部屋の照明を落とした訳でもないのに部屋の中がひどく陰鬱な影に包まれていく。
それはキャラハンにまで及び、彼の顔に刻まれた皺の陰影をより濃いものにした。
酒に蝕まれた自身の健康状態を語る時にも、他の多次元並行世界の様子を語る時にも、
決してこんな表情は見せなかったのに。
それはキャラハンにまで及び、彼の顔に刻まれた皺の陰影をより濃いものにした。
酒に蝕まれた自身の健康状態を語る時にも、他の多次元並行世界の様子を語る時にも、
決してこんな表情は見せなかったのに。
「名は“柴田瑠架”と“武藤まひろ”。二人は友人同士で、大の仲良しだった」
シエルはすぐさま“武藤”という姓に引っかかるものを覚えた。
先程まで散々口にした、自分を大いに悩ませる疑問の中心人物と同じ姓。
だが、キャラハンは彼女に口を差し挟む余地を与えず、話を続ける。
先程まで散々口にした、自分を大いに悩ませる疑問の中心人物と同じ姓。
だが、キャラハンは彼女に口を差し挟む余地を与えず、話を続ける。
「発端はほんの些細な出来事に過ぎなかった。誰の青春時代にもありがちな友情ごっこの果ての、
ほんの些細な出来事さ。しかし、それをきっかけに彼女らは吸血鬼(ヴァンパイア)に“変えられて”しまったんだ」
ほんの些細な出来事さ。しかし、それをきっかけに彼女らは吸血鬼(ヴァンパイア)に“変えられて”しまったんだ」
「一人は嬉々として喰らった。喰らい尽くした。親も、友も、誰も、彼も。彼女は己の心の穴を、
それを開けた連中の血で塞ごうとした。終いの果てには人間だろうと吸血鬼だろうと見境無しに
牙を向ける始末だった」
それを開けた連中の血で塞ごうとした。終いの果てには人間だろうと吸血鬼だろうと見境無しに
牙を向ける始末だった」
「もう一人は孤独と絶望に苛まれ、闇に潜んだ。やがて彼女は寂しさ故にささやかな繋がりを求めた。
たった一人でもいい。友を、仲間を、家族を、同族を。だが結果は同じだ。死者は際限無く死者を
生むだけだった」
たった一人でもいい。友を、仲間を、家族を、同族を。だが結果は同じだ。死者は際限無く死者を
生むだけだった」
「後に残ったのは、燎原の炎の如く日本全土に広がった“生ける死者(リビングデッド)”と“不死者(アンデッド)”の
群れだけ……」
群れだけ……」
そこまで言うとキャラハンは再びバーボンをグラスに注ぎ、まるで追い立てられるようにグビリと呷った。
一方のシエルは“最悪中の最悪”な展開(ルート)に驚愕のあまり目を見開き、言葉を失ったままでいる。
しばしの沈黙を経て、キャラハンはこの忌まわしき展開に相応しい結末を以って、物語を締め括った。
一方のシエルは“最悪中の最悪”な展開(ルート)に驚愕のあまり目を見開き、言葉を失ったままでいる。
しばしの沈黙を経て、キャラハンはこの忌まわしき展開に相応しい結末を以って、物語を締め括った。
「そして、無尽蔵に増えていく化物共の中でも、比較的“強靭”で“狡猾”な連中は国外へと
脱出しようとする人間の船や飛行機に潜んだ。奴らは流水を渡る苦痛に耐え抜き、乗客や乗組員を
吸血鬼や喰屍鬼(グール)に変えながら、次々とあらゆる国へ“輸出”されていった。アジア、ヨーロッパ、
アメリカと…… あとは言わなくてもわかるだろう? “死”が緩やかに世界を侵蝕し始めたのさ」
脱出しようとする人間の船や飛行機に潜んだ。奴らは流水を渡る苦痛に耐え抜き、乗客や乗組員を
吸血鬼や喰屍鬼(グール)に変えながら、次々とあらゆる国へ“輸出”されていった。アジア、ヨーロッパ、
アメリカと…… あとは言わなくてもわかるだろう? “死”が緩やかに世界を侵蝕し始めたのさ」
「そ、そんな…… ありえません……!」
否定したくもなる。
いくらヴァチカンの介入が極端に少ない日本だからとはいえ、たった二人の吸血鬼のせいで一国が滅び、
世界中にまで被害が拡大するなんて。
つい先程キャラハンが挙げた死徒二十七祖でさえ、そこまでの猛威を振るわなかったし、振るえなかった。
シエルは彼が視た展開を信用出来なかった。彼の世界視に懐疑的にならざるを得なかった。
否、もっと正しく言うのであれば“懐疑的になりたかった”。嘘であって欲しかったのだ。
それに対し、キャラハンは出来の悪い生徒を前にした教師さながらに彼女を教え諭す。
「ありえない? 視点がずれていないかね、シエル。二人の少女を吸血鬼に変え、日本を死都(ミディアン)と化す
後押しをした連中が何者か、私達ならばすぐにわかる筈だよ?」
眉根を固く寄せて、きつく眼を瞑るシエル。
キャラハンの言葉は、彼が言ったもうひとつの言葉を思い起こさせる。
いくらヴァチカンの介入が極端に少ない日本だからとはいえ、たった二人の吸血鬼のせいで一国が滅び、
世界中にまで被害が拡大するなんて。
つい先程キャラハンが挙げた死徒二十七祖でさえ、そこまでの猛威を振るわなかったし、振るえなかった。
シエルは彼が視た展開を信用出来なかった。彼の世界視に懐疑的にならざるを得なかった。
否、もっと正しく言うのであれば“懐疑的になりたかった”。嘘であって欲しかったのだ。
それに対し、キャラハンは出来の悪い生徒を前にした教師さながらに彼女を教え諭す。
「ありえない? 視点がずれていないかね、シエル。二人の少女を吸血鬼に変え、日本を死都(ミディアン)と化す
後押しをした連中が何者か、私達ならばすぐにわかる筈だよ?」
眉根を固く寄せて、きつく眼を瞑るシエル。
キャラハンの言葉は、彼が言ったもうひとつの言葉を思い起こさせる。
『君は答えを聞きにここへ来たのではない。もうとっくに答えを知っている。君がここへ来たのは、
その答えが何なのか“理解”する為なんだよ』
その答えが何なのか“理解”する為なんだよ』
今なら理解出来そうな気がする。その言葉の意味も、“答え”の意味も。
始まりは二人の少女。そう、あくまで“始まり”に過ぎない。
ゼロにどんなに大きな数を掛けたとしても、それはゼロでしかない。
逆に、元の数がどんなに巨大だろうとゼロを掛けてしまえばゼロに還ってしまう。
二人の少女という数に、どんな数が掛けられた? 何が掛けられた? “誰”が掛けられた?
頭には一人の憎き吸血鬼の姿が強烈に浮かび、続けて“感染爆発(パンデミック)”という単語が浮かぶ。
“自国を知り尽くした者達”と手を組んだ“大病原菌”。
眼を閉じて俯いたまま、シエルは微かな声で呟く。
「ジェイブリードと日本の吸血鬼……」
「ご名答(ビンゴ)。加えて言うならば、武藤まひろは武藤カズキの“妹”だ」
キャラハンはそれっきり口を閉じると、またもやジム・ビームの瓶を傾け、グラスを片手にソファの
背もたれに大きく寄りかかった。
まるで自分が話すべき事はすべて話したとでもいいたげだ。その悠然たる所作が物語っている。
呼応するように、シエルはかつ然と眼を開けた。
始まりは二人の少女。そう、あくまで“始まり”に過ぎない。
ゼロにどんなに大きな数を掛けたとしても、それはゼロでしかない。
逆に、元の数がどんなに巨大だろうとゼロを掛けてしまえばゼロに還ってしまう。
二人の少女という数に、どんな数が掛けられた? 何が掛けられた? “誰”が掛けられた?
頭には一人の憎き吸血鬼の姿が強烈に浮かび、続けて“感染爆発(パンデミック)”という単語が浮かぶ。
“自国を知り尽くした者達”と手を組んだ“大病原菌”。
眼を閉じて俯いたまま、シエルは微かな声で呟く。
「ジェイブリードと日本の吸血鬼……」
「ご名答(ビンゴ)。加えて言うならば、武藤まひろは武藤カズキの“妹”だ」
キャラハンはそれっきり口を閉じると、またもやジム・ビームの瓶を傾け、グラスを片手にソファの
背もたれに大きく寄りかかった。
まるで自分が話すべき事はすべて話したとでもいいたげだ。その悠然たる所作が物語っている。
呼応するように、シエルはかつ然と眼を開けた。
“すべてが繋がった”
キャラハンの言う通りだった。自分はやはり答えを知っていた。それどころか、シエルそのものが答えを
体現していたと言っても良い。
今この瞬間にも現在進行形で進んでいる我々の世界の展開がまさに答えなのだ。
ジェイブリード再討伐の任務を受け取った事。疑問と苦悩のままにキャラハンを訪ねた事。
シエルの行動はどれもこれも展開の一部であると同時に、それを覆す為のマスタープランの一部だった。
体現していたと言っても良い。
今この瞬間にも現在進行形で進んでいる我々の世界の展開がまさに答えなのだ。
ジェイブリード再討伐の任務を受け取った事。疑問と苦悩のままにキャラハンを訪ねた事。
シエルの行動はどれもこれも展開の一部であると同時に、それを覆す為のマスタープランの一部だった。
何故、キャプテン・ブラボーは生かされたのか。何故、武藤カズキは戦士にならなければならなかったのか。
自分は何をすればいいのか。キャラハンは何をしたのか。“この世界”に何が起こっているのか。
もう考える必要も悩む必要も無い。自分の成すべき任務を成せばそれでいい。
最悪の展開を回避する為のお膳立てならキャラハンが七年前に済ませてくれているのだから。
異国の吸血鬼同士が手を組んだように、今度ばかりはあの錬金戦団と手を組まなければならないのかもしれない。
シエルは弾かれたように立ち上がると、一転の曇りも無い瞳でキャラハンを見つめながら言い放った。
自分は何をすればいいのか。キャラハンは何をしたのか。“この世界”に何が起こっているのか。
もう考える必要も悩む必要も無い。自分の成すべき任務を成せばそれでいい。
最悪の展開を回避する為のお膳立てならキャラハンが七年前に済ませてくれているのだから。
異国の吸血鬼同士が手を組んだように、今度ばかりはあの錬金戦団と手を組まなければならないのかもしれない。
シエルは弾かれたように立ち上がると、一転の曇りも無い瞳でキャラハンを見つめながら言い放った。
「日本へ征きます。今すぐに」
ようやく、すべてを“理解”したシエルを前にして、キャラハンは満足げに相好を崩している。
彼は笑顔のまま懐をゴソゴソと探ると、一冊の古く分厚い手帳を取り出し、テーブルに置いた。
「ああ、すぐに発った方がいい。詳しい事はこの手帳に書いてある。登場頻度の高い人物(キャラクター)も
発生確率の高い出来事(イベント)も、思い出せる限りのすべてをね」
「ありがとうございます……!」
シエルは手帳を受け取ると、嬉しそうに両腕で胸に抱いた。彼女にしては珍しい子供っぽさだ。
しかし、すぐに背すじは伸び、表情は真剣なものとなる。眼には哀願の色が見え隠れしていたが。
「あ、あの、キャラハン神父…… あなたも……――」
「すまないがそれだけはお断りさせてもらうよ。こんな病人がパートナーでは君の仕事が増えるだけだ」
取りつく島もない。予想していたとはいえ、シエルは落胆せずにはいられなかった。
そんな彼女を尻目に、キャラハンはまたもやジム・ビームのボトルを手に取る。しかも随分と乱暴な動作で。
「それに…… 私は第13課(イスカリオテ)を捨て、教皇庁(ヴァチカン)を捨てた身だ。出来るならば、このつまらない
田舎町で何事も無く一生を終えたいんだよ。なるべく早く……」
またも酔いを発しているのか、正常な筈の左手がカタカタと震え、安酒はグラスの周りに撒き散らされていく。
その様子を見ていたシエルは静かにソファから立ち上がると、キャラハンに近づき、傍らで跪いた。
そして、ボトルを握る手をそっと優しく押さえる。
ボトルはそのままテーブルに置かれ、キャラハンの左手はシエルの温かい両の掌に包まれていた。
シエルは顔を伏せて己の両手に包まれた彼の左手を見つめながら言った。
彼は笑顔のまま懐をゴソゴソと探ると、一冊の古く分厚い手帳を取り出し、テーブルに置いた。
「ああ、すぐに発った方がいい。詳しい事はこの手帳に書いてある。登場頻度の高い人物(キャラクター)も
発生確率の高い出来事(イベント)も、思い出せる限りのすべてをね」
「ありがとうございます……!」
シエルは手帳を受け取ると、嬉しそうに両腕で胸に抱いた。彼女にしては珍しい子供っぽさだ。
しかし、すぐに背すじは伸び、表情は真剣なものとなる。眼には哀願の色が見え隠れしていたが。
「あ、あの、キャラハン神父…… あなたも……――」
「すまないがそれだけはお断りさせてもらうよ。こんな病人がパートナーでは君の仕事が増えるだけだ」
取りつく島もない。予想していたとはいえ、シエルは落胆せずにはいられなかった。
そんな彼女を尻目に、キャラハンはまたもやジム・ビームのボトルを手に取る。しかも随分と乱暴な動作で。
「それに…… 私は第13課(イスカリオテ)を捨て、教皇庁(ヴァチカン)を捨てた身だ。出来るならば、このつまらない
田舎町で何事も無く一生を終えたいんだよ。なるべく早く……」
またも酔いを発しているのか、正常な筈の左手がカタカタと震え、安酒はグラスの周りに撒き散らされていく。
その様子を見ていたシエルは静かにソファから立ち上がると、キャラハンに近づき、傍らで跪いた。
そして、ボトルを握る手をそっと優しく押さえる。
ボトルはそのままテーブルに置かれ、キャラハンの左手はシエルの温かい両の掌に包まれていた。
シエルは顔を伏せて己の両手に包まれた彼の左手を見つめながら言った。
「でも、“信仰”は捨ててない。そうでしょう?」
キャラハンは打たれたようにハッと顔をシエルの方に向け、彼女の前髪辺りに眼を遣る。
顔は見えない。それでいい。今、この子の顔を見たら――
彼の心の叫びが届いているのか、顔は伏せられたままで声だけが続く。
「この素晴らしい教会を見ればわかります。いつでも神への祈りを絶やさず、死者の魂に安らぎを与え、
町を化物共の手から守っている……――きっと、町の皆さんもあなたを信頼しているのでしょうね」
手は握り締めたまま、シエルが顔を上げた。
顔は見えない。それでいい。今、この子の顔を見たら――
彼の心の叫びが届いているのか、顔は伏せられたままで声だけが続く。
「この素晴らしい教会を見ればわかります。いつでも神への祈りを絶やさず、死者の魂に安らぎを与え、
町を化物共の手から守っている……――きっと、町の皆さんもあなたを信頼しているのでしょうね」
手は握り締めたまま、シエルが顔を上げた。
「あなたはご自身ではヴァチカンを捨てたとお思いでしょうが、神はあなたをお見捨てになられてはいません。
今もあなたは神と共にあるのです」
今もあなたは神と共にあるのです」
ああ、我慢だ。我慢しろ、ここが堪えどころだ。クソッ、よせやい。
天晴れ、心優しき乙女と傷ついた醜い年寄りか。
鼻腔の奥がツンと熱くなり、込み上げるものを何とも抑えきれないキャラハンは、耐えかねたように
顔を背けてしまった。
話題を変えなきゃ。みっともないったらありゃしないよ。
少しの間を置き、若干震え気味の低い声が発せられる。
「なあ、シエル。二人の少女は出来るだけ――」
「大丈夫、わかっていますよ。『出来るだけ“殺す”以外の方法を』でしょう?」
「……ああ、二人が“人間”のうちはね」
キャラハンの左手をゆっくりと彼の膝の上に戻すと、シエルは立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
西欧人らしくないこの振る舞いは、身体に流れる東洋人の血のせいか、日本に長く居過ぎたせいか。
「突然お邪魔して、しかも自分勝手な事ばかり言って本当に申し訳ありませんでした」
丁寧な謝罪を受けて、キャラハンの口をつくのは本音半分、からかい半分の言葉である。
「突然? 何を言ってるんだい、シエル。私は君がここへ来るのをずっと待っていたんだよ。七年も前からね」
年に似合わぬ負けん気で真赤な眼を擦り、得意げに顎を上げるキャラハン。やられっ放しは性に
合わないといったところだろう。
(やっぱりそうでしたか…… フフッ、それにしても素直じゃありませんね)
可愛らしくもあり、小憎らしくもある。内心、“つくづく第13課には合わない人だ”と思わなくもない。
シエルは彼に合わせるように少しくだけた調子で再び頭を下げた。
「たくさんお待たせしちゃいましたね。ごめんなさい」
浮かべる微笑みはやはり“本当に仕様が無い”だ。
キャラハンもまたクスクスと笑っている。
何故だか急に自分の葬式を視てみたい気分に陥っていたのだ。決して視る事の出来ない“この世界”で
執り行われる自分の葬式を。
シエルはシエルで自分のユーモアのセンスも捨てたものじゃないと、根拠の無い自信を付ける。
笑顔のうちに、二人はどちらからともなく掌を差し出し、握手を交わした。
天晴れ、心優しき乙女と傷ついた醜い年寄りか。
鼻腔の奥がツンと熱くなり、込み上げるものを何とも抑えきれないキャラハンは、耐えかねたように
顔を背けてしまった。
話題を変えなきゃ。みっともないったらありゃしないよ。
少しの間を置き、若干震え気味の低い声が発せられる。
「なあ、シエル。二人の少女は出来るだけ――」
「大丈夫、わかっていますよ。『出来るだけ“殺す”以外の方法を』でしょう?」
「……ああ、二人が“人間”のうちはね」
キャラハンの左手をゆっくりと彼の膝の上に戻すと、シエルは立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
西欧人らしくないこの振る舞いは、身体に流れる東洋人の血のせいか、日本に長く居過ぎたせいか。
「突然お邪魔して、しかも自分勝手な事ばかり言って本当に申し訳ありませんでした」
丁寧な謝罪を受けて、キャラハンの口をつくのは本音半分、からかい半分の言葉である。
「突然? 何を言ってるんだい、シエル。私は君がここへ来るのをずっと待っていたんだよ。七年も前からね」
年に似合わぬ負けん気で真赤な眼を擦り、得意げに顎を上げるキャラハン。やられっ放しは性に
合わないといったところだろう。
(やっぱりそうでしたか…… フフッ、それにしても素直じゃありませんね)
可愛らしくもあり、小憎らしくもある。内心、“つくづく第13課には合わない人だ”と思わなくもない。
シエルは彼に合わせるように少しくだけた調子で再び頭を下げた。
「たくさんお待たせしちゃいましたね。ごめんなさい」
浮かべる微笑みはやはり“本当に仕様が無い”だ。
キャラハンもまたクスクスと笑っている。
何故だか急に自分の葬式を視てみたい気分に陥っていたのだ。決して視る事の出来ない“この世界”で
執り行われる自分の葬式を。
シエルはシエルで自分のユーモアのセンスも捨てたものじゃないと、根拠の無い自信を付ける。
笑顔のうちに、二人はどちらからともなく掌を差し出し、握手を交わした。
「何か困った事があったらいつでも連絡しなさい」
「はい。では、失礼します」