一歩の試合が終わって数日後。路上で演奏している根岸のところへ、一歩がやって来た。
一歩は久美と仲直りできたこと、DMCやクラウザーを見直したことも報告し、根岸は
もちろん初めて聞いたように驚き、喜んだ。
「良かったね幕之内君」
「はい……まあ、良かったんですけど」
「どうかしたの?」
「実はあの日、クミさんとちょっと話をしまして」
一歩は久美と仲直りできたこと、DMCやクラウザーを見直したことも報告し、根岸は
もちろん初めて聞いたように驚き、喜んだ。
「良かったね幕之内君」
「はい……まあ、良かったんですけど」
「どうかしたの?」
「実はあの日、クミさんとちょっと話をしまして」
試合当日、試合の後。ダメージも少なかったので、一歩は久美と喫茶店に来ていた。
そして試合のことについての話が一通り終わった後、久美が言った。
「幕之内さん。私、ここしばらく幕之内さんを避けてしまっていましたけど、本当はこれじゃ
いけないとも思ってたんです。私だって、幕之内さんのことを理解しないとダメだって」
「ボクのことを? 光栄ですけど、別にムリしなくても」
「いいえ、ダメです。それで私、あの歌のことを調べて、実はもうCD買って聴いたんです」
「って、DMCを?」
久美は頷いて、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「それで、落ち着いて何度か聴いてる内に、こういうのも悪くないかな……でも幕之内
さんはどう思ってるのかな……あの日のことは、ただ先輩の人たちの練習に付き合わ
されてただけかもしれないし……とか思ってたんですけど」
「はあ」
「でも今日、試合前にホールの前で言ってましたよね。DMCの、クラウザーさんに憧れ
たって」
「え、あの、それは」
「それで安心しました。実は私、一人で行くのは怖くって。だからもし良かったら、今度……」
そして試合のことについての話が一通り終わった後、久美が言った。
「幕之内さん。私、ここしばらく幕之内さんを避けてしまっていましたけど、本当はこれじゃ
いけないとも思ってたんです。私だって、幕之内さんのことを理解しないとダメだって」
「ボクのことを? 光栄ですけど、別にムリしなくても」
「いいえ、ダメです。それで私、あの歌のことを調べて、実はもうCD買って聴いたんです」
「って、DMCを?」
久美は頷いて、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「それで、落ち着いて何度か聴いてる内に、こういうのも悪くないかな……でも幕之内
さんはどう思ってるのかな……あの日のことは、ただ先輩の人たちの練習に付き合わ
されてただけかもしれないし……とか思ってたんですけど」
「はあ」
「でも今日、試合前にホールの前で言ってましたよね。DMCの、クラウザーさんに憧れ
たって」
「え、あの、それは」
「それで安心しました。実は私、一人で行くのは怖くって。だからもし良かったら、今度……」
ぽかぁぁんと口を開けてる根岸に向かって、一歩の話は続く。
「今度のDMCのライブに二人で行くことになっちゃったんです。正直言ってボクはまだ少し
怖いんですけど、でもクミさんに怖がる姿は見せられませんし。で、ぜひ一緒にって言ったら
予想以上にクミさんが喜んでくれて、こりゃもう引き返せないなと……根岸さん?」
「え、あ、ご、ごめん。それで?」
「まあ、それだけなんですけどね。だからそれが終わってから、いつか根岸さんの曲も
聴かせてあげたいと」
「なんだそんなこと。いいよ、そんなのどうでも。それより、そういうことならDMCのライブ、
しっかり楽しまなきゃ。久美さんと一緒にね」
「……ですね。そうします」
吹っ切れたように一歩が頷き、根岸も笑顔を返す。
一歩のリクエストに応えて何曲か演奏した後、一歩は帰って行った。根岸は大きく手を
振って一歩を見送る。
『幕之内君が来る、か。こりゃあ今度のライブ、思いっっっっきり頑張らないとっ!』
「今度のDMCのライブに二人で行くことになっちゃったんです。正直言ってボクはまだ少し
怖いんですけど、でもクミさんに怖がる姿は見せられませんし。で、ぜひ一緒にって言ったら
予想以上にクミさんが喜んでくれて、こりゃもう引き返せないなと……根岸さん?」
「え、あ、ご、ごめん。それで?」
「まあ、それだけなんですけどね。だからそれが終わってから、いつか根岸さんの曲も
聴かせてあげたいと」
「なんだそんなこと。いいよ、そんなのどうでも。それより、そういうことならDMCのライブ、
しっかり楽しまなきゃ。久美さんと一緒にね」
「……ですね。そうします」
吹っ切れたように一歩が頷き、根岸も笑顔を返す。
一歩のリクエストに応えて何曲か演奏した後、一歩は帰って行った。根岸は大きく手を
振って一歩を見送る。
『幕之内君が来る、か。こりゃあ今度のライブ、思いっっっっきり頑張らないとっ!』
そして迎えたライブ当日。いつものクラブハウスはいつも通り、熱気充満の満員御礼だ。
もうすぐ出番、メイクも楽器も準備万端の根岸は、ステージのソデから
そっと観客席を見渡してみた。
『……あ、いたいた』
観客席の中ほどに、あの二人がいた。彼らなりに研究したのであろうが、ど~見ても
周囲から浮いている、というか正直似合ってない、デスでメタルな化粧と衣装の
一歩と久美が並んでいる。
それでもやはり普段とはイメージがかけ離れているせいか、一歩のことに誰も気付いては
いない。と思ってたら、一人の男が一歩に話しかけてきた。レッドだ。
見ていると一歩を小突いたり、久美にも挨拶したり、談笑したり。悪くない雰囲気のようだ。
拳を交えたもの同士、そして今はDMC信者同志ということで、レッドも認めたのだろう。
「どうした、根岸?」
ぼーっと幸せそうに観客席を眺めている根岸に、後ろから和田が声をかけた。
彼も今は根岸と同じ悪魔な出で立ち、ジャギの姿だ。その後ろにはカミュな西田もいる。
「ん……あのさ和田君、西田君」
「? どうかしたのか」
「何だクズ」
「えっと、その……僕、DMCをやってて良かったなって。今、ちょっとそう思った」
根岸は二人に、そして自分自身にも向かってしみじみと言った。
「はぁ? 今更何言ってんだお前。俺たちはDMCでメタル界を制覇し、日本の、そして
世界を舞台にしたビッグな活動をするんだって、前々から言ってるだろが」
「そうだボケ」
「その為に、昨日も今日も明日も、全力でやるしかねえんだよ。頼むぜクラウザー」
「……カス」
いつも通りな二人に励まされ(?)て、根岸は笑う。
「はは、ごめんごめん。そうだよね。じゃ、そろそろ行こうか……………………行くぜっ!」
もうすぐ出番、メイクも楽器も準備万端の根岸は、ステージのソデから
そっと観客席を見渡してみた。
『……あ、いたいた』
観客席の中ほどに、あの二人がいた。彼らなりに研究したのであろうが、ど~見ても
周囲から浮いている、というか正直似合ってない、デスでメタルな化粧と衣装の
一歩と久美が並んでいる。
それでもやはり普段とはイメージがかけ離れているせいか、一歩のことに誰も気付いては
いない。と思ってたら、一人の男が一歩に話しかけてきた。レッドだ。
見ていると一歩を小突いたり、久美にも挨拶したり、談笑したり。悪くない雰囲気のようだ。
拳を交えたもの同士、そして今はDMC信者同志ということで、レッドも認めたのだろう。
「どうした、根岸?」
ぼーっと幸せそうに観客席を眺めている根岸に、後ろから和田が声をかけた。
彼も今は根岸と同じ悪魔な出で立ち、ジャギの姿だ。その後ろにはカミュな西田もいる。
「ん……あのさ和田君、西田君」
「? どうかしたのか」
「何だクズ」
「えっと、その……僕、DMCをやってて良かったなって。今、ちょっとそう思った」
根岸は二人に、そして自分自身にも向かってしみじみと言った。
「はぁ? 今更何言ってんだお前。俺たちはDMCでメタル界を制覇し、日本の、そして
世界を舞台にしたビッグな活動をするんだって、前々から言ってるだろが」
「そうだボケ」
「その為に、昨日も今日も明日も、全力でやるしかねえんだよ。頼むぜクラウザー」
「……カス」
いつも通りな二人に励まされ(?)て、根岸は笑う。
「はは、ごめんごめん。そうだよね。じゃ、そろそろ行こうか……………………行くぜっ!」
ステージ上に、DMCの三人が飛び出した。弾け散るような歓声を受けて、
根岸=クラウザーがマイクを握る。
「今日も今日とて来やがったか、人間ども! 覚悟するヒマも余裕もなく、貴様らの
全身の穴という穴、細胞という細胞にブチ込んで魂の奥底まで犯り潰してくれるわ!
いくぞ一曲目、【SATHUGAI】っ!」
ゴートゥDMC! の掛け声を浴びて、西田のドラムが轟き和田のベースが響き、
根岸のギターとボーカルが唸る。観客席の隅々まで、一歩も久美もレッドも、全てが
一つになって燃え上がり爆発し続けるこの空間、この時間。
根岸=クラウザーがマイクを握る。
「今日も今日とて来やがったか、人間ども! 覚悟するヒマも余裕もなく、貴様らの
全身の穴という穴、細胞という細胞にブチ込んで魂の奥底まで犯り潰してくれるわ!
いくぞ一曲目、【SATHUGAI】っ!」
ゴートゥDMC! の掛け声を浴びて、西田のドラムが轟き和田のベースが響き、
根岸のギターとボーカルが唸る。観客席の隅々まで、一歩も久美もレッドも、全てが
一つになって燃え上がり爆発し続けるこの空間、この時間。
♪オレは地獄のテロリスト 昨日は母さん犯したぜ! 明日は父さんほってやる!
殺せ殺せ殺せ親など殺せええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!♪
「殺害せよ殺害せよ! サツガイせよサツガイせよ! SATSUGAIせよSATSUGAIせよ!
殺害せよ殺害せよ! サツガイせよサツガイせよ! SATSUGAIせよSATSUGAI……
殺せ殺せ殺せ親など殺せええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!♪
「殺害せよ殺害せよ! サツガイせよサツガイせよ! SATSUGAIせよSATSUGAIせよ!
殺害せよ殺害せよ! サツガイせよサツガイせよ! SATSUGAIせよSATSUGAI……
こうして。
根岸の当初の目標であった「幕之内君とその彼女を僕の音楽でいいムードに!」は……
少々アレな形ではあるが、ある意味この上なく熱く強固に、果たされたのであった。
根岸の当初の目標であった「幕之内君とその彼女を僕の音楽でいいムードに!」は……
少々アレな形ではあるが、ある意味この上なく熱く強固に、果たされたのであった。
めでたしめでたし。