「フン…中々面白いことになったな」
「面白い、だと?何がだよ、テメエ!」
まるで視線で殺そうとでもいうような鋭い眼光で、オリオンが海馬を睨む。対して海馬は。
「決まっているだろう。そこでグズグズと泣いている女がだ。何もせずに泣いてばかり…悲劇のヒロイン気取りで、
実に楽しいことだろうな」
海馬は冷たく言い放ち、ミーシャを見据える。その冷徹な光に、ミーシャは思わず視線を逸らした。
「…オレを睨み返すことすらできんか。奴と…エレフと同じ紫の瞳でありながら、こうも違うとは。片や猛々しく
吠える狼、片や怯え震える仔ネズミか…フン、実に面白い」
「よせ、海馬!」
闇遊戯がミーシャを庇い、海馬の眼前に立つ。
「彼女がどれだけ傷ついているか、いくらお前でもまるで分からないわけじゃないだろう!その傷に塩を塗り込む
ような真似はやめろ!」
「クク…甘いぞ、遊戯。オレに言わせればこの女は、闘いすらしない負け犬以下にすぎん―――そう、闘いを放棄
した者は、負け犬と呼ばれる資格すらないのだ。貴様がそんな情けない体たらくだからこそ、エレフもあそこまで
思いつめた行動に出てしまったのではないか?」
ミーシャの身体は、震えていた。海馬はそれに、同情すら見せない。
「エレフは少なくとも、なりふり構わずに貴様を守ろうとしている…それに対して貴様はなんだ?何もせずにそう
して女々しく泣くだけか?本当にエレフに傍にいてほしいというなら、やり方などいくらでもあった。例えば…」
海馬は兵士が投げ捨てていった剣を持ち上げた。
「止まらなければ、これで自害する―――そう言って、本気だということを示すため指の一本か二本でも落として
みせれば、奴も流石に思い止まったろう。どうだ、簡単なことではないか」
あまりといえばあまりな暴論に、全員が唖然とした。海馬はそれにも構わず続ける。
「その程度のことすらこの女はできん。そもそもこいつは、あの蠍頭に対してロクロク抵抗もせずに死のうとした
ではないか。その結果、エレフの心にどれだけの傷をつけることになるかなど、考えもせずにな。所詮その程度と
いうことだ。こいつの兄への想いなどはな」
「海馬、テメエ…!」
城之内が、海馬に掴みかかった。
「ミーシャがどれだけ辛い思いで生贄になろうとしたのか、分かりもしねえくせに勝手なことばかり言ってんじゃ
ねえ!あの連中は、ミーシャが生贄にならなきゃ、島のみんなを殺すつもりだった!だからミーシャは―――」
「それがどうした?本当に欲しいモノがあるのならば、他の全てを犠牲にしてでも手にすべきだ。オレが同じ立場
なら―――島の連中なんぞ、皆殺しにされたとしても、まるで心は痛まないね」
まるで温度を感じさせない言葉に、その場の全員が凍りつく。
「狂ってる…お前、狂ってるぞ!どうかしてやがる―――なんでそんな考え方ができるんだよ!?」
オリオンが堪らなくなったかのように叫んだが、海馬は欠片ほどの痛痒も感じていないようだった。
「フ…貴様も凡骨や仔ネズミと同じ甘ったれか。オレに言わせれば、貴様らの方がズレているのだ。生きることは
即ち闘争―――それを放棄した仔ネズミなど、捨て置けばよかったものを。負け犬以下の存在にかける情けほど
無駄なモノはない。クク…思えばエレフも哀れなことだ。こんな女のために人生の大半をかけていたのだからな」
海馬は闇遊戯達に背を向け、エレフに倣うように歩き出す。
「オレは奴と共に行くとしよう。その方がいくらか建設的だ。貴様らと無駄に馴れ合っていても暇潰しにもならん。
貴様らは精々そこの仔ネズミをお得意の友情ごっこで甘やかしてやるがいい。ではさらばだ遊戯。ついでに凡骨に
軽薄に仔ネズミよ!古代妄想ツアーは貴様らだけで楽しめ!ワハハハハ!」
「海馬…!」
闇遊戯が、去っていく海馬の背に向けて叫ぶ。
「貴様もエレフも間違っている!お前達は無駄に血を流そうとしているだけだ!」
「血を流しもせずに手に入るものなどない―――立ちはだかる敵を打ち倒してこそ、道は開かれるのだ!敵は全て
殺す―――それで一時安心だ。されど味方もまた敵となる、だから先手を打って殺す。それでも敵はなくならない。
ならば怯えながら暮らすか?否!それでもなお闘争し、勝利する―――それが唯一、幸福を掴む道だ!」
「間違ってる…!そんな論理は間違っているぜ、海馬!」
「フ―――ならばオレを力で捻じ伏せるがいい!次にオレ達が交わる場所…そこがどこであろうとも、その時こそ
貴様と真に雌雄を決することとなるだろう!」
海馬は振り向き、不敵に笑う。
「そんな甘い心構えで、果たして貴様はそこに辿り着けるか―――遊戯!」
「辿り着くさ…そして海馬!お前を倒し、エレフを止める!」
しばし、二人は睨み合う。そして、海馬はもはや何も語ることなく姿を消した。その背に寄り添う白龍と共に。
「クソッ…言いたいことだけ言いやがって!」
「あの野郎…今度会ったらそのキレイな顔を吹っ飛ばしてやる!」
城之内とオリオンは、怒りを抑えきれない様子で悪態を吐く。そしてミーシャは、何かが抜け落ちてしまったかの
ように、虚ろな目をしていた。
「…私の、せい…?私が弱いから…エレフは、あんな…?」
オリオンはそれに気付き、言葉をなくした。慌ててミーシャに駆け寄り、その肩を揺らす。
「おい、ミーシャ!何言ってるんだ?あんな奴の戯言なんか、気にするんじゃねえ!」
だがその言葉は、ミーシャの耳には入っていないようだった。
「エレフ…何故…」
ミーシャは大きく見開いた目から大粒の涙を零しながら、絞り出すような声で叫んだ。
「何故なの…何故なのよぉ~~~っ!!!」
「ミーシャ…!泣くな、泣かないでくれよ、くそっ…!」
オリオンは悲痛な顔で呟く。彼の目からも涙が溢れ、頬を濡らしていく。互いの痛みを分け合うように、ミーシャ
の華奢な身体を強く抱きしめた。それでも、涙は尽きることなく流れていく。
「チクショウ…バカ野郎共が…」
城之内は身体と心、両方の痛みに耐えかねたかのように力なく地に膝を着いた。
(何で…こんなことになっちゃうんだろう…)
(相棒…)
(ボク達は…どうすればいいんだろう…ねえ、もう一人のボク…)
(…………)
答えられない。闇遊戯とて、心も身体も疲れ切っていた。今はもう、地面に倒れ込んで、眠ってしまいたかった。
―――その夜は、それぞれの心に深い傷を残すこととなった。
「面白い、だと?何がだよ、テメエ!」
まるで視線で殺そうとでもいうような鋭い眼光で、オリオンが海馬を睨む。対して海馬は。
「決まっているだろう。そこでグズグズと泣いている女がだ。何もせずに泣いてばかり…悲劇のヒロイン気取りで、
実に楽しいことだろうな」
海馬は冷たく言い放ち、ミーシャを見据える。その冷徹な光に、ミーシャは思わず視線を逸らした。
「…オレを睨み返すことすらできんか。奴と…エレフと同じ紫の瞳でありながら、こうも違うとは。片や猛々しく
吠える狼、片や怯え震える仔ネズミか…フン、実に面白い」
「よせ、海馬!」
闇遊戯がミーシャを庇い、海馬の眼前に立つ。
「彼女がどれだけ傷ついているか、いくらお前でもまるで分からないわけじゃないだろう!その傷に塩を塗り込む
ような真似はやめろ!」
「クク…甘いぞ、遊戯。オレに言わせればこの女は、闘いすらしない負け犬以下にすぎん―――そう、闘いを放棄
した者は、負け犬と呼ばれる資格すらないのだ。貴様がそんな情けない体たらくだからこそ、エレフもあそこまで
思いつめた行動に出てしまったのではないか?」
ミーシャの身体は、震えていた。海馬はそれに、同情すら見せない。
「エレフは少なくとも、なりふり構わずに貴様を守ろうとしている…それに対して貴様はなんだ?何もせずにそう
して女々しく泣くだけか?本当にエレフに傍にいてほしいというなら、やり方などいくらでもあった。例えば…」
海馬は兵士が投げ捨てていった剣を持ち上げた。
「止まらなければ、これで自害する―――そう言って、本気だということを示すため指の一本か二本でも落として
みせれば、奴も流石に思い止まったろう。どうだ、簡単なことではないか」
あまりといえばあまりな暴論に、全員が唖然とした。海馬はそれにも構わず続ける。
「その程度のことすらこの女はできん。そもそもこいつは、あの蠍頭に対してロクロク抵抗もせずに死のうとした
ではないか。その結果、エレフの心にどれだけの傷をつけることになるかなど、考えもせずにな。所詮その程度と
いうことだ。こいつの兄への想いなどはな」
「海馬、テメエ…!」
城之内が、海馬に掴みかかった。
「ミーシャがどれだけ辛い思いで生贄になろうとしたのか、分かりもしねえくせに勝手なことばかり言ってんじゃ
ねえ!あの連中は、ミーシャが生贄にならなきゃ、島のみんなを殺すつもりだった!だからミーシャは―――」
「それがどうした?本当に欲しいモノがあるのならば、他の全てを犠牲にしてでも手にすべきだ。オレが同じ立場
なら―――島の連中なんぞ、皆殺しにされたとしても、まるで心は痛まないね」
まるで温度を感じさせない言葉に、その場の全員が凍りつく。
「狂ってる…お前、狂ってるぞ!どうかしてやがる―――なんでそんな考え方ができるんだよ!?」
オリオンが堪らなくなったかのように叫んだが、海馬は欠片ほどの痛痒も感じていないようだった。
「フ…貴様も凡骨や仔ネズミと同じ甘ったれか。オレに言わせれば、貴様らの方がズレているのだ。生きることは
即ち闘争―――それを放棄した仔ネズミなど、捨て置けばよかったものを。負け犬以下の存在にかける情けほど
無駄なモノはない。クク…思えばエレフも哀れなことだ。こんな女のために人生の大半をかけていたのだからな」
海馬は闇遊戯達に背を向け、エレフに倣うように歩き出す。
「オレは奴と共に行くとしよう。その方がいくらか建設的だ。貴様らと無駄に馴れ合っていても暇潰しにもならん。
貴様らは精々そこの仔ネズミをお得意の友情ごっこで甘やかしてやるがいい。ではさらばだ遊戯。ついでに凡骨に
軽薄に仔ネズミよ!古代妄想ツアーは貴様らだけで楽しめ!ワハハハハ!」
「海馬…!」
闇遊戯が、去っていく海馬の背に向けて叫ぶ。
「貴様もエレフも間違っている!お前達は無駄に血を流そうとしているだけだ!」
「血を流しもせずに手に入るものなどない―――立ちはだかる敵を打ち倒してこそ、道は開かれるのだ!敵は全て
殺す―――それで一時安心だ。されど味方もまた敵となる、だから先手を打って殺す。それでも敵はなくならない。
ならば怯えながら暮らすか?否!それでもなお闘争し、勝利する―――それが唯一、幸福を掴む道だ!」
「間違ってる…!そんな論理は間違っているぜ、海馬!」
「フ―――ならばオレを力で捻じ伏せるがいい!次にオレ達が交わる場所…そこがどこであろうとも、その時こそ
貴様と真に雌雄を決することとなるだろう!」
海馬は振り向き、不敵に笑う。
「そんな甘い心構えで、果たして貴様はそこに辿り着けるか―――遊戯!」
「辿り着くさ…そして海馬!お前を倒し、エレフを止める!」
しばし、二人は睨み合う。そして、海馬はもはや何も語ることなく姿を消した。その背に寄り添う白龍と共に。
「クソッ…言いたいことだけ言いやがって!」
「あの野郎…今度会ったらそのキレイな顔を吹っ飛ばしてやる!」
城之内とオリオンは、怒りを抑えきれない様子で悪態を吐く。そしてミーシャは、何かが抜け落ちてしまったかの
ように、虚ろな目をしていた。
「…私の、せい…?私が弱いから…エレフは、あんな…?」
オリオンはそれに気付き、言葉をなくした。慌ててミーシャに駆け寄り、その肩を揺らす。
「おい、ミーシャ!何言ってるんだ?あんな奴の戯言なんか、気にするんじゃねえ!」
だがその言葉は、ミーシャの耳には入っていないようだった。
「エレフ…何故…」
ミーシャは大きく見開いた目から大粒の涙を零しながら、絞り出すような声で叫んだ。
「何故なの…何故なのよぉ~~~っ!!!」
「ミーシャ…!泣くな、泣かないでくれよ、くそっ…!」
オリオンは悲痛な顔で呟く。彼の目からも涙が溢れ、頬を濡らしていく。互いの痛みを分け合うように、ミーシャ
の華奢な身体を強く抱きしめた。それでも、涙は尽きることなく流れていく。
「チクショウ…バカ野郎共が…」
城之内は身体と心、両方の痛みに耐えかねたかのように力なく地に膝を着いた。
(何で…こんなことになっちゃうんだろう…)
(相棒…)
(ボク達は…どうすればいいんだろう…ねえ、もう一人のボク…)
(…………)
答えられない。闇遊戯とて、心も身体も疲れ切っていた。今はもう、地面に倒れ込んで、眠ってしまいたかった。
―――その夜は、それぞれの心に深い傷を残すこととなった。
「―――海馬か。何をしに来た?」
「フン。勘違いするな…貴様に手を貸すわけではない。オレにもオレの目的がある。そのための障害になりそうな
連中はあらかじめ排除しておいた方が面倒がなくていい。しばらくは貴様と同じ道を歩けば、嫌でもそういった輩
と顔を合わせることになるだろうからな」
つい先程、目の前の男の妹に対して散々に罵詈雑言を浴びせたというのに悪びれることもなく、また愛想の欠片
もなく、海馬は答えた。エレフは彼の真意を測りかねているようだったが、追い返すこともしなかった。
「海馬…貴様もまた、気紛れな運命(かみ)に牙を剥くか」
「フ…それもよかろう。オレの道に立ちはだかるなら―――例え神でも、踏み砕くのみ!神が運命を紡ぐのでは
ない!オレの踏み印した栄光のロード…それを後世の歴史家達は運命と呼ぶことだろう!」
「威勢がいいのは結構だ。しかし、二人ではできることにも自ずと限界があろう」
「バカめ。オレは一人でも全世界を相手に勝利する自信があるわ!ワハハハハ!」
エレフは突っ込まなかった。というか、コイツに何を言っても無駄だと、今さらながらに理解しただけである。
「それならそれでいいが、人手があって困ることもないだろう。ひとまず手足となって働く者たちを集めるぞ」
そして、どこか遠くを見るように、天を仰ぐ。
「その後は難攻不落の城壁と、風神によりて護られし風の都―――イリオンへ」
「イリオンか…確か貴様とあの軽薄が奴隷として働かされていた場所だったな」
「そうだ。今あの都は、東方からの異民族・バルバロイに対する前線基地となっているからな。そこを落とすこと
ができればアルカディア軍を誘き寄せることも容易かろう。そこでアルカディアを叩くのだ」
「フン。それならわざわざ人など集めずとも、オレのブルーアイズが全て粉砕してくれるわ!」
「…………」
エレフは、今からでもこの男とは縁を切って、ミーシャ達のところに戻ってしまおうかと、割と本気で思った。
「フン。勘違いするな…貴様に手を貸すわけではない。オレにもオレの目的がある。そのための障害になりそうな
連中はあらかじめ排除しておいた方が面倒がなくていい。しばらくは貴様と同じ道を歩けば、嫌でもそういった輩
と顔を合わせることになるだろうからな」
つい先程、目の前の男の妹に対して散々に罵詈雑言を浴びせたというのに悪びれることもなく、また愛想の欠片
もなく、海馬は答えた。エレフは彼の真意を測りかねているようだったが、追い返すこともしなかった。
「海馬…貴様もまた、気紛れな運命(かみ)に牙を剥くか」
「フ…それもよかろう。オレの道に立ちはだかるなら―――例え神でも、踏み砕くのみ!神が運命を紡ぐのでは
ない!オレの踏み印した栄光のロード…それを後世の歴史家達は運命と呼ぶことだろう!」
「威勢がいいのは結構だ。しかし、二人ではできることにも自ずと限界があろう」
「バカめ。オレは一人でも全世界を相手に勝利する自信があるわ!ワハハハハ!」
エレフは突っ込まなかった。というか、コイツに何を言っても無駄だと、今さらながらに理解しただけである。
「それならそれでいいが、人手があって困ることもないだろう。ひとまず手足となって働く者たちを集めるぞ」
そして、どこか遠くを見るように、天を仰ぐ。
「その後は難攻不落の城壁と、風神によりて護られし風の都―――イリオンへ」
「イリオンか…確か貴様とあの軽薄が奴隷として働かされていた場所だったな」
「そうだ。今あの都は、東方からの異民族・バルバロイに対する前線基地となっているからな。そこを落とすこと
ができればアルカディア軍を誘き寄せることも容易かろう。そこでアルカディアを叩くのだ」
「フン。それならわざわざ人など集めずとも、オレのブルーアイズが全て粉砕してくれるわ!」
「…………」
エレフは、今からでもこの男とは縁を切って、ミーシャ達のところに戻ってしまおうかと、割と本気で思った。
海馬瀬人。そして、エレウセウス。
彼らがそれぞれ<白龍皇帝(ドラグナー)><紫眼の狼(アメジストス)>を名乗り、この世界に混乱をもたらす
その時は、そう遠くはない未来である―――
彼らがそれぞれ<白龍皇帝(ドラグナー)><紫眼の狼(アメジストス)>を名乗り、この世界に混乱をもたらす
その時は、そう遠くはない未来である―――
―――月光が照らす浜辺を、ボロクズと化した人影がふらふらと歩いていた。
「くくくくくくく…はははははははは…」
スコルピオス。炎で焼かれ、雷に撃たれ、白龍の吐息を浴び、なお彼は生きていた。
「はははははははははは!」
夜空に向かって哄笑する。その目には、狂気にも似た色が浮かんでいた。
「くく…神…神…くく…もういい…もうそんなものに頼らん…そんなものがなくとも…もっと手っ取り早い方法が
あったじゃあないか…」
よろめく足取りで、蠍はどこへ向かうのか―――
エレフが見れば、気付いただろう。彼の背後に付き纏う、黒き死の影が。
―――彼がこの神話の舞台から退場するまでの、あと僅かな時。
蠍は傀儡の王を葬り、そして雷の獅子は蠍を屠る。
「くくくくくくく…はははははははは…」
スコルピオス。炎で焼かれ、雷に撃たれ、白龍の吐息を浴び、なお彼は生きていた。
「はははははははははは!」
夜空に向かって哄笑する。その目には、狂気にも似た色が浮かんでいた。
「くく…神…神…くく…もういい…もうそんなものに頼らん…そんなものがなくとも…もっと手っ取り早い方法が
あったじゃあないか…」
よろめく足取りで、蠍はどこへ向かうのか―――
エレフが見れば、気付いただろう。彼の背後に付き纏う、黒き死の影が。
―――彼がこの神話の舞台から退場するまでの、あと僅かな時。
蠍は傀儡の王を葬り、そして雷の獅子は蠍を屠る。
長き夜が終わり。悲しみと痛みを抱えながらも、朝はまた巡り来る…。