大海賊時代、来たる。
私もまた人並みに財宝と冒険に魅せられ、海賊となった男であった。
もっとも海賊に試験や資格は存在しない。自ら海賊を名乗ればその時点から海賊となれ
る。要は海賊となってからいかに名を上げるか、だ。
私は故郷では右に出る者なしの剣(サーベル)の使い手であり、強さには自信があった。
すぐにでも部下を集め、一般人や同業者のみならず海軍にすら恐れられる海賊団を組織す
るつもりであった。
しかし、海は広かった。
海賊となってから一ヶ月後、とある島の森林には死にかけている私の姿があった。惨敗
だった。持ち前の体力で命こそ助かったものの、プライドはズタズタに引き裂かれた。
「ちくしょう、海にはあんな奴らがごろごろといるってのかよ……」
私は悔し涙を流し、当てもなく森の中を放浪した。出鼻をくじかれ、早くも海賊として
生きることにくじけかけてしまった。神か、あるいは悪魔の力でも借りなければ、とても
立ち直れない。
そんな私にチャンスを与えてくれたのは、神ではなく悪魔の方だった。
森の最果てに到着した私の足元に落ちていた果実は、紛れもなく『悪魔の実』だった。
「なんでこんなところに……」
幼い頃、探検家だった父から聞いたことがあった。
「悪魔の実を食べた人間は、例外なく超人的な能力を身につけることができる。しかし絶
対に食べてはならんぞ」
「どーして?」
「海に嫌われるからさ」
海に嫌われる。すなわち泳げなくなることを意味する。船の上での生活が主となる海賊
にとっては、あまりにも大きすぎるリスク。料理人が味音痴になるようなものだ。私はま
だ海賊を完全に諦めたわけではない。
おぞましいほどのジレンマで、私は高熱が出るほどに悩んだ。
三日ほど経った夜、半ばノイローゼに陥ってた私は悪魔の実を丸ごと平らげた。
「これでもう……俺は一生カナヅチだ」
一夜にして、私は泳げる体を捨て超人となった。後に図鑑で調べたところ、私が食べた
のは『ブリブリの実』と呼ばれる実であることが判明する。
私もまた人並みに財宝と冒険に魅せられ、海賊となった男であった。
もっとも海賊に試験や資格は存在しない。自ら海賊を名乗ればその時点から海賊となれ
る。要は海賊となってからいかに名を上げるか、だ。
私は故郷では右に出る者なしの剣(サーベル)の使い手であり、強さには自信があった。
すぐにでも部下を集め、一般人や同業者のみならず海軍にすら恐れられる海賊団を組織す
るつもりであった。
しかし、海は広かった。
海賊となってから一ヶ月後、とある島の森林には死にかけている私の姿があった。惨敗
だった。持ち前の体力で命こそ助かったものの、プライドはズタズタに引き裂かれた。
「ちくしょう、海にはあんな奴らがごろごろといるってのかよ……」
私は悔し涙を流し、当てもなく森の中を放浪した。出鼻をくじかれ、早くも海賊として
生きることにくじけかけてしまった。神か、あるいは悪魔の力でも借りなければ、とても
立ち直れない。
そんな私にチャンスを与えてくれたのは、神ではなく悪魔の方だった。
森の最果てに到着した私の足元に落ちていた果実は、紛れもなく『悪魔の実』だった。
「なんでこんなところに……」
幼い頃、探検家だった父から聞いたことがあった。
「悪魔の実を食べた人間は、例外なく超人的な能力を身につけることができる。しかし絶
対に食べてはならんぞ」
「どーして?」
「海に嫌われるからさ」
海に嫌われる。すなわち泳げなくなることを意味する。船の上での生活が主となる海賊
にとっては、あまりにも大きすぎるリスク。料理人が味音痴になるようなものだ。私はま
だ海賊を完全に諦めたわけではない。
おぞましいほどのジレンマで、私は高熱が出るほどに悩んだ。
三日ほど経った夜、半ばノイローゼに陥ってた私は悪魔の実を丸ごと平らげた。
「これでもう……俺は一生カナヅチだ」
一夜にして、私は泳げる体を捨て超人となった。後に図鑑で調べたところ、私が食べた
のは『ブリブリの実』と呼ばれる実であることが判明する。
排泄物を司る超人、平たくいえば『ウンコ人間』が誕生した。
初めのうち、私は己の不幸を呪った。泳げなくなった上にウンコ人間では、救いようが
ないではないか。しかもできることといえば体から悪臭を出すことと、体を茶色く変色さ
せることくらい。これでは他人に嫌われることはできても戦うなど到底不可能である。
しかしいかに嘆いても、二度とカナヅチではない肉体は戻ってこない。私は開き直って
徹底的に鍛錬を積み重ねた。実の特性と真剣に向き合い、できることを増やしていった。
三年後、森から出てきた私は、以前とは比較にならないほどの強さを身に宿していた。
私の快進撃はここから始まる。
「うげっ、なんだこのニオイはっ!?」
「鼻が腐る……!」
「た、戦うどころじゃない!」
自在に発散できる体臭はより凶悪となった。最大で半径百メートルまでばら撒くことが
可能で、至近距離だと特に強力となる。一度、手強い動物(ゾオン)系能力者と立ち合っ
た際、ヤケクソでフルパワーにて悪臭を放ったところ即死させてしまった。よほど鼻が利
く動物だったにちがいない。
「なんて硬さだッ!」
「剣で斬れない……」
「こいつ、銃が通用しないぞ!」
私は体を自在にあらゆる種類のうんこに変化させることができる。例えば、長期にわた
る便秘で凝縮され密度を増した大便。射出時に肛門を大いに傷つけるあの凄まじい硬度を
私が発揮させたなら、いかなる武器も通じない鋼鉄の肉体を持つに至る。
「と、溶けやがった……」
「うわぁ! 一ミリにも満たない隙間から入ってくる!」
「まるで液体だ!」
硬さだけでなく柔らかさにも私の能力は対応している。消化不良の下痢便に変化した私
の侵略を止められる者など存在しない。むろんこうして鋼鉄や液状に変化させたうんこは
飛び道具として使うこともできる。
「ひぃっ! 虫だぁ!」
「どんどん体に入ってくる! 頼む、やめてくれぇ! ぐげあぁぁっ!」
「ありがとう、船長のおかげでダイエットに成功したよ!」
体内で養殖した回虫やサナダムシは私の意のままに操ることができる。敵を襲わせたり、
あるいは味方に寄生させて過剰な栄養分を吸い取るといった使い方ができる。こいつらの
おかげで私の部下にはメタボリック症候群は一人もいない。
他にも体臭を消し、体色だけ茶褐色にすることで擬態(カモフラージュ)も可能だ。こ
の戦法で私は幾度も奇襲や急襲を成功させてきた。
この能力はもしかして無敵ではなかろうか──私はふと思った。
初めのうち、私は己の不幸を呪った。泳げなくなった上にウンコ人間では、救いようが
ないではないか。しかもできることといえば体から悪臭を出すことと、体を茶色く変色さ
せることくらい。これでは他人に嫌われることはできても戦うなど到底不可能である。
しかしいかに嘆いても、二度とカナヅチではない肉体は戻ってこない。私は開き直って
徹底的に鍛錬を積み重ねた。実の特性と真剣に向き合い、できることを増やしていった。
三年後、森から出てきた私は、以前とは比較にならないほどの強さを身に宿していた。
私の快進撃はここから始まる。
「うげっ、なんだこのニオイはっ!?」
「鼻が腐る……!」
「た、戦うどころじゃない!」
自在に発散できる体臭はより凶悪となった。最大で半径百メートルまでばら撒くことが
可能で、至近距離だと特に強力となる。一度、手強い動物(ゾオン)系能力者と立ち合っ
た際、ヤケクソでフルパワーにて悪臭を放ったところ即死させてしまった。よほど鼻が利
く動物だったにちがいない。
「なんて硬さだッ!」
「剣で斬れない……」
「こいつ、銃が通用しないぞ!」
私は体を自在にあらゆる種類のうんこに変化させることができる。例えば、長期にわた
る便秘で凝縮され密度を増した大便。射出時に肛門を大いに傷つけるあの凄まじい硬度を
私が発揮させたなら、いかなる武器も通じない鋼鉄の肉体を持つに至る。
「と、溶けやがった……」
「うわぁ! 一ミリにも満たない隙間から入ってくる!」
「まるで液体だ!」
硬さだけでなく柔らかさにも私の能力は対応している。消化不良の下痢便に変化した私
の侵略を止められる者など存在しない。むろんこうして鋼鉄や液状に変化させたうんこは
飛び道具として使うこともできる。
「ひぃっ! 虫だぁ!」
「どんどん体に入ってくる! 頼む、やめてくれぇ! ぐげあぁぁっ!」
「ありがとう、船長のおかげでダイエットに成功したよ!」
体内で養殖した回虫やサナダムシは私の意のままに操ることができる。敵を襲わせたり、
あるいは味方に寄生させて過剰な栄養分を吸い取るといった使い方ができる。こいつらの
おかげで私の部下にはメタボリック症候群は一人もいない。
他にも体臭を消し、体色だけ茶褐色にすることで擬態(カモフラージュ)も可能だ。こ
の戦法で私は幾度も奇襲や急襲を成功させてきた。
この能力はもしかして無敵ではなかろうか──私はふと思った。
あの絶頂の日々から転がり落ちたのはいったい何年前になるのか。もう忘れてしまった。
私は『偉大なる航路(グランドライン)』にある島にいる。目まぐるしく切り替わる景
色にも、最初は酔ったがさすがに慣れてしまった。
無敵だと信じていた私の能力に、まさかこんな天敵がいるとは思いもしなかった。
海賊団を率いて降り立ったこの島で、つい調子に乗って単独行動をしたのが最大の過ち
だった。私はこの天敵に出会った瞬間、なぜか金縛りにあったように動けなくなってしま
ったのだ。大人しく転がされるしかないと、本能が私に命じたのだ。
巨大フンコロガシの群れに捕まった私は、島の奥深くまで転がされ、部下の必死の捜索
にもついに引っかかることはできなかった。これから私は死ぬまで島の中を転がされ続け
るのだろう。
いやおそらく、私が死んでも死体は転がされ続けるのだろう──。
私は『偉大なる航路(グランドライン)』にある島にいる。目まぐるしく切り替わる景
色にも、最初は酔ったがさすがに慣れてしまった。
無敵だと信じていた私の能力に、まさかこんな天敵がいるとは思いもしなかった。
海賊団を率いて降り立ったこの島で、つい調子に乗って単独行動をしたのが最大の過ち
だった。私はこの天敵に出会った瞬間、なぜか金縛りにあったように動けなくなってしま
ったのだ。大人しく転がされるしかないと、本能が私に命じたのだ。
巨大フンコロガシの群れに捕まった私は、島の奥深くまで転がされ、部下の必死の捜索
にもついに引っかかることはできなかった。これから私は死ぬまで島の中を転がされ続け
るのだろう。
いやおそらく、私が死んでも死体は転がされ続けるのだろう──。
お わ り