SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ ロンギヌスの槍 part.2


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時代に真っ向から逆行したような服装だった。悪名高い漆黒の軍装。グルマルキンと名乗った女性は、武装親衛隊の勤務服に外套を羽織
り、淡い金髪に軍帽をかぶっていた。他の二名もまた同様に、髑髏の結社の装いだ。
 ティーン――同じく武装親衛隊の勤務服に、軍帽を目深に被り、腰に日本刀を佩いている。
 巨躯――同じく武装親衛隊の勤務服に、無骨な鉄兜を被り、無機質な双眸が不気味に光る仮面をつけている。 

 優は銃口を向けていた。――腕章に刻まれたハーケンクロイツ。遺産を狙うのは、生者だけではない。過去からの亡霊もまた、その怨念を
晴らさんがために、力を求める。WWⅡの敗残兵。鉤十字の亡者達。
「ネオナチ、か」
「馬鹿なことを口にするな。我々はあんな半端ものではない。あの三千世界を焼く嵐を経験したことのない者たちなど、仲間といえるか。
日々を悪戯に過ごし力を磨耗していった馬鹿どもではなく、我々は絶えず研鑽を続けてきた。故に我々は正当なる第三帝国軍人であり、ゲル
マンの騎士だ」

 陶酔を若干滲ませながら、グルマルキンと名乗った女性はしゃべる。その言葉を信じるなら、彼女は戦中から従軍していたことになる。そ
の顔にはいささかの皺もなく、半世紀の老いが刻まれた様子はない。不老不死――魔術を極めたものが辿り着く極地。
 ――ただの人間ではない。彼女を中心に巻き起こる瘴気が、周囲の空間を侵し始めていた。魔女という存在は、そこにいるだけで周囲を異
界へと変える。ちりちりと緊張が優の首筋を焼いた。

「そこをどいてもらおうか、スプリガン。聖槍は我ら帝国の所有物だ。総統閣下の所有物だ。正当な持ち主の下に返すのが礼儀というもので
ないかね?」グルマルキンが口をひらく。
「へっ、何が正当な持ち主だよ。あんたらの手に渡ったら、第三次世界大戦が起こりかねないぜ」
「そうか。あくまで我らの邪魔をするというのだな。……ならば」
 優の言葉を予想していたように嗤い――グルマルキンは部下に命令を発した。

「ドライ、そいつを潰せ!」

 熊のような巨躯がぶぅんと電子音のような唸りを上げ、優に突進した。自身の巨大な質量を頼みにした単純な攻撃だが、それゆえ破るのは
難しい。優は惨殺された死体の様を思い出していた。力任せに引きちぎられた肉体――その想像を絶する力は、容易く優の体を木っ端微塵に
四散させるだろう。眼前に迫りくる巨大な弾丸の如き敵を前に、優はどうしたか。
 ただにやりと笑い――まともにその突撃を受けた。なんと正面からドライを圧し留めているのである。鍛えているとはいえその肉体は人間
の域を出ていない優だ。人間を紙細工のように潰すドライにまともに抵抗できるはずがない。ならば何故、突撃を受け止めることができたの
か。その種は、優が着込んでいるスーツである。
 不自然なことが起こっていた。ドライの巨躯を受け止めている優の筋肉が、目に見えて増えているのである。腕は丸太ほどに膨れ上がり、
胸もまた鎧のようにあつい筋肉がついていた。
 AMスーツ。それは人口筋肉によって使用者の身体を格段に強化し、人外の膂力を約束する特殊スーツである。だがAMスーツの恩恵を預
かってもドライの怪力は恐るべきものだった。徐々にだが優を押しつつある。純粋な力くらべなら、ドライに分があるようだ。だが力だけで
勝敗が決するわけではない。優がスプリガンである所以はAMスーツだけではない。

 優は隙を突き、その尋常ならざる膂力でドライの足を払い、すかさずその腕を取った。大の大人が子供に背負い投げられるような形となる。
「どおりゃぁぁぁぁぁああああ!!!」
 姿勢を崩されたドライは、その力の流れを優にコントロールされ、自慢の怪力を生かせぬまま頭から地面に激突した。顔を地面にめり込ま
せ、伏したまま動く気配はない。優はぱんぱんと手を払った。にやっと笑いながら優はグルマルキンに向き直った。
「たいそうな口を利くが、スプリガンを相手にするにはまだまだだったようだな。もう半世紀ぐらい準備が足りなかったんじゃないのか?」
「減らず口を……。ふん、だがあのドライを屈服させたことは褒めてやろう。なるほど力任せでは歯が立たぬようだな。だが我々の目的は貴
様らの抹殺ではない。聖槍――それさえ手に入れれば十分なのだ。貴様らにかまっている暇はないのだ」
「へ、じゃあ、嫌でもかまってもらうぜ!」
 ナイフを手に、優は疾走した。AMスーツの加護を受け、人間の目には捉えきれないほどの速度だ。魔女といえども魔術を行使する前は普
通の人間と変わらない。その弱点を補うために数々の術式や策を準備するのだが、不意をつかれればあっけなく死ぬ。優の狙いは詠唱が行わ
れる前にその命を絶つことにあった。
 そしてオリハルコン製ナイフの切っ先が魔女の頚動脈をとらえ――
「な!」
 横合いからの一刀に、阻まれた。

 魔女の命を絶つはずだったナイフは、美しい刃紋を持つ日本刀にさえぎられ、首筋に届くか届かないかぎりぎりのところでじっと動けずに
いた。すぐ横を見れば――いつの間に移動したのか、魔女のすぐ傍に抜刀した武装SSが控えていた。

「そうそう簡単に殺されはせんよ」魔女の嘲り。
「……!」
 すぐ傍まで死の刃が迫っているのに、魔女はまったく動揺していなかった。魔女に限らず魔術師は、非力な自分を補助するために使い魔や
人形などのガーディアンを使役する。この場合、この武装SSがグルマルキンにとってのガーディアンなのだろう。スプリガンに拮抗しうる
ほどの力量を持つなら、魔女の絶対の信頼もうなずける。

「……くく、よくやったアイン。さて、状況は我らの方に傾いてきたようだな」
 そういって、懐から取り出したルガーを優のこめかみに押し付けた。スプリガン相手でもこの近距離なら外しようがない。加えて、このア
インと呼ばれた武装SSの存在。少しでも抵抗のそぶりを見せれば即座に優の首が飛ぶ。
 状況は圧倒的に優に不利だった。だがグルマルキンはルガーをさげ、サーベルを鞘に収めた。

「残念だが、貴様の始末よりも聖槍を手に入れるのが先だ。アイン、こいつはお前が足止めをしろ。久しぶりの獲物だ、じっくり味わえ」

 アインは、無表情にこくりとうなずいた。それと同時に沈黙していたはずのドライが起き上がった。先ほどの背負い投げのダメージはまっ
たく残っていないようだった。ぶぅんと機械音のような唸りを上げ、ロンギヌスが眠る地下への入り口へ向かうグルマルキンに付き従った。

「待ちやがれ!」

 グルマルキンを追うのをさえぎるように、アインが優の前に立った。緩やかに構えているようで、その実まったく隙を見せない立ち振る舞
い。死人を思わせる白い肌。薄く閉じられた唇。そして、腰に佩いた日本刀。ゆっくりと腰を落とし、柄に手をかける。居合いの構え。
 その途端、無風であるはずの両者の間に突然ざわっと風が吹いた。じわりと優の首筋に嫌な汗が滲む。鋭く研ぎ澄まされた純粋な殺意が目
の前の武装SSから放射され、優の心臓を貫いていた。少しでも隙を見せれば、殺される。優を戦慄させるには十分な濃度の殺意だった。ナ
イフを逆手に変えながら、頭の片隅で優は思った。――ティアの助けにはいけそうにない、と。


 存外長い距離を歩いた先、石畳の広い空間の中心に、ロンギヌスは安置されていた。聖槍の周囲に人影はない。あまりの警備のずさんさに
グルマルキンは拍子抜けしていた。だがこれで作戦も楽に遂げることができる。さっそく彼女はロンギヌスに手を伸ばそうとして――
「む!」
 右手に奔った鋭い痛みに、拒絶された。とっさに手を離す。見れば、右手の手袋が焼け焦げていた。
「結界か」
 忌々しげに不可視の障壁を睨む。ロンギヌスは絶大な奇跡を呼ぶ聖遺物だ。守護のための結界が一つや二つ張られていても不思議ではな
い。だがあと少しで目的のものを手に入れられる時に、無粋な邪魔をされたのが、魔女にとってとても不愉快だった。
 サーベルを抜き放ち、無造作に切りつける。同時に刀身に刻まれた"解呪"のルーンが発動し、ロンギヌスを守っていた術式をキャンセルし
た。だが結界を破っても、まだグルマルキンの警戒は解かれなかった。魔力が織り込まれた手袋が焼け焦げたということは、よほどの術者が
はった結界に違いなかった。そしてその独特な術式には見覚えがあった。その記憶はグルマルキンの深い恥辱の傷を抉るものだった。忌まわ
しい宿敵がここにいる!

「あら、誰かと思えばミス・グルマルキン。お久しぶりね」 
「貴様……ティア・フラットか!」

 グルマルキンの灼熱の如き怒りを、氷の微笑が受け流した。ティア・フラット。彼女は万が一の事態のために、ロンギヌスの間近に控えて
いたのだ。そしてその懸念は的中した。ティアは外の状況を使い魔を介して把握している。
 グルマルキンの怒りに燃えた視線を、ティアは真っ向から受け止めた。両者の間には、何か宿命めいた因縁が存在しているかのようだっ
た。激情に駆られた鉤十字の魔女は止らない。あふれ出る憎悪を隠そうともせず、氷の魔女に牙を剥いた。
「このときを待ち望んだ……! 私に敗北を刻み付けたお前を、この手で縊り殺す瞬間を何度も夢見てきたのだ。今日ここで、貴様との因縁
も仕舞いにしてやる!」

 詠唱が魔女の口から流れ、サーベルが燐光を放ち始めると、その刀身からルーンの刻印が浮き上がった。大気中のオドを吸収し、グルマル
キンを中心にして力場を作り上げる。そして限界まで膨れ上がった魔力が、一気に爆発した。そして爆発とともに魔力は収束し指向性のある
現象へと変わる。槍の形に鍛え上げられた魔力の塊がグルマルキンの周囲に浮かんでいた。その一つ一つにはかするだけで肉体が爆ぜるほど
の力が秘められている。そしてグルマルキンの合図とともに、幾重にも張り巡らされた魔術の弾幕が、ティアに襲い掛かった。 

 魔術の槍が石畳の床に何本も突き刺さる。その様子はさながら突然いくつもの墓標が出現したようだ。精密な狙いなどない、大雑把な射
撃。だが数が数だったので、その槍の暴雨は逃げ遅れたティアを串刺しにしていた。途端に、槍が一斉に魔力を解き放ち、大爆発を起こし
た。荒れ狂う破壊の渦。爆音が狭い室内に響き渡り、粉塵がグルマルキンの視界を奪った。
 だがグルマルキンはティアを仕留めたとは思っていなかった。長き因縁を持つあの魔女が、こんなことで死ぬはずがない。そしてその予測
は当たっていた。

 舞い上がる塵の合間から、百獣の王と猛禽のない混ぜになったような怪物が現れた。コーリング・ビースト。護符から幻想の獣を召喚す
る、ティアが得意とする高等魔術だ。その牙と爪は彼女の敵を引き裂き、殺す。だがグルマルキンとて魔術の練達だ。高等魔術とはいえ、そ
の対処方法は熟知している。 
「コーリング・ビーストなどという児戯が、私に通用すると思うな!」

 サーベルのルーンが魔女の肉と血と骨に染み渡りその全身を強化した。結果、擬似的に魔女は人間の枠を超える。強化された視神経が魔物
の動きを的確に追い、飛び掛った瞬間にその核を正確に貫いた。その瞬間、サーベルに施された"解呪"のルーンが起動。断末魔の悲鳴をあげ
ることなく、幻想の獣は、穴が穿たれた護符を残して消えた。

「さすがね、グルマルキン」
 少し離れたところに、自分の分身と獣を潰されたティアが涼しげな顔で佇んでいた。その美貌にはいささかの傷がない。

「苛烈なあなたにふさわしい魔術だったわ。もっとも、少し騒々しすぎるとは思うけどね」
「ぬかせ。しかし、まさか貴様と鉢合わせするとは思わなかったぞ。くく……何たる僥倖」
「そう。それで、どうやらあなたの狙いはロンギヌスというわけね。叶わない夢ばかり追い求めて、また人間に従属する道を選んだ」
「そのとおりだ。今も昔も、私はそれだけのために戦い続けている。総統の悲願を受け継ぎ、頑強な帝国を復興させるのが、私の望みだ」
「あなたは相変わらずのようね。残念だけど、あなたの望みを叶えてあげるわけにはいかないわ」
「ほざけ。それにな、本来なら即刻貴様の息の根を止めてやりたいところだが、そうもいってられないのだよ。聖槍の奪取はすべてにおいて
優先される。ドライ、私がこいつをひきつけている間に聖槍を奪え!」

 命令を受け、漆黒の巨躯が聖槍に手を伸ばした。結界の守りはすでに存在しない。このままではロンギヌスはドライの手に渡る。しかしテ
ィアは動じなかった。
「無駄よ。まだ結界は生きているわ。それも、もっと頑丈なものがね――」
 ドライの指先がもう一歩のところまで迫った瞬間、聖槍を中心に紫電が荒れ狂い、聖域への侵入者を攻撃した。結界から発生した膨大な魔
力の渦がドライを飲み込み、その四肢を拘束し、ずたずたに切り裂いた。漆黒の軍装が破れ――その下から無惨な傷を負った鋼鉄の皮膚が覗
いた。ぱっくりと開いた傷口から血液の代わりに水銀が溢れ始める。
「自動機械人形(オートマタ)を連れてきたの?」
 ドライの惨状を見たティアが呟いた。人の形をした人ならざるもの。瞳には宝石が輝き、血潮の変わりに水銀が全身を駆け巡り、脳の代わ
りに円筒(シリンダ)が思考を司る。
「だけど、どのみち無駄ね。中心部は念入りに術式を施しておいたの。あなたといえども、その解呪は手間取るはずよ。あなたの部下には当
然無理。かわいそうだと思うなら、諦めるようにいってあげて」
「ククク、貴様はドライを甘く見すぎている。人形は決して主に逆らわない。あれは私は命令を必ずやり遂げる。たとえ腕がもげ足を潰され
ようともな。――ドライ、私は命じたはずだ。さっさと聖槍を奪取しろ!」

 完全に四肢を拘束されたはずのドライの身体に、グルマルキンの言葉によって、再び火がともった。機械仕掛けの体を、限界まで酷使す
る。その全身に小さな火花が幾つもはじけた。だが構わず、力任せに不可視の枷を引きちぎった。ロンギヌスを覆っていた圧力が消え、結界
は役割を終えた。しかしあまりの負荷にとうとう腰の辺りで小爆発が起こり、ドライは力なく膝を突いた。満身創痍の有様だったが、なおも
ドライは聖槍に手を伸ばす。とうとうその鋼鉄の指がロンギヌスに触れた。

「そんな、ただの力だけで、結界を破ったというの」驚きを隠せない表情で、ティアがいう。
「当てが外れたな、ティア・フラット。これで聖槍は我らのものだ。過去の雪辱を注ぎたいのは山々だが、ここで貴様に構っている暇はな
い。我らには時間がないのだ。ドライ、作戦は終了だ。引き上げるぞ!」

 やっとのことでロンギヌスを手にし、ぎこちない動きで立ち上がったドライの背中から、機械仕掛けの翼が出現した。背部に備え付けられ
たジェットエンジンが火を放ち、巨躯を空中へと押し上げる。迫る地下室の天井を肩から発射したミサイルで粉砕し、同じく肩から出現した
ドリルで穿孔しながら、ドライは暗闇の彼方に消えた。

「く……」
 悔しげに唇をかむ。常に冷静に振舞っている彼女には珍しい。それゆえにグルマルキンの嗜虐に火をつけたのであろう。心底楽しそうにテ
ィアを嘲笑っていた。
「貴様のその顔を見れただけでも満足だ。では、また会おう、ティア・フラット!」 
「待ちなさい!」

 再び、コーリング・ビースト。しかし、幻想の獣の爪に掛かる前に、グルマルキンの全身は霧のように掻き消えた。

「……逃がしたようね」

 後にはティア・フラットだけが残された。

 優とアインは動けずにいた。実力が拮抗するもの同士ならば、先に動いたほうが負けになる。どちらも攻めあぐねているのだ。目に見えな
い心理の中で両者は激しくせめぎあっていた。だが唐突にその死闘は幕を下ろした。

『アイン、ロンギヌスは奪取した。引き上げだ』

 魔女グルマルキンの声。周囲に優とアイン以外に人影はない。遠く離れたところから念話で語りかけているのだろう。ロンギヌスの奪取。
ティアが失敗したということか。
 魔女の命を受けたアインは構えをといた。張り詰めた殺気が消滅すると同時に、その足元に魔法陣が展開された。光があふれ、小柄なアイ
ンを飲み込んでいく。転移魔法陣だ。

「ちっ!」

 その瞬間に優はナイフを投擲していた。だがそれはアインに突き刺さることなくその身体をすり抜けた。魔女の哄笑が響き渡る。
『残念だったな、スプリガン。貴様らのおかげで、我々の計画も次の段階へ進める。感謝するぞ。そして待つがいい。完全な復活を遂げた第
三帝国が、劣等どもを踏み潰し世界に君臨するときをな!』

 その言葉を最後に、アインの姿と魔女の気配は消え去った。
「くそっ!」
 悔しさに優は地面に拳をぶつけた。スプリガンの敗北だった。