状況は絶望的だった。
三度目の変身を終え、真の姿を現したフリーザ。発せられるパワーが大きすぎて、どの
程度の実力を隠しているのか見当もつかない。
悟飯、クリリンはもちろん、ピッコロまでもが立ち向かう気力をなくしていた。
だが──。
「フリーザ。てめぇは超サイヤ人になったこの俺様が片付けてやるぜ」
単身、果敢にもフリーザに挑むベジータ。
激闘はしばらく続いたが、やはり実力差は歴然だった。フリーザに遊ばれていることに
気づき、ベジータの顔色はみるみる青ざめていく。
「バ、バカな……!」
「超サイヤ人というのはこの程度なのかい? 地獄以上の恐怖を味わわせてやるよ、ベジ
ータ」
「ち、ちくしょう……超サイヤ人は天下無敵のはずだ。こんなものじゃない!」
幾度も死線をくぐり抜けた自分こそが、超サイヤ人となる資格がある。超サイヤ人とな
ればフリーザなど敵ではないはず。なのに、まるで歯が立たない。闘争心が全身から抜け
落ちていく。
すっかり戦意を無くしたベジータを見かね、ピッコロが声をかける。
「おいベジータ、超サイヤ人というのはナメック星人の肩をよく揉むらしいぞ」
「何だと?! 早くいえ!」
すぐさまピッコロの背後に飛び、肩を揉み始めるベジータ。
「ついでに僕の肩も揉んでくれよ、超サイヤ人のベジータ」
フリーザの肩揉みも見事にこなす。
「超サイヤ人は僕の宿題を代わりにやってくれるそうですよ」
「あ、そうだ。俺の嫁さんも探しといてくれよ、頼むぜ超サイヤ人」
悟飯とクリリンにまで超サイヤ人扱いされ、いよいよ舞い上がるベジータ。
「ふはははは、俺は超サイヤ人だ!」
三度目の変身を終え、真の姿を現したフリーザ。発せられるパワーが大きすぎて、どの
程度の実力を隠しているのか見当もつかない。
悟飯、クリリンはもちろん、ピッコロまでもが立ち向かう気力をなくしていた。
だが──。
「フリーザ。てめぇは超サイヤ人になったこの俺様が片付けてやるぜ」
単身、果敢にもフリーザに挑むベジータ。
激闘はしばらく続いたが、やはり実力差は歴然だった。フリーザに遊ばれていることに
気づき、ベジータの顔色はみるみる青ざめていく。
「バ、バカな……!」
「超サイヤ人というのはこの程度なのかい? 地獄以上の恐怖を味わわせてやるよ、ベジ
ータ」
「ち、ちくしょう……超サイヤ人は天下無敵のはずだ。こんなものじゃない!」
幾度も死線をくぐり抜けた自分こそが、超サイヤ人となる資格がある。超サイヤ人とな
ればフリーザなど敵ではないはず。なのに、まるで歯が立たない。闘争心が全身から抜け
落ちていく。
すっかり戦意を無くしたベジータを見かね、ピッコロが声をかける。
「おいベジータ、超サイヤ人というのはナメック星人の肩をよく揉むらしいぞ」
「何だと?! 早くいえ!」
すぐさまピッコロの背後に飛び、肩を揉み始めるベジータ。
「ついでに僕の肩も揉んでくれよ、超サイヤ人のベジータ」
フリーザの肩揉みも見事にこなす。
「超サイヤ人は僕の宿題を代わりにやってくれるそうですよ」
「あ、そうだ。俺の嫁さんも探しといてくれよ、頼むぜ超サイヤ人」
悟飯とクリリンにまで超サイヤ人扱いされ、いよいよ舞い上がるベジータ。
「ふはははは、俺は超サイヤ人だ!」
舞台が地球に移っても、ベジータの役割は変わらない。
秒単位のスケジュールで使い走りをさせられ、東西南北を駆け回る日々。
クリリンには約束通り18号を紹介し、新婚旅行まで世話してやった。その他にも悟空
との組み手、悟飯の宿題、ピッコロのために名水を汲むなど休まる暇がない。時にはフリ
ーザの宇宙開拓にも参加した。平均睡眠時間は一時間を切った。
「ベジータ、あんた超サイヤ人なんだから私と結婚しなさいよ」
「ち……」
とうとうブルマと結婚してしまった。
フリーザの下で働いていた頃以上の、屈辱の日々が続く。
だが、彼の心は満たされていた。伝説の超サイヤ人となり宇宙一となった今、全ての屈
辱は屈辱ではなく、超サイヤ人である自らに課せられた使命なのだと考えていた。
「戦闘民族サイヤ人も悪くなかったが、超サイヤ人も悪くないぜ」
メモを片手にスーパーで買い物をしながら、ベジータは独りごちた。
秒単位のスケジュールで使い走りをさせられ、東西南北を駆け回る日々。
クリリンには約束通り18号を紹介し、新婚旅行まで世話してやった。その他にも悟空
との組み手、悟飯の宿題、ピッコロのために名水を汲むなど休まる暇がない。時にはフリ
ーザの宇宙開拓にも参加した。平均睡眠時間は一時間を切った。
「ベジータ、あんた超サイヤ人なんだから私と結婚しなさいよ」
「ち……」
とうとうブルマと結婚してしまった。
フリーザの下で働いていた頃以上の、屈辱の日々が続く。
だが、彼の心は満たされていた。伝説の超サイヤ人となり宇宙一となった今、全ての屈
辱は屈辱ではなく、超サイヤ人である自らに課せられた使命なのだと考えていた。
「戦闘民族サイヤ人も悪くなかったが、超サイヤ人も悪くないぜ」
メモを片手にスーパーで買い物をしながら、ベジータは独りごちた。
時は流れ、最近体が思うように動かなくなった。脳の働きも鈍い。ベジータはいよいよ
死期が近いのだな、と感じた。
病院のベッドに横たわるベジータを、家族と、かつての仇敵たちが囲む。
まもなく命を終えようとしているサイヤ人を前に、散々彼をこき使った周囲の顔は暗か
った。
「……貴様らなんぞに看取られても嬉しくはない。さっさと消えろ」
しわがれた声ながら、気位は若い頃と変わらないベジータ。皆が声を殺して泣いていた。
神妙な顔つきでピッコロが前に出る。
「ベジータ、おまえには話しておかねばならないことがある」
「なんだ」
「俺たちはおまえが超サイヤ人だといい、散々に利用してきた。すまなかったな」
「……ふん。俺は自分が超サイヤ人だから貴様らを手伝ってやったんだ。ブルマと結婚し
たのもそのためだ。謝られる筋合いなどない」
「実はそのことなのだが……」
「………?」
「おまえは超サイヤ人などではなかったのだ」
ベジータは一瞬驚きに目を丸めたが、すぐに穏やかな表情に戻った。
「こんなギリギリでいいやがって……。もう十年早く気づいていれば、貴様らを皆殺しに
出来たんだがな」
「……すまん」
「別に構わん」不敵に笑う。「……それにそろそろ迎えが来たようだ」
死期が近いのだな、と感じた。
病院のベッドに横たわるベジータを、家族と、かつての仇敵たちが囲む。
まもなく命を終えようとしているサイヤ人を前に、散々彼をこき使った周囲の顔は暗か
った。
「……貴様らなんぞに看取られても嬉しくはない。さっさと消えろ」
しわがれた声ながら、気位は若い頃と変わらないベジータ。皆が声を殺して泣いていた。
神妙な顔つきでピッコロが前に出る。
「ベジータ、おまえには話しておかねばならないことがある」
「なんだ」
「俺たちはおまえが超サイヤ人だといい、散々に利用してきた。すまなかったな」
「……ふん。俺は自分が超サイヤ人だから貴様らを手伝ってやったんだ。ブルマと結婚し
たのもそのためだ。謝られる筋合いなどない」
「実はそのことなのだが……」
「………?」
「おまえは超サイヤ人などではなかったのだ」
ベジータは一瞬驚きに目を丸めたが、すぐに穏やかな表情に戻った。
「こんなギリギリでいいやがって……。もう十年早く気づいていれば、貴様らを皆殺しに
出来たんだがな」
「……すまん」
「別に構わん」不敵に笑う。「……それにそろそろ迎えが来たようだ」
ベジータの小さな気がさらに弱まる。なだらかな下り坂が突然急になったらしい。
仲間が口々に叫ぶ。
「ベジータ、おめぇは超サイヤ人なんだ! こんなところで死ぬわけがねぇ!」
「ベジータさんは超サイヤ人ですよ! だから生きて下さい!」
「超サイヤ人は死なんぞ、ベジータ!」
「ベジータ、死なないで!」
「パパは超サイヤ人なんだから死なないよ! 絶対!」
これまで超サイヤ人と祭り上げられ、どんな難問でも解決してきたベジータ。しかし、
今度ばかりは解決できそうもない。
「ちっ、どいつもこいつも……」ベジータはかすかに口もとを綻ばせた。「まったくムカ
ついてくるぜ、こんなところでくたばる俺の弱さがな……」
そう呟いてベジータは眠るように目を閉じた。
「さらばだ……」
ほんの一瞬、ベジータから金色の光が噴き出した。
だがそれはすぐに消え、それからまもなくして超サイヤ人は息絶えた。
仲間が口々に叫ぶ。
「ベジータ、おめぇは超サイヤ人なんだ! こんなところで死ぬわけがねぇ!」
「ベジータさんは超サイヤ人ですよ! だから生きて下さい!」
「超サイヤ人は死なんぞ、ベジータ!」
「ベジータ、死なないで!」
「パパは超サイヤ人なんだから死なないよ! 絶対!」
これまで超サイヤ人と祭り上げられ、どんな難問でも解決してきたベジータ。しかし、
今度ばかりは解決できそうもない。
「ちっ、どいつもこいつも……」ベジータはかすかに口もとを綻ばせた。「まったくムカ
ついてくるぜ、こんなところでくたばる俺の弱さがな……」
そう呟いてベジータは眠るように目を閉じた。
「さらばだ……」
ほんの一瞬、ベジータから金色の光が噴き出した。
だがそれはすぐに消え、それからまもなくして超サイヤ人は息絶えた。
お わ り