ハイドランド地方。大英帝国の北方にある、雪深い土地。
かつてそこで痛ましい惨劇があった。
走行中だった馬車を、正体不明の謎の巨人が襲い、中にいた人間を殺戮した。
生き残りはわずかであり、二人の少年と一人の少女のみが助け出された。
少年の名は、ヒューリー=フラットライナー、レイス=アレン。
少女の名は、エーデル。
彼らはすべてを失った。家族を、記憶を、そして未来さえも――
徳深い人物と知られるワイス卿に、二人の少年は使用人として、一人の少女は養女として引き取られた。
少年ヒューリーとレイスは、そのとき密かに決意した。
自分達からすべてを奪った謎の巨人を、この手で斃す。
ヒューリーは、家族の仇をとるため。
レイスは、その正体を解き明かすため。
その目的を遂げないまでは、自分達は未来へ進めない。
まだ幼い二人は、必ず復讐を果たすと、かたく誓い合ったのだった。
かつてそこで痛ましい惨劇があった。
走行中だった馬車を、正体不明の謎の巨人が襲い、中にいた人間を殺戮した。
生き残りはわずかであり、二人の少年と一人の少女のみが助け出された。
少年の名は、ヒューリー=フラットライナー、レイス=アレン。
少女の名は、エーデル。
彼らはすべてを失った。家族を、記憶を、そして未来さえも――
徳深い人物と知られるワイス卿に、二人の少年は使用人として、一人の少女は養女として引き取られた。
少年ヒューリーとレイスは、そのとき密かに決意した。
自分達からすべてを奪った謎の巨人を、この手で斃す。
ヒューリーは、家族の仇をとるため。
レイスは、その正体を解き明かすため。
その目的を遂げないまでは、自分達は未来へ進めない。
まだ幼い二人は、必ず復讐を果たすと、かたく誓い合ったのだった。
それからの日々は、緩やかに過ぎていった。
孤児同然だった自分らを引き取ってくれたワイス卿のもとで過ごす日々。
親代わりに自分らを育ててくれるシェイドは、厳しい人間であったが、彼に鍛えられる日々は充実した楽しいものであった。
同性のレイスとは互いに猟場番としての技量を高めるために競い合い、深い友情を結ぶまでになった。
そしてエーデル。
あの惨劇を生き抜き、ワイス卿の養女となり、貴族となった少女。
彼女は身分にこだわることなく、自分に笑いかけてくれた。彼女と過ごす時は、復讐を忘れ、穏やかな気持ちになれた。
幸せだった。まるであの惨劇が嘘のように思えた。
だが、少年の中で復讐の炎が消えることは無かった。
二人は静かに牙を研ぎ澄ましていた。
孤児同然だった自分らを引き取ってくれたワイス卿のもとで過ごす日々。
親代わりに自分らを育ててくれるシェイドは、厳しい人間であったが、彼に鍛えられる日々は充実した楽しいものであった。
同性のレイスとは互いに猟場番としての技量を高めるために競い合い、深い友情を結ぶまでになった。
そしてエーデル。
あの惨劇を生き抜き、ワイス卿の養女となり、貴族となった少女。
彼女は身分にこだわることなく、自分に笑いかけてくれた。彼女と過ごす時は、復讐を忘れ、穏やかな気持ちになれた。
幸せだった。まるであの惨劇が嘘のように思えた。
だが、少年の中で復讐の炎が消えることは無かった。
二人は静かに牙を研ぎ澄ましていた。
そして月日が流れ、二人の少年は立派な青年に成長していた。
充分に対抗できる力を得た確信した二人は、寒風吹きすさぶ嵐の中、謎の巨人と対峙した――
だがその死闘の最中、レイスは謎の巨人の凶刃にかかり落命し、ヒューリーもまた深手をおった。
そこでヒューリーを救ったのが、Drピーベリーという女性だった。
彼女からヒューリーは、人造人間という存在を知る。
充分に対抗できる力を得た確信した二人は、寒風吹きすさぶ嵐の中、謎の巨人と対峙した――
だがその死闘の最中、レイスは謎の巨人の凶刃にかかり落命し、ヒューリーもまた深手をおった。
そこでヒューリーを救ったのが、Drピーベリーという女性だった。
彼女からヒューリーは、人造人間という存在を知る。
人造人間。
狂える天才フランケンシュタイン博士によって生み出された、生ける死体。
死体を基盤に作られたその怪物は、フランケンシュタイン博士の失踪以後、彼の残した人造人間の製造法が
書かれた二冊の禁書を元に、多くの研究者によって製造され、夜の世界を生きている。
あの謎の巨人も、死体から造られた人造人間であった。
人造人間――すべての歪みはそこから始まっていた。
狂える天才フランケンシュタイン博士によって生み出された、生ける死体。
死体を基盤に作られたその怪物は、フランケンシュタイン博士の失踪以後、彼の残した人造人間の製造法が
書かれた二冊の禁書を元に、多くの研究者によって製造され、夜の世界を生きている。
あの謎の巨人も、死体から造られた人造人間であった。
人造人間――すべての歪みはそこから始まっていた。
そしてヒューリーは知る。夜の帳に隠されていた残酷な真実を。
謎の巨人――ヒューリーからすべてを奪い去った人造人間を造っていたのは、恩人であるワイス卿だった。
自分を育ててくれた親同然のシェイドも、人造人間と化していた。
レイスもまた死して後に、人造人間としてワイス卿に改造されていた。
謎の巨人――ヒューリーからすべてを奪い去った人造人間を造っていたのは、恩人であるワイス卿だった。
自分を育ててくれた親同然のシェイドも、人造人間と化していた。
レイスもまた死して後に、人造人間としてワイス卿に改造されていた。
自分の周りが狂気に満ちていたことを知ってもなお、ヒューリーは戦いを止めなかった。
彼の大切な人――エーデルが安心して夜を眠れるよう、惨劇の元凶を払うべく、
彼はレイスとピーベリーとともに家族同然の使用人達と、親代わりだったシェイドと敵対し、殺した。
手駒を失ったワイス卿は、禁書を奪われ、人造人間を造る術を失った。
彼の大切な人――エーデルが安心して夜を眠れるよう、惨劇の元凶を払うべく、
彼はレイスとピーベリーとともに家族同然の使用人達と、親代わりだったシェイドと敵対し、殺した。
手駒を失ったワイス卿は、禁書を奪われ、人造人間を造る術を失った。
それですべて終わったはずだった。
だが。
それですべて終わったわけではなかった。
だが。
それですべて終わったわけではなかった。
Drピーベリーの言葉。
人造人間の法は、人を蘇らせる技術ではない。
本人の死体をすべて使っても、その精神は、決して元通りにはならない。
人格の豹変、記憶の崩壊――中にはその両方を併発する「狂った」としか言えない個体すら存在する。
人造人間の法は、人を蘇らせる技術ではない。
本人の死体をすべて使っても、その精神は、決して元通りにはならない。
人格の豹変、記憶の崩壊――中にはその両方を併発する「狂った」としか言えない個体すら存在する。
つまりは。
ヒューリーの親友であり、人造人間となったレイス=アレンは。
狂ってしまった。
ヒューリーの親友であり、人造人間となったレイス=アレンは。
狂ってしまった。
彼の心に隠されていたドス黒い感情が、人造人間化によって理性の手綱が緩んだ所為で、一気に噴出した。
レイス=アレンは、エーデルを撃ち殺した。
彼にとって、彼女は邪魔な存在でしかなかった。
彼にはヒューリーさえいればよかった。それだけで満たされていたのだ。
レイスの世界はヒューリーと自分だけで完結していた。
レイス=アレンは、エーデルを撃ち殺した。
彼にとって、彼女は邪魔な存在でしかなかった。
彼にはヒューリーさえいればよかった。それだけで満たされていたのだ。
レイスの世界はヒューリーと自分だけで完結していた。
そんなレイスを、ヒューリーは許しはしなかった。
殺そうとした。だができなかった。
激昂で生じた過剰なガルバーニ電流によって、ヒューリーの身体に備え付けられていた人造人間用の
電極が機能不全に陥ったからだ。
――そう、ヒューリーもまた人造人間となっていたのだ。
彼はすでに死んでいた。謎の巨人との戦いにおいて。
ピーベリーは彼を治療したのではなく、人造人間として死から蘇らせたのだ。
九死に一生を得たレイスは、なおも追いすがるヒューリーの前から立ち去る。
倫敦で待っている、という言葉を残して。
殺そうとした。だができなかった。
激昂で生じた過剰なガルバーニ電流によって、ヒューリーの身体に備え付けられていた人造人間用の
電極が機能不全に陥ったからだ。
――そう、ヒューリーもまた人造人間となっていたのだ。
彼はすでに死んでいた。謎の巨人との戦いにおいて。
ピーベリーは彼を治療したのではなく、人造人間として死から蘇らせたのだ。
九死に一生を得たレイスは、なおも追いすがるヒューリーの前から立ち去る。
倫敦で待っている、という言葉を残して。
かくして人間ヒューリー=フラットライナーは死に。
復讐という理念と、怒りという感情に狂った人造人間を殺すための人造人間、ヒューリー=フラットライナーが誕生した。
復讐という理念と、怒りという感情に狂った人造人間を殺すための人造人間、ヒューリー=フラットライナーが誕生した。
ずんという身体の芯を震わせるような凄まじい音が森中に轟いた。
年輪を刻んだ大木が最後の断末魔のあげるかのように、みしみしと音を立てながらへし折れた。
驚いた鳥達が一斉に飛び立ち、あたりに騒々しい鳥の鳴き声が響き渡った。
年輪を刻んだ大木が最後の断末魔のあげるかのように、みしみしと音を立てながらへし折れた。
驚いた鳥達が一斉に飛び立ち、あたりに騒々しい鳥の鳴き声が響き渡った。
一人の青年が立っていた。四方に逆立った黒髪、険しい顔つき、暗い色をたたえた鋭い目つき。
彼は自分の拳を確認するように何度も握り返していた。
まだ自分のやったことが信じられない、といった表情で。
今彼は、拳一つで巨木をへし折ったのだ。
彼は自分の拳を確認するように何度も握り返していた。
まだ自分のやったことが信じられない、といった表情で。
今彼は、拳一つで巨木をへし折ったのだ。
「……すごいな、人造人間って奴は」
青年は、感嘆と哀切が入り混じった複雑な表情を浮かべる。
名を、ヒューリー・フラットライナー。
つい最近人造人間になったばかりの"生まれたて"である。
彼はすべての人造人間を殺すために旅をしていた。
当面の目的地は、今最も盛んに人造人間の研究が行われている地、倫敦。
その旅の途中で、ヒューリーは自分の身体の変容を確かめるべく、試しに木を殴ってみたのだ。
結果は、予想を遥かに上回るものだった。
大の大人さえ道具を使って叩き折る巨木を、一撃で、しかも拳のみで叩き折った。
本当に、自分は怪物になってしまったのだなと――ヒューリーは寂しく笑った。
名を、ヒューリー・フラットライナー。
つい最近人造人間になったばかりの"生まれたて"である。
彼はすべての人造人間を殺すために旅をしていた。
当面の目的地は、今最も盛んに人造人間の研究が行われている地、倫敦。
その旅の途中で、ヒューリーは自分の身体の変容を確かめるべく、試しに木を殴ってみたのだ。
結果は、予想を遥かに上回るものだった。
大の大人さえ道具を使って叩き折る巨木を、一撃で、しかも拳のみで叩き折った。
本当に、自分は怪物になってしまったのだなと――ヒューリーは寂しく笑った。
「ふん。そのくらいのことは、普通の人造人間でもできる」
ヒューリーの背後から声がした。
女性が一人、切り株に腰をおろし、煙草をふかしている。
まるで研ぎ澄まされた刃物のような美貌の持ち主だった。
切れ長の瞳には鋭敏な知性が垣間見られ、細くしなやかな肢体には豊潤な色香が漂っている。
人造人間ヒューリーの創造主にして、旅の仲間であるDrピーベリーだ。
女性が一人、切り株に腰をおろし、煙草をふかしている。
まるで研ぎ澄まされた刃物のような美貌の持ち主だった。
切れ長の瞳には鋭敏な知性が垣間見られ、細くしなやかな肢体には豊潤な色香が漂っている。
人造人間ヒューリーの創造主にして、旅の仲間であるDrピーベリーだ。
「感傷にひたっていたのか。珍しいな」
「別に、そういうわけじゃない。そういった感情は、エーデルの墓に置いて来た。
これからの戦いに、必要ないからな」
「わかっているのなら、それでいい。お前と私は、同じ目的を持っている。いわば共犯者だ。
お前が不調ならば、こっちが困る」
「心配はいらない。――人造人間はすべて殺す。それは、俺の中で揺るがない」
「別に、そういうわけじゃない。そういった感情は、エーデルの墓に置いて来た。
これからの戦いに、必要ないからな」
「わかっているのなら、それでいい。お前と私は、同じ目的を持っている。いわば共犯者だ。
お前が不調ならば、こっちが困る」
「心配はいらない。――人造人間はすべて殺す。それは、俺の中で揺るがない」
人造人間への復讐――
これまで自分は、人造人間に人生を狂わされてきた。
すべてのものを人造人間に奪われた。
今度は――こっちが奪う番だ。
だが――
近頃、感情の制御が出来ないことを、ヒューリーは自覚していた。
これも人造人間になったことの弊害だろうか?
"復讐"という感情に、自分の人間性が飲み込まれていくような――
ピーベリーがいっていたように、人造人間は生前の性格のまま生まれ来ることは絶対になく、どこかしらに欠陥を抱えている。
ヒューリーは生前の性格をほとんど宿したまま蘇った稀有な人造人間であるが――やはり、欠陥が存在していた。
彼は復讐に囚われていた。すべての行動の中心に復讐の二文字があった。
まるで自分が人造人間への復讐のためだけに動く機械になったかのようだった。
……しかし、それがなんだというのだろう。
人造人間になった今、未来への道は閉ざされた。
後は、この激しい感情を奴らにぶつけるしかないではないか。
今さら平穏な人生を送る気はない。
最期は、人造人間を殺しつくし、自らに刃を突き刺して朽ち果てる――それが、自分に残された未来だ。
これまで自分は、人造人間に人生を狂わされてきた。
すべてのものを人造人間に奪われた。
今度は――こっちが奪う番だ。
だが――
近頃、感情の制御が出来ないことを、ヒューリーは自覚していた。
これも人造人間になったことの弊害だろうか?
"復讐"という感情に、自分の人間性が飲み込まれていくような――
ピーベリーがいっていたように、人造人間は生前の性格のまま生まれ来ることは絶対になく、どこかしらに欠陥を抱えている。
ヒューリーは生前の性格をほとんど宿したまま蘇った稀有な人造人間であるが――やはり、欠陥が存在していた。
彼は復讐に囚われていた。すべての行動の中心に復讐の二文字があった。
まるで自分が人造人間への復讐のためだけに動く機械になったかのようだった。
……しかし、それがなんだというのだろう。
人造人間になった今、未来への道は閉ざされた。
後は、この激しい感情を奴らにぶつけるしかないではないか。
今さら平穏な人生を送る気はない。
最期は、人造人間を殺しつくし、自らに刃を突き刺して朽ち果てる――それが、自分に残された未来だ。
「そうか」
相変わらずの冷たい表情で、ピーベリーはそっけなく言った。
――ヒューリーは、この知り合って間もない旅の仲間について、よく知らない。
知っているのは――
彼女の目的――おそらくは人造人間への復讐のために、自分を人造人間として蘇らせたこと。
自分を使って復讐を遂げようとしていること。
それだけだ。
聞き出そうとしたこともあったが、まだ明かす時期ではないと、突っぱねられた。
だがおそらく、彼女も過去に凄絶な体験をしたに違いない。
怜悧な知性を感じさせる瞳の奥底には、暗澹とした感情が隠されていると、ヒューリーは確信していた。
人造人間との戦いで、それが明らかになるかもしれない。もしかしたら、明かされないまま自分は滅びるかもしれない。
どちらでもよかった。利害が一致し、人造人間を殺すため協力し合うことさえ出来れば、彼女の過去がどんなものだろうと
構わなかった。
ピーベリーは煙草を踏み消し、立ち上がった。ザックを背負い込みながら、言う。
――ヒューリーは、この知り合って間もない旅の仲間について、よく知らない。
知っているのは――
彼女の目的――おそらくは人造人間への復讐のために、自分を人造人間として蘇らせたこと。
自分を使って復讐を遂げようとしていること。
それだけだ。
聞き出そうとしたこともあったが、まだ明かす時期ではないと、突っぱねられた。
だがおそらく、彼女も過去に凄絶な体験をしたに違いない。
怜悧な知性を感じさせる瞳の奥底には、暗澹とした感情が隠されていると、ヒューリーは確信していた。
人造人間との戦いで、それが明らかになるかもしれない。もしかしたら、明かされないまま自分は滅びるかもしれない。
どちらでもよかった。利害が一致し、人造人間を殺すため協力し合うことさえ出来れば、彼女の過去がどんなものだろうと
構わなかった。
ピーベリーは煙草を踏み消し、立ち上がった。ザックを背負い込みながら、言う。
「お前は自分の人造人間の機能を知らない。だが安心しろ。創造主である私がみっちり教え込んでやる。
ありがたいことに、私は追われる身。人造人間の刺客に嫌というほど狙われるだろう。
その戦いの中で、まずは、人造人間の身体というものを理解しろ。
お前に備わっている機能について説明するのは、それからだ」
ありがたいことに、私は追われる身。人造人間の刺客に嫌というほど狙われるだろう。
その戦いの中で、まずは、人造人間の身体というものを理解しろ。
お前に備わっている機能について説明するのは、それからだ」
倫敦に辿り着くまで、まだまだかかる。
人造人間をすべて殺す道のりは、果てなく遠い。
ヒューリーは、親友であり仇となった青年を思い返す。
「レイス……」
人生をともに歩んできた、かけがえの無い親友。
……だが、ヒューリーの信頼は無惨にも裏切られた。
レイスは、ヒューリーから大事な人を奪い去っていった。
……エーデル。
まだ歳若い娘だった。彼女の前には輝かしい未来が広がっていた。
だが、レイス――人造人間の為にすべてが奪われた。命さえも!
その瞬間、ヒューリーの形相が、まるで憤怒が形になったような凄まじいものに変化する。
まるで悪魔だな――と、ピーベリーは思った。
「必ず、殺す。レイス――倫敦でお前を、必ず殺す。決して穏やかな眠りを与えはしない!」
人造人間をすべて殺す道のりは、果てなく遠い。
ヒューリーは、親友であり仇となった青年を思い返す。
「レイス……」
人生をともに歩んできた、かけがえの無い親友。
……だが、ヒューリーの信頼は無惨にも裏切られた。
レイスは、ヒューリーから大事な人を奪い去っていった。
……エーデル。
まだ歳若い娘だった。彼女の前には輝かしい未来が広がっていた。
だが、レイス――人造人間の為にすべてが奪われた。命さえも!
その瞬間、ヒューリーの形相が、まるで憤怒が形になったような凄まじいものに変化する。
まるで悪魔だな――と、ピーベリーは思った。
「必ず、殺す。レイス――倫敦でお前を、必ず殺す。決して穏やかな眠りを与えはしない!」
ヒューリーの絶叫に応えるように――暗雲が煌いた。
雷鳴が響く。
雷光が閃く。
今日もまたどこかで、人造人間が産声をあげる――
雷光が閃く。
今日もまたどこかで、人造人間が産声をあげる――