SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ しけい荘戦記 第一話「しけい荘再び」


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第一話「しけい荘再び」

 ひときわ異彩を放つ木造アパート、『しけい荘』。異臭かもしれない。
 東京は新宿、真新しい住宅街の中にあって図々しくも居座っている。存在感はそんじょ
そこらの建売住宅や高級マンションの非ではない。
 構造はいたって単純である。
 二階建て。上と下を繋いでいるのは狭い踊り場付きのくの字の頼りない階段。部屋は一
階に三つ、二階にも同じく三つ。それぞれで一人ずつ暮らしている。つまり、住民は全部
で六人というわけだ。
 都会は恐ろしい。品行方正な秀才と他人を糧にする術しか知らぬ無法者が共存し、中に
は秀才と無法者を兼ねる突然変異さえおり、さらにはそんな突然変異と五分に渡り合う凡
人までいる。しかし彼らとて、しけい荘の住人と比較されたなら、その他大勢と区分され
る他ない。

 しけい荘でもっとも朝が早いのは柳龍光。102号室で暮らしている。
 毎日愛用の鎌で、朝日も昇りきらぬうちから近所の草刈りに精を出している。
 彼の素顔は、大手暗器メーカー『株式会社クードー』に勤務するサラリーマン。商品開
発を統括する立場におり、常日頃からより売れる商品、すなわちより効率的に人を殺傷で
きる暗器の研究に余念がない。
「グッドゥモーニング。柳よ、牛乳(ミルク)でも飲まないかね」
 柳の背中に声をかけるのは、101号室の住民にして大家でもあるビスケット・オリバ。
世界一自由でパワフルな彼でなければ、しけい荘の大家は務まらない。
「おはようございます、大家さん。せっかくですが牛乳は苦手なんですよ」
「そうか、では私だけ頂くとしよう」
 オリバの巨大な手が牛乳瓶の蓋に被さる。ところが目覚めたばかりのためか力加減を誤
り、瓶は粉々に粉砕された。むろん中身は残らず大地に吸い込まれる。
「………」
「………」
 足下を残念そうに見つめるオリバと、掛けるべき言葉が見つからない柳。この気まずい
空間に挑戦すべく、一人の男が近づく。
「相変わらずお早いな、ミスターアンチェイン、ミスターポイズン。二人とも黙ってしま
って、どうかしたのか」
 ヘクター・ドイル。晴れ舞台を目指し、日々精進を重ねている若き手品師。部屋番号は
201。
「ドイルさん。実は大家さんが牛乳をこぼしてしまって……」
「なるほど、だったらいい方法がある」
 ドイルが耳をひねると、鼻の穴から牛乳からドバドバと飛び出してきた。これは先週行
った外科手術で体に埋め込んだ液体タンクによる妙技である。
「さぁ大家さん、これを」
「コンビニで新しいのを買ってくる」

 103号室に住むドリアンは、ペテン師を職業としている。日々どこかの誰かを騙して
生計を立てているが、計画が破綻したり逆に騙されることも珍しくない。
 スーツを身につけドアを開け一歩外に出れば、そこはもう彼の狩場だ。
「さて、今日はシブヤ辺りで若者をターゲットにするとしようか」
 風呂敷の中には木綿糸、サラダ油、ドリアンの歌が入ったCDが詰め込まれている。こ
れらをアラミド繊維、ガソリン、そして米国の一流歌手の限定版CDだと偽って高額で売
りつけるという寸法だ。
 成功率は一パーセントを切る。しかしドリアンはペテンを止めない。
 今彼の財布に渋谷までの交通費はない。しかしドリアンは気づいていない。
 ドリアンと時を同じくして、アパート最年長者であるスペックも出かける準備が完了し
た。
「オウ、ドリアン」
「スペックか。さっき大家さんが探してたぞ」
「ドウセ家賃ノコトダロ」
「どうせって、かなり怒っていたぞ」
「別ニイイサ。モウスグ俺モ誕生日ダシ、ソウナリャ滞納シテル家賃ハリセットサレル」
「……されないと思うがね」
 まもなく97歳を迎えるスペックは202号室に暮らしているが、家賃を払ったことは
一度もない。
「ところでなんでゴルフクラブを持ってるんだ」
「老人会ノゲートボールサ」
「いやだからなんで……」
「今日ハ千ヤードハ飛バスゼ。郭ノジジィニ負ケテラレネェカラナ」
 ドリアンとスペックもアパートから出かけていった。

 本日もっとも遅く起床したのは203号室に暮らすシコルスキー。彼はとにかくいじめ
られる。ひたすらいじめられる。理由は誰にも分からない。
「少し朝寝坊しちまったな……。こういう日はやっぱりアレだな」
 アパートの敷地内にて両手を広げるシコルスキー。大きく息を吸い込むと、
「ダヴァイッ! ダヴァイッ! ダヴァイッ! ダヴァイッ! ダヴァイッ!」
 反復横跳びを始めた。
 これは彼の故郷に伝わる『ダヴァイ体操』と呼ばれる運動で、アドレナリン放出にとて
も効果があるらしい。
 101号室のドアが開いた。
 オリバはやかましく反復横跳びを繰り返すシコルスキーに一瞥し、優しく微笑む。
 そして、
「近所迷惑だ」
 とシコルスキーの襟首を掴み、腕力だけで投げ飛ばした。
「一件落着だ」

 こうしてしけい荘では普段と変わらぬ日常が繰り広げられている中、外野では一つの策
謀が蠢いていた。
「スッゲェ……今投げられた奴、どっか遠くへ飛んでっちゃったぜ」
「だろ? やっぱとんでもねぇんだよ、このアパートは」
「うんうん。すごく面白くなってきたよ」
「あとはアイツが来るかどうかだけど……」
「来るよ、絶対来る。もし今日来なかったら……」
「来なかったら?」
「死ぬほどぶっ殺す」
 あとは色取り取りの下卑た笑い声だけが続いた。