ソムリエ五人衆のテレビ出演は驚くほどあっさりと決定してした。
「ソムリエ五人衆!?」
「えぇ、実は我々しけい荘の住人は大家さんから日頃からワインについて教えてもらって
ましてね。資格こそ持ってませんが、ワインの知識には自信がありますよ」
「……面白い。いいでしょう、是非あなた方で特集を組ませて下さい!」
テレビ局のプロデューサーと熱い握手を交わすドイル。
こうしてしけい荘が誇る手品師の野望の第一歩がようやく幕を開けた。
「ここからだ……。ここから私はスターダムに駆け上がるッ!」
「ソムリエ五人衆!?」
「えぇ、実は我々しけい荘の住人は大家さんから日頃からワインについて教えてもらって
ましてね。資格こそ持ってませんが、ワインの知識には自信がありますよ」
「……面白い。いいでしょう、是非あなた方で特集を組ませて下さい!」
テレビ局のプロデューサーと熱い握手を交わすドイル。
こうしてしけい荘が誇る手品師の野望の第一歩がようやく幕を開けた。
「ここからだ……。ここから私はスターダムに駆け上がるッ!」
テレビ収録はちょうど一週間後。しかも生放送。ドイルの報告を受けた他の四人も闘志
をあらわにする。
「決まりましたか。これでもう引き返せませんな」
「ふむ……面白くなってきたな」
「ウォッカで鍛えた俺の舌を披露する時が来たか」
「ジャア、サッソク特訓ト行コウゼ!」
特訓用に近所の酒屋で安ワインをいくつか購入し、いよいよ特訓開始。が、まずドイル
が改めて皆に語りかける。
「ソムリエというのは、つまるところ“ワインのプロ”だ。ワインの知識などろくに持た
ない我々が、一週間でプロに肉迫するのは難しい。しかし、ワインのプロを演じることは
できる」
ワインの歴史は紀元前に遡るほどに古く、単なる酒というカテゴリーを飛び出して一つ
の文化に数えても差し支えがないほどだ。しかし逆に日本のテレビ番組の視聴者に、この
文化(ワイン)を熟知している者などほとんどいないともいえる。ならばにわか仕込みで
も短時間『ワインのプロになりきる』ことができたならば、少なくとも公衆の面前で大恥
をかくことはない。これがドイルの戦略であった。
「要ハ堂々トシテロッテコトカ」
「演じるということであれば、私に一日の長がある。やらせてもらおうか」
嘘、演技、騙し合いならばしけい荘にも右に出る者なし。ペテン師ドリアンが名乗りを
上げた。
グラスに半分ほど注がれた赤ワインを品定めするドリアン。
「グラスの中が燃え上がっていると錯覚させるほどの鮮烈な赤。着色料などではない。葡
萄という自然の果実のみで生成された純粋な赤──あまりに原始! あまりに本能的(リ
アル)!」
今の台詞を要約すると「このワインはとても赤い」となる。
ドリアンはそっとグラスに唇をつけ、原始かつ本能的な液体を口に含んだ。数秒間舌で
転がした後、ゆっくりと喉の奥へ旅立たせる。
「味の五種──甘味、酸味、旨味、塩味、苦味。唇から喉までの短距離で全てを感じ取れ
た。この絶妙にコントロールされた味(テイスト)に、私は心に感謝すら覚えてしまった。
ワイン職人の知謀と情熱が体中を駆け巡るかのようだ。
こう飲んだ方が美味かった、あれを飲めば良かった、などという疑問が入る余地は一切
ない。ベストオブベスト。古より脈々と受け継がれてきたワインという名の伝統──その
完成形がまさにここにある! では、これほどのワインと私を引き合わせてくれた神への
感謝の印として歌わせてもらおう。オトワラヴィ──」
すかさず柳が空掌でドリアンを気絶させる。
「危ないところでしたな」
「でもさすがはドリアンだな。こんな千円もしないワインであそこまでベラベラ喋れるん
だから」
感心するシコルスキー。たしかに実際に通用するかはともかく、雰囲気とオーラは十分
及第点を出せていた。
「この調子で我々も続くぞ。特訓開始だッ!」
ドイルが吼える。皆がワインを飲み、能書きを垂れる。他に方法がないのならば、やる
しかない。
をあらわにする。
「決まりましたか。これでもう引き返せませんな」
「ふむ……面白くなってきたな」
「ウォッカで鍛えた俺の舌を披露する時が来たか」
「ジャア、サッソク特訓ト行コウゼ!」
特訓用に近所の酒屋で安ワインをいくつか購入し、いよいよ特訓開始。が、まずドイル
が改めて皆に語りかける。
「ソムリエというのは、つまるところ“ワインのプロ”だ。ワインの知識などろくに持た
ない我々が、一週間でプロに肉迫するのは難しい。しかし、ワインのプロを演じることは
できる」
ワインの歴史は紀元前に遡るほどに古く、単なる酒というカテゴリーを飛び出して一つ
の文化に数えても差し支えがないほどだ。しかし逆に日本のテレビ番組の視聴者に、この
文化(ワイン)を熟知している者などほとんどいないともいえる。ならばにわか仕込みで
も短時間『ワインのプロになりきる』ことができたならば、少なくとも公衆の面前で大恥
をかくことはない。これがドイルの戦略であった。
「要ハ堂々トシテロッテコトカ」
「演じるということであれば、私に一日の長がある。やらせてもらおうか」
嘘、演技、騙し合いならばしけい荘にも右に出る者なし。ペテン師ドリアンが名乗りを
上げた。
グラスに半分ほど注がれた赤ワインを品定めするドリアン。
「グラスの中が燃え上がっていると錯覚させるほどの鮮烈な赤。着色料などではない。葡
萄という自然の果実のみで生成された純粋な赤──あまりに原始! あまりに本能的(リ
アル)!」
今の台詞を要約すると「このワインはとても赤い」となる。
ドリアンはそっとグラスに唇をつけ、原始かつ本能的な液体を口に含んだ。数秒間舌で
転がした後、ゆっくりと喉の奥へ旅立たせる。
「味の五種──甘味、酸味、旨味、塩味、苦味。唇から喉までの短距離で全てを感じ取れ
た。この絶妙にコントロールされた味(テイスト)に、私は心に感謝すら覚えてしまった。
ワイン職人の知謀と情熱が体中を駆け巡るかのようだ。
こう飲んだ方が美味かった、あれを飲めば良かった、などという疑問が入る余地は一切
ない。ベストオブベスト。古より脈々と受け継がれてきたワインという名の伝統──その
完成形がまさにここにある! では、これほどのワインと私を引き合わせてくれた神への
感謝の印として歌わせてもらおう。オトワラヴィ──」
すかさず柳が空掌でドリアンを気絶させる。
「危ないところでしたな」
「でもさすがはドリアンだな。こんな千円もしないワインであそこまでベラベラ喋れるん
だから」
感心するシコルスキー。たしかに実際に通用するかはともかく、雰囲気とオーラは十分
及第点を出せていた。
「この調子で我々も続くぞ。特訓開始だッ!」
ドイルが吼える。皆がワインを飲み、能書きを垂れる。他に方法がないのならば、やる
しかない。
あっという間に五人は当日を迎えた。
浴びるようにワインを飲み続けたその身体は、傷をつければ血ではなくワインが噴き出
すのではないか。こんな冗談も若干の信憑性を持つほどに彼らは本気であった。
「大家さんも明日にはアパートに帰ってくる。あの人に恥をかかせてはならない。ソムリ
エ五人衆、出陣だ!」
ドイルを筆頭にスタジオに向かう面々。交通手段はむろん、足。
彼らは走り出した──栄光に向かって。
浴びるようにワインを飲み続けたその身体は、傷をつければ血ではなくワインが噴き出
すのではないか。こんな冗談も若干の信憑性を持つほどに彼らは本気であった。
「大家さんも明日にはアパートに帰ってくる。あの人に恥をかかせてはならない。ソムリ
エ五人衆、出陣だ!」
ドイルを筆頭にスタジオに向かう面々。交通手段はむろん、足。
彼らは走り出した──栄光に向かって。