二頭の雄が同じ雌に恋をした。
アダムに予備はいらぬ。ゆえに取り合いは必然であった。
スペックは宣言通りのラブレター攻勢。愛と性欲を全てぶち込んだ恋文を、一日百通の
勢いで送りまくる。ただし相手の住所を書いていない(知らない)ので、一通たりとも相
手に届くことはなかった。
対するドリアンは自慢の歌声で気を引く作戦を取る。蕎麦屋の近くで夜な夜なシャンソ
ンを披露したが、近隣住民の通報を受けたオリバと警察によってあっけなく取り押さえら
れた。
程度の低さはともかく、両者とも本気(リアル)であった。
何としても彼女が欲しい。たとえ掛け替えのない友人を失うことになったとしても。
そしてついに二人は決定的な対立を迎えることになる。
アダムに予備はいらぬ。ゆえに取り合いは必然であった。
スペックは宣言通りのラブレター攻勢。愛と性欲を全てぶち込んだ恋文を、一日百通の
勢いで送りまくる。ただし相手の住所を書いていない(知らない)ので、一通たりとも相
手に届くことはなかった。
対するドリアンは自慢の歌声で気を引く作戦を取る。蕎麦屋の近くで夜な夜なシャンソ
ンを披露したが、近隣住民の通報を受けたオリバと警察によってあっけなく取り押さえら
れた。
程度の低さはともかく、両者とも本気(リアル)であった。
何としても彼女が欲しい。たとえ掛け替えのない友人を失うことになったとしても。
そしてついに二人は決定的な対立を迎えることになる。
アパート近くの土手で、ドリアンとスペックは向かい合った。
「やはり我々はこうなる運命だったということだな」
「ヘッ、カマワネェゼ。今日コソ決着(ケリ)ヲツケヨウヤ」
境遇も思想も性格も異なる二人の共通項、それは闘争。もしこの二人がアメリカ大統領
選に出馬したならば、政策論戦でも中傷合戦でもなく殴り合いで白黒をつけることだろう。
冷たい風が吹いた。
腰を落とし崩拳(中段突き)の構えを取るドリアンに対し、スペックは無策で突っ込む。
否、彼にとっては無策こそが上策、特攻こそが勝利への方程式。
「無呼吸連打、受ケテミナッ!」
スペックの初弾をドリアンは紙一重でかわし、カウンターの崩拳を鳩尾にぶつける。
クリーンヒット。が、スペックの連打は止まらない。
「ちぃっ!」
規格外の肺活量に支えられ、規格外の腕力が踊る。大きな手足が、一瞬も休むことなく
ドリアンを打ちつける。もはや手の施しようがない。
「ハハハハハハハハハハッ!」
ガードを固め、連打を受け続けるドリアン。スペックの無呼吸連打は五分が限界である。
確実に訪れるであろう勝機を待ち、ひたすら耐える。
パンチパンチキックパンチキックパンチパンチパンチキックキックパンチパンチパンチ
パンチパンチキックパンチキックパンチパンチキックキックパンチキックパンチキックパ
ンチキックキックパンチキックキックパンチパンチキックパンチキックキックパンチキッ
クパンチキックパンチキックパンチパンチパンチパンチキックキックパンチ。
ドリアンの意識が遠のく。強烈なアッパーで舌を噛み、鉄の味が口中に広がる。
だが、スペックの速度は緩やかに低下している。あと十秒、九秒、八秒、七秒、六秒、
五秒、四秒、三秒、二秒、一秒。
「今だッ!」
五分経過。酸素を消費し尽したタイミングを狙い、ドリアンが拳を振るう。
ぐしゃ。
スペックの頭がドリアンの鼻先にめり込んだ。
「ず……ッ 頭突き……?!」
呆然とするドリアンに捻じ込むようなストレートパンチによる追い打ち。二メートルを
超える巨体がごろごろと転がる。
「グアッ!」
「俺ハマダマダ成長期デナ。今ノ俺ハ六分間ノ無呼吸運動ガ可能ナンダゼ」
そういって大きく息を吸い込むスペック。再び六分の動作を保障するエネルギーがチャ
ージされてしまった。
「ダイブ息ガ上ガッテルゼ。ドウヤラ今日ハ俺ノ勝チダナ」
「……そう簡単にはいかん」
髭を十数本引き抜くと、ドリアンは吐息でまとめてそれらを飛ばした。散弾となった髭
はまっすぐにスペックに向かう。
「ウッ!」
髭がスペックの右目を奪う。
口から空気の塊を撃ち出し左目をも奪う。
暗黒がスペックを包んだ。
ズタズタの唇で微笑むと、ドリアンが一気に間合いを詰める。喉に貫手を突き刺し、腹
部に掌底をめり込ませ、顎を垂直に蹴り上げる。
百キロを超す巨躯が真上に吹き飛び、ダウンを喫した。
「ヘッ……流石ハペテン師、一筋縄ジャイカネェナ。色々ト器用ナモンダ」
「君こそ、六分間の無呼吸連打はもはや人間ではない」
互いに称え合い、ついに最後の攻撃に移ろうとする。
「やはり我々はこうなる運命だったということだな」
「ヘッ、カマワネェゼ。今日コソ決着(ケリ)ヲツケヨウヤ」
境遇も思想も性格も異なる二人の共通項、それは闘争。もしこの二人がアメリカ大統領
選に出馬したならば、政策論戦でも中傷合戦でもなく殴り合いで白黒をつけることだろう。
冷たい風が吹いた。
腰を落とし崩拳(中段突き)の構えを取るドリアンに対し、スペックは無策で突っ込む。
否、彼にとっては無策こそが上策、特攻こそが勝利への方程式。
「無呼吸連打、受ケテミナッ!」
スペックの初弾をドリアンは紙一重でかわし、カウンターの崩拳を鳩尾にぶつける。
クリーンヒット。が、スペックの連打は止まらない。
「ちぃっ!」
規格外の肺活量に支えられ、規格外の腕力が踊る。大きな手足が、一瞬も休むことなく
ドリアンを打ちつける。もはや手の施しようがない。
「ハハハハハハハハハハッ!」
ガードを固め、連打を受け続けるドリアン。スペックの無呼吸連打は五分が限界である。
確実に訪れるであろう勝機を待ち、ひたすら耐える。
パンチパンチキックパンチキックパンチパンチパンチキックキックパンチパンチパンチ
パンチパンチキックパンチキックパンチパンチキックキックパンチキックパンチキックパ
ンチキックキックパンチキックキックパンチパンチキックパンチキックキックパンチキッ
クパンチキックパンチキックパンチパンチパンチパンチキックキックパンチ。
ドリアンの意識が遠のく。強烈なアッパーで舌を噛み、鉄の味が口中に広がる。
だが、スペックの速度は緩やかに低下している。あと十秒、九秒、八秒、七秒、六秒、
五秒、四秒、三秒、二秒、一秒。
「今だッ!」
五分経過。酸素を消費し尽したタイミングを狙い、ドリアンが拳を振るう。
ぐしゃ。
スペックの頭がドリアンの鼻先にめり込んだ。
「ず……ッ 頭突き……?!」
呆然とするドリアンに捻じ込むようなストレートパンチによる追い打ち。二メートルを
超える巨体がごろごろと転がる。
「グアッ!」
「俺ハマダマダ成長期デナ。今ノ俺ハ六分間ノ無呼吸運動ガ可能ナンダゼ」
そういって大きく息を吸い込むスペック。再び六分の動作を保障するエネルギーがチャ
ージされてしまった。
「ダイブ息ガ上ガッテルゼ。ドウヤラ今日ハ俺ノ勝チダナ」
「……そう簡単にはいかん」
髭を十数本引き抜くと、ドリアンは吐息でまとめてそれらを飛ばした。散弾となった髭
はまっすぐにスペックに向かう。
「ウッ!」
髭がスペックの右目を奪う。
口から空気の塊を撃ち出し左目をも奪う。
暗黒がスペックを包んだ。
ズタズタの唇で微笑むと、ドリアンが一気に間合いを詰める。喉に貫手を突き刺し、腹
部に掌底をめり込ませ、顎を垂直に蹴り上げる。
百キロを超す巨躯が真上に吹き飛び、ダウンを喫した。
「ヘッ……流石ハペテン師、一筋縄ジャイカネェナ。色々ト器用ナモンダ」
「君こそ、六分間の無呼吸連打はもはや人間ではない」
互いに称え合い、ついに最後の攻撃に移ろうとする。
「おう、なかなか楽しそうなことしてるじゃねぇか」
二人の真剣勝負に口を挟む男。一斉にドリアンとスペックが振り返る。
突然現れた男、背丈は百八十センチ弱といったところ。まるで頭髪のない頭と右目の眼
帯が特に印象に残る。
「なんだね、君は」
「邪魔スルトタダジャスマネェゾ」
「いや悪ィ悪ィ。最近俺の女房がやってる蕎麦屋によく来てくれる客ってのはアンタらだ
ろ? 一度礼をいっておこうと思ってよ。じゃ、続けてくれよ」
彼が吐いた台詞は一瞬にして二人から全てを奪ってしまった。
ドリアンとスペックは生ける死人と化し、男が立ち去った後も、いつまでもいつまでも
土手に立ち尽くしていた。
二人の真剣勝負に口を挟む男。一斉にドリアンとスペックが振り返る。
突然現れた男、背丈は百八十センチ弱といったところ。まるで頭髪のない頭と右目の眼
帯が特に印象に残る。
「なんだね、君は」
「邪魔スルトタダジャスマネェゾ」
「いや悪ィ悪ィ。最近俺の女房がやってる蕎麦屋によく来てくれる客ってのはアンタらだ
ろ? 一度礼をいっておこうと思ってよ。じゃ、続けてくれよ」
彼が吐いた台詞は一瞬にして二人から全てを奪ってしまった。
ドリアンとスペックは生ける死人と化し、男が立ち去った後も、いつまでもいつまでも
土手に立ち尽くしていた。