く手をヒラヒラさせる。
「おいおい、そんな目で見るなよ。別に弓を引く手が鈍ったりはしねーさ」
「いや…すまない。そんなつもりじゃなかったんだ」
「いいよ、謝るなって。それよか、気になってたんだけど」
「なんだ?」
「さっきから、城之内が見えねーんだけど…あいつ、どこ行ったんだ?」
「城之内くんが?確かに、オレも見てないが…」
きょろきょろと辺りを見回しても、城之内の姿はない。
「あいつ、あれだけやる気だったからな…まさか…!」
「一人で…!?」
闇遊戯とオリオン、目を見合わせて大きな汗マークである。
「―――全軍突撃!我に続け!」
そうこうしている内に、レオンティウスが槍を掲げてイリオンへと猛進していく。
「レオンティウス陛下に…続けぇ~~~~~~~~~っっ!」
カストルがその後を追い、続々と兵士達が進撃を始める。
―――戦いの火蓋は切って落とされた。
「ここが…イリオンか」
闇遊戯は感慨深く、その城壁―――正確には瓦礫の山と化した城壁跡地―――を見つめる。
「そうだ。風神(アネモス)に護られた鉄壁の城塞…のはずだったんだがな。それをこうも見事にぶち壊すとは…
あいつらを褒めたかないけど、ある意味爽快だぜ」
オリオンが溜息をつき、顔を歪める。怒ったものか喜んだものか迷っているような、何とも言えない表情だった。
(そうか…オリオンもここで働かされてたんだもんね)
(ああ。あいつにとっても、イリオンの城壁は憎しみの対象だったんだろうな)
(それを壊してくれた海馬くんやエレフに対して、本当は感謝したいのかもね…)
(…かもな)
ちらりと横目でオリオンを見ると、彼は遊戯達の心情に気付いたように軽く手をヒラヒラさせる。
「おいおい、そんな目で見るなよ。別に弓を引く手が鈍ったりはしねーさ」
「いや…すまない。そんなつもりじゃなかったんだ」
「いいよ、謝るなって。それよか、気になってたんだけど」
「なんだ?」
「さっきから、城之内が見えねーんだけど…あいつ、どこ行ったんだ?」
「城之内くんが?確かに、オレも見てないが…」
きょろきょろと辺りを見回しても、城之内の姿はない。
「あいつ、あれだけやる気だったからな…まさか…!」
「一人で…!?」
闇遊戯とオリオン、目を見合わせて大きな汗マークである。
「―――全軍突撃!我に続け!」
そうこうしている内に、レオンティウスが槍を掲げてイリオンへと猛進していく。
「レオンティウス陛下に…続けぇ~~~~~~~~~っっ!」
カストルがその後を追い、続々と兵士達が進撃を始める。
―――戦いの火蓋は切って落とされた。
さて、そんなシリアスムードのイリオンから少し離れた山道。
女王アレクサンドラ率いる女傑部隊(アマゾン)もまた、イリオンへと向かっていた。
「フ…匂うぞ。生臭くも芳しい戦いの香りが…」
ほんとに分かってんのかとツッコみたくなるセリフをかましつつ、アレクサンドラは進む。
「イリオンを占拠した奴隷部隊と、その鎮圧に向かったアルカディア…」
艶やかな唇が、三日月の形に弧を描く。
「そこに乱入して、混乱したところを一気に叩く!」
―――自分達の方が両軍から袋叩きに遭う可能性などこれっぽっちも考えていない。勘違いしないでほしいの
だが、これは別にアレクサンドラがアホの仔というわけではない。ただ単に、マイナス思考などアレクサンドラと
彼女が率いる女傑部隊の面々は持ち合わせていないだけである。
彼女の脳内未来はこうなっている。
女王アレクサンドラ率いる女傑部隊(アマゾン)もまた、イリオンへと向かっていた。
「フ…匂うぞ。生臭くも芳しい戦いの香りが…」
ほんとに分かってんのかとツッコみたくなるセリフをかましつつ、アレクサンドラは進む。
「イリオンを占拠した奴隷部隊と、その鎮圧に向かったアルカディア…」
艶やかな唇が、三日月の形に弧を描く。
「そこに乱入して、混乱したところを一気に叩く!」
―――自分達の方が両軍から袋叩きに遭う可能性などこれっぽっちも考えていない。勘違いしないでほしいの
だが、これは別にアレクサンドラがアホの仔というわけではない。ただ単に、マイナス思考などアレクサンドラと
彼女が率いる女傑部隊の面々は持ち合わせていないだけである。
彼女の脳内未来はこうなっている。
アルカディアと奴隷部隊の戦闘に乱入
→勝つ
→戦利品
→レオンティウス・あと城之内とか遊戯とかその辺のいい男全部
→ハーレム結成
→(゜Д゜)ウマー
→勝つ
→戦利品
→レオンティウス・あと城之内とか遊戯とかその辺のいい男全部
→ハーレム結成
→(゜Д゜)ウマー
「ハハハハハ!待っていろ、レオンティウス!今日こそ貴様は私の物になるのだ!」
もはや百回は言ってるセリフと共に高笑いする―――と。
「…あ………て…ぇぇ!」
「ん?誰ぞ、何か言ったか?」
しかしながら周囲の兵達は首を振るばかり。
「ふむ…しかし、確かに何か聴こえたぞ」
「止…ダメ…やぁぁぁぁっ!」
「そう、こんな感じに。上の方から」
天を仰いだその時であった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!ダメダメダメダメ、止まってマキバオー!言うこと聞いてよカスケード!」
空から馬車が降ってきたのである!その御者台に座る銀髪の女と、確かに目が合った。
「あ」
「い」
「う」
「え」
「お」
そんなやり取りをする余裕があるくらいに時間はスローモーションで流れる。幼い頃から今までの記憶っぽい
アレまで、アレクサンドラにははっきり見えた。
ぐしゃっ!
「ご…………ごめんなさいぃぃぃぃぃ~~~っ!」
そのまま謎の馬車は山道(というか崖)を駆け下りて(転がり落ちて、という方が現実に近い)いく。残されるは、
何があったのか分からずに立ち尽くす女傑部隊の面々のみであった。
「た…大変だ!女王様が馬車に轢かれた!」
「いかん、首とかがヤバい方向に曲がっておられる!」
「呼吸が止まっておられる!」
「脈拍が弱まっておられる!」
「つーか、死にかけておられる!」
もはや百回は言ってるセリフと共に高笑いする―――と。
「…あ………て…ぇぇ!」
「ん?誰ぞ、何か言ったか?」
しかしながら周囲の兵達は首を振るばかり。
「ふむ…しかし、確かに何か聴こえたぞ」
「止…ダメ…やぁぁぁぁっ!」
「そう、こんな感じに。上の方から」
天を仰いだその時であった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!ダメダメダメダメ、止まってマキバオー!言うこと聞いてよカスケード!」
空から馬車が降ってきたのである!その御者台に座る銀髪の女と、確かに目が合った。
「あ」
「い」
「う」
「え」
「お」
そんなやり取りをする余裕があるくらいに時間はスローモーションで流れる。幼い頃から今までの記憶っぽい
アレまで、アレクサンドラにははっきり見えた。
ぐしゃっ!
「ご…………ごめんなさいぃぃぃぃぃ~~~っ!」
そのまま謎の馬車は山道(というか崖)を駆け下りて(転がり落ちて、という方が現実に近い)いく。残されるは、
何があったのか分からずに立ち尽くす女傑部隊の面々のみであった。
「た…大変だ!女王様が馬車に轢かれた!」
「いかん、首とかがヤバい方向に曲がっておられる!」
「呼吸が止まっておられる!」
「脈拍が弱まっておられる!」
「つーか、死にかけておられる!」
―――こうして、女傑部隊は撤退を余儀なくされた。
一命を取り留めたアレクサンドラはその理由を頑として語らず、現場を目撃していた者達も口を噤んだ。
進軍途中で東方蛮族(バルバロイ)の苛烈なる襲撃を受け、これを見事撃退したものの女王の負傷は酷く、
戦闘継続が困難になったためと巷では囁かれたが、真偽は定かではない。
一命を取り留めたアレクサンドラはその理由を頑として語らず、現場を目撃していた者達も口を噤んだ。
進軍途中で東方蛮族(バルバロイ)の苛烈なる襲撃を受け、これを見事撃退したものの女王の負傷は酷く、
戦闘継続が困難になったためと巷では囁かれたが、真偽は定かではない。
―――それら全てを、θは見ていた。
「…………」
頭痛を堪えるように、こめかみを押さえる。
「血塗レタ花嫁…アレクサンドラ…貴女モマタ、コノ戦ィデ我ガ手ニ抱カレルハズダッタノダガナ…」
θには人の運命を決定付ける力などないが、おぼろげながら大まかな歴史の流れを読むことはできる。
予知能力というよりは人の範疇を遥かに越えた智慧(ちえ)と直感による推測に近いが、それでも的中率には
自信を持っていた。
しかし、結果はこれである。
「<唯一神>ニヨッテ定メラレシ、改竄ヲ赦サヌハズノ歴史…其レガ、狂ィダシティル…?」
それとも。これもまた、予定調和の内なのか?
θにも分からない。
「…武藤遊戯…城之内克也…海馬瀬人…オリオン…レオンティウス…ソシテ、エレウセウス…」
英雄達の名を呼ぶ。運命すらも左右しうる、巨大な力を秘めた者達。
「コノ戦ィノ果テニ、ォ前達ハ、ソシテ我ハ、何ヲ得テ、何ヲ失ゥ…?」
その声を聴くものは、誰もいない―――
「…………」
頭痛を堪えるように、こめかみを押さえる。
「血塗レタ花嫁…アレクサンドラ…貴女モマタ、コノ戦ィデ我ガ手ニ抱カレルハズダッタノダガナ…」
θには人の運命を決定付ける力などないが、おぼろげながら大まかな歴史の流れを読むことはできる。
予知能力というよりは人の範疇を遥かに越えた智慧(ちえ)と直感による推測に近いが、それでも的中率には
自信を持っていた。
しかし、結果はこれである。
「<唯一神>ニヨッテ定メラレシ、改竄ヲ赦サヌハズノ歴史…其レガ、狂ィダシティル…?」
それとも。これもまた、予定調和の内なのか?
θにも分からない。
「…武藤遊戯…城之内克也…海馬瀬人…オリオン…レオンティウス…ソシテ、エレウセウス…」
英雄達の名を呼ぶ。運命すらも左右しうる、巨大な力を秘めた者達。
「コノ戦ィノ果テニ、ォ前達ハ、ソシテ我ハ、何ヲ得テ、何ヲ失ゥ…?」
その声を聴くものは、誰もいない―――