数日後。戦団所属の病院の廊下を、山崎と斗貴子が歩いていた。
グムンの毒を受けた女の子はここで治療され、どうにか一命を取り留めた。もうしばらく
入院の必要はあるが、後遺症の心配などはないそうだ。
胴体真っ二つだった山崎はというと、あっという間に修理されて元通りになってしまった。
山崎曰く、戦いでこうなることは珍しくないから、NS社にはスペアの部品が常に充分
用意されているとのこと。
だが、当然だが脳だけは取替えがきかず、あと一年もすれば腐敗してしまう。そうなれば
今度こそ、山崎にとって本当の死となるそうだ。
グローブ・オブ・エンチャントの性能はとりあえず確認され、パレットのように錬金術を使う
企業の存在も確認されたので、NS社は研究を続行。とはいえ、まだまだ武装錬金の
解明・開発には遠いようである。
パレットのホムンクルス製造工場は錬金戦団が急襲し壊滅。日本支社の犯罪に
ついては、鈴木の頭脳に残されていたデータから山崎とNS社が警視庁に連絡した。
特車二課というところに、パレットに誘拐され売買された子と面識のある婦警がいる
とかで、精力的に動いてくれているそうだ。遠からず、正式に捜査が入ることだろう。
グムンの毒を受けた女の子はここで治療され、どうにか一命を取り留めた。もうしばらく
入院の必要はあるが、後遺症の心配などはないそうだ。
胴体真っ二つだった山崎はというと、あっという間に修理されて元通りになってしまった。
山崎曰く、戦いでこうなることは珍しくないから、NS社にはスペアの部品が常に充分
用意されているとのこと。
だが、当然だが脳だけは取替えがきかず、あと一年もすれば腐敗してしまう。そうなれば
今度こそ、山崎にとって本当の死となるそうだ。
グローブ・オブ・エンチャントの性能はとりあえず確認され、パレットのように錬金術を使う
企業の存在も確認されたので、NS社は研究を続行。とはいえ、まだまだ武装錬金の
解明・開発には遠いようである。
パレットのホムンクルス製造工場は錬金戦団が急襲し壊滅。日本支社の犯罪に
ついては、鈴木の頭脳に残されていたデータから山崎とNS社が警視庁に連絡した。
特車二課というところに、パレットに誘拐され売買された子と面識のある婦警がいる
とかで、精力的に動いてくれているそうだ。遠からず、正式に捜査が入ることだろう。
「……山崎さん」
発声前に考えて考えて、言葉を選んでから、斗貴子が言った。
「あんたはそんな体になったから、表立っては死亡したことになっているから、だから
もう家族に会えないとか言った。けど、私はそうは思わない」
「は?」
「きっと、奥さんや娘さんは、あんたが『仕事』を終えて帰ってくるのを待ってる。
あんた自身は味わえなくても、娘さんはあんたにおにぎりを作ってあげたくて待ってる。
お父さんが、ただいまって言って家に帰ってくるのを待ってる。……と思う」
山崎は足を止めずに、斗貴子の顔をちらりと見て。
「ありがとうございます。ワタクシは、そんなことを言って下さるアナタのような人がいる、
この社会が好きなのです。そして、愛する妻や娘が暮らしていくこの国の未来を護りたい。
ですから、もうしばらくは、今のままの形で世に関わっていこうと思っています。ですが
アナタのお心遣いは、ありがたく受け取っておきますよ」
山崎は、斗貴子のおにぎりを食べた時とよく似た微笑を浮かべた。
それから、その表情を少し引き締めて言葉を続ける。
「その優しさを、いつまでも失わないようにしてください。錬金の戦士として、
この先も過酷な戦いを続けられるのでしょうけど」
「……」
二人は病院を出た。真昼の眩しい日差しに目を細めて、足を止める。
「正直なところ、私はまだ迷っている。あの時、鈴木との取引を捨ててあの子を
助けようとしたのは、本当に正しかったのか。結果的には良かったけど、
ヘタをすれば鈴木の言ってた通り、戦団が後手を踏んで犠牲者を増やすだけ
だったかもしれない。もし、本当にそうなっていたらと考えると……」
「津村さん。こんな言葉をご存知でしょうか」
「え?」
山崎は、ゆっくりと歌うように言った。
発声前に考えて考えて、言葉を選んでから、斗貴子が言った。
「あんたはそんな体になったから、表立っては死亡したことになっているから、だから
もう家族に会えないとか言った。けど、私はそうは思わない」
「は?」
「きっと、奥さんや娘さんは、あんたが『仕事』を終えて帰ってくるのを待ってる。
あんた自身は味わえなくても、娘さんはあんたにおにぎりを作ってあげたくて待ってる。
お父さんが、ただいまって言って家に帰ってくるのを待ってる。……と思う」
山崎は足を止めずに、斗貴子の顔をちらりと見て。
「ありがとうございます。ワタクシは、そんなことを言って下さるアナタのような人がいる、
この社会が好きなのです。そして、愛する妻や娘が暮らしていくこの国の未来を護りたい。
ですから、もうしばらくは、今のままの形で世に関わっていこうと思っています。ですが
アナタのお心遣いは、ありがたく受け取っておきますよ」
山崎は、斗貴子のおにぎりを食べた時とよく似た微笑を浮かべた。
それから、その表情を少し引き締めて言葉を続ける。
「その優しさを、いつまでも失わないようにしてください。錬金の戦士として、
この先も過酷な戦いを続けられるのでしょうけど」
「……」
二人は病院を出た。真昼の眩しい日差しに目を細めて、足を止める。
「正直なところ、私はまだ迷っている。あの時、鈴木との取引を捨ててあの子を
助けようとしたのは、本当に正しかったのか。結果的には良かったけど、
ヘタをすれば鈴木の言ってた通り、戦団が後手を踏んで犠牲者を増やすだけ
だったかもしれない。もし、本当にそうなっていたらと考えると……」
「津村さん。こんな言葉をご存知でしょうか」
「え?」
山崎は、ゆっくりと歌うように言った。
【ひとつの命を救うのは、無限の未来を救うこと】
「かつて、災魔一族と呼ばれる恐ろしい侵略者の手から地球を護って戦い抜いた、
五色の戦士たちの言葉です」
「…………ひとつの……命……う~ん……」
斗貴子は考え込んでいる。山崎は眼鏡をくいっと上げて、溜息をついた。
「ふぅ。戦士とはいえ、アナタのように多感な年頃の少女の心は、ワタクシのような
オジサンの、硬質化した頭や言葉では動かせないのも当然ですかね。ですが、
いつかきっと、それを成し遂げる若者が現れると思いますよ。言葉だけではなく、
想いや行動で」
「?」
「そうですねぇ。例えばこのような」
山崎は空を見上げた。斗貴子もつられて見上げる。
燦々と降り注ぐ日差しが眩しい。
「熱く輝く、この太陽光のようなハートを持った若者が、アナタの前に現れることでしょう。
そして、アナタが本来持っている優しさを引き出してくれる……ただの勘ですけどね」
「なんだそりゃ。だったら、私も言わせて貰うが」
斗貴子は苦笑して言い返した。
「私のような戦士ではない、当たり前の日常を生きてきたごくごく普通の女の子が、
あんたの気持ちを動かして、奥さんと娘さんの待つ家に帰してくれる日がきっと来る。
ただの勘だけど」
「はは、それはそれは。そんな日が来るといいですな。お互いに」
「そう……だな」
二人は、どちらからともなく手を差し出して、しっかりと握手を交わした。
それから別れ、互いに背を向けて歩き出す。
五色の戦士たちの言葉です」
「…………ひとつの……命……う~ん……」
斗貴子は考え込んでいる。山崎は眼鏡をくいっと上げて、溜息をついた。
「ふぅ。戦士とはいえ、アナタのように多感な年頃の少女の心は、ワタクシのような
オジサンの、硬質化した頭や言葉では動かせないのも当然ですかね。ですが、
いつかきっと、それを成し遂げる若者が現れると思いますよ。言葉だけではなく、
想いや行動で」
「?」
「そうですねぇ。例えばこのような」
山崎は空を見上げた。斗貴子もつられて見上げる。
燦々と降り注ぐ日差しが眩しい。
「熱く輝く、この太陽光のようなハートを持った若者が、アナタの前に現れることでしょう。
そして、アナタが本来持っている優しさを引き出してくれる……ただの勘ですけどね」
「なんだそりゃ。だったら、私も言わせて貰うが」
斗貴子は苦笑して言い返した。
「私のような戦士ではない、当たり前の日常を生きてきたごくごく普通の女の子が、
あんたの気持ちを動かして、奥さんと娘さんの待つ家に帰してくれる日がきっと来る。
ただの勘だけど」
「はは、それはそれは。そんな日が来るといいですな。お互いに」
「そう……だな」
二人は、どちらからともなく手を差し出して、しっかりと握手を交わした。
それから別れ、互いに背を向けて歩き出す。
斗貴子は次の任務先、銀成市でのホムンクルス討伐へ。
山崎は次の派遣先、㈱ワイワイマートでの部長代理職へ。
山崎は次の派遣先、㈱ワイワイマートでの部長代理職へ。
斗貴子はその後、運命の少年・武藤カズキと出会う。
『太陽光のようなハート、か。本当にいるのなら会ってみたいものだな、そんな子に』
山崎はその後、運命の少女・鹿島倫子と出会う。
『普通の女の子、か。どんなものですかねぇ、最近の女の子はいろいろ難しいですから』
『太陽光のようなハート、か。本当にいるのなら会ってみたいものだな、そんな子に』
山崎はその後、運命の少女・鹿島倫子と出会う。
『普通の女の子、か。どんなものですかねぇ、最近の女の子はいろいろ難しいですから』
斗貴子と山崎の、それぞれの出会い。それぞれの物語が、始まる…………
【武装錬金】第一話 『新しい命』
【企業戦士YAMAZAKI】第一話 『コンビニエンス・ウォーズ』
【企業戦士YAMAZAKI】第一話 『コンビニエンス・ウォーズ』
に続く。