「ほぉ~れほれ!奴隷諸君、頑張りたまえ!城壁はまだまだ完成していないよぉ~!」
「くそっ…!」
下劣としか表現しようのない笑顔で、神官―――幼い頃のミーシャを犯そうとした、あの変態である―――が、歯を
食い縛りながら重い石を運ぶ奴隷達を、哄笑しながら鞭打つ。
「うぁっ…!」
疲労の限界に達した奴隷が倒れる。それを見た変態神官が目を細めた。
「おやおやぁ?誰が休んでもいいなんて言いましたかぁ?イヒ、イヒ…これはお仕置きだねぇ?」
「や…やめ…うぎゃぁあ~~~っ!」
鞭が風を切り、奴隷を散々に打ち据える。皮膚が破けて肉が裂け、血が滲み出す。
「イヒ、イヒ、イヒヒヒ、サボったりするからこうなるんだよぉ、分かったかい?」
「う、うう…」
「さあ、諸君!もっともっと城壁を高く高く高ぁ~~く築き上げるんだ!もっともっともっともっともっとだよぉ!
でないと私達が安心して暮らせないからねぇ?」
「クソったれ…!これ以上に石を積み上げて、何が楽しいんだ…!がはっ!」
「んん?何か言ったのかい?この口かい?」
ゲシゲシと、奴隷を足蹴にする変態神官。彼は傲然と、イリオンの城壁を指差す。
「キミ達は永遠に永久に永劫に永続的にこの城壁のために石を運び続けるんだよぉ。そのための道具が、余計なこと
を言っちゃいけないよぉ?」
「ち…ちくしょう…」
ぼやけた視界の中で、奴隷は城壁を睨む。
「神様…あんたが本当にいるなら…こんなモン…ぶっ潰してくれ…」
「ほぉ~?面白いことを言うねぇ、キミィ…城壁が潰れろぉ?イヒ、イヒ…誰がそんなことをできるというんだね?
この最大最強最高の城壁を打ち破れる者など、この世にいるはずが」
ない、と言いかけたその時。その最大最強最高の城壁が―――ペキペキと音を立てて亀裂が走り、崩れ始める。
「…は?」
目を丸くする変態神官。その間にも、亀裂は広がり、そして―――決壊。
「何ィィィィィィィィィィっっっっ!!!???」
変態神官も、奴隷達も、その光景を茫然と見守る他なかった。
「ククク…イリオンの城壁とやらがどれほどの物かと思っていたが、随分と脆いハリボテだったな」
傲慢なまでの威圧感に満ちた声と共に、ズシンズシンと足音を響かせ、巨大な怪物が姿を現した。それは蒼き焔を
瞳に宿した、三つ首の白龍。その頭上で腕を組んで悠然と佇む、怪しい兜を被った男―――言うまでもなく海馬で
ある。合計八つの眼光に射竦められ、変態神官は金魚のように口をパクパクさせる。
「どうした!?何があった―――な…!」
「何だ…あれは…」
駆けつけてきたイリオンの兵士達も、その異形を前に二の足を踏む―――そこに駆け抜ける、黒い風。
「がはっ!」
「うぎゃあっ!」
一瞬にして全員が斬殺され、緋色の花が咲き乱れる。それを為したのは、銀の髪を靡かせた剣士―――エレフ。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、な、な、な、な、何なんだ貴様らはぁぁぁぁぁっ!?」
「…ん?貴様、あの変態神官か。まあ、貴様などどうでもいい」
エレフは泡を吹く変態神官にはもう目もくれず、天に向けて高々と剣を翳す。
「イリオンよ―――貴様を護る楯ももはやない!今日が貴様の最期の日だ!」
そして彼は三つ首の竜を従える海馬と共に、次々に集まってくる兵士達をものともせず屠っていく。その姿を奴隷達
は、しっかりと目に焼き付けた。
「神様…」
ついさっき散々に甚振られた奴隷が、涙すら流しながら呟く。
「神様は…いたんだ…」
彼だけではない。他の奴隷も同じだった。彼らにとって、憎しみと絶望の象徴であった城壁。その偶像を軽々とぶち
砕いた三つ首の白龍と、黒き剣士。それは、まさしく戦神の具現化であった―――
「くそっ…!」
下劣としか表現しようのない笑顔で、神官―――幼い頃のミーシャを犯そうとした、あの変態である―――が、歯を
食い縛りながら重い石を運ぶ奴隷達を、哄笑しながら鞭打つ。
「うぁっ…!」
疲労の限界に達した奴隷が倒れる。それを見た変態神官が目を細めた。
「おやおやぁ?誰が休んでもいいなんて言いましたかぁ?イヒ、イヒ…これはお仕置きだねぇ?」
「や…やめ…うぎゃぁあ~~~っ!」
鞭が風を切り、奴隷を散々に打ち据える。皮膚が破けて肉が裂け、血が滲み出す。
「イヒ、イヒ、イヒヒヒ、サボったりするからこうなるんだよぉ、分かったかい?」
「う、うう…」
「さあ、諸君!もっともっと城壁を高く高く高ぁ~~く築き上げるんだ!もっともっともっともっともっとだよぉ!
でないと私達が安心して暮らせないからねぇ?」
「クソったれ…!これ以上に石を積み上げて、何が楽しいんだ…!がはっ!」
「んん?何か言ったのかい?この口かい?」
ゲシゲシと、奴隷を足蹴にする変態神官。彼は傲然と、イリオンの城壁を指差す。
「キミ達は永遠に永久に永劫に永続的にこの城壁のために石を運び続けるんだよぉ。そのための道具が、余計なこと
を言っちゃいけないよぉ?」
「ち…ちくしょう…」
ぼやけた視界の中で、奴隷は城壁を睨む。
「神様…あんたが本当にいるなら…こんなモン…ぶっ潰してくれ…」
「ほぉ~?面白いことを言うねぇ、キミィ…城壁が潰れろぉ?イヒ、イヒ…誰がそんなことをできるというんだね?
この最大最強最高の城壁を打ち破れる者など、この世にいるはずが」
ない、と言いかけたその時。その最大最強最高の城壁が―――ペキペキと音を立てて亀裂が走り、崩れ始める。
「…は?」
目を丸くする変態神官。その間にも、亀裂は広がり、そして―――決壊。
「何ィィィィィィィィィィっっっっ!!!???」
変態神官も、奴隷達も、その光景を茫然と見守る他なかった。
「ククク…イリオンの城壁とやらがどれほどの物かと思っていたが、随分と脆いハリボテだったな」
傲慢なまでの威圧感に満ちた声と共に、ズシンズシンと足音を響かせ、巨大な怪物が姿を現した。それは蒼き焔を
瞳に宿した、三つ首の白龍。その頭上で腕を組んで悠然と佇む、怪しい兜を被った男―――言うまでもなく海馬で
ある。合計八つの眼光に射竦められ、変態神官は金魚のように口をパクパクさせる。
「どうした!?何があった―――な…!」
「何だ…あれは…」
駆けつけてきたイリオンの兵士達も、その異形を前に二の足を踏む―――そこに駆け抜ける、黒い風。
「がはっ!」
「うぎゃあっ!」
一瞬にして全員が斬殺され、緋色の花が咲き乱れる。それを為したのは、銀の髪を靡かせた剣士―――エレフ。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、な、な、な、な、何なんだ貴様らはぁぁぁぁぁっ!?」
「…ん?貴様、あの変態神官か。まあ、貴様などどうでもいい」
エレフは泡を吹く変態神官にはもう目もくれず、天に向けて高々と剣を翳す。
「イリオンよ―――貴様を護る楯ももはやない!今日が貴様の最期の日だ!」
そして彼は三つ首の竜を従える海馬と共に、次々に集まってくる兵士達をものともせず屠っていく。その姿を奴隷達
は、しっかりと目に焼き付けた。
「神様…」
ついさっき散々に甚振られた奴隷が、涙すら流しながら呟く。
「神様は…いたんだ…」
彼だけではない。他の奴隷も同じだった。彼らにとって、憎しみと絶望の象徴であった城壁。その偶像を軽々とぶち
砕いた三つ首の白龍と、黒き剣士。それは、まさしく戦神の具現化であった―――
「なるほど…何とも、豪快な合図だ…」
オルフは呆れ半分、感心半分で溜息をついた。そして、にやりと笑う。
(やはり、あの御二人に間違いなどなかった…見ろ!イリオンの腰抜け兵共め、泡を吹いておるわ!)
その時、反対側からも鬨の声が上がる。どうやらシリウスの部隊が突撃を開始したようだ。
「我々も続くぞ―――突撃ぃぃぃぃぃぃっ!」
「おおおおおおーーーーーっ!」
怒号を放ちながら奴隷部隊は一斉に攻撃を始める。対するイリオンの兵は、絶対と信じた城壁があっさりと砕かれた
事実によって、戦う前から完全に戦意を喪失していた。数の上での圧倒的な有利など、もはや皆無に等しい。
まさに狼が鶏の群れを襲うが如し。天秤は完全に、奴隷部隊に傾いていた―――
オルフは呆れ半分、感心半分で溜息をついた。そして、にやりと笑う。
(やはり、あの御二人に間違いなどなかった…見ろ!イリオンの腰抜け兵共め、泡を吹いておるわ!)
その時、反対側からも鬨の声が上がる。どうやらシリウスの部隊が突撃を開始したようだ。
「我々も続くぞ―――突撃ぃぃぃぃぃぃっ!」
「おおおおおおーーーーーっ!」
怒号を放ちながら奴隷部隊は一斉に攻撃を始める。対するイリオンの兵は、絶対と信じた城壁があっさりと砕かれた
事実によって、戦う前から完全に戦意を喪失していた。数の上での圧倒的な有利など、もはや皆無に等しい。
まさに狼が鶏の群れを襲うが如し。天秤は完全に、奴隷部隊に傾いていた―――
「ワハハハハ―――敬え!傅(かしず)け!!跪(ひざまず)け!!!これがオレの究極竜だ!」
「ぎゃああああああーーーーーーーっ!」
究極竜に追われ、兵士達はもはや抵抗の意志すら失い、逃げ惑う。海馬はそれを追わず、辺りを見渡す。遠目に目的
の建物を見つけた。
「さて…エレフが言うには、あれが兵士の詰所だったな。あそこを潰せば、一網打尽というわけか」
勿論それは奴隷だったエレフの少年時代の話だ。今でもそうだとは限らない―――と、そこから兵士達がわらわらと
出てくるのを海馬は目撃した。口元を、三日月の形に歪める。
(ククク―――どうやら配置換えもロクに行なっていないと見える。間抜けめ)
海馬が手を振り翳すと同時に、究極竜が三つ並んだ口から一斉に、破滅の閃光を放つ。それは重なり合い、一筋の光
と化して、詰所を吹き飛ばした―――
「ぎゃああああああーーーーーーーっ!」
究極竜に追われ、兵士達はもはや抵抗の意志すら失い、逃げ惑う。海馬はそれを追わず、辺りを見渡す。遠目に目的
の建物を見つけた。
「さて…エレフが言うには、あれが兵士の詰所だったな。あそこを潰せば、一網打尽というわけか」
勿論それは奴隷だったエレフの少年時代の話だ。今でもそうだとは限らない―――と、そこから兵士達がわらわらと
出てくるのを海馬は目撃した。口元を、三日月の形に歪める。
(ククク―――どうやら配置換えもロクに行なっていないと見える。間抜けめ)
海馬が手を振り翳すと同時に、究極竜が三つ並んだ口から一斉に、破滅の閃光を放つ。それは重なり合い、一筋の光
と化して、詰所を吹き飛ばした―――
さて、時間を少し戻して、詰所の内部では。
「―――諸君!」
金髪碧眼の美男子が、居並ぶ兵士や騎士達を鼓舞する。彼こそは、件の英雄イーリウス。暴風の如き剛剣と、疾風の
如き身のこなしで、最強の名をほしいままにする生涯無敵の男。そして彼が率いる歴戦の精鋭達を、いつしか誰もが
こう呼ぶようになった―――<風神聖騎士団>と。
「敵はイリオンの城壁をも打ち破る者達である…されど、我らは、決して背を向けはしない!」
「おおーっ!」
皆がイーリウスに続き、諸手をあげる。
「聖都を穢す者達に、罰を!風神(アネモス)の加護は我らにあり!」
「おおーっ!」
「さあ、同胞(ヘレネス)よ!いざ往かん!罪深き者達に、神の裁きを知らしめようぞ!」
「おおーっ!」
と。イーリウスを筆頭とする風神聖騎士団一同が気勢を上げた瞬間。
極太の破壊光線が、彼らを跡形もなく、文字通り塵すら残さず、この世から消滅させたのだった。
「―――諸君!」
金髪碧眼の美男子が、居並ぶ兵士や騎士達を鼓舞する。彼こそは、件の英雄イーリウス。暴風の如き剛剣と、疾風の
如き身のこなしで、最強の名をほしいままにする生涯無敵の男。そして彼が率いる歴戦の精鋭達を、いつしか誰もが
こう呼ぶようになった―――<風神聖騎士団>と。
「敵はイリオンの城壁をも打ち破る者達である…されど、我らは、決して背を向けはしない!」
「おおーっ!」
皆がイーリウスに続き、諸手をあげる。
「聖都を穢す者達に、罰を!風神(アネモス)の加護は我らにあり!」
「おおーっ!」
「さあ、同胞(ヘレネス)よ!いざ往かん!罪深き者達に、神の裁きを知らしめようぞ!」
「おおーっ!」
と。イーリウスを筆頭とする風神聖騎士団一同が気勢を上げた瞬間。
極太の破壊光線が、彼らを跡形もなく、文字通り塵すら残さず、この世から消滅させたのだった。
―――彼の名誉のために言っておくが、これはイーリウスが前評判だけの見掛け倒し野郎だったわけではない。
まともにやりあえば、如何に海馬やエレフとて、相当の苦戦を強いられたことであろう。
それだけの実力を、確かに彼は有していた。
されど、いくら稀代の英雄といえど、まさかいきなりあんな攻撃が来るなど予想できるはずもない。
結果、イーリウスはその圧倒的な戦闘力を披露する機会さえ与えられず、この物語から退場する運びとなった。
まあ人生、そういうこともあるということを、皆様も肝に銘じておこう。
合掌。
「ワハハハハ―――虫けら共!この究極なる竜を崇めよ!讃えよ!!奉(たてまつ)れ!!!」
それにも構わず、海馬は究極竜を駆り、エレフと共に破壊の限りを尽くす。
その姿は、まさに破壊神の如し。二人の行く手にはもはや、敵はなし―――
まともにやりあえば、如何に海馬やエレフとて、相当の苦戦を強いられたことであろう。
それだけの実力を、確かに彼は有していた。
されど、いくら稀代の英雄といえど、まさかいきなりあんな攻撃が来るなど予想できるはずもない。
結果、イーリウスはその圧倒的な戦闘力を披露する機会さえ与えられず、この物語から退場する運びとなった。
まあ人生、そういうこともあるということを、皆様も肝に銘じておこう。
合掌。
「ワハハハハ―――虫けら共!この究極なる竜を崇めよ!讃えよ!!奉(たてまつ)れ!!!」
それにも構わず、海馬は究極竜を駆り、エレフと共に破壊の限りを尽くす。
その姿は、まさに破壊神の如し。二人の行く手にはもはや、敵はなし―――
―――城壁を失い、英雄を喪い、全てを奪われ、聖なる風神の都はこの日、完膚なきまでに陥落した…。