SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 戦闘神話52-1


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彼のホムンクルスとしての百年を振り返ってみれば、
蝶野の事業そのものが錬金術のために存在していたようなものだ。
人が神の摂理に挑もうとした軌跡である錬金術は、人を辞めるまでに爆爵を魅了したのだ。
しかし、かなしいかな、爆爵の天才をもってしても、独学の限界というものがある。
限界の前であがいている彼の前に現れたのが、L.X.E.本部会議室の盟主の席に置かれた
今移動式治療カプセルの中で澱んだ目をしている男、ヴィクター・パワードその人だ。

「…むーん。
 これはこれは…、彼までもご登場とは。
 ずいぶんと大事でもあったらしいね」

何時ものように飄々とムーン・フェイスは会議室に入った。
定例集会や定期会議以外の特別会合は、概ねドクトル・バタフライが召集をかける。
盟主としての顔をたてての事だが、ムーン・フェイスの隠された目的のためには、
盟主という雑事に塗れた立場はデメリットのほうが大きいのだ。

「ああ、大事だとも…。
 彼の仇が見つかったのだからね」

蝶々髭をしごきながら重厚な面持ちを崩さないが、苦々しさを隠そうともしていない。
そんなバタフライらしからぬ振る舞いに、ムーン・フェイスは少しだけ驚いた。

「実は先日から人探しをしてもらっていたのだが…」

水泡の弾けるごぼごぼとした音と重なりながらも、不思議と明瞭なヴィクターの声に、
二人とも彼のほうへと目をやる。
目に付くのは、巌のような巨躯を彩る戦傷の数々だ。
中には未だにじくじくと赤い血潮を治療液に滲ませるものもある、
そんなヴィクターの姿は、痛々しさと同時に、不思議な高貴さをもって見るものの心を打つ。
傷そのものが口をきいたかのような、痛々しく擦り切れた声音で、ヴィクターはいった。

「何らかの手段を講じて、俺を追い詰めた錬金の戦士は存命している。
 居場所までは分からなかったが…」

「むーん…。
 俄かには信じられないねぇ…。
 だいたい、どうして内部事情に近い事を知ることができたのだね」

内心ヒヤリとしたものを覚えながらも、ムーン・フェイスは韜晦する。
こと腹芸に関しては、喜怒哀楽が読み辛い彼はかなりものだが、
その彼をして、先ほどの一言は肝を冷やすものがあった。

「ああ、そういえば紹介が遅れたね」

そんなムーン・フェイスを知ってか知らずか、バタフライがぱちんと指を鳴らすと、
彼の長身の影から小さな少女が現れた。
否、人形である。
「はじめましてみなさん。
僕はローゼンメイデン・第四ドール、蒼星石です」

シルクハットを手に取り、優雅に一礼してみせたその人形は、まるで生きているかのようだ。
その動作、その容姿、その相貌、その存在感に比べることができる物などありはしない、
人が生み出した人ならざる乙女、神の細工、悪魔の御業。
ムーン・フェイスの眼に映るのは、絶後の天才と言われた人形師ローゼンの究極の連作の一体なのだ。

「むーん!
 これは…!まさか…、極東で目にする日がこようとは…ッ!
 なるほど、その人形の能力、ということかね」

さすがのローゼンメイデンといえども、呼び出されてみれば化け物の群れの中だったわけで、
ムーン・フェイスの目には動揺が見て取れたが、そこまで人の心そのものである事に彼は驚愕した。
抑えきれない興奮がムーン・フェイスの月顔の下から湧き出す。
無理もないだろう、錬金術に携わる以上必ず耳にする伝説の存在・賢者の石。
その賢者の石を使って生み出された完全無欠の自動人形。
七体の至高の乙女、ローゼンメイデンシリーズ。
曰く、七体全てを手にしたものはあらゆる栄光を手にする。
曰く、七体の乙女は次なる扉を開く鍵。
曰く、七体全てを手にする者には、超常の祝福が与えられる。
曰く、たった一つの完全なる乙女の為の捨石。
曰く、曰くと伝えられ、百年物とよばれる彼をしても事の真贋を確かめることができない程、
伝説化神聖化された存在が、今こうして目の前にあるのだ。
その月顔で尽くを煙に巻いてきた彼であっても、錬金術師としての本能が呼ぶ興奮に彼は震えた。
願わくば、今この瞬間に解体して調べつくしたい。
…本当の主のために!

「うむ、集合意識を通じての探査ゆえに、少々時間がかかったがね。
 …さて、そこでだ」

バタフライはヴィクターを促すと、彼は重々しく口を開く。

「潜伏を俺は提案する。
 せっかく修復フラスコが完成したのだ。
 急いて事を仕損じては、この百年が水泡に帰す」

「むーん…。
 慎重に慎重を重ねるのも、悪くはないね。
 だが、先日捕らえた戦士の脳髄から引き出した情報からみると、
 我々はすでに彼らの視野に入っている…。
 慎重に慎重を重ねすぎるのは、得策ではないとおもうのだがね」

ヴィクターの言からしてみると、どうやら戦士が蝶野攻爵と戦った事を重要視しているようだ。
ムーン・フェイスの側としてみては、これは面白くない。
ただでさえ仲間の一人を襲った予想外の事態によって計画の遅延を余儀なくされ、
半世紀前の最高のタイミングを逸したのだ。
ようやく今、二度目のタイミングが巡ってきたのだから、逃すわけにはいかない。
そんな本音をおくびにも出さず、ムーン・フェイスは計画進行を提案した。

「然り。
 ヴィクター、君の不安はよくわかる。しかし、ムーン・フェイスの言うとおりだ。
 私としても、蝶野本家が潰れた以上、
 遅延するともなれば新たな資金源の開拓を進めねばならない。
 そうなればなったで、また不確定要因を呼び込みかねん。
 …世知辛い話ですまないが、これ以上の遅延は限界なのだよ」

どうやら、バタフライもまたヴィクターの提案には乗り気ではなかったらしい。
胸をなでおろす。

「…そうか、すまなかった。探し人の件といい、重ね重ねすまない。
 だが、錬金戦団のホムンクルス討伐に対しての執念は、いっそ狂的と言っていい。
 くれぐれも注意してくれ」

このようにあっさりと引き下がる。
ヴィクター自身の生殺与奪をバタフライに握られているから、というだけではない。
ムーン・フェイスの言葉はあまりヴィクターに響かないが、バタフライの言葉ならばある程度まで彼は素直に従うのだ。
ムーン・フェイスには理解できないが、この両者には不思議な絆が存在しているらしい。

「むーん。
 さて、話はそれだけかね?
 捕らえた戦士の改造がまだ完全ではないのでね、お暇させてもらうよ」

そういって、ムーン・フェイスは退室しようとするが…。

「ああ、ところでバタフライ。
 学園生の信奉者を一人かりたいが、よろしいか?
 彼(パピヨン)が情報を提示しない場合を考慮しておきたい」

「ふむ、構わないが…」

「なに、保険だと思えばいい。
 いざというときの為の、ね」

ムーン・フェイスが本性を漏らした事に、ヴィクターもバタフライも気がつくことはなかった。