新ナメック星で、最長老となったムーリは密かにある決心をしていた。
フリーザ一味とベジータの手によって、七つの村がことごとく壊滅させられるという忌
まわしき悲劇。二度と現実にしてはならない。
ならば、講じるべきは外敵に対する絶対的な防衛手段。
フリーザ亡き今、若者らの武力だけでも自衛には十分かもしれないが、油断はできない。
いつまたドラゴンボールを狙って、第二のフリーザが攻めてくるか分からない。
ムーリはその日のうちに、他の六つの村を治める長老を招集する。
会議は長引いた。
格闘訓練を日常的に行い、青年たちの戦闘力を底上げしようという意見も出た。しかし、
アジッサの緑化活動はなによりも優先させたい事業。貴重な労働源である若者に、これ以
上の無理は強いたくはない。
いつでも使えるよう、ドラゴンボールを一箇所にまとめておくべきだとの主張もあった。
だが、ドラゴンボールは創造主を超える者についてはまるで無力。実行してもあまり意味
はないという結論に至った。
若者にも、ドラゴンボールにも頼れない。老いた七つの脳がこれでもかと悩む。
しまいには、一人の長老からこんな苦しまぎれのアイディアが出る始末。
「ムーリがフリーザくらい強くなれば、ドラゴンボールでたいていの敵は撃退できるんだ
がな」
どっ、と笑いが起こる。
いわれた本人までもが笑っていた。
結局、大した成果もなく会合はお開きとなった。話し合いはまだ今度に、という口約束
だけを残して……。
だがこの晩、ムーリはまるで寝つけなかった。生まれて初めてコーヒーを飲んだ子ども
のように、火照りが全身を駆けめぐっている。
「考えたこともなかった……。わしが強くなるだなんて……」
翌朝早く、ムーリは独りトレーニングにいそしんでいた。村外れで一心不乱に拳を突き
出している。
突然の奇行に、畑仕事に出かけようとしていた村人が訝しげに声をかける。
「ムーリ長老……いったい何をなさってるんですか?」
「新ナメック星の平和のためじゃ。わしが強くなれば、わしより弱い悪者はドラゴンボー
ルを使って無条件で倒せるようになるからな」
「は、はぁ……。では、なにかお手伝いできることはありませんか?」
「いや、かまわんでくれ。これはわしが独断でやっていること、皆を巻き込むつもりはな
い」
「……分かりました、でも、無理はなさらないでくださいね」
最長老の特訓は日夜続いた。
疲労が一杯になれば、すかさずデンデと同じ能力を持つ者に治療してもらう。サイヤ人
も裸足で逃げ出すほどの熱中ぶりであった。
一ヶ月を過ぎても、依然としてムーリの生活は変わらなかった。
ある日、数名の若者が特訓している彼のもとへやって来る。
「なんじゃ、今日は休日じゃなかったか? することがないなら、子供たちと遊んでやり
なさい」
「あの長老……俺たちにも特訓を手伝わせてくれませんか?」
「バカを申すな。前も他の者にいったが、わしはおまえたちを巻き込むつもりはない」
すると集団の一人が大きく首を振って、こう訴えた。
「巻き込むだなんて、そんな……。我々は、最長老様が黙々とトレーニングをする姿に心
を打たれたんです! 迷惑はかけません。どうか手伝わせてください!」
なかなかムーリは首を縦に振らなかった。だが若い熱意に根負けし、仕事に支障が出な
い程度にという条件つきで彼らが訓練に参加することを認めた。
やはり、トレーニングは仲間がいる方が効率がいい。
ムーリの進歩はめざましかった。
元来ナメック星人は基本能力ではサイヤ人の上をゆく優秀な種族。また、ムーリは先代
最長老から龍族としての才能を特に認められていた人物。年老いたとはいえ、今頃になっ
て素質が開花したのかもしれない。
一年も経つと、組み手において若者らと五分に渡り合えるレベルに成長。
三年目ともなると、新ナメック星において彼の相手が務まる者はいなくなっていた。
なおもムーリは止まらない。手を自らの頭上にかざし、セルフで潜在能力を引き出すと
いう荒技までやってのけた。
そして、村一番幼かったカルゴがめでたく成人を迎えた年──。
ムーリは完成していた。
老齢ながら、岩山さながらに盛り上がった筋肉。体皮からは、大人しく待っていられる
かとばかりに絶えず気力が溢れ出ている。
おそらくフルパワーを発揮すれば、あのフリーザにも劣らない戦闘能力を期待できるだ
ろう。
これで新ナメック星の平和は保障されたも同然。それを知らしめるためか、ムーリは星
中のナメック星人を一堂に集めた。
ざわつく大衆をよそに、ムーリは天に指を向ける。
そして一言。
「宇宙(そら)へ……」
とことんまで磨き上げた強さが引き金となり、肥大化した闘争本能。ムーリにはそれを
抑えることができなかった。
だが、異を唱える者などだれもいない。だれもがムーリの努力を知っており、だれもが
ムーリの完成した肉体に魅了されていた。すでに彼のカリスマは、親である先代をはるか
に凌ぐものとなっていた。
ポルンガに頼めば、ムーリよりも強い生物を避けることなどたやすい。弱者だけを的確
に狙い、そして支配する。
第二のフリーザが誕生する日は近い。
お わ り
フリーザ一味とベジータの手によって、七つの村がことごとく壊滅させられるという忌
まわしき悲劇。二度と現実にしてはならない。
ならば、講じるべきは外敵に対する絶対的な防衛手段。
フリーザ亡き今、若者らの武力だけでも自衛には十分かもしれないが、油断はできない。
いつまたドラゴンボールを狙って、第二のフリーザが攻めてくるか分からない。
ムーリはその日のうちに、他の六つの村を治める長老を招集する。
会議は長引いた。
格闘訓練を日常的に行い、青年たちの戦闘力を底上げしようという意見も出た。しかし、
アジッサの緑化活動はなによりも優先させたい事業。貴重な労働源である若者に、これ以
上の無理は強いたくはない。
いつでも使えるよう、ドラゴンボールを一箇所にまとめておくべきだとの主張もあった。
だが、ドラゴンボールは創造主を超える者についてはまるで無力。実行してもあまり意味
はないという結論に至った。
若者にも、ドラゴンボールにも頼れない。老いた七つの脳がこれでもかと悩む。
しまいには、一人の長老からこんな苦しまぎれのアイディアが出る始末。
「ムーリがフリーザくらい強くなれば、ドラゴンボールでたいていの敵は撃退できるんだ
がな」
どっ、と笑いが起こる。
いわれた本人までもが笑っていた。
結局、大した成果もなく会合はお開きとなった。話し合いはまだ今度に、という口約束
だけを残して……。
だがこの晩、ムーリはまるで寝つけなかった。生まれて初めてコーヒーを飲んだ子ども
のように、火照りが全身を駆けめぐっている。
「考えたこともなかった……。わしが強くなるだなんて……」
翌朝早く、ムーリは独りトレーニングにいそしんでいた。村外れで一心不乱に拳を突き
出している。
突然の奇行に、畑仕事に出かけようとしていた村人が訝しげに声をかける。
「ムーリ長老……いったい何をなさってるんですか?」
「新ナメック星の平和のためじゃ。わしが強くなれば、わしより弱い悪者はドラゴンボー
ルを使って無条件で倒せるようになるからな」
「は、はぁ……。では、なにかお手伝いできることはありませんか?」
「いや、かまわんでくれ。これはわしが独断でやっていること、皆を巻き込むつもりはな
い」
「……分かりました、でも、無理はなさらないでくださいね」
最長老の特訓は日夜続いた。
疲労が一杯になれば、すかさずデンデと同じ能力を持つ者に治療してもらう。サイヤ人
も裸足で逃げ出すほどの熱中ぶりであった。
一ヶ月を過ぎても、依然としてムーリの生活は変わらなかった。
ある日、数名の若者が特訓している彼のもとへやって来る。
「なんじゃ、今日は休日じゃなかったか? することがないなら、子供たちと遊んでやり
なさい」
「あの長老……俺たちにも特訓を手伝わせてくれませんか?」
「バカを申すな。前も他の者にいったが、わしはおまえたちを巻き込むつもりはない」
すると集団の一人が大きく首を振って、こう訴えた。
「巻き込むだなんて、そんな……。我々は、最長老様が黙々とトレーニングをする姿に心
を打たれたんです! 迷惑はかけません。どうか手伝わせてください!」
なかなかムーリは首を縦に振らなかった。だが若い熱意に根負けし、仕事に支障が出な
い程度にという条件つきで彼らが訓練に参加することを認めた。
やはり、トレーニングは仲間がいる方が効率がいい。
ムーリの進歩はめざましかった。
元来ナメック星人は基本能力ではサイヤ人の上をゆく優秀な種族。また、ムーリは先代
最長老から龍族としての才能を特に認められていた人物。年老いたとはいえ、今頃になっ
て素質が開花したのかもしれない。
一年も経つと、組み手において若者らと五分に渡り合えるレベルに成長。
三年目ともなると、新ナメック星において彼の相手が務まる者はいなくなっていた。
なおもムーリは止まらない。手を自らの頭上にかざし、セルフで潜在能力を引き出すと
いう荒技までやってのけた。
そして、村一番幼かったカルゴがめでたく成人を迎えた年──。
ムーリは完成していた。
老齢ながら、岩山さながらに盛り上がった筋肉。体皮からは、大人しく待っていられる
かとばかりに絶えず気力が溢れ出ている。
おそらくフルパワーを発揮すれば、あのフリーザにも劣らない戦闘能力を期待できるだ
ろう。
これで新ナメック星の平和は保障されたも同然。それを知らしめるためか、ムーリは星
中のナメック星人を一堂に集めた。
ざわつく大衆をよそに、ムーリは天に指を向ける。
そして一言。
「宇宙(そら)へ……」
とことんまで磨き上げた強さが引き金となり、肥大化した闘争本能。ムーリにはそれを
抑えることができなかった。
だが、異を唱える者などだれもいない。だれもがムーリの努力を知っており、だれもが
ムーリの完成した肉体に魅了されていた。すでに彼のカリスマは、親である先代をはるか
に凌ぐものとなっていた。
ポルンガに頼めば、ムーリよりも強い生物を避けることなどたやすい。弱者だけを的確
に狙い、そして支配する。
第二のフリーザが誕生する日は近い。
お わ り