SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ あなたのとなり(ハシさま)


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 夕焼け色の空を見た。そうしてグラウンドに目を向けた。たくさんの生徒が、部活動にいそしんでいる。
 運動部の男子の声が、空の向こうまで響いていく。教室から見るその景色は、どこか遠くのものに思えた。
 教室を出て、階段を下って、校舎を出ればすぐたどり着く、とても近い世界であるはずなのに。
 ここは、外とは違う時間が流れている。それはゆるやかで、穏やかなまどろみに似ている。
 わたしは、ゆたかとその時間を共有していた。

 ゆたかはわたしのそばで寝ている。すやすやと寝息をたてて、穏やかな寝顔をしている。
 ゆたかが眠りはじめた後、しばらくの間、教室には他に何人か残っていたけど、少しずつみんな帰っていった。
 今はわたしたち二人だけしかいない。

 四時間目に、体育があった。先日の雨でグラウンドが少しぬかるんでいたから、場所は体育館に変更された。
 種目はドッジボールだった。いくつかの班に分かれて、じゃんけんで内野と外野を決めた。ゆたかは外野になった。
 わたしは密かに安堵した。もし誰かの手元が狂って、ゆたかの顔にボールが当たったりしたら、大変なことになる。
 できる限り、ゆたかの方にいくボールは取るようにしているけれど、万が一、ということもある。
 外野なら、怪我をする可能性はぐんと減る。それに、内野のわたしが頑張れば、外野の負担が減るはずだ。

 だけど、途中からコートを離れ、見学しはじめたゆたかを見つけて、複雑な気分になった。
 ゆたかは身体が弱くて、すぐに疲れてしまう。 わたしは一人座っているゆたかの隣に行った。
 大丈夫? と聞くと、慣れてるから、平気だよ、といった。ゆたかは、いつもそればかり。
 でも、わたしは知っている。コートの隅で、体育をしているみんなを、寂しげに眺めている彼女を。
 四時間目の終わりまで、ずっとゆたかの隣にいた。

 ホームルームの後も、ゆたかは疲れているらしく、ぐったりしていた。
 その様子を見て、少し休んでから帰ろうか、と聞いた。ゆたかは力なく返事をして、ちょっと眠るね、といった。
 そして、ゆたかはまだ眠っている。

 その無防備な姿に、わたしの心はざわついた。すぐ近くに、ゆたかがいる。自然に、手が伸びた。
 わたしの指が、ゆたかの髪先に触れた。短い桃色の髪は、さらさらとした感触を伝えてくる。
 今度は、指を絡めた。折れてしまいそうなほど細い指。きれいに切りそろえられた爪。
 そして、ゆたかの体温が、わたしの手から流れてくる。その感覚が、とても心地よかった。
 ゆたかとつながっている。ゆたかの隣にいる。
 意味のない行為。意味のない時間。でも、そんな他愛のない時間が、何物にも変えられないと、わたしは感じていた。
 こうしてゆたかの隣にいることが、いまのわたしが一番望むことだった。わたしは満たされている。
 たとえ言葉を交わさなくたって。ゆたかの顔を見ているだけで……。
 ゆたかとつながったまま、わたしはこの幸せを噛みしめていた。 そして、わたしの意識もまどろんで――

 寝返りをうって、ゆっくりと目蓋が開いていった。わたしは徐々に見えつつあるゆたかの瞳を覗き込んだ。
 目覚めてはじめて見るものが、わたしの顔であってほしかった。そして、ゆたかとわたしの視線が絡み合った。

「……おはよう、ゆたか」
「……おはよう、みなみちゃん」

 ぼんやりとしたゆたかの微笑みに、わたしも微笑みを返す。目覚めたゆたかは、あくびをして、身体を伸ばした。
 そして目を擦って、教室の時計を見た。その顔が見る見るうちに青くなった。ゆたかが寝始めてから、もう二時間近くたっていた。
 あたりはもう暗い。
「ふえ、もうこんな時間!? わ、わたし、こんなに寝てたんだ――」
「……気分はどう?」
「う、うん、だいぶよくなったよ。……ごめんね、みなみちゃん。こんなに眠るつもりはなかったの。せっかくはやく帰れたのに、
わたしのせいで――」
「……そんなことない」
 わたしは、やさしくゆたかの頬をなでた。そんなふうにいってほしくなかった。自分が悪いのだと。わたしに迷惑をかけたのだと。
 全然迷惑だとは思っていない。わたしは、ゆたかのせいで帰りが遅くなっても気にしないし、できるだけゆたかの隣にいたい。
 それに――
「……わたしも、寝ちゃったから」
 疲れがたまっていたのか、ゆたかといっしょで安心しすぎたのか、いつのまにかわたしも寝てしまっていた。
 目覚めたときには、グラウンドの人もまばらになっていた。わたしは、ゆたかより起きるのが少しはやかっただけだ。
 帰りが遅くなったのは、ゆたかだけの責任じゃない。

 それを聞くとゆたかは、ちょっと噴出して、
「おあいこだね」
 と笑った。
「……うん」
 わたしもつられて笑って、それから二人で教室を出た。暗い廊下を、二人で歩いた。
 ゆたかの方から手を握ってきてくれたことが、とてもうれしかった。

 校舎を出て、しばらく話しているうちに、バスが来た。入り口の段に足をかけながら、ゆたかはこちらを向いて微笑んだ。
「いっしょにいてくれて、ありがとう。みなみちゃんが隣にいてくれたから、ぐっすり眠れたよ」
 心臓が、きゅっと縮まった。頬が熱くなった。ゆたかの言葉は、いつもわたしの心を乱す。つとめて、冷静にいった。
「……うん。よかった」
「また明日、学校でね」
「……それじゃあ」
 扉が閉まって、バスは走り出した。車内は混雑していたけど、すぐに誰か降りるはずだから、そんな心配はないと思った。
 また明日、ゆたかに会えるのを楽しみにしながら、家路についた。