三つ子の警察官“マウス”に連れ去られたいじめっ子たちを救うべく、シコルスキーと
ルミナはひた走る。
シコルスキーはオリバがよこした忠告を思い返していた。
「二人ともよく聞いておけ。マウスのコンビネーションは一種の“化学反応”に例えられ
るほどに強力らしい。へヴィ級ボクサーの上位ランカーをたやすく仕留めたという逸話も
あるほどだ」
どうやらマウスは想像以上の強敵のようだ。生唾を飲み込むシコルスキー。
「や、やっぱり相手が三人じゃあ、いくら俺でも不利かもな。なぁ大家さんも一緒に来て
くれないか……?」
オリバは満面の笑みを浮かべた。ただし前腕と上腕が膨張し、拳は異常な硬度を以って
固められている。失禁寸前に陥るシコルスキー。これ以上弱音を吐けば、マウスと戦う前
に火葬場に送られてしまう。
「嘘、嘘だよ、大家さん! ロシアンジョークに決まってるだろう!」
「ならいいがな。アジトの場所をいうぞ。彼らのアジトである“交番”の場所は──」
「う、嘘だろ……ッ!」
マウスのアジトの場所を聞き、絶句するシコルスキー。
「シコルスキーさんっ! あそこですっ!」
ルミナが自分を呼ぶ声が、シコルスキーを過去から引き戻す。
ルミナの指差した方角には建物が立っていた。
当初シコルスキーはマウスのアジトである“交番”は、倉庫のようなところだと勝手に
想像していた。ところがそうではなかった。
彼らは本当に、本物の交番をアジトにしていたのだ。
「行きましょう、シコルスキーさん!」
「よ、よし……!」
堂々と歩くルミナに対し、腰を引きながら歩くシコルスキー。彼は交番が昔から苦手で
あった。やましい過去があるわけではないが、正義を掲げる国家権力の最前線基地である
交番は、常に敗北の人生を過ごすシコルスキーにはあまりにも眩しすぎた。
しかし、今はむしろ正義はこちら側にある。勇気を振り絞って、シコルスキーとルミナ
は交番に足を踏み入れた。
ルミナはひた走る。
シコルスキーはオリバがよこした忠告を思い返していた。
「二人ともよく聞いておけ。マウスのコンビネーションは一種の“化学反応”に例えられ
るほどに強力らしい。へヴィ級ボクサーの上位ランカーをたやすく仕留めたという逸話も
あるほどだ」
どうやらマウスは想像以上の強敵のようだ。生唾を飲み込むシコルスキー。
「や、やっぱり相手が三人じゃあ、いくら俺でも不利かもな。なぁ大家さんも一緒に来て
くれないか……?」
オリバは満面の笑みを浮かべた。ただし前腕と上腕が膨張し、拳は異常な硬度を以って
固められている。失禁寸前に陥るシコルスキー。これ以上弱音を吐けば、マウスと戦う前
に火葬場に送られてしまう。
「嘘、嘘だよ、大家さん! ロシアンジョークに決まってるだろう!」
「ならいいがな。アジトの場所をいうぞ。彼らのアジトである“交番”の場所は──」
「う、嘘だろ……ッ!」
マウスのアジトの場所を聞き、絶句するシコルスキー。
「シコルスキーさんっ! あそこですっ!」
ルミナが自分を呼ぶ声が、シコルスキーを過去から引き戻す。
ルミナの指差した方角には建物が立っていた。
当初シコルスキーはマウスのアジトである“交番”は、倉庫のようなところだと勝手に
想像していた。ところがそうではなかった。
彼らは本当に、本物の交番をアジトにしていたのだ。
「行きましょう、シコルスキーさん!」
「よ、よし……!」
堂々と歩くルミナに対し、腰を引きながら歩くシコルスキー。彼は交番が昔から苦手で
あった。やましい過去があるわけではないが、正義を掲げる国家権力の最前線基地である
交番は、常に敗北の人生を過ごすシコルスキーにはあまりにも眩しすぎた。
しかし、今はむしろ正義はこちら側にある。勇気を振り絞って、シコルスキーとルミナ
は交番に足を踏み入れた。
狭い交番の中には、事務机に腰をかけた警官が一人いるだけだ。マウスではない。
「ん、なにか?」
ここを訪れた経緯をいったいどう説明したものかと、シコルスキーはしどろもどろにな
ってしまう。
「あ、いや……えぇと……」
「おまわりさん! ここにマウスっていう三人組がいるはずなんだ! 同級生がそいつら
にさらわれたんです!」
単刀直入に用件を切り込むルミナ。ルミナと一緒に来て良かったと、心底からほっとす
るシコルスキー。同時につくづく己が情けなくなった。
しかし、警官の回答は冷たかった。
「マウス? ……知らんねぇ。坊や、なにか勘違いしてるんじゃないか?」
「いえ、絶対にこの交番にいるはずなんですっ!」
大人顔負けの気迫。今のルミナをいじめられっ子だといっても誰一人信用しないだろう。
だが警官とて、職業柄こうしたアクシデントには慣れている。
驚くことにルミナの鼻先に警棒を突きつけ、鋭く恫喝してきた。
「もう一度だけいおう。坊や、君は勘違いをしている。生えたばかりの永久歯を差し歯に
したくはないだろう?」
青ざめ、後ずさりするルミナ。マウスのような存在を知ったばかりとはいえ、正義の味
方だと信じていた“おまわりさん”にこのような仕打ちを受けるとは完全に予想外だった。
今の警告にルミナ以上にびびったシコルスキーはあわててルミナを連れて帰ろうとする。
「ルミナ、怪我しないうちに帰ろう。もうこんなところにいても仕方ない」
ところがこれを耳にした警官は、なぜか態度を豹変させる。
「毛がない、だと……! 毛根がない、だとォ……ッ!」
「え?」
警官は己の帽子を床に叩きつけ、髪が一本もないスキンヘッドを晒しながら、
「君はいきなり初対面である私の身体的欠点に触れてしまった……。どうしたものだろう。
穏便に君らを追い返そうとした私に対してこの侮辱……とても許せるものではない。どう
したものだろうッ!」
怒りにまかせて警棒を構えた。あわてるシコルスキー。
「空耳にも程があるだろォォォ!」
「簡単に倒されてくれるなよ。私が警官になったのはこういうシチュエーションに出会い
たかったからだ」
警棒を鉛筆でも回すように高速回転させ、威嚇するスキンヘッド警官。
「制裁ッ!」
いきなり目を突いてきた。かろうじてかわすシコルスキー。
すかさず警官は追撃に移る。警棒を大きく振りかぶり、脳天めがけて勢いよく振り下ろ
した。
──だが。
ヒットしたはずの警棒は消え失せ、一瞬にしてシコルスキーの手に渡っていた。
「ふぅ……警棒の使い手が柳だったら、こうはいかなかったろうな」
「貴様ァ……! 公務執行妨害、名誉毀損、さらには窃盗ッ! ──重罪だッ!」
「ならばついでに器物破損も追加しておいてくれ」
シコルスキーが親指に力を込めると、まるでスプーン曲げのように警棒が折れ曲がった。
むろん超能力などではなく、純粋な指の力による力技。もっとも「人間が持ちうる能力を
超えている」という点では一種の超能力といえるかもしれない。
「バカな、指だけで、特殊合金製の警棒を……ッ!」
警棒を『U』の字にへし折った右手が、今度は警官の喉を掴んだ。
「オイ、もし俺がこのまま力を入れたらどうなるか、分かるな?」
「よせ、参った……私の敗けだ、やめてくれッ!」
「マウスの居場所を吐いてもらおうか」
「ち、地下だ……。部屋の隅に布が敷かれているだろう。あれを引っぺがしてみろ……地
下へのドアが現れる……。マ、マウスはいつもあそこで“再教育”をする……」
ルミナがいうとおりに布をどかすと、部屋の隅にはマンホールの蓋のような地下への入
り口が隠されていた。
「ん、なにか?」
ここを訪れた経緯をいったいどう説明したものかと、シコルスキーはしどろもどろにな
ってしまう。
「あ、いや……えぇと……」
「おまわりさん! ここにマウスっていう三人組がいるはずなんだ! 同級生がそいつら
にさらわれたんです!」
単刀直入に用件を切り込むルミナ。ルミナと一緒に来て良かったと、心底からほっとす
るシコルスキー。同時につくづく己が情けなくなった。
しかし、警官の回答は冷たかった。
「マウス? ……知らんねぇ。坊や、なにか勘違いしてるんじゃないか?」
「いえ、絶対にこの交番にいるはずなんですっ!」
大人顔負けの気迫。今のルミナをいじめられっ子だといっても誰一人信用しないだろう。
だが警官とて、職業柄こうしたアクシデントには慣れている。
驚くことにルミナの鼻先に警棒を突きつけ、鋭く恫喝してきた。
「もう一度だけいおう。坊や、君は勘違いをしている。生えたばかりの永久歯を差し歯に
したくはないだろう?」
青ざめ、後ずさりするルミナ。マウスのような存在を知ったばかりとはいえ、正義の味
方だと信じていた“おまわりさん”にこのような仕打ちを受けるとは完全に予想外だった。
今の警告にルミナ以上にびびったシコルスキーはあわててルミナを連れて帰ろうとする。
「ルミナ、怪我しないうちに帰ろう。もうこんなところにいても仕方ない」
ところがこれを耳にした警官は、なぜか態度を豹変させる。
「毛がない、だと……! 毛根がない、だとォ……ッ!」
「え?」
警官は己の帽子を床に叩きつけ、髪が一本もないスキンヘッドを晒しながら、
「君はいきなり初対面である私の身体的欠点に触れてしまった……。どうしたものだろう。
穏便に君らを追い返そうとした私に対してこの侮辱……とても許せるものではない。どう
したものだろうッ!」
怒りにまかせて警棒を構えた。あわてるシコルスキー。
「空耳にも程があるだろォォォ!」
「簡単に倒されてくれるなよ。私が警官になったのはこういうシチュエーションに出会い
たかったからだ」
警棒を鉛筆でも回すように高速回転させ、威嚇するスキンヘッド警官。
「制裁ッ!」
いきなり目を突いてきた。かろうじてかわすシコルスキー。
すかさず警官は追撃に移る。警棒を大きく振りかぶり、脳天めがけて勢いよく振り下ろ
した。
──だが。
ヒットしたはずの警棒は消え失せ、一瞬にしてシコルスキーの手に渡っていた。
「ふぅ……警棒の使い手が柳だったら、こうはいかなかったろうな」
「貴様ァ……! 公務執行妨害、名誉毀損、さらには窃盗ッ! ──重罪だッ!」
「ならばついでに器物破損も追加しておいてくれ」
シコルスキーが親指に力を込めると、まるでスプーン曲げのように警棒が折れ曲がった。
むろん超能力などではなく、純粋な指の力による力技。もっとも「人間が持ちうる能力を
超えている」という点では一種の超能力といえるかもしれない。
「バカな、指だけで、特殊合金製の警棒を……ッ!」
警棒を『U』の字にへし折った右手が、今度は警官の喉を掴んだ。
「オイ、もし俺がこのまま力を入れたらどうなるか、分かるな?」
「よせ、参った……私の敗けだ、やめてくれッ!」
「マウスの居場所を吐いてもらおうか」
「ち、地下だ……。部屋の隅に布が敷かれているだろう。あれを引っぺがしてみろ……地
下へのドアが現れる……。マ、マウスはいつもあそこで“再教育”をする……」
ルミナがいうとおりに布をどかすと、部屋の隅にはマンホールの蓋のような地下への入
り口が隠されていた。
シコルスキーたちがマウスのアジトを突き止めたのと同時刻、しけい荘では焼き肉パー
ティーが行われていた。
スペックは肉どころか鉄板まで食べようとしたのでオリバに沈められ、ドリアンはキャ
ンディを焼いたら溶けてしまい号泣している。柳は持参したマムシやヤドクガエルを焼い
て食べ食中毒を起こし、ゲバルは「海賊だったから魚の方が好き」という理由でサンマを
焼く始末。
六者六様に楽しんでいたが、ふとドイルが缶ビール片手にオリバに尋ねた。
「ところで大家さん、シコルスキーはどうしたんだ? あいつ楽しみにしてたのに」
「彼は今、口を掃除に行っているよ」
「口を? うがい薬でも買いに行ったのか」
「ン~……まぁそういうことにしておこう」
オリバはあえて本当のことは話さず、独りごちた。
「シコルスキーよ、君は今試されている。乗り越えられるかは己次第だ。しかしマウスを
退けたとしても真の黒幕は……」
ぐいっと一息に缶ビールを飲み干すオリバであった。
ティーが行われていた。
スペックは肉どころか鉄板まで食べようとしたのでオリバに沈められ、ドリアンはキャ
ンディを焼いたら溶けてしまい号泣している。柳は持参したマムシやヤドクガエルを焼い
て食べ食中毒を起こし、ゲバルは「海賊だったから魚の方が好き」という理由でサンマを
焼く始末。
六者六様に楽しんでいたが、ふとドイルが缶ビール片手にオリバに尋ねた。
「ところで大家さん、シコルスキーはどうしたんだ? あいつ楽しみにしてたのに」
「彼は今、口を掃除に行っているよ」
「口を? うがい薬でも買いに行ったのか」
「ン~……まぁそういうことにしておこう」
オリバはあえて本当のことは話さず、独りごちた。
「シコルスキーよ、君は今試されている。乗り越えられるかは己次第だ。しかしマウスを
退けたとしても真の黒幕は……」
ぐいっと一息に缶ビールを飲み干すオリバであった。