古びたロッカーがぽつんと置かれていた。
突如として、しけい荘に出現したスチール製の直方体。正体や背景は一切不明。目撃者
もいない。分かることはただひとつ「何も分からない」ということだけ。
未知なる侵略者に対し、オリバを除く五人はとりあえず包囲することにした。しかし、
取り囲むだけでは謎は解けない。緊張が汗を増し、水分と体力が奪われる。
「マドロッコシイゼ、俺ガ拳(フィスト)デブッ壊シテヤル!」
「むやみに刺激を与えるのは止めた方がいい。爆発物が入っていればアパートごとドカン、
ですよ」
はやるスペックに、冷静に忠告する柳。たしかに中身が分からない以上、粗暴な接触は
得策ではない。これを瞬時に理解したのか、舌打ちしてスペックも引き下がる。
「では私が仕掛けてみよう」
ドリアンが髭を撃ち込む。が、ロッカーから反応はない。
「ふむ、やはりこの程度ではダメか」
「タネを見破るんなら、やっぱり中を確認するのが一番良いな」
こういいながらドイルはシコルスキーに視線を移した。それにつれて皆がシコルスキー
を見やった。
「え、もしかして俺!?」
返事はない。殺気だけが返ってくる。無言の脅迫。
「ふふ……まさに予想通りだ……」
ロッカーに歩み寄るシコルスキーの表情は、覚悟を決めているようにも諦めているよう
にも見えた。
突如として、しけい荘に出現したスチール製の直方体。正体や背景は一切不明。目撃者
もいない。分かることはただひとつ「何も分からない」ということだけ。
未知なる侵略者に対し、オリバを除く五人はとりあえず包囲することにした。しかし、
取り囲むだけでは謎は解けない。緊張が汗を増し、水分と体力が奪われる。
「マドロッコシイゼ、俺ガ拳(フィスト)デブッ壊シテヤル!」
「むやみに刺激を与えるのは止めた方がいい。爆発物が入っていればアパートごとドカン、
ですよ」
はやるスペックに、冷静に忠告する柳。たしかに中身が分からない以上、粗暴な接触は
得策ではない。これを瞬時に理解したのか、舌打ちしてスペックも引き下がる。
「では私が仕掛けてみよう」
ドリアンが髭を撃ち込む。が、ロッカーから反応はない。
「ふむ、やはりこの程度ではダメか」
「タネを見破るんなら、やっぱり中を確認するのが一番良いな」
こういいながらドイルはシコルスキーに視線を移した。それにつれて皆がシコルスキー
を見やった。
「え、もしかして俺!?」
返事はない。殺気だけが返ってくる。無言の脅迫。
「ふふ……まさに予想通りだ……」
ロッカーに歩み寄るシコルスキーの表情は、覚悟を決めているようにも諦めているよう
にも見えた。
シコルスキーとロッカーが向き合う。ふと後ろを振り向くと、他の四人は全員地面に伏
せている。開けた瞬間にロッカーが爆発することを危惧しているためだ。
「くそ……みんなひどすぎる……」
取っ手に触れるや否や、不安がピークに達し、これまでの彼の人生が猛スピードで頭の
中を駆けめぐった。
殴られる、蹴られる、焼かれる、失神する、はもはや日常茶飯事。日本刀で斬られたこ
ともあったし、上空からアパートに墜落したこともあった。そういえば毒で死にかけたり
もした。最近では、音速でずっこけた。
よく今まで生きてこれたな、と自分で自分が恐ろしくなるシコルスキーであった。
すると突然、
「ヤイサホーッ!」
勢いよくロッカーの扉が開かれた。
せている。開けた瞬間にロッカーが爆発することを危惧しているためだ。
「くそ……みんなひどすぎる……」
取っ手に触れるや否や、不安がピークに達し、これまでの彼の人生が猛スピードで頭の
中を駆けめぐった。
殴られる、蹴られる、焼かれる、失神する、はもはや日常茶飯事。日本刀で斬られたこ
ともあったし、上空からアパートに墜落したこともあった。そういえば毒で死にかけたり
もした。最近では、音速でずっこけた。
よく今まで生きてこれたな、と自分で自分が恐ろしくなるシコルスキーであった。
すると突然、
「ヤイサホーッ!」
勢いよくロッカーの扉が開かれた。
まともに激突し鼻血まみれでシコルスキーがダウンすると同時に、正体不明のロッカー
からこれまた正体不明の男が飛び出した。
浅黒い肌に不精髭ながら凛々しい顔立ち。頭には真夏の海を連想させる青(ブルー)の
バンダナを巻きつけている。野性味あふれる外見は、小汚いロッカーとはあまりにも不釣
り合いだ。
「おぉ、すまない。大丈夫か」
男はシコルスキーに手を差し伸べるが、シコルスキーはその手を借りずに自力で起き上
がった。
「おまえは誰だ」
「私か? 私は純・ゲバル、今日からこのアパートに暮らすことになった者だ。よろしく
な、ブラザー」
突然の入居宣言。ゲバルと名乗った男は、今度は握手を求めてきた。
「さぁ、友好の証だ」
「ふん、どうせ手を握った瞬間に関節技を極める気だろう。お前の喧嘩は遅れてるな」
「おいおい、そんな卑劣な人間がいるわけないだろう」
いるんだなこれが、とドリアン、柳、ドイル、スペックは即座に寂海王を思い浮かべた。
「とにかくだ。しけい荘の部屋は全部埋まってる。増築するなんて予定も聞いてない。今
のところ、ゲバル……だったか。ゲバル、お前が入居できる部屋なんてないんだよ」
冷たくあしらうシコルスキーに対し、ゲバルはきょとんとした表情を浮かべるだけ。落
胆した様子はない。
「どうやら私はあまり歓迎されていないようだな」
「当たり前だろ。いきなりロッカーから出てきた挙げ句、今日からここに暮らすだなんて
冗談にも程がある。大家さんが来たらすぐに追い出されるぞ」
「大家さん、か」
ゲバルの口もとがわずかに緩んだ。
「知ってるのか」
「知っているも何も、しけい荘の大家こと、“アンチェイン”ミスターオリバは私の友人
だ」
「う、嘘をつけ!」
「嘘がどうかはすぐに分かるさ」
からこれまた正体不明の男が飛び出した。
浅黒い肌に不精髭ながら凛々しい顔立ち。頭には真夏の海を連想させる青(ブルー)の
バンダナを巻きつけている。野性味あふれる外見は、小汚いロッカーとはあまりにも不釣
り合いだ。
「おぉ、すまない。大丈夫か」
男はシコルスキーに手を差し伸べるが、シコルスキーはその手を借りずに自力で起き上
がった。
「おまえは誰だ」
「私か? 私は純・ゲバル、今日からこのアパートに暮らすことになった者だ。よろしく
な、ブラザー」
突然の入居宣言。ゲバルと名乗った男は、今度は握手を求めてきた。
「さぁ、友好の証だ」
「ふん、どうせ手を握った瞬間に関節技を極める気だろう。お前の喧嘩は遅れてるな」
「おいおい、そんな卑劣な人間がいるわけないだろう」
いるんだなこれが、とドリアン、柳、ドイル、スペックは即座に寂海王を思い浮かべた。
「とにかくだ。しけい荘の部屋は全部埋まってる。増築するなんて予定も聞いてない。今
のところ、ゲバル……だったか。ゲバル、お前が入居できる部屋なんてないんだよ」
冷たくあしらうシコルスキーに対し、ゲバルはきょとんとした表情を浮かべるだけ。落
胆した様子はない。
「どうやら私はあまり歓迎されていないようだな」
「当たり前だろ。いきなりロッカーから出てきた挙げ句、今日からここに暮らすだなんて
冗談にも程がある。大家さんが来たらすぐに追い出されるぞ」
「大家さん、か」
ゲバルの口もとがわずかに緩んだ。
「知ってるのか」
「知っているも何も、しけい荘の大家こと、“アンチェイン”ミスターオリバは私の友人
だ」
「う、嘘をつけ!」
「嘘がどうかはすぐに分かるさ」
まもなくゲバルが正しいことが証明された。まもなく帰宅したオリバは、実に嬉しそう
にゲバルを迎え入れたのである。
「おォ~ゲバルじゃないか! もう日本(こっち)に着いていたのか!」
「君が手紙で教えてくれた面白いアパートってのを体験しに来たよ」
蚊帳の外になっている五人に、オリバが説明する。
「彼は私がアメリカにいた頃に出会った海賊でね。今日からしばらくこのアパートに滞在
することになった」
すかさずシコルスキーが噛みつく。
「大家さん! いくらアンタの友人でも、海賊なんかをしけい荘に、いやこの日本に住ま
わせるなんて間違っている!」
「もっとも今は海賊を辞めて、一国の大統領になったそうだ」
すぐさまシコルスキーは土下寝した。
異常なまでの変わり身の早さに、驚きを隠せないゲバルであった。
「わ、分かりやすい男だな……」
にゲバルを迎え入れたのである。
「おォ~ゲバルじゃないか! もう日本(こっち)に着いていたのか!」
「君が手紙で教えてくれた面白いアパートってのを体験しに来たよ」
蚊帳の外になっている五人に、オリバが説明する。
「彼は私がアメリカにいた頃に出会った海賊でね。今日からしばらくこのアパートに滞在
することになった」
すかさずシコルスキーが噛みつく。
「大家さん! いくらアンタの友人でも、海賊なんかをしけい荘に、いやこの日本に住ま
わせるなんて間違っている!」
「もっとも今は海賊を辞めて、一国の大統領になったそうだ」
すぐさまシコルスキーは土下寝した。
異常なまでの変わり身の早さに、驚きを隠せないゲバルであった。
「わ、分かりやすい男だな……」