「……ふぅ、すっきりした。いや~助かったよ、林田君。君のカツラが役に立った」
「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど……」
「……で、いつから僕の気持ちに気付いていたの?」
「う~ん、初めっからかな。なにしろ、あの女の子の目はクロマティー高校に
入ってきたばかりのお前とそっくりだったから」
「……そうか、そうだよね。あの頃の僕はクロ校を変えてやると理想に燃えていた。
どんな環境でも、どんな人でも意思さえあれば、どうにでもなると信じていた。
それが、今じゃ、どうだ。現状に甘んじ、ただ日々を無為に過ごすだけ……
そんな僕があの子の一途な視線に耐えられないのは当たり前の話だよね」
「……別にお前に限った話じゃないさ。誰だって昔は夢や理想を持ってただろうが、
いつまでもそんなこと言ってられないからな。皆、自分を誤魔化して現実と上手く
やるしかないんだ」
「うん、別に僕だってそれが全部悪いと思っている訳じゃないんだ。ただ、あの子の
目を見ていると、『お前は誤魔化しているんだ。俺は全部知っているんだぜ』と
まるで昔の自分に責められているような気がしてきて……、それが怖くて、つい、
あんな酷いことを……。ああ、僕は何てことをしてしまったんだ」
「過ぎたことだ、気にするなよ。あの子はたった一人で大切なものを守ろうと
しているんだ。お前が心配するほどヤワじゃねえさ」
「……うん、本当に強いよね、あの子は。見たことなんてないけどさ、ああいう
強い人間こそが真のサムライにふさわしいんだろうな」
「サムライか……。侍の語源は主君の側にいるという『さぶらう』から
来ているんだってな。別に主君とかいなくてもさ、自分よりでっけえ『何か』を
信じている奴はそれだけで立派なサムライだと俺は思うぞ。自分より偉大な
ものを信じる奴は自分自身を越えられる。強いからサムライなんじゃない。
サムライだからこそ人は強くなれるんだ」
「なるほど、確かに君の言う通りだ……しかし、君、本当に林田君?」
「え?いつもの俺だぞ」
「なんかさ、カツラ外してから知能レベルが上がってない?」
「う~ん、そうかな?」
「ひょっとして、呪われているんじゃない?このカツラ」
「そんなことはないと思うが……まあ、カツラなのに髪が伸びたりするから
不思議といえば、ちょっと不思議かな。サザビーズの競売で手に入れたんだけど」
「うん、間違い無いく呪われているよね。このカツラ」
「まあ、別に馬鹿でも死ぬわけじゃないからいいけど。で、時に神山、これから
どうするよ?」
「え、どうするって何が?」
「いやさ、新幹線に一旦は戻ったんだけど、竹之内が大暴れしてて、再び
トレインジャックされているんだよね。奴は『新幹線が砂漠に埋もれるまで
ここを動かない』とか言って運転室を占拠しているらしい」
「へ~、竹之内君ってそんなに新幹線が好きだったのか。なんか意外だな」
「ああ、『これ以上移動するなら新幹線と心中してやる』って言っていたから、
よっぽど好きなんだろう」
「ふ~ん、人は見掛け依らないもんだね」
「まあ、そんな訳で新幹線を止めて、飛行機で帰ることに変更されたんだけど、
それまで時間が空いちゃってヒマしているんだ」
「う~ん、それは困ったねえ」
「ああ、なんか面白くて、人の為になって、おまけにスカッとするような
ヒマ潰しがあればいいんだけどなあ」
「そうだねえ……」
「どうだ、なんか、いい案あるか?」
「……う~ん……例えば……」
「例えば?」
「…………例えば、サムライごっことか」
「……ハハハ、馬鹿だなあ、神山。この年でサムライごっこはないだろ」
「ハハハ、だよね。いくら何でもサムライは無いよね。しかも、ここ砂漠だよ」
「……でも、砂漠にサムライがいても別に法律違反じゃないよな?」
「そりゃ、そうだよ。『サムライ禁止』なんて法律あるわけないし」
「じゃあ、別に問題は無い訳だ」
「うん、問題は無い」
「……でも、格好はどうするよ?チョンマゲなんて結える奴いないぜ」
「大丈夫だよ、林田君の呪われたカツラがあるじゃない」
「さらにゲロまみれのな。着物は?」
「君が修学旅行用に持ってきた特攻服で間に合わせよう。何でそんなものを
持ってきているのかはさて置いて」
「カタナは?」
「拳で充分。うん、これだけ揃えたら誰がどう見てもサムライにしか見えないよね」
「いやいやいや、額に『武士』とだけ書いた方がまだマシのような気がするぞ」
「……で、問題はあの女の子をなじった僕にサムライとしての資格があるか
どうかなんだけど……」
「資格か……流石にそればっかりは適当に揃えられるものじゃないな……あ」
「どうしたの、林田君?」
「いや、なんか、お前の肩に花びらが止まっていて……」
「……あ、本当だ、入り口から入ってきたのかな?不思議なこともあるもんだね。
砂漠に花なんてそんなにある訳じゃないだろうし」
「……もしかして、オアシスにあるっていう桜の木から飛んできたのかな?」
「まさか。そんな遠くから花びらが飛んでくるとは考えられないよ。大体、
似てはいるけど桜とは別の花だよ、これ」
「そうか。じゃあ、きっと何かの偶然だよな……」
「うん、そうだよ……でも」
「ん、でも?」
「でも、この花もとっても綺麗だよね」
「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど……」
「……で、いつから僕の気持ちに気付いていたの?」
「う~ん、初めっからかな。なにしろ、あの女の子の目はクロマティー高校に
入ってきたばかりのお前とそっくりだったから」
「……そうか、そうだよね。あの頃の僕はクロ校を変えてやると理想に燃えていた。
どんな環境でも、どんな人でも意思さえあれば、どうにでもなると信じていた。
それが、今じゃ、どうだ。現状に甘んじ、ただ日々を無為に過ごすだけ……
そんな僕があの子の一途な視線に耐えられないのは当たり前の話だよね」
「……別にお前に限った話じゃないさ。誰だって昔は夢や理想を持ってただろうが、
いつまでもそんなこと言ってられないからな。皆、自分を誤魔化して現実と上手く
やるしかないんだ」
「うん、別に僕だってそれが全部悪いと思っている訳じゃないんだ。ただ、あの子の
目を見ていると、『お前は誤魔化しているんだ。俺は全部知っているんだぜ』と
まるで昔の自分に責められているような気がしてきて……、それが怖くて、つい、
あんな酷いことを……。ああ、僕は何てことをしてしまったんだ」
「過ぎたことだ、気にするなよ。あの子はたった一人で大切なものを守ろうと
しているんだ。お前が心配するほどヤワじゃねえさ」
「……うん、本当に強いよね、あの子は。見たことなんてないけどさ、ああいう
強い人間こそが真のサムライにふさわしいんだろうな」
「サムライか……。侍の語源は主君の側にいるという『さぶらう』から
来ているんだってな。別に主君とかいなくてもさ、自分よりでっけえ『何か』を
信じている奴はそれだけで立派なサムライだと俺は思うぞ。自分より偉大な
ものを信じる奴は自分自身を越えられる。強いからサムライなんじゃない。
サムライだからこそ人は強くなれるんだ」
「なるほど、確かに君の言う通りだ……しかし、君、本当に林田君?」
「え?いつもの俺だぞ」
「なんかさ、カツラ外してから知能レベルが上がってない?」
「う~ん、そうかな?」
「ひょっとして、呪われているんじゃない?このカツラ」
「そんなことはないと思うが……まあ、カツラなのに髪が伸びたりするから
不思議といえば、ちょっと不思議かな。サザビーズの競売で手に入れたんだけど」
「うん、間違い無いく呪われているよね。このカツラ」
「まあ、別に馬鹿でも死ぬわけじゃないからいいけど。で、時に神山、これから
どうするよ?」
「え、どうするって何が?」
「いやさ、新幹線に一旦は戻ったんだけど、竹之内が大暴れしてて、再び
トレインジャックされているんだよね。奴は『新幹線が砂漠に埋もれるまで
ここを動かない』とか言って運転室を占拠しているらしい」
「へ~、竹之内君ってそんなに新幹線が好きだったのか。なんか意外だな」
「ああ、『これ以上移動するなら新幹線と心中してやる』って言っていたから、
よっぽど好きなんだろう」
「ふ~ん、人は見掛け依らないもんだね」
「まあ、そんな訳で新幹線を止めて、飛行機で帰ることに変更されたんだけど、
それまで時間が空いちゃってヒマしているんだ」
「う~ん、それは困ったねえ」
「ああ、なんか面白くて、人の為になって、おまけにスカッとするような
ヒマ潰しがあればいいんだけどなあ」
「そうだねえ……」
「どうだ、なんか、いい案あるか?」
「……う~ん……例えば……」
「例えば?」
「…………例えば、サムライごっことか」
「……ハハハ、馬鹿だなあ、神山。この年でサムライごっこはないだろ」
「ハハハ、だよね。いくら何でもサムライは無いよね。しかも、ここ砂漠だよ」
「……でも、砂漠にサムライがいても別に法律違反じゃないよな?」
「そりゃ、そうだよ。『サムライ禁止』なんて法律あるわけないし」
「じゃあ、別に問題は無い訳だ」
「うん、問題は無い」
「……でも、格好はどうするよ?チョンマゲなんて結える奴いないぜ」
「大丈夫だよ、林田君の呪われたカツラがあるじゃない」
「さらにゲロまみれのな。着物は?」
「君が修学旅行用に持ってきた特攻服で間に合わせよう。何でそんなものを
持ってきているのかはさて置いて」
「カタナは?」
「拳で充分。うん、これだけ揃えたら誰がどう見てもサムライにしか見えないよね」
「いやいやいや、額に『武士』とだけ書いた方がまだマシのような気がするぞ」
「……で、問題はあの女の子をなじった僕にサムライとしての資格があるか
どうかなんだけど……」
「資格か……流石にそればっかりは適当に揃えられるものじゃないな……あ」
「どうしたの、林田君?」
「いや、なんか、お前の肩に花びらが止まっていて……」
「……あ、本当だ、入り口から入ってきたのかな?不思議なこともあるもんだね。
砂漠に花なんてそんなにある訳じゃないだろうし」
「……もしかして、オアシスにあるっていう桜の木から飛んできたのかな?」
「まさか。そんな遠くから花びらが飛んでくるとは考えられないよ。大体、
似てはいるけど桜とは別の花だよ、これ」
「そうか。じゃあ、きっと何かの偶然だよな……」
「うん、そうだよ……でも」
「ん、でも?」
「でも、この花もとっても綺麗だよね」