暴風と化した、炸薬と化したアンデルセンは見る間に火渡との距離を縮めていく。
銃剣の鈍い煌きと、舞い上がるコンクリートやガラスの破片が火渡に迫っていく。
聖書の紙片にがんじがらめにされ、身動きひとつ取れない中、彼は感じていた。
己の操る炎よりも灼熱を秘めた殺意を。失意に沈みながら打たれた雨よりも冷たい殺気を。
それはすべてその生身の首筋に集約されていく。
「くっ……! こんなとこで殺られてたまるかよォ!!」
足掻け。足掻け。最後まで足掻き通せ。
火渡はこの崖っぷち、どころではない、もう落下が始まっている状況においても闘う心を
失ってはいなかった。
聖なる縛鎖を打ち破ろうと満身に力を込める。
されど――心は熱すれども、肉体は弱し。
彼には、彼の身体にはもう、何かを成せる“もの”など残ってはいなかった。
そして気づけば、二つの刃は、すぐそこに――
銃剣の鈍い煌きと、舞い上がるコンクリートやガラスの破片が火渡に迫っていく。
聖書の紙片にがんじがらめにされ、身動きひとつ取れない中、彼は感じていた。
己の操る炎よりも灼熱を秘めた殺意を。失意に沈みながら打たれた雨よりも冷たい殺気を。
それはすべてその生身の首筋に集約されていく。
「くっ……! こんなとこで殺られてたまるかよォ!!」
足掻け。足掻け。最後まで足掻き通せ。
火渡はこの崖っぷち、どころではない、もう落下が始まっている状況においても闘う心を
失ってはいなかった。
聖なる縛鎖を打ち破ろうと満身に力を込める。
されど――心は熱すれども、肉体は弱し。
彼には、彼の身体にはもう、何かを成せる“もの”など残ってはいなかった。
そして気づけば、二つの刃は、すぐそこに――
アンデルセンの握る両の銃剣が左右から薙ぎ払われると同時に、処刑執行を示す“音”が響き渡る。
しかし、響き渡ったのは肉を断つ生々しい音ではなかった。
まるで矛と盾が打ち鳴らされたかのような甲高い金属音だ。
アンデルセンの表情が曇る。
「ヌウッ!?」
聖堂騎士による断頭刑は一人の男によって阻止されていた。
火渡とアンデルセンの間に立っていたのは、白銀の防護服(メタルジャケット)に身を包んだ男。
防人衛だった。
それぞれ左右の腕で銃剣の斬撃をしっかりと受け止めている。
「防人!」
「防人君!」
二人の声を背に受け、防人は猛る気合いと共に渾身の力で両腕を広げる。
「オオオオオッ!」
銃剣は大きく弾かれ、アンデルセンは数メートル後方へ飛び退った。
だが戦闘態勢を崩してはいない。
口元を歪めてやや薄笑いを浮かべてはいるが、防人を睥睨する眼光は今にも襲いかからん
ばかりの鋭さを秘めている。
「ああ、そういえば……もう一人いたのだったな……」
疾風の如く二人の間に割って入ったものの、防人はアンデルセンが発する殺気を肌で感じ、
幾分圧倒されている風ではある。
アンデルセンの眼から、アンデルセンの銃剣から、アンデルセンの全身から発せられる殺気。
それはまるで猛獣だ。
向かい合う者すべての意識を、死の予感に直結させる。
彼と向かい合い、尚も平然を保てる者がいるとすれば、その者は文字通り人間ではないの
かもしれない。
まるで矛と盾が打ち鳴らされたかのような甲高い金属音だ。
アンデルセンの表情が曇る。
「ヌウッ!?」
聖堂騎士による断頭刑は一人の男によって阻止されていた。
火渡とアンデルセンの間に立っていたのは、白銀の防護服(メタルジャケット)に身を包んだ男。
防人衛だった。
それぞれ左右の腕で銃剣の斬撃をしっかりと受け止めている。
「防人!」
「防人君!」
二人の声を背に受け、防人は猛る気合いと共に渾身の力で両腕を広げる。
「オオオオオッ!」
銃剣は大きく弾かれ、アンデルセンは数メートル後方へ飛び退った。
だが戦闘態勢を崩してはいない。
口元を歪めてやや薄笑いを浮かべてはいるが、防人を睥睨する眼光は今にも襲いかからん
ばかりの鋭さを秘めている。
「ああ、そういえば……もう一人いたのだったな……」
疾風の如く二人の間に割って入ったものの、防人はアンデルセンが発する殺気を肌で感じ、
幾分圧倒されている風ではある。
アンデルセンの眼から、アンデルセンの銃剣から、アンデルセンの全身から発せられる殺気。
それはまるで猛獣だ。
向かい合う者すべての意識を、死の予感に直結させる。
彼と向かい合い、尚も平然を保てる者がいるとすれば、その者は文字通り人間ではないの
かもしれない。
防人はアンデルセンから一時も注意を逸らさずに身構えざるを得ない。
後ろには負傷、及び完全拘束で動けぬ二人の仲間がいるのだが。
「大丈夫か? 火渡、千歳」
振り返らずに声だけを掛ける防人。
「う、うん……!」
「テメエ、何のつもりだ! 防人!」
苦痛の中にも喜びを隠せない千歳とは対照的に、火渡は防人に食ってかかる。
命を救われた感謝の念など微塵も感じさせない。
むしろ、防人の救援を責め立て、非難しているように聞こえる。
帽子と襟元に隠れてほんの僅かに苦笑いを浮かべる防人であったが、アンデルセンの背後、
遥か後方にしゃがみ込んだ首無し死体を見つけるとそれも消えた。
「サムナー……」
防人の心中は如何ばかりか。
自分が手を掛ける事になってしまった親友を化物(ホムンクルス)に変えた張本人、諸悪の根源は
既に殺されてしまっている。
それも錬金戦団の仇敵であるヴァチカン特務局第13課の手によって。
ジュリアン、サムナー、アンデルセン。複雑な思いが胸の内を駆け巡る。
未だ前方に注意を払いながら、防人は尋ねた。
「千歳、パトリック・オコーネルは……」
「もう、殺されたわ。彼に……」
複雑な胸中にパトリックの名も加わった。自分達が倒す筈だった、ホムンクルスを操る
悪のテロリスト。
「そうか……」
少しの思慮の時間を挟み、防人はアンデルセンに話しかけた。無論、警戒は解かぬままで。
「アンデルセン。この辺で終わりにしないか……?」
「あァ!? 何言ってやがるッ!!」
火渡は眼を剥き、猛然と抗議した。
もしも身体の自由が利いていれば、掴みかかり、殴り飛ばしていたかもしれない。
しかし、火渡の性格、それに今の今まで繰り広げてきた死闘を鑑みれば当然であろう。
何を思って防人がこんな発言をしたのか、火渡には理解出来ない。
アンデルセンは何の反応も無く、無表情で防人の言葉に耳を傾けている。
防人は火渡には返答せず、言葉を続けた。
「錬金戦団(オレタチ)の標的も、第13課(オマエ)の標的も、テログループ“New Real IRA”の筈だ……。
リーダーのパトリック・オコーネルは死に、配下の兵士達もほぼ全滅している。
ならば、もう俺達がここにいる理由は無い。俺もお前も任務は果たした……」
後ろには負傷、及び完全拘束で動けぬ二人の仲間がいるのだが。
「大丈夫か? 火渡、千歳」
振り返らずに声だけを掛ける防人。
「う、うん……!」
「テメエ、何のつもりだ! 防人!」
苦痛の中にも喜びを隠せない千歳とは対照的に、火渡は防人に食ってかかる。
命を救われた感謝の念など微塵も感じさせない。
むしろ、防人の救援を責め立て、非難しているように聞こえる。
帽子と襟元に隠れてほんの僅かに苦笑いを浮かべる防人であったが、アンデルセンの背後、
遥か後方にしゃがみ込んだ首無し死体を見つけるとそれも消えた。
「サムナー……」
防人の心中は如何ばかりか。
自分が手を掛ける事になってしまった親友を化物(ホムンクルス)に変えた張本人、諸悪の根源は
既に殺されてしまっている。
それも錬金戦団の仇敵であるヴァチカン特務局第13課の手によって。
ジュリアン、サムナー、アンデルセン。複雑な思いが胸の内を駆け巡る。
未だ前方に注意を払いながら、防人は尋ねた。
「千歳、パトリック・オコーネルは……」
「もう、殺されたわ。彼に……」
複雑な胸中にパトリックの名も加わった。自分達が倒す筈だった、ホムンクルスを操る
悪のテロリスト。
「そうか……」
少しの思慮の時間を挟み、防人はアンデルセンに話しかけた。無論、警戒は解かぬままで。
「アンデルセン。この辺で終わりにしないか……?」
「あァ!? 何言ってやがるッ!!」
火渡は眼を剥き、猛然と抗議した。
もしも身体の自由が利いていれば、掴みかかり、殴り飛ばしていたかもしれない。
しかし、火渡の性格、それに今の今まで繰り広げてきた死闘を鑑みれば当然であろう。
何を思って防人がこんな発言をしたのか、火渡には理解出来ない。
アンデルセンは何の反応も無く、無表情で防人の言葉に耳を傾けている。
防人は火渡には返答せず、言葉を続けた。
「錬金戦団(オレタチ)の標的も、第13課(オマエ)の標的も、テログループ“New Real IRA”の筈だ……。
リーダーのパトリック・オコーネルは死に、配下の兵士達もほぼ全滅している。
ならば、もう俺達がここにいる理由は無い。俺もお前も任務は果たした……」
喋り続ける防人の頭の中に声が響く。
『……ろう?』
少年の姿をした赤銅島のホムンクルス達をこの手で殺した時に芽生えた冷えた心。
そして、親友であるジュリアンをこの手で殺した時に再び湧き出した冷えた心。
『そ……ないだろう?』
その冷たさが声を上げる。
『そうじゃないだろう?』
振り払いたい。振り払えない。
『……ろう?』
少年の姿をした赤銅島のホムンクルス達をこの手で殺した時に芽生えた冷えた心。
そして、親友であるジュリアンをこの手で殺した時に再び湧き出した冷えた心。
『そ……ないだろう?』
その冷たさが声を上げる。
『そうじゃないだろう?』
振り払いたい。振り払えない。
「それに……確かに俺達は信じるものは違うかもしれない。属する組織も違うかもしれない。
だが、正義を背負って戦い、弱い者を救うという信念は同じじゃないのか!?
だったら、これ以上の無益な闘いは――」
「正義!? 正義だと!?」
突如、アンデルセンは怒声を発し、防人の話を遮った。
その顔には憤怒の赤い炎がありありと浮かんでいる。
「貴様ら異端の魔術師共が“正義”などと口にし、あまつさえ我らと同列に並ぼうなどとは
片腹痛いわ……。
いいか、よく聞け……! 正義とは我々(カトリック)だ! 我々(ヴァチカン)の事だ!
我々(イスカリオテ)以外に神の真理と正義を代行する者などこの世に存在せんのだ!!」
揺るぎない信仰心。絶え間ざる神への祈り。再臨の日を待ち望み、異を狩り獲る奉仕。
アンデルセンを構成するすべてがカトリックの正義、否、カトリック“のみ”が持ち得る
正義を絶対のものにしている。
『AMEN(はっきりと告げよう)』
『AMEN(その通りなのだ)』
『AMEN(そうあれかし)』
何者も彼の世界を変える事など決して出来はしない。決して、決して、決して。
「貴様らは断じて正義などではない! 偽善ですらない! “悪”だ! “悪”そのものだ!!」
だが、正義を背負って戦い、弱い者を救うという信念は同じじゃないのか!?
だったら、これ以上の無益な闘いは――」
「正義!? 正義だと!?」
突如、アンデルセンは怒声を発し、防人の話を遮った。
その顔には憤怒の赤い炎がありありと浮かんでいる。
「貴様ら異端の魔術師共が“正義”などと口にし、あまつさえ我らと同列に並ぼうなどとは
片腹痛いわ……。
いいか、よく聞け……! 正義とは我々(カトリック)だ! 我々(ヴァチカン)の事だ!
我々(イスカリオテ)以外に神の真理と正義を代行する者などこの世に存在せんのだ!!」
揺るぎない信仰心。絶え間ざる神への祈り。再臨の日を待ち望み、異を狩り獲る奉仕。
アンデルセンを構成するすべてがカトリックの正義、否、カトリック“のみ”が持ち得る
正義を絶対のものにしている。
『AMEN(はっきりと告げよう)』
『AMEN(その通りなのだ)』
『AMEN(そうあれかし)』
何者も彼の世界を変える事など決して出来はしない。決して、決して、決して。
「貴様らは断じて正義などではない! 偽善ですらない! “悪”だ! “悪”そのものだ!!」
「そうか……」
防人はアンデルセンに対する警戒すらも忘れ、頭を垂れた。
「俺は、お前がそう答えるのを期待していたのかもな……」
歯を強く食い縛り、拳を固く握り締める。
「お前は異端、異教なら誰でもいいんだろう? 俺も今はそんな気分なんだ。誰でもいい……。
お前でも……!」
顔を上げた防人の冷えた心が――
『そうだ、それでいい……』
――青白い炎となって燃え盛り、激しい声を上げさせる。
防人はアンデルセンに対する警戒すらも忘れ、頭を垂れた。
「俺は、お前がそう答えるのを期待していたのかもな……」
歯を強く食い縛り、拳を固く握り締める。
「お前は異端、異教なら誰でもいいんだろう? 俺も今はそんな気分なんだ。誰でもいい……。
お前でも……!」
顔を上げた防人の冷えた心が――
『そうだ、それでいい……』
――青白い炎となって燃え盛り、激しい声を上げさせる。
「やってやるぞ、アンデルセン! 最後まで!! 最期まで!!」
咆哮の激しさとは裏腹にその声に含まれているのは深い虚無。
防人の背中に浮かぶ冷たさは、千歳の胸に言いようの無い不安を呼び、口をつぐませた。
そして、火渡もまた絶句していた。
自分ならばまだしも、防人が口にする言葉ではない。戦いに向かう防人の姿ではない。
「フン……。“それ”で何をやると言うのだ?」
防人の宣戦布告を顔色ひとつ変えずに受け止めたアンデルセンは、とある箇所を銃剣で指し示した。
“それ”とは防人の前腕部。
全身を覆う筈のシルバースキンが何故か肘から先には見当たらず、生身の腕をさらけ出して
しまっている。
見ると宙空に浮かぶ灰がヘキサゴンパネルのひとつひとつを捕らえ、再構成を阻んでいた。
千歳が苦痛を押して防人に声を掛ける。
「“灰”のせいよ……。灰が武装錬金の働きを無効化させてしまうの……!」
「ああ、そうみたいだな……」
返ってくる反応は鈍い。
錬金の戦士が武装錬金を失う。これがどれほど危険かわからない防人ではないだろうに。
防人の背中に浮かぶ冷たさは、千歳の胸に言いようの無い不安を呼び、口をつぐませた。
そして、火渡もまた絶句していた。
自分ならばまだしも、防人が口にする言葉ではない。戦いに向かう防人の姿ではない。
「フン……。“それ”で何をやると言うのだ?」
防人の宣戦布告を顔色ひとつ変えずに受け止めたアンデルセンは、とある箇所を銃剣で指し示した。
“それ”とは防人の前腕部。
全身を覆う筈のシルバースキンが何故か肘から先には見当たらず、生身の腕をさらけ出して
しまっている。
見ると宙空に浮かぶ灰がヘキサゴンパネルのひとつひとつを捕らえ、再構成を阻んでいた。
千歳が苦痛を押して防人に声を掛ける。
「“灰”のせいよ……。灰が武装錬金の働きを無効化させてしまうの……!」
「ああ、そうみたいだな……」
返ってくる反応は鈍い。
錬金の戦士が武装錬金を失う。これがどれほど危険かわからない防人ではないだろうに。
やがて防人は掌を開いた右腕を真横に伸ばした。
次の瞬間、防人がまとうシルバースキンは光に包まれ、核鉄へと形を変えて掌の中へ収まった。
「なっ、何考えてやがるッ!」
流石の火渡も驚愕した。
今の防人が身に着けている物といえばTシャツ、アーミーパンツ、ブーツ。
武器と呼べる物も何ひとつ持っていない。
闘いに赴く者の、錬金の戦士の姿ではない。
「どうせ意味が無いんだ……」
吐き捨てるように言うと、防人は核鉄を投げ捨て、歩を進め始めた。
次の瞬間、防人がまとうシルバースキンは光に包まれ、核鉄へと形を変えて掌の中へ収まった。
「なっ、何考えてやがるッ!」
流石の火渡も驚愕した。
今の防人が身に着けている物といえばTシャツ、アーミーパンツ、ブーツ。
武器と呼べる物も何ひとつ持っていない。
闘いに赴く者の、錬金の戦士の姿ではない。
「どうせ意味が無いんだ……」
吐き捨てるように言うと、防人は核鉄を投げ捨て、歩を進め始めた。
その歩の向こう側にいるアンデルセンはワナワナと肩を震わせている。
怒りに打ち震えているのかと思えばそうではない。
笑っているのだ。
「面白い……!」
向かってくる者はまったくの丸腰だ。
それなのに、先刻闘った戦士以上の闘志を秘めているではないか。
隠しても隠しきれない、抑えようとしても抑えられない、封じ込めた筈の歓喜の笑いが
込み上げてくる。
心の底からの闘いへの歓喜が。
“それを打ち倒さなければ己になれない”
単純にして深遠。総々にして唯一。
それは、闘争の本質。
怒りに打ち震えているのかと思えばそうではない。
笑っているのだ。
「面白い……!」
向かってくる者はまったくの丸腰だ。
それなのに、先刻闘った戦士以上の闘志を秘めているではないか。
隠しても隠しきれない、抑えようとしても抑えられない、封じ込めた筈の歓喜の笑いが
込み上げてくる。
心の底からの闘いへの歓喜が。
“それを打ち倒さなければ己になれない”
単純にして深遠。総々にして唯一。
それは、闘争の本質。
――北アイルランド アーマー州 ラーガン市内
夜が明け、朝の光に照らし出されていく街。その一角の街路灯。
そろそろ役目の時間を終えようという街路灯の上に人影があった。
青のカソックに身を包んだ女性。眼鏡の奥の青い瞳は閉じられている。
代行者、シエルだ。
「激怒、歓喜、哀傷、憎悪、悔恨、狂気、虚無――」
静かに眼を開け、顔を上げる。
「――あらゆる感情が闘争心と共に渦を巻き、うねりを増し始めている……」
ある一方向にキッと視線を移すと、街路灯から軽やかに飛び上がり、夜明けの街並みに
その身を躍らせた。
彼女が向かう先は――
そろそろ役目の時間を終えようという街路灯の上に人影があった。
青のカソックに身を包んだ女性。眼鏡の奥の青い瞳は閉じられている。
代行者、シエルだ。
「激怒、歓喜、哀傷、憎悪、悔恨、狂気、虚無――」
静かに眼を開け、顔を上げる。
「――あらゆる感情が闘争心と共に渦を巻き、うねりを増し始めている……」
ある一方向にキッと視線を移すと、街路灯から軽やかに飛び上がり、夜明けの街並みに
その身を躍らせた。
彼女が向かう先は――
「急がなければ……」
次回――
肉体。HURRY。同志。始まりの終わり。
《THE LAST EPISODE:The whirlwind is in the thorn trees》
肉体。HURRY。同志。始まりの終わり。
《THE LAST EPISODE:The whirlwind is in the thorn trees》