空を見て! スターマンだよ! きっと僕らに会いたがってるんだね!」
彼は地上に降り立ちたかったが、同時に怖がってもいた。自分が子供達の心を狂わせてしまうのではと。
第三話 『INTERVIEW WITH THE VAMPIRE』
「寄宿舎に着いたのはいいけど……う~ん、どうしよう……」
住み慣れし我が家、それは銀成学園寄宿舎。
その正面玄関前でまひろは仰々しく腕を組んで頭を捻っていた。
眠気を誘う50分の授業を六度耐え切って一日を終え、あとは門をくぐれば、迎えるは週末の夜。
何がそんなに彼女を悩ませるのか。
その正面玄関前でまひろは仰々しく腕を組んで頭を捻っていた。
眠気を誘う50分の授業を六度耐え切って一日を終え、あとは門をくぐれば、迎えるは週末の夜。
何がそんなに彼女を悩ませるのか。
答えは三つ。
ひとつは――
オドオドとした様子で横のまひろと目の前の寄宿舎を交互に見ている長身の外国人女性。
己が吸血鬼であるという事実をひた隠しにしたままのセラス・ヴィクトリアだ。
オドオドとした様子で横のまひろと目の前の寄宿舎を交互に見ている長身の外国人女性。
己が吸血鬼であるという事実をひた隠しにしたままのセラス・ヴィクトリアだ。
もうひとつは――
寄宿舎の広さである。
相当な築年数と思われる年季の入った木造建築で、二階建てと高さこそ無いものの、敷地面積は
そこいらのマンションにも負けてはいない。
学校までの距離の問題や家庭の都合等、実家からの通学が難しい生徒達の暮らしを一手に引き受けて
いるのだから当然と言えるのかもしれないが。
つまり、セラスをまひろの部屋に連れて行くという事、イコール、異邦人であるセラスがこの広大な
寄宿舎内を歩き回らなければならないのだ。
寄宿舎の広さである。
相当な築年数と思われる年季の入った木造建築で、二階建てと高さこそ無いものの、敷地面積は
そこいらのマンションにも負けてはいない。
学校までの距離の問題や家庭の都合等、実家からの通学が難しい生徒達の暮らしを一手に引き受けて
いるのだから当然と言えるのかもしれないが。
つまり、セラスをまひろの部屋に連れて行くという事、イコール、異邦人であるセラスがこの広大な
寄宿舎内を歩き回らなければならないのだ。
そして、最後のひとつ――
寄宿舎内に住まう多数の生徒達の“眼”。
誰の眼にも触れられずにまひろの部屋までセラスを連れて行けるのかと考えれば、甚だ心もとない。
幸いにも夕食時間の真っ最中である為、大半の生徒は食堂に移動しているのだろうが、それでも誰かに
遭遇する確立の方が高いだろう。
ただでさえ人目を惹く金髪碧眼白皙の外国人なのだ。
通学生の友人を連れて歩くのとは訳が違う。
寄宿舎内に住まう多数の生徒達の“眼”。
誰の眼にも触れられずにまひろの部屋までセラスを連れて行けるのかと考えれば、甚だ心もとない。
幸いにも夕食時間の真っ最中である為、大半の生徒は食堂に移動しているのだろうが、それでも誰かに
遭遇する確立の方が高いだろう。
ただでさえ人目を惹く金髪碧眼白皙の外国人なのだ。
通学生の友人を連れて歩くのとは訳が違う。
「どうしたらいいかなぁ~。変装……? 窓から入る……? セラスさんを箱に入れる……? う~~~ん」
頭だけではなく遂には身体まで捻りながら唸り続けるまひろ。
そんな彼女にセラスが遠慮がちに話しかけた。
「あ、あの、まひろちゃん。ちょっといい事を思いついたの。たぶん上手くいくとおもうんだけど……」
「えっ? なになに? どうするの?」
ウェーブのかかった茶髪から見え隠れする耳が内緒話を聞くようにセラスの口元に寄せられる。
「あのね、出来るだけいつも通り部屋に戻ってくれないかな。まひろちゃん一人で」
おかしな話だ。どうやったら彼女を見られないように部屋に連れて行けるかと悩んでいるというのに。
予想外の不可解な提案に、まひろは至極当然の疑問を返す。
「でも……セラスさんは?」
「私なら大丈夫。ね?」
セラスはまひろの肩をポンポンと叩きながら、仲良く雨に打たれて乱れてしまった彼女の前髪を
優しく整える。
斗貴子とはまた違う雰囲気の“お姉ちゃん”を肌で感じ、じんわりと喜びが湧き出てくるが、
今はそんな場合ではない。
「う、うん……」
セラスのやけに自信たっぷりな様子を見て思わず頷いてしまったが、その意図はわからないし、
入口の前に置いていくのも心配だ。
まひろは気が進まぬままに正面入口から玄関へと足を運ぶ。
何度も何度も立ち止まって、セラスの方を振り返りながら。
頭だけではなく遂には身体まで捻りながら唸り続けるまひろ。
そんな彼女にセラスが遠慮がちに話しかけた。
「あ、あの、まひろちゃん。ちょっといい事を思いついたの。たぶん上手くいくとおもうんだけど……」
「えっ? なになに? どうするの?」
ウェーブのかかった茶髪から見え隠れする耳が内緒話を聞くようにセラスの口元に寄せられる。
「あのね、出来るだけいつも通り部屋に戻ってくれないかな。まひろちゃん一人で」
おかしな話だ。どうやったら彼女を見られないように部屋に連れて行けるかと悩んでいるというのに。
予想外の不可解な提案に、まひろは至極当然の疑問を返す。
「でも……セラスさんは?」
「私なら大丈夫。ね?」
セラスはまひろの肩をポンポンと叩きながら、仲良く雨に打たれて乱れてしまった彼女の前髪を
優しく整える。
斗貴子とはまた違う雰囲気の“お姉ちゃん”を肌で感じ、じんわりと喜びが湧き出てくるが、
今はそんな場合ではない。
「う、うん……」
セラスのやけに自信たっぷりな様子を見て思わず頷いてしまったが、その意図はわからないし、
入口の前に置いていくのも心配だ。
まひろは気が進まぬままに正面入口から玄関へと足を運ぶ。
何度も何度も立ち止まって、セラスの方を振り返りながら。
「あ、おかえりー。遅かったねー」
「おう、武藤。下げられちまうから早く食堂行った方がいいぞ」
やはり予想通りである。
自室へと向かう道のり、数は少ないが早めに食事を終えた生徒やこれから食堂へ向かう生徒がすれ違い、
声を掛けてきた。
その度にまひろは「え? あっ、あー。う、うん。アハハ」などとひどく挙動不審な返答でビクリと
反応してしまう。
更には何度と無く不安げに後ろを振り返る。
もしかしたらと思ったが、まひろの後を付いてくる様子は無い。
そんな怪しさ満点の動作を頻繁に繰り返しているうちに、たどり着いたのは自室の前。
セラスに何のアクションも見られないまま、まひろ一人が自分の部屋に着いてしまった。
(もう一度、玄関に戻ってみようかな。でも「いつも通りに戻って」って言ってたし……)
入口の前にセラスを置いてきてしまっているのだ。
まひろはそれでも尚、しばらく戸の前で自分が歩いてきた廊下の先を未練たっぷりに眺めている。
「セラスさん、どうするつもりなんだろう。大丈夫かなぁ……」
しかし、いつまでも部屋の前に立っていても事態が好転する訳ではない。
ためらいながらも、まひろは自室の戸を開けて中に入った。
そして、真っ先に眼に飛び込んできたものは――
自室へと向かう道のり、数は少ないが早めに食事を終えた生徒やこれから食堂へ向かう生徒がすれ違い、
声を掛けてきた。
その度にまひろは「え? あっ、あー。う、うん。アハハ」などとひどく挙動不審な返答でビクリと
反応してしまう。
更には何度と無く不安げに後ろを振り返る。
もしかしたらと思ったが、まひろの後を付いてくる様子は無い。
そんな怪しさ満点の動作を頻繁に繰り返しているうちに、たどり着いたのは自室の前。
セラスに何のアクションも見られないまま、まひろ一人が自分の部屋に着いてしまった。
(もう一度、玄関に戻ってみようかな。でも「いつも通りに戻って」って言ってたし……)
入口の前にセラスを置いてきてしまっているのだ。
まひろはそれでも尚、しばらく戸の前で自分が歩いてきた廊下の先を未練たっぷりに眺めている。
「セラスさん、どうするつもりなんだろう。大丈夫かなぁ……」
しかし、いつまでも部屋の前に立っていても事態が好転する訳ではない。
ためらいながらも、まひろは自室の戸を開けて中に入った。
そして、真っ先に眼に飛び込んできたものは――
「ハハ、ども……」
――申し訳無さそうに笑うセラスの顔。しかも、どアップで。
「うわっ! びっくりしたぁ!」
本来そこにいる筈の無い、セラスの突然の出現。
流石のまひろも驚愕のあまり後ろに飛び退き、背を戸に打ちつけた。
「ご、ごめんね、驚かせちゃって」
慌てて謝るセラスに向かって、まひろは大きく丸い眼をいっぱいに開いて矢継ぎ早に尋ねる。
「どうやってここまで来たの!? いつの間に!? 何で部屋の中にいるの!?」
「んっ、うぅ……」
セラスは言葉に詰まった。
まさか“外からまひろの足音を聞き分けて部屋の位置を割り出し、彼女が戸を開けた瞬間に眼にも
留まらぬ速さで寄宿舎内を走り抜け、部屋の中に飛び込んだ”とは言えない。
自分はただの外国人。吸血鬼? 何それ、食べれるの?
この親切で人の好い正直そうな女の子ならあるいは、とは思う。
だが、やはり秘密にしておいた方が何かと丸く収まるだろう。それはまひろの為でもあるのだ。
「ええっと、そのぅ、つまり……。ま、窓! 何とな~くまひろちゃんっぽい窓があったの!
そ、それで忍び込んでみたら、ちょうどまひろちゃんが入ってきたとこでね。アハ、アハハ……」
脳髄をフル回転させた割には、何とも苦しく稚拙極まる嘘しか出てこない。
まひろは最初、キョトンとした顔でセラスの怪しい説明を聞いていたが、やがて感心混じりの
笑顔で彼女に近づいた。
「そうなんだぁ! しばらく住んでたら窓にも私っぽさが出るんだね。でも、良かった。誰にも
見られなくて――」
まるでそうしたくてウズウズしていたと言わんばかりに、まひろはセラスに飛びつき、その豊満な身体を
ギュッと抱き締める。
本来そこにいる筈の無い、セラスの突然の出現。
流石のまひろも驚愕のあまり後ろに飛び退き、背を戸に打ちつけた。
「ご、ごめんね、驚かせちゃって」
慌てて謝るセラスに向かって、まひろは大きく丸い眼をいっぱいに開いて矢継ぎ早に尋ねる。
「どうやってここまで来たの!? いつの間に!? 何で部屋の中にいるの!?」
「んっ、うぅ……」
セラスは言葉に詰まった。
まさか“外からまひろの足音を聞き分けて部屋の位置を割り出し、彼女が戸を開けた瞬間に眼にも
留まらぬ速さで寄宿舎内を走り抜け、部屋の中に飛び込んだ”とは言えない。
自分はただの外国人。吸血鬼? 何それ、食べれるの?
この親切で人の好い正直そうな女の子ならあるいは、とは思う。
だが、やはり秘密にしておいた方が何かと丸く収まるだろう。それはまひろの為でもあるのだ。
「ええっと、そのぅ、つまり……。ま、窓! 何とな~くまひろちゃんっぽい窓があったの!
そ、それで忍び込んでみたら、ちょうどまひろちゃんが入ってきたとこでね。アハ、アハハ……」
脳髄をフル回転させた割には、何とも苦しく稚拙極まる嘘しか出てこない。
まひろは最初、キョトンとした顔でセラスの怪しい説明を聞いていたが、やがて感心混じりの
笑顔で彼女に近づいた。
「そうなんだぁ! しばらく住んでたら窓にも私っぽさが出るんだね。でも、良かった。誰にも
見られなくて――」
まるでそうしたくてウズウズしていたと言わんばかりに、まひろはセラスに飛びつき、その豊満な身体を
ギュッと抱き締める。
「――もう安心だよ! ゆっくりしていってね!」