ゲバルと烈の果たし合いは、辛くもゲバルが勝利を収めた。
これにより闇討ち事件の総括となる最終決戦、「ゲバル対アライJr」が正式に決定さ
れた。日時は一週間後正午、場所は草野球場を借りて行われる。
全ての段取りは、しけい荘の大家であるオリバが誰かが口を挟む間もなく進めてしまっ
た。いうまでもなく逆らう者はいない。
しかし、闇討ち犯人を協力して倒そうとしていた柳、ドイル、スペックは複雑だった。
柳が住む102号室に集結し、愚痴の吐き合いを展開する三人。
「あれだけ張り切ってたのに……すっかり先越されちまったな」
煙草の煙を吐き出し、寂しそうに呟くドイル。
「完敗ですな。明日から動こうとした我々に対し、彼は今日から実行してみせた。ゲバル
さんの情熱を読み切れなかった」
うつむき首を振る柳。
「シッカシマァ、烈海王ヲ倒シチマウトハナ。正直アイツヲナメテタゼ」
スペックもいつになく神妙な表情を浮かべる。
「……デ、ドウスルヨ、コレ」
闇討ち対策に用意した大量の武器。ナイフにバットといった日用品に近い武器から、拳
銃や閃光弾といった近代兵器、柳の会社から取り寄せた暗器まで多数取り揃えていた。
「捨てよう!」
ドイルの一声で結論はまとまった。
捨てに行く途中で警官に職務質問を受け、警察署に連行されたのはいうまでもない。
これにより闇討ち事件の総括となる最終決戦、「ゲバル対アライJr」が正式に決定さ
れた。日時は一週間後正午、場所は草野球場を借りて行われる。
全ての段取りは、しけい荘の大家であるオリバが誰かが口を挟む間もなく進めてしまっ
た。いうまでもなく逆らう者はいない。
しかし、闇討ち犯人を協力して倒そうとしていた柳、ドイル、スペックは複雑だった。
柳が住む102号室に集結し、愚痴の吐き合いを展開する三人。
「あれだけ張り切ってたのに……すっかり先越されちまったな」
煙草の煙を吐き出し、寂しそうに呟くドイル。
「完敗ですな。明日から動こうとした我々に対し、彼は今日から実行してみせた。ゲバル
さんの情熱を読み切れなかった」
うつむき首を振る柳。
「シッカシマァ、烈海王ヲ倒シチマウトハナ。正直アイツヲナメテタゼ」
スペックもいつになく神妙な表情を浮かべる。
「……デ、ドウスルヨ、コレ」
闇討ち対策に用意した大量の武器。ナイフにバットといった日用品に近い武器から、拳
銃や閃光弾といった近代兵器、柳の会社から取り寄せた暗器まで多数取り揃えていた。
「捨てよう!」
ドイルの一声で結論はまとまった。
捨てに行く途中で警官に職務質問を受け、警察署に連行されたのはいうまでもない。
「ヒドイ奴ラダッタナ、武器ヲ持ッテタクライデヨ」
ようやく釈放され、一息つくスペック。ドイルが呆れたように返す。
「むしろ、逮捕されなかったのが奇跡だろう……」
目的もなくぶらぶらと街中をさまようドイルたち。平時に行動を共にするなどほとんど
ない間柄なので、一ヶ所に落ち着くことができない。
「シコルスキートドリアンヲ見舞イニ行クカ?」
「集中治療室送りになったじゃないか。俺たちのせいで」
「ソウダナ」
もうすぐ正午を回ろうという時刻になった。
昼食にしようかという話になったが、皆の好みがバラバラすぎてなかなか店が決められ
ない。結局ファミレスに入ることになった。
「何名様でしょうか?」
「三人」
「禁煙席しか空いておりませんが、よろしいでしょうか?」
「大麻なら吸っていいだろうか」
「はい」
昼時で忙しかった店員は適当に返事をしていた。ソファで国松からもらった大麻をスパ
スパ吸う柳に、文句をいえる客はいなかった。
しかしドリンクバーを注文したスペックが勘違いをして、ドリンクバーの設備を全部持
ち運ぼうとしたので、まもなく追い出された。
ようやく釈放され、一息つくスペック。ドイルが呆れたように返す。
「むしろ、逮捕されなかったのが奇跡だろう……」
目的もなくぶらぶらと街中をさまようドイルたち。平時に行動を共にするなどほとんど
ない間柄なので、一ヶ所に落ち着くことができない。
「シコルスキートドリアンヲ見舞イニ行クカ?」
「集中治療室送りになったじゃないか。俺たちのせいで」
「ソウダナ」
もうすぐ正午を回ろうという時刻になった。
昼食にしようかという話になったが、皆の好みがバラバラすぎてなかなか店が決められ
ない。結局ファミレスに入ることになった。
「何名様でしょうか?」
「三人」
「禁煙席しか空いておりませんが、よろしいでしょうか?」
「大麻なら吸っていいだろうか」
「はい」
昼時で忙しかった店員は適当に返事をしていた。ソファで国松からもらった大麻をスパ
スパ吸う柳に、文句をいえる客はいなかった。
しかしドリンクバーを注文したスペックが勘違いをして、ドリンクバーの設備を全部持
ち運ぼうとしたので、まもなく追い出された。
「ケッ、ケチ臭イレストランダッタゼ」
飯にありつけず、舌打ちするスペック。ドイルが呆れたように返す。
「むしろ、通報されなかったのが奇跡だろう……」
レストランでのいざこざで食欲も消え失せた三人は、カラオケボックスに入った。
柳は演歌を、ドイルは故郷のロックバンドのヒット曲をぞれぞれ熱唱した。スペックは
適当に選んだ曲に合わせてわめいていただけだったが、消費カロリーはもちろん得点も二
人よりも上だった。
「堕落だ」と自らに嘆く柳。
「これが敗北……」打ちひしがれるドイル。
次に、コスプレマニアのドイルは通りがかったメイド喫茶に入ろうと提案した。もはや
時間さえ潰せればどこでもいいと判断したのか、柳もスペックも素直に従うことにした。
しかし一歩店に入ると、いきなり熟女メイドが襲いかかってきた。
「あたしが相手だッ!」
全力で釘バットで殴りかかってくる熟女メイドに追い立てられ席に座ると、今度は別の
方向から石つぶてが飛んできた。
「最愛に比べれば、最強なんてッ!」若いメイドがトルネード投法で次から次へと石を投
げてくる。「愛がないと、痛いだろッ!」
超雌によってなすすべなく追い詰められる男たち。柳はこれが現代の大和撫子か、と恐
れおののいた。
訳が分からないまま、ドイルたちは店を飛び出した。
改めて看板を見て、彼らはようやくここが地獄への入り口「冥土喫茶」であることを知
った。いったい誰好みの店なのか、彼らには見当もつかない。
飯にありつけず、舌打ちするスペック。ドイルが呆れたように返す。
「むしろ、通報されなかったのが奇跡だろう……」
レストランでのいざこざで食欲も消え失せた三人は、カラオケボックスに入った。
柳は演歌を、ドイルは故郷のロックバンドのヒット曲をぞれぞれ熱唱した。スペックは
適当に選んだ曲に合わせてわめいていただけだったが、消費カロリーはもちろん得点も二
人よりも上だった。
「堕落だ」と自らに嘆く柳。
「これが敗北……」打ちひしがれるドイル。
次に、コスプレマニアのドイルは通りがかったメイド喫茶に入ろうと提案した。もはや
時間さえ潰せればどこでもいいと判断したのか、柳もスペックも素直に従うことにした。
しかし一歩店に入ると、いきなり熟女メイドが襲いかかってきた。
「あたしが相手だッ!」
全力で釘バットで殴りかかってくる熟女メイドに追い立てられ席に座ると、今度は別の
方向から石つぶてが飛んできた。
「最愛に比べれば、最強なんてッ!」若いメイドがトルネード投法で次から次へと石を投
げてくる。「愛がないと、痛いだろッ!」
超雌によってなすすべなく追い詰められる男たち。柳はこれが現代の大和撫子か、と恐
れおののいた。
訳が分からないまま、ドイルたちは店を飛び出した。
改めて看板を見て、彼らはようやくここが地獄への入り口「冥土喫茶」であることを知
った。いったい誰好みの店なのか、彼らには見当もつかない。
「サッサト出テヨカッタゼ、フザケタ店ダ」
釘バットで殴られた頭をさするスペック。ドイルが呆れたように返す。
「むしろ、生きて出られたことが奇跡だろう……」
もう外は沈みゆく太陽によって焼かれ始めていた。無駄に過ごしたようでいて充実した
ような気もする、そんな一日であった。
「帰りましょうか」
柳の言葉に、残る二人も同意する。
「ヨシ、ゲバルニ敗ケナイヨウ、俺ラモ特訓ガテラシケイ荘マデ競走シナイカ?」
「いいだろう、手品は使わずやってやる」
「私も構わぬ」
身を寄せ合い、傷をなめ合っていた情けない雄は、もういない。
こうして三人は夕日に向かって走り出した。しけい荘は現在地から向かって東にあると
は知らずに。
釘バットで殴られた頭をさするスペック。ドイルが呆れたように返す。
「むしろ、生きて出られたことが奇跡だろう……」
もう外は沈みゆく太陽によって焼かれ始めていた。無駄に過ごしたようでいて充実した
ような気もする、そんな一日であった。
「帰りましょうか」
柳の言葉に、残る二人も同意する。
「ヨシ、ゲバルニ敗ケナイヨウ、俺ラモ特訓ガテラシケイ荘マデ競走シナイカ?」
「いいだろう、手品は使わずやってやる」
「私も構わぬ」
身を寄せ合い、傷をなめ合っていた情けない雄は、もういない。
こうして三人は夕日に向かって走り出した。しけい荘は現在地から向かって東にあると
は知らずに。