―――四日後。
復興の槌音も馴染んだ街に、一行の愛車が出発を唸る。
必要な部品は全交換を終え、予備も多めに持った。これならば山奥で立ち往生しても何とかなるだろう。
その傍で、二人の少女が涙で別れの抱擁を交し合う。
「……お姉ちゃん……あたし………あたし、お姉ちゃんのこと、絶対…忘れないから…」
「うん…私も、きっとまた此処に来る。だって…」
…短いながらも友達だった。仲間だった………そして、かけがえの無い戦友だった。
別れはそのどれにも等しく訪れる。しかし、繋がった絆は望む限り消えはしない。
寂しくは有る、だがさよならでは無い。いずれの再会を互いの胸に、今はしばし別れを惜しむ。
「あ―――……あのよ、イヴ…」
そんな二人の間に、トレインがぎこちなく言葉を割り込ませる。
「あの……もしな、もしだぜ? もしスヴェンがよ、また―――、その、なんだ…なんか酷い事言って来たら、
言えよ? そん時はオレも協力するから、な?」
「勿論イヴちゃん、アタシもね」
…事情を良く知らない二人の立場から、また発せられる優しさの言葉。特にトレインは、言い馴れないらしく相当にたどたどしい。
「トレインは、すぐ丸め込まれるからいらない」
「オレだけ戦力外通知ッ!?」
彼がスヴェンの相棒、と言う嫉妬に似た感情から来る相性の悪さだが……今回は少し違う。
「でも………ありがと」
彼の優しさに対する返礼の様に、やはりたどたどしい感謝の言葉。今までなら絶対に出ない言葉だった。
寧ろ毒気を抜かれたトレインが、今度は呆然と彼女を見返す。
「……あれ? 背ぇ伸びたか?」
見た目には特に変わった風には見えないが、何故かそう問い掛けてしまった。
「そう、かもね」
涙を一転、これまた今までなら見せない笑顔が、ますます彼の思考を煙に巻く。
「私も、いつまでも子供じゃないから」
そして弄うように投じる意味深な微笑が、周囲を何処までも優しい混迷に巻き込んで行くが……トレインは敢えて考えるのを止めた。
彼女の中に構成されつつある揺るぎ無い自分、それが見て取れるなら構う事は無い。
個を決定するのは生まれではない。今に到るまで何が有り、そして今何を欲し何を成すかが個我なるものを定めるのだ。
そしてそれは…………別に彼女に限った話ではない。
復興の槌音も馴染んだ街に、一行の愛車が出発を唸る。
必要な部品は全交換を終え、予備も多めに持った。これならば山奥で立ち往生しても何とかなるだろう。
その傍で、二人の少女が涙で別れの抱擁を交し合う。
「……お姉ちゃん……あたし………あたし、お姉ちゃんのこと、絶対…忘れないから…」
「うん…私も、きっとまた此処に来る。だって…」
…短いながらも友達だった。仲間だった………そして、かけがえの無い戦友だった。
別れはそのどれにも等しく訪れる。しかし、繋がった絆は望む限り消えはしない。
寂しくは有る、だがさよならでは無い。いずれの再会を互いの胸に、今はしばし別れを惜しむ。
「あ―――……あのよ、イヴ…」
そんな二人の間に、トレインがぎこちなく言葉を割り込ませる。
「あの……もしな、もしだぜ? もしスヴェンがよ、また―――、その、なんだ…なんか酷い事言って来たら、
言えよ? そん時はオレも協力するから、な?」
「勿論イヴちゃん、アタシもね」
…事情を良く知らない二人の立場から、また発せられる優しさの言葉。特にトレインは、言い馴れないらしく相当にたどたどしい。
「トレインは、すぐ丸め込まれるからいらない」
「オレだけ戦力外通知ッ!?」
彼がスヴェンの相棒、と言う嫉妬に似た感情から来る相性の悪さだが……今回は少し違う。
「でも………ありがと」
彼の優しさに対する返礼の様に、やはりたどたどしい感謝の言葉。今までなら絶対に出ない言葉だった。
寧ろ毒気を抜かれたトレインが、今度は呆然と彼女を見返す。
「……あれ? 背ぇ伸びたか?」
見た目には特に変わった風には見えないが、何故かそう問い掛けてしまった。
「そう、かもね」
涙を一転、これまた今までなら見せない笑顔が、ますます彼の思考を煙に巻く。
「私も、いつまでも子供じゃないから」
そして弄うように投じる意味深な微笑が、周囲を何処までも優しい混迷に巻き込んで行くが……トレインは敢えて考えるのを止めた。
彼女の中に構成されつつある揺るぎ無い自分、それが見て取れるなら構う事は無い。
個を決定するのは生まれではない。今に到るまで何が有り、そして今何を欲し何を成すかが個我なるものを定めるのだ。
そしてそれは…………別に彼女に限った話ではない。
「…マリア、お前の憎しみは充分判ってるつもりだ」
居間にて、スヴェンとマリアは真実の過去と共に向かい合う。
「だが……仇を討つのはもう少し待ってくれ。
俺にはまだやらなくちゃ成らん事が有る」
その弁明を聞いているのかいないのか、マリアは彼を真っ直ぐ見たまま無言の態だ。
「自己満足なのは判ってる、だがこれはようやく見つけた俺の贖罪なんだ。
全て終えたら此処に戻ってくる、だからそれまで…」
「―――貴方は何も判ってないわ」
跳ね付ける様に、鋭く硬いマリアの反論が突き刺さる。
「私が憎んでるのを充分判ってるですって? まず其処から何も理解出来てない」
軽く溜息をつくと、改めて強めた視線で彼を射抜く。
「私の憎しみはね、昨日今日の話じゃないわ。ずうっと前から…今日に到るまで貴方を憎み続けていたわ」
…彼女にスヴェンの策略を見抜けた節は無い、然らば何か………と考えれば、スヴェンの聡明はすぐにそれらしいものを導き出す。
「成る程な、捏造とは言え浮気現場見せられては」「ぜんぜん違うわ」
呆れた、とばかりに零す失笑の吐息。
「貴方…女の機微にはまるで駄目なのねぇ………それで策士気取るなんて自惚れが過ぎるわよ。
あのくらいで憎むようなら、シンディの誕生祝いに来た時に一番高いケーキを買ってぶつけてやるわ」
「じゃあ、何を…」
「決まってるでしょ、貴方が廃工場から奇跡の生還して来た時よ」
それを聞いてようやく得心した。
確かに、彼の危機に夫が向かい、その挙句ロイドが死んだとなっては殺しても足るまい。
だがそれに行き着くと、或る疑問が引っ掛かる。
「………それなら、生命維持装置を切るなり点滴に空気入れるなり、何故しなかった?
お前なら証拠を残さず出来た筈だぞ?」
―――彼にとっては至極真っ当な返事をした筈だった。しかし、それを受けたマリアは顔を背けて忍び笑いに肩を揺らす。
「久々に会うと次々面白いものを見せてくれるわね。
こうまでテンパッてると、逆に気の毒にする作戦かと疑っちゃうわ」
実際その通りなのだろう、思考が上手く働く気がしない。表面的な事は判るのだが、どうしても彼女の裏をかくことが出来なかった。
「それもまあ、考えていたわ。それに、実はこうして会うまでやっぱり憎んでた。
貴方が居なければ、此処にあの人が居たのに…って、ずうっとね。金を振り込まれたくらいじゃ、私の怒りは収まらなかった。
そしてあの時も、今も、目の前にして私の憎しみは殺してやりたいくらいになっているわ」
紛れも無くそれは憎悪の吐露なのだが、彼女の貌には一抹もそれを伺えない。
「だって………無事な貴方を見るたびに、結婚前みたく未だにときめいたりするんだもの。
何が有ったって許しては置けないわ」
憎んでいる、誰よりも。しかし嫌いが好きの類義語であるように、強く思うからこそそうも朗らかに笑える。
「判った? 私もその程度の女なのよ。
自分だけが悲劇の主人公だったり、悪党と責めたり、なんて間違ってるのよ」
些事と言わんばかりに、肩を竦めて見せる。
「正直ね、貴方がクズでほっとしてるのよ。
だって、憎むくせして頼ってたり好きだったり、振り込まれた金を返せば良い物を返さなかったり、都合良過ぎるでしょう?
そんな自分の八方美人が許せなかったんだけど……でも、貴方も私と同じだと判って、ようやく肩の荷が下りた気分だわ」
彼の独白を聴いた時立ち竦んでいたのは、確かに衝撃を受けたからだ。
しかし、それはスヴェンが考えるものとは全く別物。彼女の中で相当に高かったスヴェンの地位が地に堕ちる――つまり、自分と同じ
位置に来る事――で、やっと彼女は冷静な眼で彼を見れる様になったのだ。
「だからね、スヴェン」
苦笑に慈悲を潤ませて、マリアは真っ直ぐに彼を見る。
……そう言えば、彼女もロイドと同様、いつもこの眼で彼を見る。
スヴェン自身、今日まで全く自分に価値を見い出せないと言うのに、何故こうも全てを曝け出すのかその訳が判らない。
「ロイドは貴方を憎んでない、そして私は恨んでない……だからどうか…自分を許してあげて。
私もあの人も、貴方がいつ折れるか判らなくて、放っておけないのよ」
「―――それは出来ない」
彼自身、驚くほど素早い返答だった。
「俺は、あいつの価値も判らず軽んじてた。自分の中でどれほど大きいのか、まるで考えてなかった。
居なくなってようやく気付いて、結局あいつに助けてもらった惰性と色々でやっとやっと生きてるだけだ」
左のブラウンの瞳に哀悼を湛え、告解と自責は続く。
「世の中は不条理だ。
いつだって俺の様な自分勝手のクズがのさばって、本当に必要な筈の奴がそんな連中に踏み躙られる。
だから、俺は俺を許しちゃいけない。そうでないと、ロイドが報われなさ過ぎる」
「貴方は誰の気持ちも考えず、勝手に拘ってるだけよ。
それは或る意味では正しいかもしれないけど、今のこれは子供じみた我が侭でしかないわ。
そうやって気持ちをもやもやさせて、一体何をやれるつもりなの?」
「え? いや、それは……」
「『それは……』…何? 何を言うつもり? ただ納得したくないだけで否定するのは止めなさい。
それらしい事を言っただけで向き合わないなんて、それこそ許しがたいわ」
「………」
言い返すべき上手い言葉が見付からず、大量破壊兵器級の道士をまんまと罠に嵌めた策士が口ごもる。
如何なる狡猾や凶暴をも手玉に取った彼だが、真摯な優しさに酷く弱い。
実は単に悪意前提で世界に向き合うゆえだが、その黒さが魂にまで染み付いてその考えに到れないのだ。
捨てられたがゆえ母の愛情なるものは判らないが、まるでそうである様に叱られ反論さえもままならない。
…マリアが一人の女ならこうはならなかったかもしれないが、今の彼女は母親なのだ。余計事にぶれる事無く
聞き分けなさを叱ってのけられる……と言うより、このくらいでないとシンディは叱れない。
「…仕方ないわね」
聞き分けの無い子供にそうする様に、諦めに近い溜息をつく。
「なら私が、スッキリさせてあげるわ」
「…は?」
突然の申し出に困惑するスヴェンに取り合わず、マリアは篭絡する様な女の微笑で彼の襟元に手を伸ばす。
そして呆然の右手を優しく取ると…
居間にて、スヴェンとマリアは真実の過去と共に向かい合う。
「だが……仇を討つのはもう少し待ってくれ。
俺にはまだやらなくちゃ成らん事が有る」
その弁明を聞いているのかいないのか、マリアは彼を真っ直ぐ見たまま無言の態だ。
「自己満足なのは判ってる、だがこれはようやく見つけた俺の贖罪なんだ。
全て終えたら此処に戻ってくる、だからそれまで…」
「―――貴方は何も判ってないわ」
跳ね付ける様に、鋭く硬いマリアの反論が突き刺さる。
「私が憎んでるのを充分判ってるですって? まず其処から何も理解出来てない」
軽く溜息をつくと、改めて強めた視線で彼を射抜く。
「私の憎しみはね、昨日今日の話じゃないわ。ずうっと前から…今日に到るまで貴方を憎み続けていたわ」
…彼女にスヴェンの策略を見抜けた節は無い、然らば何か………と考えれば、スヴェンの聡明はすぐにそれらしいものを導き出す。
「成る程な、捏造とは言え浮気現場見せられては」「ぜんぜん違うわ」
呆れた、とばかりに零す失笑の吐息。
「貴方…女の機微にはまるで駄目なのねぇ………それで策士気取るなんて自惚れが過ぎるわよ。
あのくらいで憎むようなら、シンディの誕生祝いに来た時に一番高いケーキを買ってぶつけてやるわ」
「じゃあ、何を…」
「決まってるでしょ、貴方が廃工場から奇跡の生還して来た時よ」
それを聞いてようやく得心した。
確かに、彼の危機に夫が向かい、その挙句ロイドが死んだとなっては殺しても足るまい。
だがそれに行き着くと、或る疑問が引っ掛かる。
「………それなら、生命維持装置を切るなり点滴に空気入れるなり、何故しなかった?
お前なら証拠を残さず出来た筈だぞ?」
―――彼にとっては至極真っ当な返事をした筈だった。しかし、それを受けたマリアは顔を背けて忍び笑いに肩を揺らす。
「久々に会うと次々面白いものを見せてくれるわね。
こうまでテンパッてると、逆に気の毒にする作戦かと疑っちゃうわ」
実際その通りなのだろう、思考が上手く働く気がしない。表面的な事は判るのだが、どうしても彼女の裏をかくことが出来なかった。
「それもまあ、考えていたわ。それに、実はこうして会うまでやっぱり憎んでた。
貴方が居なければ、此処にあの人が居たのに…って、ずうっとね。金を振り込まれたくらいじゃ、私の怒りは収まらなかった。
そしてあの時も、今も、目の前にして私の憎しみは殺してやりたいくらいになっているわ」
紛れも無くそれは憎悪の吐露なのだが、彼女の貌には一抹もそれを伺えない。
「だって………無事な貴方を見るたびに、結婚前みたく未だにときめいたりするんだもの。
何が有ったって許しては置けないわ」
憎んでいる、誰よりも。しかし嫌いが好きの類義語であるように、強く思うからこそそうも朗らかに笑える。
「判った? 私もその程度の女なのよ。
自分だけが悲劇の主人公だったり、悪党と責めたり、なんて間違ってるのよ」
些事と言わんばかりに、肩を竦めて見せる。
「正直ね、貴方がクズでほっとしてるのよ。
だって、憎むくせして頼ってたり好きだったり、振り込まれた金を返せば良い物を返さなかったり、都合良過ぎるでしょう?
そんな自分の八方美人が許せなかったんだけど……でも、貴方も私と同じだと判って、ようやく肩の荷が下りた気分だわ」
彼の独白を聴いた時立ち竦んでいたのは、確かに衝撃を受けたからだ。
しかし、それはスヴェンが考えるものとは全く別物。彼女の中で相当に高かったスヴェンの地位が地に堕ちる――つまり、自分と同じ
位置に来る事――で、やっと彼女は冷静な眼で彼を見れる様になったのだ。
「だからね、スヴェン」
苦笑に慈悲を潤ませて、マリアは真っ直ぐに彼を見る。
……そう言えば、彼女もロイドと同様、いつもこの眼で彼を見る。
スヴェン自身、今日まで全く自分に価値を見い出せないと言うのに、何故こうも全てを曝け出すのかその訳が判らない。
「ロイドは貴方を憎んでない、そして私は恨んでない……だからどうか…自分を許してあげて。
私もあの人も、貴方がいつ折れるか判らなくて、放っておけないのよ」
「―――それは出来ない」
彼自身、驚くほど素早い返答だった。
「俺は、あいつの価値も判らず軽んじてた。自分の中でどれほど大きいのか、まるで考えてなかった。
居なくなってようやく気付いて、結局あいつに助けてもらった惰性と色々でやっとやっと生きてるだけだ」
左のブラウンの瞳に哀悼を湛え、告解と自責は続く。
「世の中は不条理だ。
いつだって俺の様な自分勝手のクズがのさばって、本当に必要な筈の奴がそんな連中に踏み躙られる。
だから、俺は俺を許しちゃいけない。そうでないと、ロイドが報われなさ過ぎる」
「貴方は誰の気持ちも考えず、勝手に拘ってるだけよ。
それは或る意味では正しいかもしれないけど、今のこれは子供じみた我が侭でしかないわ。
そうやって気持ちをもやもやさせて、一体何をやれるつもりなの?」
「え? いや、それは……」
「『それは……』…何? 何を言うつもり? ただ納得したくないだけで否定するのは止めなさい。
それらしい事を言っただけで向き合わないなんて、それこそ許しがたいわ」
「………」
言い返すべき上手い言葉が見付からず、大量破壊兵器級の道士をまんまと罠に嵌めた策士が口ごもる。
如何なる狡猾や凶暴をも手玉に取った彼だが、真摯な優しさに酷く弱い。
実は単に悪意前提で世界に向き合うゆえだが、その黒さが魂にまで染み付いてその考えに到れないのだ。
捨てられたがゆえ母の愛情なるものは判らないが、まるでそうである様に叱られ反論さえもままならない。
…マリアが一人の女ならこうはならなかったかもしれないが、今の彼女は母親なのだ。余計事にぶれる事無く
聞き分けなさを叱ってのけられる……と言うより、このくらいでないとシンディは叱れない。
「…仕方ないわね」
聞き分けの無い子供にそうする様に、諦めに近い溜息をつく。
「なら私が、スッキリさせてあげるわ」
「…は?」
突然の申し出に困惑するスヴェンに取り合わず、マリアは篭絡する様な女の微笑で彼の襟元に手を伸ばす。
そして呆然の右手を優しく取ると…
「―――うお!
な……何だぁ? 今の音!?」
表まで響いた大きな衝撃音に、トレインが驚く。
「え…何で……?」
音質で何が起こったかを見抜いたイヴが、首を傾げる。
「ああ~、そっかぁ…そう来たか」
何を得心したか、リンスがうんうんと細かく頷く。
「ふん、だ。いい気味」
何か溜飲が下がったか、シンディが悪態交じりに鼻を鳴らした。
な……何だぁ? 今の音!?」
表まで響いた大きな衝撃音に、トレインが驚く。
「え…何で……?」
音質で何が起こったかを見抜いたイヴが、首を傾げる。
「ああ~、そっかぁ…そう来たか」
何を得心したか、リンスがうんうんと細かく頷く。
「ふん、だ。いい気味」
何か溜飲が下がったか、シンディが悪態交じりに鼻を鳴らした。
……口を金魚の様に開閉させて仰臥するスヴェンを、胸倉と手首を捕まえたままマリアが慈母の笑みで見下ろす。
「どう? スッキリした?」
何も答えられなかった。受身を取る間もない一本背負いが、明日の朝まで寝ていたい威力で彼の肺から酸素を吐き出させていた。
「何か甘い事考えちゃった? …つけ上がるのも大概になさい、このクズ野郎。
それと、今まで振り込んだ金は慰謝料代わりに貰っておくから、二度と私たち家族にその汚い面を見せないでね」
乱暴で、そして優しい決別だった。これで全て貸し借り無し、と笑顔が満面で言っている。
「気分はどう? もう一度投げられたい?」
「……いや…もう、充分だ」
確かに痛く、苦しかったが、やっと彼女の許しを感じる事が出来てスヴェンもまた笑顔だった。
それは、彼が背負った罪科の重みが減った事でもある。
それを完全に消したいからこそ、彼は新たな相棒に命を賭けて手を貸すのだ。
彼の貌で一通り確認したマリアが、卓上に置いてあったA4封筒を彼の胸に落とす。
「ついでに、これは手切れ金代わりよ」
寝たまま開けて見ると………其処に有ったのは数枚の書類。
「昔のコネを使って私なりに星の使徒を調べてみたわ。
…さすがクロノスを相手するだけあって、これで限界だったけど」
「………そう言う危ない事は、止めて欲しいんだがな」
ぼやきながら一枚、二枚、と捲っていくと………軽快に動いていたその手が、強張って止まる。
「おい…これ……!」
その眼も、驚愕に見開かれていた。
それを補完するつもりで、マリアが唇を開く。
「…今から二週間後の午前十時二十分、この街の東、オストロル公国の北に位置する古城群の一つ、ハルドヴェルク城で
世界中の反クロノス組織による秘密頂上会議が開催されるわ」
記してあるそれに、スヴェンも手の震えが隠せない。改めて彼女の情報収集分析能力がその辺の情報屋をはるかに越える域にある事
を実感する。
「どう? スッキリした?」
何も答えられなかった。受身を取る間もない一本背負いが、明日の朝まで寝ていたい威力で彼の肺から酸素を吐き出させていた。
「何か甘い事考えちゃった? …つけ上がるのも大概になさい、このクズ野郎。
それと、今まで振り込んだ金は慰謝料代わりに貰っておくから、二度と私たち家族にその汚い面を見せないでね」
乱暴で、そして優しい決別だった。これで全て貸し借り無し、と笑顔が満面で言っている。
「気分はどう? もう一度投げられたい?」
「……いや…もう、充分だ」
確かに痛く、苦しかったが、やっと彼女の許しを感じる事が出来てスヴェンもまた笑顔だった。
それは、彼が背負った罪科の重みが減った事でもある。
それを完全に消したいからこそ、彼は新たな相棒に命を賭けて手を貸すのだ。
彼の貌で一通り確認したマリアが、卓上に置いてあったA4封筒を彼の胸に落とす。
「ついでに、これは手切れ金代わりよ」
寝たまま開けて見ると………其処に有ったのは数枚の書類。
「昔のコネを使って私なりに星の使徒を調べてみたわ。
…さすがクロノスを相手するだけあって、これで限界だったけど」
「………そう言う危ない事は、止めて欲しいんだがな」
ぼやきながら一枚、二枚、と捲っていくと………軽快に動いていたその手が、強張って止まる。
「おい…これ……!」
その眼も、驚愕に見開かれていた。
それを補完するつもりで、マリアが唇を開く。
「…今から二週間後の午前十時二十分、この街の東、オストロル公国の北に位置する古城群の一つ、ハルドヴェルク城で
世界中の反クロノス組織による秘密頂上会議が開催されるわ」
記してあるそれに、スヴェンも手の震えが隠せない。改めて彼女の情報収集分析能力がその辺の情報屋をはるかに越える域にある事
を実感する。
「………その末席に、星の使徒の代表が招かれたそうよ」