なぜか馬があうのか、祭壇座アルターのニコルと神聖闘士アンドロメダ瞬は公私の行動を共にすることが多い。
戦闘力と実績がものを言う聖闘士の中では異例の官僚肌の聖闘士・ニコルは、
同僚の白銀聖闘士や下位の青銅聖闘士から何かと疎まれる傾向にある。
聖域内乱の首謀者、双子座ジェミニのサガに見出されたせいか、
主に功績面からのサガ擁護を標榜していたことも無関係ではないだろう。
曰く、文弱の徒。
曰く、長袖者。
曰く、木端役人。
曰く、サガの尻尾
教皇代行としての優秀さとは反比例し、ニコルを誹る声は小さくない。
そんな彼だからこそ、アンドロメダ瞬と接触をもっている事に関してはいい顔をされない。
報われない男なのだ。
自身の政治的立場の危険性を十二分に認識しているニコルだけに、瞬との付き合いに打算がないわけではないが、
アンドロメダ瞬は他の四人の神聖闘士とちがって基本的に物腰が柔らかいため、付き合いやすいのだ。
これが星矢あたりならこうは行かない、
ニコルはその職務の関係上、聖戦会戦前の聖闘士になりたての頃の星矢を知る身だけにどうしても苦手意識が抜けないのだ。
戦闘力と実績がものを言う聖闘士の中では異例の官僚肌の聖闘士・ニコルは、
同僚の白銀聖闘士や下位の青銅聖闘士から何かと疎まれる傾向にある。
聖域内乱の首謀者、双子座ジェミニのサガに見出されたせいか、
主に功績面からのサガ擁護を標榜していたことも無関係ではないだろう。
曰く、文弱の徒。
曰く、長袖者。
曰く、木端役人。
曰く、サガの尻尾
教皇代行としての優秀さとは反比例し、ニコルを誹る声は小さくない。
そんな彼だからこそ、アンドロメダ瞬と接触をもっている事に関してはいい顔をされない。
報われない男なのだ。
自身の政治的立場の危険性を十二分に認識しているニコルだけに、瞬との付き合いに打算がないわけではないが、
アンドロメダ瞬は他の四人の神聖闘士とちがって基本的に物腰が柔らかいため、付き合いやすいのだ。
これが星矢あたりならこうは行かない、
ニコルはその職務の関係上、聖戦会戦前の聖闘士になりたての頃の星矢を知る身だけにどうしても苦手意識が抜けないのだ。
ギリシア歌劇の公演に連れ立って行く事などもあるのだが、その帰りの事だ。
「アドニス?」
「そうだ。
先の魚座ピスケスのアフロディーテの甥にあたる少年でね。
その出自からして才覚はある、と思うんだがいかんせん性格が、なぁ…」
先の魚座ピスケスのアフロディーテの甥にあたる少年でね。
その出自からして才覚はある、と思うんだがいかんせん性格が、なぁ…」
長いため息をつくニコルに、不安げな目を向ける瞬。
ニコルとの付き合いは短いが、なんだかやつれてきているように見えるのだ。
ニコルとの付き合いは短いが、なんだかやつれてきているように見えるのだ。
「聖闘士の頂点たる黄金聖闘士の存在は、今の聖域にはなくてはならないものだ…。
君ら神聖闘士はたしかに強い、その戦力は黄金聖闘士を超えているだろう。
だが、黄金聖闘士は象徴なんだ」
君ら神聖闘士はたしかに強い、その戦力は黄金聖闘士を超えているだろう。
だが、黄金聖闘士は象徴なんだ」
夜空を見上げるニコルの視線を追って、瞬はそこにある星座を目にする。
双子座だ。
双子座だ。
「神話の昔から黄道を飾ってきた十二の星座、それになぞらえた光り輝く黄金の聖衣を纏う聖闘士。
…彼らの存在感というものは、白銀や青銅にはないものがあるんだよ。
神聖闘士はおそらく一代かぎりのものになるだろうしね」
…彼らの存在感というものは、白銀や青銅にはないものがあるんだよ。
神聖闘士はおそらく一代かぎりのものになるだろうしね」
ニコルの目には、在りし日の十二人が見えているのかもしれない。
「僕ら若輩も良いところですもんねぇ」
「…まぁ、ね。
だがいつまでも若輩でいられない。
次代黄金聖闘士候補は、今のところ四人いるんだが。
内一人は本人にその気がない。
内一人はまだまだ心身ともに未熟。
残る二人。それが貴鬼とアドニスなんだ。なんだが…」
だがいつまでも若輩でいられない。
次代黄金聖闘士候補は、今のところ四人いるんだが。
内一人は本人にその気がない。
内一人はまだまだ心身ともに未熟。
残る二人。それが貴鬼とアドニスなんだ。なんだが…」
ニコルはまたため息をつく。
「アドニスを相手するには、白銀や青銅レベルじゃもうどうしようもないんだ。
暴れ馬というより、もはや狂犬だよ。
大きな声じゃいえないが、アステリオンも避けてる節がある。
それに青銅聖闘士の一人が、…彼と喧嘩してな、聖衣が無ければ再起不能だっただろう。
おかげで貴鬼の仕事がまた増えた。
白銀聖闘士はそんな彼を抑えこむには力不足だろうし、聖域の実効戦力をそういう方面で消費したくない」
暴れ馬というより、もはや狂犬だよ。
大きな声じゃいえないが、アステリオンも避けてる節がある。
それに青銅聖闘士の一人が、…彼と喧嘩してな、聖衣が無ければ再起不能だっただろう。
おかげで貴鬼の仕事がまた増えた。
白銀聖闘士はそんな彼を抑えこむには力不足だろうし、聖域の実効戦力をそういう方面で消費したくない」
瞬は感づいた。
「なるほど…。
僕の弟子にせよ、ということですね?教皇代行」
僕の弟子にせよ、ということですね?教皇代行」
「…すまない。
亡きダイダロスの弟子たちを引き継いだばっかりでさらに厄介ごとを上乗せしちゃって…。
紫龍にまかせたかったんだが、その青銅聖闘士は紫龍の預かりでね。
たぶん今再開させたら殺し合いになる。
その青銅、磨けば光るんだ。
今、人材を失うわけにはいかないんだ…」
亡きダイダロスの弟子たちを引き継いだばっかりでさらに厄介ごとを上乗せしちゃって…。
紫龍にまかせたかったんだが、その青銅聖闘士は紫龍の預かりでね。
たぶん今再開させたら殺し合いになる。
その青銅、磨けば光るんだ。
今、人材を失うわけにはいかないんだ…」
ニコルの脳裏によみがえるのは、拳から血を流しながら聖衣を粉砕する鬼神のようなアドニスの姿だった。
たとえ黄金候補といえども、未熟な拳でそんな真似をすればただではすまない。
だが、アドニスは殴り続けていた。
おそらく彼が殴りつけていたのは青銅聖闘士ではないだろう、彼の中にある昏いわだかまりだ。
ひそひそと噂話をする連中がいれば残らず殴り倒し、視線があえば殴り倒し、卑屈に笑うやつがいれば殴り倒し、
そうして孤独になっていく。
それでは駄目だ、だがそんな彼を導くにはニコルは弱すぎた。
たとえ黄金候補といえども、未熟な拳でそんな真似をすればただではすまない。
だが、アドニスは殴り続けていた。
おそらく彼が殴りつけていたのは青銅聖闘士ではないだろう、彼の中にある昏いわだかまりだ。
ひそひそと噂話をする連中がいれば残らず殴り倒し、視線があえば殴り倒し、卑屈に笑うやつがいれば殴り倒し、
そうして孤独になっていく。
それでは駄目だ、だがそんな彼を導くにはニコルは弱すぎた。
「アドニスにとって仇にあたるだろう君に任せるしかない私の無能を笑ってくれ…。
孤高に気高くあるのはいい、だが、孤独は駄目だ。
未熟な今なら矯正は効く。」
孤高に気高くあるのはいい、だが、孤独は駄目だ。
未熟な今なら矯正は効く。」
あの日、聖域に響き渡ったサガの声。
ニコルは絶望した。
気高い黄金聖闘士だったはずの彼があんなふうになってしまった事に。
一人では駄目なのだ。
一人では歪みが分からない。一人では歪みに気づけないのだ。
ニコルは絶望した。
気高い黄金聖闘士だったはずの彼があんなふうになってしまった事に。
一人では駄目なのだ。
一人では歪みが分からない。一人では歪みに気づけないのだ。
「わかりました。
微力ながらこのアンドロメダ瞬、拝命いたします」
微力ながらこのアンドロメダ瞬、拝命いたします」
意を汲んでくれるこの優しい少年に、ニコルは自然、頭をさげた。