「ありがたいことに私の狂気は君達の神が保障してくれるという訳だ。
よろしいならば私も問おう。
君らの神の正気は、一体どこの誰が保障してくれるのだね? 」
太った少佐のその一言はつまり、宣戦布告だったのだ。
諸君、私は戦争が好きだ」
芝居がかった仕草で、男が一人あるきながら語りだす。
「諸君、私は戦争が好きだ」
白いコートに白いスーツ、オマケにタイまで真っ白なその男、
形だけみれば十分に伊達なのだが、矮躯に肥満体では折角の仕立てが台無しだ。
「諸君、私は戦争が好きだ」
声音に、口調に強いものは無くただ淡々と、だが同時に狂熱を拭おうともしない。
「諸君、私は戦争が大好きだ」
醒めている。だがどうしようもないまで熱狂に駆られている。
白いスーツの小男はそんな風情だ。
「殲滅戦が好きだ。
電撃戦が好きだ。
打撃戦が好きだ。
防衛線が好きだ。
包囲戦が好きだ。
突破戦が好きだ。
退却戦が好きだ。
掃討戦が好きだ。
撤退戦が好きだ。」
苛烈にして静寂。淡々と語られる口ぶりに駆り立てられるのは、兵士たちだ。
「平原で、街道で。
塹壕で、草原で。
凍土で、砂漠で。
海上で、空中で。
泥中で、湿原で」
ただ、ただ、淡々と。
ただ、ただ、冷静に。
ただ、ただ、情熱的に。
「この地上で行われる ありとあらゆる戦争行動が大好きだ 」
言葉通りなのだろう、彼はとても愉快そうだった。
「戦列をならべた砲兵の一斉発射が、轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ。
空中高く放り上げられた敵兵が、効力射でばらばらになった時など心がおどる。
戦車兵の操るティーゲルの88mm(アハトアハト)が、
敵戦車を撃破するのが好きだ。
悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵を、
MGでなぎ倒した時など 胸がすくような気持ちだった。
銃剣先をそろえた歩兵の横隊が、敵の戦列を蹂躙するのが好きだ。
恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など、感動すら覚える。
敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などは、もうたまらない。
泣き叫ぶ虜兵達が私の振り下ろした手の平とともに、金切り声を上げるシュマイザーに
ばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ。
哀れな抵抗者達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを、80cm列車砲(ドーラ)の4.8t榴爆弾が、
都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など、絶頂すら覚える 」
愉悦が声音を震わせていた。
まるで戦争と同衾しているかのような口ぶりだ。
勝ち戦に猛るのは兵の性だ。
だが、彼の本質はそんなところにはない。
「露助の機甲師団に滅茶苦茶にされるのが好きだ。
必死に守るはずだった村々が蹂躙され、女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ」
とても愉快そうに。
「英米の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ。
英米攻撃機(ヤーボ)に追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは、屈辱の極みだ」
快楽に歪んだ声の中にあるのは、怒りでもなければ絶望でもない。
ただ、ただ純粋に『戦争というもの』を一方的に愛する歪みがあった。
それは、ただ一方的に奪う愛・エロスだ。
博愛のアガペでも、友愛のフィロスでもない、奪うだけの、己の欲望のみを満たさんとするおぞましい「愛」。
「諸君、私は戦争を地獄の様な戦争を望んでいる。
諸君、私に付き従う大隊戦友諸君、君達は一体何を望んでいる?
更なる戦争を望むか?
情け容赦のない、糞の様な戦争を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界の鴉を殺す、嵐の様な闘争を望むか? 」
疑問ではなく、確認だ。
彼は己に付き従う一千人の吸血鬼が望むことの確認だ。
たった一つの欲望の為に集まった一千人が唱和する。
「戦争(クリーク)!!
戦争(クリーク)!!
戦争(クリーク)!! 」
兵士たちの熱狂を満足そうに、彼は笑む。
「よろしい、ならば戦争だ。
我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ。
だが、この暗い闇の底で半世紀もの間堪え続けて来た我々に、ただの戦争ではもはや足りない!! 」
一気呵成に彼は言葉を吐く。
最早留まらぬ狂熱と共に。
最早止まらぬ狂喜と共に。
「大戦争を!! 一心不乱の大戦争を!! 」
振り下ろされた手と共に、狂気が進む。
「我らはわずかに一個大隊、千人に満たぬ敗残兵に過ぎない。
だが諸君は、一騎当千の古強者だと私は信仰している。
ならば我らは諸君と私で、総兵力100万と1人の軍集団となる。
我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中を叩き起こそう。
髪の毛をつかんで引きずり下ろし、眼を開けさせ思い出させよう。
連中に恐怖の味を思い出させてやる。
連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる。
天と地とのはざまには、奴らの哲学では思いもよらぬ事がある事を思い出させてやる。
一千人の吸血鬼の戦闘団(カンプグルッペ)で、世界を燃やし尽くしてやる 」
一千人の吸血鬼たちに伝播した狂熱は、一つの意思となって進軍する。
戦争。
只それだけを求める兵どもの狂熱は、天と地の彼方へと突き進む。
「全フラッペン発動開始、旗艦デクス・ウキス・マキーネ始動」
「離床!!全ワイヤー、全牽引線、解除 」
「最後の大隊 大隊指揮官より 全空中艦隊へ」
「目標、英国本土。ロンドン首都上空!!
第二次ゼーレヴェー作戦、状況を開始せよ。
征くぞ、諸君」
かくして惨劇の幕は上がる。
よろしいならば私も問おう。
君らの神の正気は、一体どこの誰が保障してくれるのだね? 」
太った少佐のその一言はつまり、宣戦布告だったのだ。
諸君、私は戦争が好きだ」
芝居がかった仕草で、男が一人あるきながら語りだす。
「諸君、私は戦争が好きだ」
白いコートに白いスーツ、オマケにタイまで真っ白なその男、
形だけみれば十分に伊達なのだが、矮躯に肥満体では折角の仕立てが台無しだ。
「諸君、私は戦争が好きだ」
声音に、口調に強いものは無くただ淡々と、だが同時に狂熱を拭おうともしない。
「諸君、私は戦争が大好きだ」
醒めている。だがどうしようもないまで熱狂に駆られている。
白いスーツの小男はそんな風情だ。
「殲滅戦が好きだ。
電撃戦が好きだ。
打撃戦が好きだ。
防衛線が好きだ。
包囲戦が好きだ。
突破戦が好きだ。
退却戦が好きだ。
掃討戦が好きだ。
撤退戦が好きだ。」
苛烈にして静寂。淡々と語られる口ぶりに駆り立てられるのは、兵士たちだ。
「平原で、街道で。
塹壕で、草原で。
凍土で、砂漠で。
海上で、空中で。
泥中で、湿原で」
ただ、ただ、淡々と。
ただ、ただ、冷静に。
ただ、ただ、情熱的に。
「この地上で行われる ありとあらゆる戦争行動が大好きだ 」
言葉通りなのだろう、彼はとても愉快そうだった。
「戦列をならべた砲兵の一斉発射が、轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ。
空中高く放り上げられた敵兵が、効力射でばらばらになった時など心がおどる。
戦車兵の操るティーゲルの88mm(アハトアハト)が、
敵戦車を撃破するのが好きだ。
悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵を、
MGでなぎ倒した時など 胸がすくような気持ちだった。
銃剣先をそろえた歩兵の横隊が、敵の戦列を蹂躙するのが好きだ。
恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など、感動すら覚える。
敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などは、もうたまらない。
泣き叫ぶ虜兵達が私の振り下ろした手の平とともに、金切り声を上げるシュマイザーに
ばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ。
哀れな抵抗者達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを、80cm列車砲(ドーラ)の4.8t榴爆弾が、
都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など、絶頂すら覚える 」
愉悦が声音を震わせていた。
まるで戦争と同衾しているかのような口ぶりだ。
勝ち戦に猛るのは兵の性だ。
だが、彼の本質はそんなところにはない。
「露助の機甲師団に滅茶苦茶にされるのが好きだ。
必死に守るはずだった村々が蹂躙され、女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ」
とても愉快そうに。
「英米の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ。
英米攻撃機(ヤーボ)に追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは、屈辱の極みだ」
快楽に歪んだ声の中にあるのは、怒りでもなければ絶望でもない。
ただ、ただ純粋に『戦争というもの』を一方的に愛する歪みがあった。
それは、ただ一方的に奪う愛・エロスだ。
博愛のアガペでも、友愛のフィロスでもない、奪うだけの、己の欲望のみを満たさんとするおぞましい「愛」。
「諸君、私は戦争を地獄の様な戦争を望んでいる。
諸君、私に付き従う大隊戦友諸君、君達は一体何を望んでいる?
更なる戦争を望むか?
情け容赦のない、糞の様な戦争を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界の鴉を殺す、嵐の様な闘争を望むか? 」
疑問ではなく、確認だ。
彼は己に付き従う一千人の吸血鬼が望むことの確認だ。
たった一つの欲望の為に集まった一千人が唱和する。
「戦争(クリーク)!!
戦争(クリーク)!!
戦争(クリーク)!! 」
兵士たちの熱狂を満足そうに、彼は笑む。
「よろしい、ならば戦争だ。
我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ。
だが、この暗い闇の底で半世紀もの間堪え続けて来た我々に、ただの戦争ではもはや足りない!! 」
一気呵成に彼は言葉を吐く。
最早留まらぬ狂熱と共に。
最早止まらぬ狂喜と共に。
「大戦争を!! 一心不乱の大戦争を!! 」
振り下ろされた手と共に、狂気が進む。
「我らはわずかに一個大隊、千人に満たぬ敗残兵に過ぎない。
だが諸君は、一騎当千の古強者だと私は信仰している。
ならば我らは諸君と私で、総兵力100万と1人の軍集団となる。
我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中を叩き起こそう。
髪の毛をつかんで引きずり下ろし、眼を開けさせ思い出させよう。
連中に恐怖の味を思い出させてやる。
連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる。
天と地とのはざまには、奴らの哲学では思いもよらぬ事がある事を思い出させてやる。
一千人の吸血鬼の戦闘団(カンプグルッペ)で、世界を燃やし尽くしてやる 」
一千人の吸血鬼たちに伝播した狂熱は、一つの意思となって進軍する。
戦争。
只それだけを求める兵どもの狂熱は、天と地の彼方へと突き進む。
「全フラッペン発動開始、旗艦デクス・ウキス・マキーネ始動」
「離床!!全ワイヤー、全牽引線、解除 」
「最後の大隊 大隊指揮官より 全空中艦隊へ」
「目標、英国本土。ロンドン首都上空!!
第二次ゼーレヴェー作戦、状況を開始せよ。
征くぞ、諸君」
かくして惨劇の幕は上がる。