SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ AnotherAttraction BC 56-1


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―――噴水広場に一同が会する約三十分前。

エキドナは、鬼でも叱咤出来そうな憎悪で眼前の男を睨み付けていた。
周囲は破壊に次ぐ破壊。しかし白スーツの男は全く無傷で彼女をせせら笑っている。
別に相手が強い訳ではない。撃とうものなら間違い無く一撃だ。
「ルールを説明するぜ、ミズ」
紳士的な声と裏腹に、貌は正しく悪魔の哄笑だった。
「今し方アンタに打ち込んだ吹き矢には、遅効性の毒が塗られている。もう十分もすれば、中枢神経が侵されていく」

―――何故こうなったのか、彼女には判らない。
最初に催涙弾を射ち込まれた時は流石に焦ったが、結局手出しもせずそのまま逃げ惑うだけだった。
しかし何時の間に仕掛けたか、部下達から徴発したと思われるハイテク小銃が至る所から時限装置で射撃、射撃、射撃。
実際の所は蚊トンボ並みだが、それが狡猾な配置とタイミングで襲来した結果、かかずらっていたお陰であっと言う間に
スヴェンを見失ってしまっていた。
それに苛付いた彼女は、周囲を徹底的に破壊した。
対人ミサイル、ガトリングガン、対戦車ライフル、ロケット弾、果ては虎の子の百キロ爆弾。兎に角持てる限りの兵器を用い、
相手ごと更地にするつもりで撃ち込んだのだが…………
後に残った瓦礫の山を前に荒い息を整えていた瞬間、太腿に突き刺さる微かな痛み。
脊髄反射でそれが飛んで来た方向に目を向ければ………手製の吹き筒を構えてマンホールから這い出す件の男。
「其処か…!」「動くなッ!!」
無数の砲口に身を晒し、しかし意に介さず男はボタンを押さえた携帯電話を突き出した。
「今こいつから、停止信号を出し続けている。もし指が離れたら、解毒剤が爆発するぜ」
……それを経て彼女は、目の前の男に攻撃出来ずただ歯噛みするだけだ。
「…あそこの時計塔だ。入り口横の投函箱に、解毒剤の入った注射器を入れておいた。
 俺の脚力でおよそ五分、アンタなら三分って所かな。それ以内に行けば充分助かる。
 アンタのやるべき事は簡単だ。妨害する俺を殺さずにそれを掻い潜って解毒剤を手に入れれば良い。簡単だろう?」
「……何でわざわざ、こんなゲーム染みた真似を…」
「知ってる筈だぜ? 俺は色々有って女子供を傷付けたくない。しかし、これだけの破壊に関わるなら別だ。
 アンタにゃ生半な手は通用しないんでな、死の恐怖ってヤツを、一つたっぷり味わってくれ。
 急げよ、この毒は本当に苦しいぞ」
紳士道に沿った、しかしそれだけに悪逆な行為。
だが得意げに解説した彼の鼻先に、ガトリングガンの銃口が突きつけられた。
「…アンタを脅すって考えないのかい? 拷問なら殺さず済むんだけどねぇ」
精一杯の気迫を向けるが、それでも男の笑みは消えなかった。
「アンタ何を聞いてたんだ、何時死んでも良い男相手に何を脅すんだ?
 それに、妖女エキドナと心中ってのは、なかなかファン冥利に尽きるシチュエーションだな。
 それでも良いってんなら、やれよ。この距離なら逃げも隠れも出来ないぜ」
言い返せず、回転しようとした銃身も僅かに動いただけで停止する。
悔しいが何をしようも無かった。間違いなく場と彼女の命はこの無力な男に握られている。
しかも極め付けに、この男は死ぬ事を寧ろ望んでいるのだ。
「判ってくれて光栄だ。言って置くが、俺は銃弾一発で指を離す腰抜けだ。気をつけた方が良い。
 ………ところで、良いのかい? こうして話してる間にあと八分って所だが?」
弄う様な言葉に一気に血が昇る。しかしこの男を殺す事は許されず、言われるままにただ行動せざるを得ず、しかも制限時間まである。
「……解毒剤を取ったら、覚悟しな」
「それは取った後に言う台詞だ。ほら、急げ」
そして彼女は怒りを押し殺して踏み出した。
それをニヤニヤ見送るスヴェンの顔に砲弾をぶち込む事を考えながら、建物の波間にそびえる時計塔へとひたすら走る。
だがいきなり――――、屋台の陰に仕掛けられていた小銃が彼女の足を銃弾で留まらせる。
「くッ…!」
まるでシャッターの様に現れたチョバムプレート(戦車用装甲タイル)が安全を確保、そして対戦車ライフルが一撃で小銃を破壊する。
しかし其処へ、背後から放物線を描いて飛来した何かが彼女の周囲に煙を撒き散らす。
「ぐ…っ、この……!!!」
「何を聞いてたんだ。俺も邪魔するって言ったと思うんだが?」
催涙作用も無いただのスモークの向こうから、スヴェンが愉しそうに嘲笑う。
それをを見ても、彼女には怒り心頭で睨み付ける事と急ぐ事しか許されない。
「殺す…………絶対に殺す!!! 殺してやる!!!」
「罵るのは勝手だが早く行った方が良いな。あと七分まで十四…十三……」
腕時計と睨めっこしながら、彼の言葉はますます悪意に満ちる。
―――罠は此処に来て、小銃のみに留まらない。
古典的な足を掬うワイヤー。突然跳んでくる火炎瓶。どこかで小さな爆発が起こるかと思えば、その真逆から襲い掛かるガラスの散弾。
狡猾かと思えば子供染みていたり、危険かと思えばそもそも傷付けるギミックではなかったり、はっきり行って舐めているとしか
思えない。しかしそれでも、彼女の足を止める効果がある事が、腹立ち紛れに思うさま辺りを破壊したい衝動にも駆られる。
これだけの細工を短時間で仕掛けた手際も本来なら賞賛に値するが、今はそれさえ怒りの種だ。
「……おっと、余り派手な事は控えてくれよ? 万が一俺に当たったら大変だぞ?」
彼女の後ろを付かず離れず付いてくるスヴェンが、全く他人事で時折彼女にスモーク弾や罠を起こす為に銃を撃って来たりする。
「―――殺してやる!!!」
「だから何だ? 有利なのはアンタだが、追い詰めてるのは俺だぜ?」
罠のお陰で全力疾走が出来ない。それを良い事に男はのんびり歩きながら煙草を吹かす有様だ。
「この……ッ、クソ野郎!! 付いてくるんじゃないよ!!!」
「そうは行かない。俺にはアンタが死ぬかどうか見届ける義務があるし、アンタも解毒剤を打ったら真っ先に俺を殺したいんじゃ
 ないのか? 近くに居た方が良いと思うがね? 
 それより、予定を大幅にオーバーしてるな。こんな所でもう四分を切ったぞ、これじゃああんたの生存は絶望的かな?」
隔靴掻痒極まれリ。殺すべき敵が目の前に居るのに、何一つ出来ないと言う筆舌に尽くせぬもどかしさ。
更に精一杯の反論すら、理詰めと状況で見事なまでに封じられる。
この道を得て、彼女は無敵だった。しかしこの男と来たら、派手な兵器を一切用いず打つ手全てを制していた。


………罠を吹き飛ばし、悪口雑言を繰り返し、残り時間を気にしながらひたすら突き進み、遂にエキドナは時計塔の正面道路まで
辿り着いた。
「……アレか」
一直線に開けた入り口横に、簡素なブリキの投函箱が置いてあった。
「そう、アレだ。早く行けよ? 不必要に息が上がるのは効き初めの証拠だぜ」
後ろのスヴェンは、どうでも良さそうな紫煙と共に致命的な状況を告げる。
「特別に俺からの茶々は勘弁してやる。この辺には結構危険なヤツを仕掛けたからな。
 スゴロクで良くある、『振り出しに戻る』位のヤツだ」
まるで手の上の小動物を弄ぶ様な残酷さ。実際にその状況に置かれたエキドナにとって牙が鋭い分、彼のみならず勢い余って
世界中の加虐嗜好者まで殺してやりたい気分だ。
「そう睨むなよ、良い勉強になるだろ? 『自分に起こってようやく事件』って輩にはな。
 さあ、宴もたけなわあと二分。妖女エキドナの活躍振りを特等席で………」
しかし言葉は――――破壊音の狂乱に掻き消された。

「……ほう」
それを経ても無傷のスヴェンは、彼女の仕様に僅かな感嘆を零した。
ガンシップ用のへヴィバルカンがざっと七門、道の左右の建物と道路を満遍なく破壊していた。
その中で、時計塔だけはスヴェンと同様に無傷だ。
多少道は荒れたが、これなら罠など物の数ではない。
「…其処で動くんじゃないよ」
恨み骨髄で指を突きつけ、一目散に目的の場所へと走り出した。

……罠を自ら破壊した事で、彼女は瞬く間に投函箱までやって来た。
焦る気持ちを震える程度まで押し殺し、箱を開くと……其処には透明の液体が入った注射器と、コードで携帯電話と複雑に
繋がった銀色の缶が置いてあった。
普通なら大慌てする所だが、彼女は違う。見るなり爆弾と思しきそれは、生じた波紋の中に沈み込む。
そして注射器を取ると、捲くった腕の静脈を捜し、打つ。
ゆっくりと液体が流れ込むのを見届けながら、同時に湧き上がる安堵と―――――――、滾る様な憎悪。
それは、彼女がこの腐れたゲームに勝ったと言う証明でも有った。
「……覚悟は、出来てるんだろうね…スヴェン=ボルフィード!」
空の注射器を地面に叩きつけ、悪鬼の形相で憎むべき男を睨み付ける。
だがその男と来たら、驚愕するかと思いきや全く変わらぬ笑顔で拍手するだけだ。
「――――何が可笑しいんだい!?」
早速大砲を突き付けたのだが、認識していないのか全く動じない。
「いや……実はな、正直かなり悪い事したな―――…って思ってな」 
「はぁ!?」
「…こうまで見事に引っ掛かってくれるとな」

その言葉と同時に、エキドナの視界が大きく傾いだ。
「…?」
傾いているのは視界だけではない、重心もだ。
「こ……これは…ッ!」
「そりゃ効くだろうな。血管でストレートのテキーラを飲んだんだから」
―――酒は、薬学上消毒と麻酔を兼任する。
外用すれば殺菌効果だが、静脈注射すれば強烈な酩酊効果を与える。
早い話が、急性の泥酔だ。
「…何でまず初めに、解毒剤の事を言ったと思う? お陰で俺を殺せなかったろう、そう言う事さ」
混濁する意識が辛うじてスヴェンの解説を捉える。
「まさ…か…」
「そう、初めから毒なんて無い。だが露呈や自棄のリスクがあっても、俺は絶対アンタが乗ると確信してた」
靴音を響かせてゆっくりと近寄る。それに対して、エキドナが出した砲身は波紋の中へと少しずつ沈んでいく。
「露呈はさせない。その前に仕掛けでせっせと怒らせたんだからな。
 その上で攻撃出来ないとなれば、怒り心頭この上ないだろう」
既に自分の身体を支える事さえ出来なかった。両手を付いても天地が回る不快さの中、それでも静かに解説が耳に届く。
「しかもアンタの道とやらは実に強力だ。そして自分の力に自信を持つ奴に限って、相手を低く見る。
 …格下の相手と心中したい奴は居ないだろう?」
完璧に思考を見切られていた事を理解し、歯噛みするがもう遅い。
「そして決め手が、あの偽物の爆弾だ。言った通りのものが目の前に有ると、言葉をそのまま信じるのが人間てものさ。
 ましてや、自分の命が掛かっていてはな」
罠は仕掛けられていたばかりではない、行動、言葉、小道具、全てが罠だった。
「何もさせなくて悪いな、ミズ。これが俺のスタイルなんでね」
罵る、戦う、どれも手遅れだ。結局酩酊の渦に抗う事が出来ず、彼女の意識は――――…混沌の奔流に飲まれた。
……完全に意識を失ったのを見計らって、スヴェンは煙草を捨ててエキドナの上体を介抱する様に起こす。
酔ってなお美しい顔だが、其処には妖女の二つ名は見る影も無い。
だが何故か彼は、倒す絶好のチャンスだと言うのに頬を優しく叩いて意識を僅かに起こした。
「…久しぶりだな、俺だよ」
無論、彼女とは全くの初対面だ。それでもスヴェンは、まるで旧友の様に親しげに語りかける。
「…ぁ……誰………?」
「酷いな、忘れたか? 俺だよ」
受け答えもはっきりしない彼女に、なお優しく語り掛ける。
「え………あ…?」
「思い出してくれ、昔を。憶えてる筈だ、〝俺〟だよ」

スヴェンが行っているのは、酩酊状態を利用した催眠誘導術だ。巧みに記憶に滑り込む事で居もしない知人に成りすまし、
相手の心の防壁を巧みに取り払ってありとあらゆる情報を搾り取る。
彼がかつてISPOに所属していた頃、狂信のテロリストやIQ200オーバーの知能犯に全罪状を喋らせた手だ。
無論違法捜査だが、それが無ければ当時の地位は有り得なかった。
つまるところ、今までの彼の手管は此処に至るまでの伏線、此処からが勝負だった……と、言っても一方的な勝率だが。

「ほら、憶えてるだろう? 俺だよ。思い出してごらん、昔を」
「……あぁ…」
「…忘れたのか? 哀しいな。俺だよ、憶えてるだろ?」
罪悪感も刺激して、ゆっくりと自分を記憶に刷り込ませる。
「……そう……ああ………アンタか……」
「そう、俺だよ。有難う、思い出してくれて」
〝――――堕ちた〟
会心の笑みを忍耐で封じて、あくまで優しげな貌を取り繕う。

「いきなりで悪いんだけど、また教えてくれないか? 何処だったっけ、星の使徒の本拠地」