SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 戦闘神話57-2


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教皇の間を出たギガースは、走りながら自分の右腕のあった場所を焼き、応急の止血をすると、
そのままアテナ神像・アテナの聖衣の方へと向かっていた。
目指すは天空神ウラヌスを切った神の武器メガスドレパノン。
神々の武器ならば、いまだ彼らの主を縛り続ける鎖を断ち切ることができるのだ。
聖戦の前哨戦ともいうべきティターン神と黄金聖闘士との戦いにおいて焦点となった際に、
その力の一端を垣間見たギガースは確信したのだ。
天空神ウラヌスを切り裂き、時の神クロノスへと王権が移譲したという事実もまた、
この武具が地上の聖域に、アテナ神像の足元に封じられた理由でもある。
アテナのもつシンボルであるニケとアイギスは、それぞれ絶対勝利と絶対防壁を意味する。
そのシンボルとさらにはゼウスの雷の力をもって神話の昔から封じ込められてきたが、
かつての戦いによってそのタガは緩んでいる。
戦闘の当事者たる黄金聖闘士は聖戦において殉教、
それを知る非戦闘者は、サガの乱に乗じてギガース自らが手を下している。
いまやその事実を知る者はギガースをおいて他には無かった。

おまけに、宝物庫ないし封印庫の番はギガースの息のかかったものばかりだ。
教皇シオンの書が紛失したのも、彼の手によるものなのだ。
先ほど盟に向けて放った毒は宝物庫からひそかに持ち出したものだ。
かの英雄ヘラクレスを滅ぼしたヒドラの猛毒と伝わるが、
おそらくはそれを再現しようと作り出されたものなのだろう。
あるいはヒドラの聖衣を作る際に作られたものなのかもしれない。
ペルセウスの聖衣にメデューサの盾が付属しているように、
製作後期の聖衣にはその星座をモチーフとした特殊機能が付属することは少なくない。
アンドロメダの星雲鎖、ドラゴンの盾、ヒドラの無限再生毒牙といったものが有名だが、
ことの詳細はどうでもいい、もはや宝物庫は空に等しいのだから。
ハルペー、アリアドネの糸玉、ネメアの獅子の皮、アルゴンコインといった至宝は
すでに本部に持ち込まれ、解析にかけられている。
本命のメデューサの瞳は宝物庫のどこにも無いことから、
アテナ神像下の封印の中ではないかとギガースは推理していた。
行きがけの駄賃とばかりにメガスドレパノンと共に手に入れることができれば、
この上ない力となるだろう。

「ギガースさん!どうされたのですか!」

火傷に血まみれという凄まじい風体のギガースを不幸にも見とがめたのは、
昨年春から教皇の間の職員となったエウロペだ。
彼女の存在にギガースは心中密かに舌打ちした、彼女の家柄は聖域内でも屈指の権門なのだ。
シオン体制下において発生し、サガによって払拭されるまで聖域の深層心理と化していた
「より強い聖闘士を生み出すことこそ至上」という悪弊に最後まで妄執していた一門だが、
その影響力は大きい。

「たいへんじゃ!賊が侵入した!
 ワシもこのとおりじゃ!教皇の間も危うい!」

走りよるギガースの殺気を感じられなかったのは、
ひとえに彼女が非戦闘員であったからに他ならない。
いくら元金牛宮の従卒と言えども、実戦を知るわけではないのだ。
すれ違い様に彼女の細い首を切り飛ばすなど、ギガースにとっては隻腕であっても容易い。

「その賊がギガースだ!エウロペ!」

エウロペの首を切り飛ばすはずだった左手に強烈な蹴りを食らって吹き飛ぶギガースは、
その蹴りの主が盟でないことに気がつくと、内心胸をなでおろした。

「ユーリ!」

エウロペとギガースの声が重なる。
青銅聖闘士・六文儀座セクスタンスのユーリ、聖域天文台の観測員であり、
青銅聖闘士としての実力は最下級の少女だ。
白銀聖闘士・祭壇座アルターのニコルと同門で、彼の妹弟子にあたり、戦闘者よりも官僚よりの存在である。
そんな彼女は、黄金に匹敵する実力をもつ盟を退けたギガースにとっては、文字通り片手で足る相手に過ぎない。

「さっきの轟音聞いたでしょ!コイツよ!」

彼女とて正確に事を掴んでいるわけではないが、
姉のように慕う彼女を殺されかけたという事実が、そう早合点させていた。
実際、実行犯ではないにせよ犯人の側なのだが。

「逃げて!
 盟さんかシャイナさん呼んできて!
 ここは私がなんとかする!」

少女の悲壮な決意に、ギガースは口の端が釣りあがるのを押さえられなかった。
なんとも可愛い決意をするものだ。このワシをなんとかするなどとは!

「何がおかしい!この裏切り者!」

その思いがにじみ出たか、ギガースの髭に隠れた口の端がそれとわかるほどに持ち上がっていた。

「くくく、お前ごときがこのワシを除けると思っておる事よ…」

そんな事はユーリ自身が一番解っている。
口にすればおそらくユーリは膝から崩れ落ちてしまうだろう。
先程は奇襲という点もあって奇跡的に一撃入れられた、あの時ユーリは確実に急所を狙ったのだ。
それがあっさりと防がれた。
以前、アドニスがユーリに悪戯を働いたとき、彼に張り手を食らわそうとして出来なかった事を思い出す。
まるで空気を相手にしているようだった。こちらの攻撃がすべていなされ、気がつけば息を切らしていたのはこちら。
あの時と同じ感覚を、今ユーリは感じていた。

「ニコル!ヒューズさん!無事か!
 無事なら俺の体を抑えていてくれ!」

大の字になった盟だが、そんな状態でも声の覇気は揺るがない。
それが装っているのか本物なのかまでは、いまのヒューズには解らなかった。

「何をする気だ?お前さん?」

ヒューズは、今自分の目の前で起こった超常の戦闘に眩暈がするのを懸命にこらえた。
話には聞いていた、聖闘士とは超常の練達の果てに、その拳で空を裂き、その脚で大地を割ると。
聞くと見るとは大違い、齢三十を超えて解っているつもりだったが、ここまで衝撃的とは思わなかった。

「瀉血、って知ってるかい?」

一般人の範疇のヒューズには判らなかったらしい。
彼は訝しげな表情をしていたが、同じ聖闘士だけにその一言でニコルは察したらしく、さっと顔を青ざめさせた。

「まて盟!今のお前じゃ星命点を突くにも危ういぞ!」

地上において最強を誇る聖闘士の肉体であるが、むろん弱点もある。
そのひとつが聖闘士がもつ守護星座だ。守護星座の形に攻撃をうければ、死ぬのだ。
しかし、適切な順序、適切な小宇宙をこめて打ち抜けば回生をもたらすのだ。
東洋医学・漢方におけるツボ・鍼灸治療に影響を与えたといわれるが、聖闘士のそれはかなりシビアだ。

「あんたの危惧ももっともだ、っつーわけで、頼む。
 このまんまじゃ奴にアテナ神殿まで侵される、頼む…ッ!」

同等以上の聖闘士でなくば小宇宙が通らず、過剰な小宇宙を打ち込めば、即ち死ぬ。

「セイメイテン?」

ヒューズのつぶやきに盟は答える。

「急所、みたいな、モンです、聖闘士、の、専門用語。
 ちょっ、と、痛い、から、すみません、ヒューズ、さん、俺の、カラダ、抑え、て、て、ください」

ヒューズ相手に笑ってみせようとしても、盟にはできなかった。
毒のめぐりは、ニコルの逡巡よりも早かったのだ。
盟の顔はニコルのそれよりも青くなり、ろれつも怪しい。

「たのむ…」

見る間に弱弱しくなっていく盟の姿に、ニコルは決断した。
もう、逃げるのはやめだ。
そうつぶやくニコルに、ヒューズは何かを感じたのか、顔を引き締めた。

「ヒューズさん、すみませんが盟を抑えていていただけますか?
 ええ、肩だけでいいんです」

ぴぃんと空気が張り詰める中、ニコルは盟にその手を振り下ろした。