SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ HAPPINESS IS A WARM GUN 55-1


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『幸せってのは発射の温もりが残る銃の事さ』と、あるミュージシャンが歌っていた。
誰でも事を成し終えた後には幸せを感じるものなのであろう。
それは人によって実に様々だ。
発射後の銃の温もりに幸せを抱く者、射精の後の性器に残る余韻に浸る者、ヘロインを注射し終えた
痕のムズ痒さが堪らない者。

そして――

人を殴る拳の感触。
自分の骨を相手の肉に喰い込ませ、打ち抜く。
拳に残る最高の感触。
そんな感触に取り憑かれた者が一人。



「ねえ、ちょっと。そこのアンタ」

銀成学園1年A組の生徒である武藤まひろに話しかけたのは、見た事も会った事も無い
他校の女子高生だった。
折しも下校時間。
まひろは珍しくたった一人で寄宿舎への帰途につこうと、今まさに校門を出たところである。
接しやすくフレンドリーな雰囲気、と言うよりフレンドリーが服を着て歩いていると言っても良い彼女は、
初めて銀成学園を訪れるこの女子高生にとって、話しかけるには持って来いだったのだろう。
「ハイ? 何ですか?」
まひろは立ち止まり、ニコニコと愛想良く応対した。
向かい合うと、実に対照的な風貌の二人である。
話しかけられたまひろは、軽いウェーブがかかった明るい茶髪のロングヘア、多少野暮ったい
太眉と垂れ眼、ほんわかとした笑顔と喋り声。
一方の話しかけた女子高生は、少しの乱れも無い漆黒のストレートロング、細い眉と切れ長な吊り眼、
“研ぎ澄まされた”という表現がピッタリなある種の迫力。
制服においても、その違いは明白だ。
ヒラヒラとした装飾の多いゴスな風情を漂わせた銀成学園のそれとは違う、正統派のセーラー服。
加えて、膝上20cmの短いスカートからスラリと伸びた長い脚は黒のストッキングに覆われている。
大半の男子は、色気の無い膝辺りまでのスカートと白いハイソックスよりも、そちらの方に
眼が行くだろう。
女子高生は単刀直入に用件だけを告げた。
「ちょっと人を呼んで欲しいんだけど。ここに……――」
鼻の上に人差し指でスッと一文字を描く。
「――こういう風に傷がある子」
銀成学園生徒にとっては非常にわかりやすい人相書きを聞き、まひろは嬉しそうにポンと
両手を打った。
「あ! 斗貴子さんの事だね! あなた、斗貴子さんのお友達?」
一際声を弾ませて、大きな瞳を輝かせながら女子高生を覗き込むまひろ。
まさか“友達の友達は皆、友達だ”などという古臭いフレーズを知っているとも思えないが、
まひろにとってはそれに近い感覚なのかもしれない。
しかし、女子高生の顔には明らかに苛立ちと鬱陶しげな不快感が浮かんでいる。
人懐っこさも選ぶ相手を間違えているというところか。
「友達ってワケじゃないけどね。とにかくお願い」
「は~い!」
刺々しさを含んだ声に対しても元気一杯に返事をすると、まひろは生徒玄関へと取って返す。
警戒心ゼロ。
どんな人物か怪しみもしなければ、名前も目的も聞こうとしない。
女子高生はその徹底したお気楽振りにやや不安を覚えながらも、斗貴子を待つ事にした。

少しの時間を挟み、呼び出された斗貴子と件の女子高生は体育館裏の一角にいた。
場所を指定したのは女子高生の方である。
体育館裏と言えばカツアゲ、一対一のケンカ、上級生のイビリが似合いそうな場所ではあるものの、
それは男子生徒に限った事だ。
この場にいるのは、平均を大きく超えた美形に属する女子生徒二人。
そして、この二人はどことなく似通った面が多かった。
セーラー服、極端なミニスカート、切れ長の吊り眼、更にはクールさを漂わせる雰囲気。

充分に人気の無い場所で足を止めると、斗貴子は無愛想な低い声で尋ねた。
「一体、私に何の用だ。というか、キミは誰だ?」
彼女もまた単刀直入である。
目の前に立つ女子高生と同種の鋭い視線は明らかに警戒の色が濃い。
正体不明の人物、呼び出された理由が不明となれば、警戒心が高まるのも当然だ。
どこかの誰かと違って。
女子高生は長い黒髪を掻き上げると、特に悪びれる様子も無く自己紹介をする。
「わたしは久我阿頼耶。聖ヒネモス女学院の一年生よ。今日はアンタに頼みがあって来たわ」
「頼み?」
次の瞬間、久我阿頼耶と名乗る女子高生の口からは、斗貴子が予想だにしなかった珍妙な
“頼み”が飛び出した。

「ええ。わたしと組んで“深道ランキング”っていうストリートファイトに参加して欲しいの」

「……は!? ちょ、ちょっと待て! ストリートファイトってどういう事だ!? それ以前に
何故、面識の無い私にいきなりそんな事を頼むんだ!?」
眼が点になったまま一拍置いて、斗貴子は驚きと共に矢継ぎ早の疑問を浴びせた。
いくら錬金の戦士の斗貴子といえども、一般常識が欠如している訳ではない。いや、むしろ
いつも行動を共にする面々と比べれば、かなりの常識人である。
急な突拍子も無い依頼に面食らうのは当然だ。
だが、阿頼耶はそんな彼女の様子などどこ吹く風で、順序立てて説明を始める。
「アンタ、少し前に銀成駅近くのロッテリやでバイトしてたでしょ?」
「あ、ああ。確かにしていたが……」
おそらく、クリスマスパーティの場で壊してしまった理事長の古伊万里を弁償する為にしていた
バイトの事だろう。
仕事内容にあまり良い思い出は無かったが、あれは年末近くの出来事だったか。
阿頼耶は話を続けた。
「ちょうどこっちに用事があって、友達と一緒にそのロッテリやでお昼ご飯を食べたんだけど、
その時に店員やってるアンタを見かけたの」
今時の女子高生がファストフード店で友達と食事をし、そこにいたバイトの女子高生を路上の
ケンカのパートナーにスカウトする。
簡潔な文章にすると、とんでもなく支離滅裂である。
いや、文章にしようとしまいと、そのトンデモ振りは変わらない。
斗貴子は飽きれ返ったように溜息を吐き、そして考えた。
ここからは阿頼耶がいかにピントのずれた事を言っているか、その説明に力を使う事になりそうだと。
「見かけたって……。あのなぁ、それだけで――」

「そして見抜いたわ。アンタがただの女子高生じゃないって」

その一言でやや抜けてきた感のあった斗貴子の警戒心が甦った。
「……!?」
阿頼耶はゆったりと腕を組むと、体育館の壁に寄りかかる。
「店内への目の配り方やカウンターでの身のこなしだけでも、“機転の利くバイトの女の子”とは
少し違ってた。
それと、制服から覗いてる手脚の高密度に搭載された筋肉も参考になったし。全体の筋量、
そこから予想出来る筋力の割には良いバネしてるわね、アンタ」
薄く笑みを浮かべる阿頼耶に対し、斗貴子は油断無く返事を返す。
「……随分、眼が良いんだな」
「ありがとう。で、思ったワケよ。アンタは格闘家やアスリートとはまったく別種の訓練を受けた、
どちらかと言うと……“兵士”に近い人間だって」

日常生活の中で働く姿だけを見て、そこまでの身体機能・身体能力を割り出せる観察眼は
驚異と言って良い。
一流のドクターや国際レベルのスポーツトレーナーに匹敵するかもしれない。
否、それらとは似て非なる種類の“眼”だ。
ルールや良識に縛られる事の無い古来の武道家。常に前線で戦い続ける軍人。
そんな殺伐とした存在が有するものに近い。

「私に言わせれば、オマエも充分普通の女子高生ではないと思うが……?」
至極もっともな話だ。
斗貴子の本質である錬金の戦士としての力を見抜く“普通の”女子高生などいやしない。
路上のケンカ屋だとしても、その域を遥かに超えているからだ。
「そんなアンタだから頼みたいの。わたしと組んでストリートファ――」
「断る」
「早っ!」
まだ話の最中というのもそうだが、偶然とはいえ見出せた“自分に近い存在”がこの話に
乗ってこない事が、阿頼耶にとっては予想外だったのだ。
思う存分に力を振るう場所を提供すると言えば、喜び勇んで飛びついてくると踏んでいたのだが。
「オマエのような者ならそっち方面に顔が広そうだし、周りにもそういう事を頼めそうな奴がいるだろう」
斗貴子流の正論である。

類は友を呼ぶではないが、斗貴子が予想出来る限りでの阿頼耶の強さ・センスを鑑みれば、
少なくとも一人や二人は彼女に匹敵する実力を持つ者が近しくいる筈である。
これはプロ・アマチュア、競技・実戦、合法・非合法に関わらず、“闘い”や“戦い”に
身を置く者であれば共通する事実である。

しかし、阿頼耶は頭を掻きながら、ボヤき気味に白状する。
「確かに何人かいるわよ。中国拳法の達人、ボクシングの日本チャンピオン、殺し屋って感じで。
でも無理なの。『空飛ぶネコのミイラの呪いで発熱中』とか『プロボクサーがストリートファイトを
する訳にはいかない』とか『金払え』とか、諸々の事情でね。
そうじゃなかったらアンタに頼みに来ないわよ」
阿頼耶の口から飛び出す言葉に、斗貴子は疑い半分驚き半分だ。
「そ、そうなのか。自分で言っておいて何だが、本当に顔が広いんだな……。だが私はな……」
「でも他に頼む人がいないみたいだし、かわいそうだよ。斗貴子さん、手伝ってあげたら?」
確かにそうかもしれない。
見ず知らずの自分を頼ってきたのだから、まさに藁をも掴む思いなのだろう。
だが、自分の立場というものを考えれば――

「いや、しかし……――って、いつの間にいたんだ!? カズキ!」

突然のカズキの出現に、斗貴子はその場から飛び上がらんばかりに驚愕した。
阿頼耶は阿頼耶で二人の様子をジト眼で眺めながら、ここにやって来た事を軽く後悔し始めている。
「その子、結構前からいたんだけど……。あ、あれ? もしかしてわたしの人選、間違ってたかな……」
カズキは現在の状況などお構い無しに、斗貴子に向かって真剣に説いた。
「確かにケンカをするのはあまり良くないけど、すごく困ってるみたいだし。助けてあげる
人がいなかったら、それこそ大怪我しちゃうよ?」
正義感が強く、人の好いカズキなりの思考だ。やや非論理的なズレはあるが。
まず倫理や道徳に反するのは良い事ではないという前提がある。
だが、それが避けられないのであれば、仲間と共に立ち向かう。
力を合わせて助け合えば、危難は払えるし、被害は最小限に抑えられるといったところだろう。
無論、困っている人間を見過ごせないという単純さも大分含まれてはいる。
「ああ、もう……!」
肝心な事を取り違えているカズキにやや苛立ちながら、斗貴子は彼の耳に口を寄せ、小声で教え諭す。
「いいか? キミも充分承知していると思うが、私は錬金の戦士だぞ。競技の上で相手を倒す為ではなく、
化物を殺す為の訓練を受けてきた人間だ。そんな私が、たかがケンカ自慢の素人を相手に
闘う事なんか出来ないのは、キミにもわかるだろう?」
「でも……」
カズキは不服そうだ。
誰にも助けてもらえない → 一人で挑む事になる → 大怪我をしてしまうかもしれない
阿頼耶に対するこのお人好し三段論法がどうしても頭から拭えないのだ。
「カズキ、頼む。キミだけでもわかってくれ。じゃないと私は胃に穴が空く……」
『説得する人間が二人に増えた』と頭を抱えて煩悶する斗貴子。
そんなやり取りをする二人に置いてけぼりを喰らっていた阿頼耶がふと低く呟いた。

「たかがケンカ……? 素人……? 言ってくれるじゃない!」

どうやら、カズキを諭すのに夢中で阿頼耶の耳に届く程に声が大きくなっていたらしい。
阿頼耶は拳を固く握り締め、ギリリと歯を軋ませた。
見る見るうちに殺気は高まり、コンマ秒単位で戦闘態勢を整える。
ギラつく眼は完全に“闘る気”だ。
予告無くズカズカと大股に斗貴子との距離を縮め始めた阿頼耶は、“妙な事”を口にした。
「教えてあげることが出来たわ、“職業戦士”さん。ちょっと荒っぽくなるけど……――」
「カズキ、どいてるんだ!」
とっさに彼を押し退けた斗貴子は素早く身構える。既に間合いなのだ。

斗貴子が意識のスイッチを切り替えたと同時に、阿頼耶が放ったのは大振りな右のフック。
小さいながらも鍛え抜かれたゴツさを見せる拳が、斗貴子の横っ面を目掛けて襲いかかる。
だが斗貴子は実に冷静に飛来する拳を“視ていた”。
(スピードはあるがテレフォンすぎる……)
イメージは出来ていた。スウェーバックで避け、振り終わりの腕を捕らえ、関節を極める。
多少、痛い思いをさせるのも仕方無いだろう。
そして、それを実行に移そうとした、その瞬間――
拳の“軌道”が不自然に捻じ曲がった。速度はまったく損なわれる事無く。
フックの筈が何故かアッパーとなって下から突き上げられてくる。
拳は斗貴子の顎先を僅かにかすめた。それで充分だった。

斗貴子は糸の切れた操り人形のようにペタリと地面に尻餅をついた。
視線が定まらず、口が開いたまま閉じられない。
何よりも四肢が痺れて、少しも動かす事が出来ないのだ。
完全なK.O.(Knock the fuck Out)の姿である。
「あ、ああ……」
「斗貴子さん! しっかりして!」
カズキは意識を朦朧とさせた斗貴子に駆け寄ると、その身を抱き起こした。
そして怒りに燃える眼で阿頼耶を睨む。
しかし、阿頼耶の表情は先程とは打って変わった穏やかな、と言うよりは申し訳無さげなものと
なっていた。
「カズキ君……だったかしら。ごめんなさい、こんな事をしてしまって。これ以上、
何もするつもりはないわ」
すかさず神妙な面持ちでそう言われ、カズキは飛びかかる訳にも怒鳴る訳にもいかなくなった。
阿頼耶はそっと二人の傍にしゃがみ込むと、心配そうに斗貴子の顔を覗いた。
その仕草からは芝居っ気などは微塵も感じられない。
斗貴子をここまでの状態に追いやった行動は、どうやら本意ではなかったらしい。
「聞こえてる? 今のは“魔弾”……。わたしが編み出した技よ。避けられなかったみたいだけれど、
落ち込まなくていいわ。“絶対に”避けられないんだから」
これが闘いが始まる前に口にした“荒っぽい教え方”だったのだろう。
そして、阿頼耶が真に教えたかった事は自分の技についてではない。この技を振るう“相手”に
ついてだった。

「それと……。わたしが参加している“深道ランキング”はただのストリートファイトじゃない。
全国のストリートファイターをプロボクシングみたいに強さでランク付けしているわ。
そして、ネット配信による大勢の観客もいれば、賭けで巨額のお金も動いている。
……ねえ、わたしはランキング何位くらいだと思う? 今、アンタをKOしたわたしは」

斗貴子は聞こえているのかいないのか、虚ろな視線を阿頼耶の向こうの空に漂わせるだけだ。
勢い、阿頼耶は問わず語りの体にならざるを得ない。

「19位よ。何回も言うようだけど、アンタを一発でKOした“たかがケンカ自慢の素人”の
このわたしが19位。わたしよりもまだまだ上がいるって事。
特に一桁上位ランカーは嫌になるくらいの化物揃い……」

そこまで言うと、阿頼耶は立ち上がった。
今度はカズキに向かって、花が萎んでしまうかのようなか細い声で、幾分伏し目がちに言葉を掛けた。
銀成学園の校門をくぐった時の威勢の良さはどこにいってしまったのか。
「明日、また来るわ。彼女が出る気になってくれたなら詳しい説明をするし、出る気が無ければ
それはそれでいい。諦める……」
「わかったよ。伝えておく……」
まだまだ怒りが収まらないカズキではあったが、複雑な思いがそれを上回っていた。
阿頼耶の表情の変化や、斗貴子をこうせざるを得なかった真意が、カズキに強い言葉を吐かせなかったのだ。
阿頼耶は二人に背を向け、歩き出す。
そして歩を止めず、背を向けたまま、誰に言うでもなく小さな声で呟いた。
「それから……今日のは不意討ち、騙し討ちみたいなもの。アンタの実力がこんなもんじゃないのは
わかってるから……」

斗貴子が完全に意識を取り戻すのは、それから三十分後であった。