「さて、ギガース。
貴方は今ここに呼ばれた理由がわかっているでしょうか」
貴方は今ここに呼ばれた理由がわかっているでしょうか」
もったいぶった物言いとするときは、大体がニコル自身好まない仕事をする時なのだ。
祭壇星座の聖闘士としてではなく、現在聖域を取り仕切る教皇代としての顔を、
ニコル自身は好きではない。
元々ニコルは、組織の中でこそ生きる官僚型の人間なのだ。
ニコルが組織を運営する立場に立つ場合では、
どうしてもという場合を除き、現状維持以上の行動を好まない。
故に、その煮え切らない態度を好まない聖闘士も少なくない。
嘗てサガが政権を掌握していた時期においてさえ、
彼はあまり人望のある聖闘士ではなかった。
今もその状況に変化はなく、ギガースの召喚という事態において、
彼の横に控えるのは、聖域外部支援者のマース・ヒューズ元諜報中佐と、
白銀相当位聖闘士・髪の毛座コーマの盟だけなのがその証左ともいえる。
これが猟犬座・ハウンドのアステリオンあたりなら、
彼が望まずとも弟子や同僚が着いて来るのだ。
祭壇星座の聖闘士としてではなく、現在聖域を取り仕切る教皇代としての顔を、
ニコル自身は好きではない。
元々ニコルは、組織の中でこそ生きる官僚型の人間なのだ。
ニコルが組織を運営する立場に立つ場合では、
どうしてもという場合を除き、現状維持以上の行動を好まない。
故に、その煮え切らない態度を好まない聖闘士も少なくない。
嘗てサガが政権を掌握していた時期においてさえ、
彼はあまり人望のある聖闘士ではなかった。
今もその状況に変化はなく、ギガースの召喚という事態において、
彼の横に控えるのは、聖域外部支援者のマース・ヒューズ元諜報中佐と、
白銀相当位聖闘士・髪の毛座コーマの盟だけなのがその証左ともいえる。
これが猟犬座・ハウンドのアステリオンあたりなら、
彼が望まずとも弟子や同僚が着いて来るのだ。
「…」
ギガースの答えは、沈黙。
それが、状況を十二分に理解した上でも沈黙であることは明白だった。
それが、状況を十二分に理解した上でも沈黙であることは明白だった。
「理解しているようですね。
聖域の内部資料改ざんの件、申し開きがあるのでしたらなさってくださってけっこうですよ」
聖域の内部資料改ざんの件、申し開きがあるのでしたらなさってくださってけっこうですよ」
ニコルの棘のある言葉に、すこし、いいかの?と前置きして、ギガースは語りだした。
「わしは、知ってのとおり聖衣をさずかってはいない。
聖闘士としての才は、聖衣を得た者に勝りこそすれ、劣る事は無いとおもっておったがの。
わが師シオンは、そんなわしを何くれと無く目をかけて下さってな、
聖域の裏方として長年師の助けとなるべく働いてきた。
そう、わし自身が本性を忘れてしまうほどに、熱心に」
聖闘士としての才は、聖衣を得た者に勝りこそすれ、劣る事は無いとおもっておったがの。
わが師シオンは、そんなわしを何くれと無く目をかけて下さってな、
聖域の裏方として長年師の助けとなるべく働いてきた。
そう、わし自身が本性を忘れてしまうほどに、熱心に」
だが、と切る。
「それも、十七年前のアテナ降臨までじゃった…。
アテナがこの俗世に降り、にわかに聖域が活気付いた頃かの?
あの二人が聖闘士となったのは。
サガもアイオロスも才気あふれる若人だった」
アテナがこの俗世に降り、にわかに聖域が活気付いた頃かの?
あの二人が聖闘士となったのは。
サガもアイオロスも才気あふれる若人だった」
その口ぶりこそ、昔日に想いを飛ばす老人そのものだったが、
緩やかに熱を帯びる口ぶりは、三人に不審感を抱かせずにはいられなかった。
「しかし、サガはその才気を御しきれんかった。
アイオロスはそんなサガを処断するには情が深すぎた。
二人とも、教皇シオンの後継とも言うべき立場でありながら、な」
緩やかに熱を帯びる口ぶりは、三人に不審感を抱かせずにはいられなかった。
「しかし、サガはその才気を御しきれんかった。
アイオロスはそんなサガを処断するには情が深すぎた。
二人とも、教皇シオンの後継とも言うべき立場でありながら、な」
そこで、この場にはそぐわぬふてぶてしさしさすら滲(にじ)ませた笑みが、
ギガースの口髭に隠れた口元に刻まれていた。
ギガースの口髭に隠れた口元に刻まれていた。
「わしは、思い出したのだ。
…いや、違うな。
わしが、わし自身が忘れようとしていたの本性は、
若い才能が潰え、歪みゆくその姿を見ながら歓喜に震えていた」
…いや、違うな。
わしが、わし自身が忘れようとしていたの本性は、
若い才能が潰え、歪みゆくその姿を見ながら歓喜に震えていた」
怪訝な表情をするニコルとヒューズを見ながら、盟は一人静かに両の掌を開いていた。
「ああ、これで戦力が減った。
ああ、これで我が真の主もお喜びになるだろう、とな」
ああ、これで我が真の主もお喜びになるだろう、とな」
熱を帯びた口調で語られた内容に、ヒューズは唖然とし、
ニコルは聖闘士でありながらも呆気にとられていた。
ニコルは聖闘士でありながらも呆気にとられていた。
「そうさ、このわしが聖闘士の証たる聖衣など纏えるはずがない!
なぜならわしは…」
なぜならわしは…」
噛み付くように吼えたギガースは、そのまま炎を掴んだ拳を振り上げてニコルに踊りかかった。
「巨人の尖兵なのだからな!
我が主の為!その命もらった!」
「巨人の尖兵なのだからな!
我が主の為!その命もらった!」
その場に、もし盟がいなければその意思は遂行されていただろう。
鉄壁という言葉すら生ぬるい黄金の意思を師より受け継いだ盟にとって、
アテナに、城戸沙織に対する造反を、敵対を行う者を看過するという選択肢は存在しない。
己の道を裏切るなかれ、
己の主を裏切るなかれ、
そして己の信じた者を裏切るなかれ。
盟の師・キャンサーのデスマスクが生涯貫いた黄金の意志は、着実に弟子へと受け継がれていた。
鉄壁という言葉すら生ぬるい黄金の意思を師より受け継いだ盟にとって、
アテナに、城戸沙織に対する造反を、敵対を行う者を看過するという選択肢は存在しない。
己の道を裏切るなかれ、
己の主を裏切るなかれ、
そして己の信じた者を裏切るなかれ。
盟の師・キャンサーのデスマスクが生涯貫いた黄金の意志は、着実に弟子へと受け継がれていた。
━━やらせねぇよ━━
盟の意思は右手から伸びる極細の糸へと伝達され、
教皇代行ニコルと、その傍らのヒューズを守るべく展開。
極薄のヴェールが即座に彼らの前に編み上げられ、ギガースの炎の拳を防ぐ。
二人を守ったヴェールは即座に解され、ギガースを捕らえんと毒蛇のように彼の頭上から雪崩落ちる。
しかし、ギガースは炎の拳で糸を焼き払う。
ちらちらと宙を紅く舐めた糸の群れは、ギガースに後一歩のところで消えていった。
教皇代行ニコルと、その傍らのヒューズを守るべく展開。
極薄のヴェールが即座に彼らの前に編み上げられ、ギガースの炎の拳を防ぐ。
二人を守ったヴェールは即座に解され、ギガースを捕らえんと毒蛇のように彼の頭上から雪崩落ちる。
しかし、ギガースは炎の拳で糸を焼き払う。
ちらちらと宙を紅く舐めた糸の群れは、ギガースに後一歩のところで消えていった。
「糸くずごときで巨人の歩みを止められるとでも思うたか!若造!」
敵の最大の武器を奪った安堵からか得意げに言うギガースだが、
その顔は瞬時に驚愕へと塗り換わる。
「ぬかったな、ジジィ」
その顔は瞬時に驚愕へと塗り換わる。
「ぬかったな、ジジィ」
盟の左手から伸びた糸が、ギガースを拘束していた。
「さて、ギガース。
貴方は今これから何をされるかわかっているでしょうか」
貴方は今これから何をされるかわかっているでしょうか」
先ほどのニコルの台詞を声色まで使い、盟をぎりぎりとギガースを締め上げる。
苦痛からか、教皇代行暗殺失敗のためからか、彼はうつむいたままだ。
盟という男は、星矢たちとおなじ城戸光政の百人の子の一人だ。
だが、彼はただの百分の一ではない。
城戸家正嫡として養育され、城戸家・グラード財団を背負うべくして育てられたのである。
しかし、彼の本分は善と理性にあり、城戸光政が百人もの子を作った事も、
その子らを聖闘士などという訳の判らないものにすべく、
虐待じみたトレーニングを行った事も決して看過出来るものではなかった。
故に、自ら志願して城戸家正嫡としての立場を捨て去り、聖闘士としての修行地に赴いたのだ。
蟹座・キャンサーのデスマスクに師事し、
師の死後に髪の毛座・コーマの聖衣を得て聖闘士となった彼であったが、
聖戦に参戦できず、兄弟たちに屍山血河を歩ませたこと、
「妹」沙織の非常の宿命の一助になれなかった事を悔いぬ日々はなく、
それが転じてアテナに最も忠誠深い聖闘士として今の聖域に名を知られていた。
その盟が自身の目の前でアテナ城戸沙織が聖域における教皇代行として、
直々に任命したニコルを暗殺せんと凶刃をふるったギガースに容赦など仕様がなかった。
苦痛からか、教皇代行暗殺失敗のためからか、彼はうつむいたままだ。
盟という男は、星矢たちとおなじ城戸光政の百人の子の一人だ。
だが、彼はただの百分の一ではない。
城戸家正嫡として養育され、城戸家・グラード財団を背負うべくして育てられたのである。
しかし、彼の本分は善と理性にあり、城戸光政が百人もの子を作った事も、
その子らを聖闘士などという訳の判らないものにすべく、
虐待じみたトレーニングを行った事も決して看過出来るものではなかった。
故に、自ら志願して城戸家正嫡としての立場を捨て去り、聖闘士としての修行地に赴いたのだ。
蟹座・キャンサーのデスマスクに師事し、
師の死後に髪の毛座・コーマの聖衣を得て聖闘士となった彼であったが、
聖戦に参戦できず、兄弟たちに屍山血河を歩ませたこと、
「妹」沙織の非常の宿命の一助になれなかった事を悔いぬ日々はなく、
それが転じてアテナに最も忠誠深い聖闘士として今の聖域に名を知られていた。
その盟が自身の目の前でアテナ城戸沙織が聖域における教皇代行として、
直々に任命したニコルを暗殺せんと凶刃をふるったギガースに容赦など仕様がなかった。
「話せ。
洗いざらいな。
でなくば四肢を一本づつ切り落とす」
洗いざらいな。
でなくば四肢を一本づつ切り落とす」
盟の声音に、一切の情はなかった。
「のぉ、盟。
このワシに構っていていいのかのぉ。
このワシ一人に、のぉ」
このワシに構っていていいのかのぉ。
このワシ一人に、のぉ」
先ほど同様のふてぶてしい笑みのまま、ギガースがそんなことを言った。
同時に、教皇の間に聖域を揺らす爆音が響き渡った。
同時に、教皇の間に聖域を揺らす爆音が響き渡った。
「くくく、ワシなぞ、ただの囮にすぎぬのよ。
たった一時でも聖域頭脳陣を留める為の、な。
さぁ、急げよ盟。
お前の大事な聖域が陥落するぞ?
十二宮に黄金聖闘士なく、聖域の聖闘士は若輩に未熟者に戦闘未経験者ばかり…。
さぁ、どうする?」
たった一時でも聖域頭脳陣を留める為の、な。
さぁ、急げよ盟。
お前の大事な聖域が陥落するぞ?
十二宮に黄金聖闘士なく、聖域の聖闘士は若輩に未熟者に戦闘未経験者ばかり…。
さぁ、どうする?」
盟の、ニコルの、ヒューズの背に、冷たい汗が流れた。