<白龍皇帝(ドラグナー)>―――海馬瀬人。<紫眼の狼(アメジストス)>―――エレウセウス。
二人のカリスマに率いられ、世界に叛旗を翻した虐げられし者達―――奴隷部隊。
戦闘には出られない女子供や老人を除いても、既に数百人を超える規模となっている。
数百人―――とはいえ、堅牢なる城壁で護られし風の聖都・イリオンに攻め入るには、無謀とすら言えない数字だ。
城壁のみならず、内部には数千もの戦闘要員が常駐している―――そして。
風神(アネモス)の血を引く英雄・イーリウス。彼の率いる部隊は、常勝不敗。古代世界において、最強と謳われる
生ける伝説。
難攻不落の風神の聖域―――対して、たった数百人の奴隷部隊。それだけ聞けば千人いれば千人が、奴隷部隊の
無残な敗北を予想するだろう。千が一万だろうと百万だろうと同じことだ。そして、その全員が愕然とすることだろう。
奴隷部隊の圧倒的勝利、イリオンの陥落という、ありえない結末に―――
二人のカリスマに率いられ、世界に叛旗を翻した虐げられし者達―――奴隷部隊。
戦闘には出られない女子供や老人を除いても、既に数百人を超える規模となっている。
数百人―――とはいえ、堅牢なる城壁で護られし風の聖都・イリオンに攻め入るには、無謀とすら言えない数字だ。
城壁のみならず、内部には数千もの戦闘要員が常駐している―――そして。
風神(アネモス)の血を引く英雄・イーリウス。彼の率いる部隊は、常勝不敗。古代世界において、最強と謳われる
生ける伝説。
難攻不落の風神の聖域―――対して、たった数百人の奴隷部隊。それだけ聞けば千人いれば千人が、奴隷部隊の
無残な敗北を予想するだろう。千が一万だろうと百万だろうと同じことだ。そして、その全員が愕然とすることだろう。
奴隷部隊の圧倒的勝利、イリオンの陥落という、ありえない結末に―――
天を衝くように聳える城壁からやや離れて陣取った奴隷部隊に対し、警備の弓兵が矢を放つ。
「閣下。小雨がちらちらと煩わしいですね…」
オルフは文字通りにぱらぱらと降り注ぐ矢を鬱陶しそうに眺める。当てることを目的としない、ただの威嚇だ。自分
からは攻めずに相手の出方を見るという、護りに重点を置いた、よく言えば慎重だが悪く言えば臆病な戦法である。
「安全圏からしか撃てぬ腰抜け共め…閣下、これでは張り合いがありませんな!」
その消極的な戦い方に、シリウスが小馬鹿にしたように息巻く。オルフとシリウス―――軍隊経験のあるこの二人が、
現在は海馬とエレフの副官として、部隊を実質的に纏め上げていた。
その二人に<閣下>と呼ばれたエレフは苦笑する。
「オルフもシリウスも、閣下などという呼び方はよせ。ガラじゃない」
「いえ。我々にとって貴方は白龍皇帝様と並ぶ御方なのです、閣下。ですから失礼な呼び方はできませぬ、閣下」
「…まあよい。弓兵など相手にせずともよい。奴らなど、所詮遠くでウロチョロするだけの只の雑魚にすぎん―――
まあ、オリオンならば話は違うだろうがな…」
エレフは嘲笑うように言いつつも、どこか寂しげだった。
「クク…あの軽薄が気になるか?甘いな、エレフ」
「な…か、勘違いするな!別にあんなバカに本当は一緒に来てほしかったなどというわけではないからな!」
海馬の軽口に、エレフは口をへの字に曲げてそっぽを向く。そんなやり取りに思わず吹き出しつつ、オルフはずっと
気になっていたことを尋ねた。
「皇帝様…失礼ですが、一つだけ訊いてもよろしいでしょうか?」
「何だ」
「…その兜は、一体どうなされたのですか?」
―――それを聞いた瞬間、奴隷部隊の面々は皆(ナイスガッツ!オルフ!)と心の中で叫んだという。誰もが気には
なっていたが、ツッコんだら負けと思っていたのだ。
「これか?」
海馬は自分の頭…正確には、自分の被っている兜に手を当てる。
「中々いいセンスだろう?」
「…………」
ノーコメント。海馬は(侘び寂びの分からん奴め)と舌打ちしつつ、思い返していた。子供達との時間を―――
「閣下。小雨がちらちらと煩わしいですね…」
オルフは文字通りにぱらぱらと降り注ぐ矢を鬱陶しそうに眺める。当てることを目的としない、ただの威嚇だ。自分
からは攻めずに相手の出方を見るという、護りに重点を置いた、よく言えば慎重だが悪く言えば臆病な戦法である。
「安全圏からしか撃てぬ腰抜け共め…閣下、これでは張り合いがありませんな!」
その消極的な戦い方に、シリウスが小馬鹿にしたように息巻く。オルフとシリウス―――軍隊経験のあるこの二人が、
現在は海馬とエレフの副官として、部隊を実質的に纏め上げていた。
その二人に<閣下>と呼ばれたエレフは苦笑する。
「オルフもシリウスも、閣下などという呼び方はよせ。ガラじゃない」
「いえ。我々にとって貴方は白龍皇帝様と並ぶ御方なのです、閣下。ですから失礼な呼び方はできませぬ、閣下」
「…まあよい。弓兵など相手にせずともよい。奴らなど、所詮遠くでウロチョロするだけの只の雑魚にすぎん―――
まあ、オリオンならば話は違うだろうがな…」
エレフは嘲笑うように言いつつも、どこか寂しげだった。
「クク…あの軽薄が気になるか?甘いな、エレフ」
「な…か、勘違いするな!別にあんなバカに本当は一緒に来てほしかったなどというわけではないからな!」
海馬の軽口に、エレフは口をへの字に曲げてそっぽを向く。そんなやり取りに思わず吹き出しつつ、オルフはずっと
気になっていたことを尋ねた。
「皇帝様…失礼ですが、一つだけ訊いてもよろしいでしょうか?」
「何だ」
「…その兜は、一体どうなされたのですか?」
―――それを聞いた瞬間、奴隷部隊の面々は皆(ナイスガッツ!オルフ!)と心の中で叫んだという。誰もが気には
なっていたが、ツッコんだら負けと思っていたのだ。
「これか?」
海馬は自分の頭…正確には、自分の被っている兜に手を当てる。
「中々いいセンスだろう?」
「…………」
ノーコメント。海馬は(侘び寂びの分からん奴め)と舌打ちしつつ、思い返していた。子供達との時間を―――
イリオンから近い、奴隷部隊が現在駐屯地としている、とある小さな村。
この村は近隣の荒くれ者が率いる盗賊団に、常々頭を悩ませていた。そこに現れたのが奴隷部隊である。
「盗賊団はオレ達が潰してやる。返礼としてこの村を駐屯地として使わせろ」
―――端的に言うと、こういうやり取りがあり、盗賊団は哀れ、文字通りにあっさりと叩き潰された。この村も平和が
戻り、奴隷部隊も目出度く駐屯地を手に入れたというわけである。そして。
「―――ええい、騒々しいぞガキ共が!サクリ、妹をいじめるな!エトワール、レイン、犬を拾ってくるなと何度も
言ったろうが!イヴェール、穴ばかり掘るな!そんなところには何も埋まっていない!ヴェスティア、物を壊すな!
何故お前はそう乱暴者なんだ!エル、オレは忙しいんだ!絵本なら後で読んでやる!シャイタン、ライラ、火遊び
は火傷の元だ!焚火をしたらきちんと水をかけろ!クロニカ、そんな物陰でブツブツ囁くな!鬱陶しいわ!なにィ?
ルキアがまた家出しただと!?腹が減ったら戻ってくるから放っておけ!」
奴隷部隊の子供達、さらに何故か村の子供達にも囲まれ、完全に保父さんと化している海馬であった。そんな彼の
耳に、クスクスと笑う声が聴こえた。
「ふ…そうしていると形無しだな、白龍皇帝殿」
「エレフ…貴様、バカにしているのか?」
むっとする海馬を尻目に、エレフは子供達に笑みを向ける。
「アメジストス様だ!」「アメジストス様ー!」
子供達はわらわらとエレフに群がる。海馬ほどではないが、彼も子供達からは慕われているのだ。海馬はフンと鼻を
鳴らし、ふとある事に気付いて傍らでジュラルミンケースを抱えるフラーテルに問う。
「おい…ソロルの姿が見えんが、どうした?」
「はい。あの子は少しやることがあるみたいなので、あっちにいます。呼んできましょうか?」
「構わん。そういうことなら放っておいてやれ」
海馬はそのまま会話を打ち切ろうとしたが、フラーテルが何か言いたげなのを見てとり、また口を開いた。
「どうした。まだ何かあるのか」
「皇帝様やアメジストス様は…もうすぐ、イリオンに攻め込むんですよね?」
「分かりきった事を訊くな。何が言いたい?」
「僕も…連れていってください。ここで待つだけなど、嫌です」
阿呆が、と海馬は吐き捨てる。
「貴様がいても戦力にならん。足手纏いだ」
「確かに、僕は剣も持つことができません…でも、いざとなれば」
皇帝様の楯になる覚悟は、できています。フラーテルは、そう言った。海馬は彼の頭を、軽く小突いた。
「バカめ…貴様に楯になってもらわねばならんほど、オレは弱くはない」
「皇帝様…」
「フラーテル。貴様がすべきは死ぬ覚悟ではない。妹を守るために、泥を啜ってでも生き抜く覚悟だ」
「生き抜く…覚悟」
敬愛する主の言葉を反芻するフラーテルに、海馬は言い放った。
「心配などするな―――オレがお前達に、いい目を見せてやるさ」
海馬は、どこまでも不敵に笑う。そこに。
「皇帝様ー!」
ポテポテと音がしそうな駆け足で、今まで姿が見えなかったソロルがやってくる。腕に何かを大事そうに抱えていた。
「…なんだ、これは?」
「皇帝様に似合うと思って作りました!」
にこにこ笑いながらソロルはそれを海馬に向けて差し出す。よくよく見ると、それは兜である。しかもブルーアイズ
の頭部を模して作られた逸品。子供の手による物とは思えないほどの出来栄えであった。
「どうぞ!」
「…………」
海馬は無言で兜を受け取る。ソロルは顔を紅潮させてはにかみながら、子供達の輪の中に入っていった。
「ちっ…マセガキめ」
「す、すいません!ソロルがまた無礼なことを…」
「フン。まあ、意匠にブルーアイズを選んだセンスだけは褒めてやる」
恐縮するフラーテルをよそに、海馬は仏頂面で兜を被る―――その姿は、実によく似合っていた。
なんというかそう<正義の味方カイバーマン>といったところだ。
(参考画像 ttp://image.www.rakuten.co.jp/tigusaya/img10152851193.jpeg)
「フフ。中々似合っているぞ、海馬」
エレフも含み笑いする。
「可愛らしいし、気立てのいい子じゃないか。あの娘にとってお前はさしずめ、白馬ならざる白龍に乗った王子様と
いうことなのだろう。あまり邪険に扱ってやるな」
「ちっ!オレにペドの趣味などない」
むすっとして腕組みしながらも、海馬は決してその苛立ちが不快ではなかった。
(不快ではない?ふざけるな。こんなおままごとのような馴れ合いなど、オレには虫酸が走るだけだ)
海馬は己の感情を、歯噛みで押し潰した。
(勘違いするな…オレはオレの目的のために、エレフや奴隷共を利用しているにすぎん)
ならば何故。自分は今、エレフにこうして手を貸している?はっきり言ってそれは<現代に帰る>という目的からは
まるでかけ離れている。そうと知りつつ―――何故?
(バカな…)
浮かび上がった答えを、海馬は即座に打ち消した。
(オレには必要ない―――仲間だの友情だの絆だの…そんなものは、一人では何もできぬ負け犬共が勝手にほざいて
いればいいのだ!)
「皇帝様ー。何でそんなに怖い顔してるの?怒ってるの?」
「…フン。怒ってなどいない」
心配げに顔を覗きこんでくる子供に、仏頂面のまま答える。
「よかったー。ねえねえ、またあの<でゅえるもんすたーず>教えてよ!」
「―――ちっ。フラーテル、カードを用意しろ」
「はい!」
いそいそとジュラルミンケースからカードの山を取り出していくフラーテル。わらわら寄ってくる子供を制しながら、
海馬はデッキを組み上げる。子供達はそれを手に取り、早速ゲームを始める。
「バカ者!先攻でいきなり攻撃する奴がいるか!モンスターを召喚できるのは一ターン一回だ!手札から罠カードを
発動するな、ちゃんと場に伏せてから使え!なに、このカードが場に出された時にデッキから一枚カードを引ける?
テキストにそんな効果は書いてなかろうが。自分で勝手にルールを作るんじゃない―――む?誰だ、お前が言うなと
ぬかした奴は!」
やかましく喚きながらも、子供達にゲームのルールを根気強く教えていく海馬。エレフはそんな海馬の姿を、口元に
少しだけ笑みを浮かべて見守っていた―――それはまるで。
どこにでもいる親友同士のようで。どこにでもいる親友同士そのものだった。
この村は近隣の荒くれ者が率いる盗賊団に、常々頭を悩ませていた。そこに現れたのが奴隷部隊である。
「盗賊団はオレ達が潰してやる。返礼としてこの村を駐屯地として使わせろ」
―――端的に言うと、こういうやり取りがあり、盗賊団は哀れ、文字通りにあっさりと叩き潰された。この村も平和が
戻り、奴隷部隊も目出度く駐屯地を手に入れたというわけである。そして。
「―――ええい、騒々しいぞガキ共が!サクリ、妹をいじめるな!エトワール、レイン、犬を拾ってくるなと何度も
言ったろうが!イヴェール、穴ばかり掘るな!そんなところには何も埋まっていない!ヴェスティア、物を壊すな!
何故お前はそう乱暴者なんだ!エル、オレは忙しいんだ!絵本なら後で読んでやる!シャイタン、ライラ、火遊び
は火傷の元だ!焚火をしたらきちんと水をかけろ!クロニカ、そんな物陰でブツブツ囁くな!鬱陶しいわ!なにィ?
ルキアがまた家出しただと!?腹が減ったら戻ってくるから放っておけ!」
奴隷部隊の子供達、さらに何故か村の子供達にも囲まれ、完全に保父さんと化している海馬であった。そんな彼の
耳に、クスクスと笑う声が聴こえた。
「ふ…そうしていると形無しだな、白龍皇帝殿」
「エレフ…貴様、バカにしているのか?」
むっとする海馬を尻目に、エレフは子供達に笑みを向ける。
「アメジストス様だ!」「アメジストス様ー!」
子供達はわらわらとエレフに群がる。海馬ほどではないが、彼も子供達からは慕われているのだ。海馬はフンと鼻を
鳴らし、ふとある事に気付いて傍らでジュラルミンケースを抱えるフラーテルに問う。
「おい…ソロルの姿が見えんが、どうした?」
「はい。あの子は少しやることがあるみたいなので、あっちにいます。呼んできましょうか?」
「構わん。そういうことなら放っておいてやれ」
海馬はそのまま会話を打ち切ろうとしたが、フラーテルが何か言いたげなのを見てとり、また口を開いた。
「どうした。まだ何かあるのか」
「皇帝様やアメジストス様は…もうすぐ、イリオンに攻め込むんですよね?」
「分かりきった事を訊くな。何が言いたい?」
「僕も…連れていってください。ここで待つだけなど、嫌です」
阿呆が、と海馬は吐き捨てる。
「貴様がいても戦力にならん。足手纏いだ」
「確かに、僕は剣も持つことができません…でも、いざとなれば」
皇帝様の楯になる覚悟は、できています。フラーテルは、そう言った。海馬は彼の頭を、軽く小突いた。
「バカめ…貴様に楯になってもらわねばならんほど、オレは弱くはない」
「皇帝様…」
「フラーテル。貴様がすべきは死ぬ覚悟ではない。妹を守るために、泥を啜ってでも生き抜く覚悟だ」
「生き抜く…覚悟」
敬愛する主の言葉を反芻するフラーテルに、海馬は言い放った。
「心配などするな―――オレがお前達に、いい目を見せてやるさ」
海馬は、どこまでも不敵に笑う。そこに。
「皇帝様ー!」
ポテポテと音がしそうな駆け足で、今まで姿が見えなかったソロルがやってくる。腕に何かを大事そうに抱えていた。
「…なんだ、これは?」
「皇帝様に似合うと思って作りました!」
にこにこ笑いながらソロルはそれを海馬に向けて差し出す。よくよく見ると、それは兜である。しかもブルーアイズ
の頭部を模して作られた逸品。子供の手による物とは思えないほどの出来栄えであった。
「どうぞ!」
「…………」
海馬は無言で兜を受け取る。ソロルは顔を紅潮させてはにかみながら、子供達の輪の中に入っていった。
「ちっ…マセガキめ」
「す、すいません!ソロルがまた無礼なことを…」
「フン。まあ、意匠にブルーアイズを選んだセンスだけは褒めてやる」
恐縮するフラーテルをよそに、海馬は仏頂面で兜を被る―――その姿は、実によく似合っていた。
なんというかそう<正義の味方カイバーマン>といったところだ。
(参考画像 ttp://image.www.rakuten.co.jp/tigusaya/img10152851193.jpeg)
「フフ。中々似合っているぞ、海馬」
エレフも含み笑いする。
「可愛らしいし、気立てのいい子じゃないか。あの娘にとってお前はさしずめ、白馬ならざる白龍に乗った王子様と
いうことなのだろう。あまり邪険に扱ってやるな」
「ちっ!オレにペドの趣味などない」
むすっとして腕組みしながらも、海馬は決してその苛立ちが不快ではなかった。
(不快ではない?ふざけるな。こんなおままごとのような馴れ合いなど、オレには虫酸が走るだけだ)
海馬は己の感情を、歯噛みで押し潰した。
(勘違いするな…オレはオレの目的のために、エレフや奴隷共を利用しているにすぎん)
ならば何故。自分は今、エレフにこうして手を貸している?はっきり言ってそれは<現代に帰る>という目的からは
まるでかけ離れている。そうと知りつつ―――何故?
(バカな…)
浮かび上がった答えを、海馬は即座に打ち消した。
(オレには必要ない―――仲間だの友情だの絆だの…そんなものは、一人では何もできぬ負け犬共が勝手にほざいて
いればいいのだ!)
「皇帝様ー。何でそんなに怖い顔してるの?怒ってるの?」
「…フン。怒ってなどいない」
心配げに顔を覗きこんでくる子供に、仏頂面のまま答える。
「よかったー。ねえねえ、またあの<でゅえるもんすたーず>教えてよ!」
「―――ちっ。フラーテル、カードを用意しろ」
「はい!」
いそいそとジュラルミンケースからカードの山を取り出していくフラーテル。わらわら寄ってくる子供を制しながら、
海馬はデッキを組み上げる。子供達はそれを手に取り、早速ゲームを始める。
「バカ者!先攻でいきなり攻撃する奴がいるか!モンスターを召喚できるのは一ターン一回だ!手札から罠カードを
発動するな、ちゃんと場に伏せてから使え!なに、このカードが場に出された時にデッキから一枚カードを引ける?
テキストにそんな効果は書いてなかろうが。自分で勝手にルールを作るんじゃない―――む?誰だ、お前が言うなと
ぬかした奴は!」
やかましく喚きながらも、子供達にゲームのルールを根気強く教えていく海馬。エレフはそんな海馬の姿を、口元に
少しだけ笑みを浮かべて見守っていた―――それはまるで。
どこにでもいる親友同士のようで。どこにでもいる親友同士そのものだった。
(―――下らん。何が親友だ)
回想を終え、海馬はまたも舌打ちする。
(オレはこいつらを利用しているだけだ…エレフとて、それは同じこと)
そこに絆もクソもない。海馬は、そう断じた。エレフはというと、部隊に指示を飛ばしている。
「オルフ!シリウス!お前達は部隊を二つに分けてそれぞれ左右から廻り込め―――挟撃するぞ。そして海馬の合図
と同時に、一気に突撃しろ」
「はっ!しかし、合図というのは…」
「フン。その時が来れば誰でも分かる。その瞬間、間違いなく敵は大混乱に陥るはずだ。そこを狙え」
やけに自信ありげな態度の海馬。オルフとシリウスは不安に思ったが、それをすぐに打ち消した。
(我々は、この御二人に希望と未来を託したのだ…)
ならば、自分達のすべきことは、疑わずに命令を遂行することのみ。
「では、皇帝様と閣下。御二人は…」
「オレ達は二人だけで構わん」
「は?」
一瞬、その意味が分からず、オルフはバカのように口が塞がらなかった。
「二人だけで構わん―――そう言ったのだ」
「し、しかし…」
「くどい。貴様らの中にオレやエレフと同じだけの実力を持つ者がいるのか?そうでなければ、足手纏いでしかない」
「海馬。そこまでにしておけ」
エレフが海馬を諌め、オルフ達に向き直る。
「私と海馬なら心配はいらん…お前達は、お前達の仕事をしろ」
そして、彼らを鼓舞するためか、力強く言い放った。
「我々は死なぬ…お前達も死にはせぬ。皆、生きてまた会おうぞ!」
「―――はっ!」
敬礼しつつ、オルフとシリウスはそれぞれに部隊を率いて進撃する。それを見届けた海馬とエレフは、その場に二人
残された。イリオンの警備兵達は、この場に居残った二人を不審に思っているのか、弓矢による攻撃が止む。それを
気に留める風もなく、海馬は口元を歪めた。
「フン。死なぬなどと、よくも軽々しく言えたものだ。何の保証もあるまい」
「保証なら、あるさ―――私のこの眼が、保証だ」
「何だと?」
意味深な言葉に、海馬は訝しがる。
「確か、初めて会った時に言ったろう?私には見えるんだ…黒い影が。それを背にする者は、近い内に死ぬ」
「逆に言えば、それが見えなければ死なないということか?フン、下らん妄想だ」
海馬は嘲りながらも、エレフに問う。
「で?その戯言が本当だとして、部隊の連中にも見えたのか―――いや、見えないはずがない。誰一人死なないなど
ということはありえん」
「…………見えたさ。その内の何人かは、この戦いで死ぬのだろう」
「クク…それを分かっていて、死地に送り込むか。大した英雄殿だ」
「何とでも、言え」
エレフは海馬の言葉を、切って落とした。
「悪魔と呼ばれようと、鬼と呼ばれようと―――私はあの子を、ミーシャを守ると決めた。ミーシャのために―――
彼女を害す者は全て、この腕で退け、滅ぼしてくれる」
「フン。ならば行くぞ、エレフ―――オレ達は、正面突破だ」
「分かっている」
エレフは、眼前に立ちはだかる城壁を忌々しげに睨み付けた。
「久しいな、イリオンよ…よもや、忘れはしまいな」
蘇る記憶。
建石(いし)を運び、疲れ果て、力尽き、地に伏せる者。医師を呼んでくれと叫びながら、死んでいく者。
遺志を告げて逝く者、告げられた者もすぐさま死んだ。縊死(いし)を遂げ、過酷な現実から冥府へ逃避する者。
「お前を護るその楯が―――誰の血によって築かれたものかをなぁ!」
叫びながら。エレフは真っ向からたった一人で突撃する。降り注ぐ弓矢を、黒き双剣が薙ぎ払う。
「フ…ならばオレ達もいくぞ、ブルーアイズ!」
海馬は三枚の<青眼の白龍>カードをセットする。そして。
「同時に魔法カードを発動する―――<融合>!」
三体のブルーアイズの姿が陽炎のように揺らめき、溶け合う。新たに顕現したのは、三つ首の竜―――
回想を終え、海馬はまたも舌打ちする。
(オレはこいつらを利用しているだけだ…エレフとて、それは同じこと)
そこに絆もクソもない。海馬は、そう断じた。エレフはというと、部隊に指示を飛ばしている。
「オルフ!シリウス!お前達は部隊を二つに分けてそれぞれ左右から廻り込め―――挟撃するぞ。そして海馬の合図
と同時に、一気に突撃しろ」
「はっ!しかし、合図というのは…」
「フン。その時が来れば誰でも分かる。その瞬間、間違いなく敵は大混乱に陥るはずだ。そこを狙え」
やけに自信ありげな態度の海馬。オルフとシリウスは不安に思ったが、それをすぐに打ち消した。
(我々は、この御二人に希望と未来を託したのだ…)
ならば、自分達のすべきことは、疑わずに命令を遂行することのみ。
「では、皇帝様と閣下。御二人は…」
「オレ達は二人だけで構わん」
「は?」
一瞬、その意味が分からず、オルフはバカのように口が塞がらなかった。
「二人だけで構わん―――そう言ったのだ」
「し、しかし…」
「くどい。貴様らの中にオレやエレフと同じだけの実力を持つ者がいるのか?そうでなければ、足手纏いでしかない」
「海馬。そこまでにしておけ」
エレフが海馬を諌め、オルフ達に向き直る。
「私と海馬なら心配はいらん…お前達は、お前達の仕事をしろ」
そして、彼らを鼓舞するためか、力強く言い放った。
「我々は死なぬ…お前達も死にはせぬ。皆、生きてまた会おうぞ!」
「―――はっ!」
敬礼しつつ、オルフとシリウスはそれぞれに部隊を率いて進撃する。それを見届けた海馬とエレフは、その場に二人
残された。イリオンの警備兵達は、この場に居残った二人を不審に思っているのか、弓矢による攻撃が止む。それを
気に留める風もなく、海馬は口元を歪めた。
「フン。死なぬなどと、よくも軽々しく言えたものだ。何の保証もあるまい」
「保証なら、あるさ―――私のこの眼が、保証だ」
「何だと?」
意味深な言葉に、海馬は訝しがる。
「確か、初めて会った時に言ったろう?私には見えるんだ…黒い影が。それを背にする者は、近い内に死ぬ」
「逆に言えば、それが見えなければ死なないということか?フン、下らん妄想だ」
海馬は嘲りながらも、エレフに問う。
「で?その戯言が本当だとして、部隊の連中にも見えたのか―――いや、見えないはずがない。誰一人死なないなど
ということはありえん」
「…………見えたさ。その内の何人かは、この戦いで死ぬのだろう」
「クク…それを分かっていて、死地に送り込むか。大した英雄殿だ」
「何とでも、言え」
エレフは海馬の言葉を、切って落とした。
「悪魔と呼ばれようと、鬼と呼ばれようと―――私はあの子を、ミーシャを守ると決めた。ミーシャのために―――
彼女を害す者は全て、この腕で退け、滅ぼしてくれる」
「フン。ならば行くぞ、エレフ―――オレ達は、正面突破だ」
「分かっている」
エレフは、眼前に立ちはだかる城壁を忌々しげに睨み付けた。
「久しいな、イリオンよ…よもや、忘れはしまいな」
蘇る記憶。
建石(いし)を運び、疲れ果て、力尽き、地に伏せる者。医師を呼んでくれと叫びながら、死んでいく者。
遺志を告げて逝く者、告げられた者もすぐさま死んだ。縊死(いし)を遂げ、過酷な現実から冥府へ逃避する者。
「お前を護るその楯が―――誰の血によって築かれたものかをなぁ!」
叫びながら。エレフは真っ向からたった一人で突撃する。降り注ぐ弓矢を、黒き双剣が薙ぎ払う。
「フ…ならばオレ達もいくぞ、ブルーアイズ!」
海馬は三枚の<青眼の白龍>カードをセットする。そして。
「同時に魔法カードを発動する―――<融合>!」
三体のブルーアイズの姿が陽炎のように揺らめき、溶け合う。新たに顕現したのは、三つ首の竜―――
「ブルーアイズ三体融合!<青眼究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)>!」
三つの首が咆哮し、天地が怯え震えるかのように鳴動する。
「強靭×3!無敵×3!!最強×3!!!これぞ我が究極の殺戮モンスターの姿だ!ワハハハハハ!」
海馬は高笑いを響かせながら、中央の頭の上に飛び乗った。
「ゆけ、究極のブルーアイズよ―――<アルティメット・バースト>!」
破壊と暴虐を撒き散らす究極竜の閃光が今、解き放たれた―――
「強靭×3!無敵×3!!最強×3!!!これぞ我が究極の殺戮モンスターの姿だ!ワハハハハハ!」
海馬は高笑いを響かせながら、中央の頭の上に飛び乗った。
「ゆけ、究極のブルーアイズよ―――<アルティメット・バースト>!」
破壊と暴虐を撒き散らす究極竜の閃光が今、解き放たれた―――
風神の加護篤き、世界最強と謳われた城壁。永き時をかけて築かれた、難攻不落の城壁。
それすらも絶対なる暴力の前には、かくも無力。
風の都・イリオンの誇る城壁は、一瞬にして灰塵と瓦礫の山と化した―――!
それすらも絶対なる暴力の前には、かくも無力。
風の都・イリオンの誇る城壁は、一瞬にして灰塵と瓦礫の山と化した―――!
畏れよ、汝、悪の名を―――畏れよ、汝、神の仔等よ―――
それは<白龍皇帝>―――そして<紫眼の狼>―――
それは<白龍皇帝>―――そして<紫眼の狼>―――