《EPISODE13:Will you partake of that last offered cup or disappear into the potter's ground》
ほの暗い部屋の中、二台のモニターに向かう老人がいた。
一台は砂嵐のようなノイズ、もう一台は“SOUND ONLY”という赤文字をそれぞれ映し出している。
どちらも何一つ音声らしきものは発していない。
傍らに立っていた秘書らしきスーツ姿の中年女性はリモコンで二台のモニターの電源を切ると、
老人に話しかけた。
一台は砂嵐のようなノイズ、もう一台は“SOUND ONLY”という赤文字をそれぞれ映し出している。
どちらも何一つ音声らしきものは発していない。
傍らに立っていた秘書らしきスーツ姿の中年女性はリモコンで二台のモニターの電源を切ると、
老人に話しかけた。
「シャムロックは完全に沈黙。サムナー戦士長もこの分では……」
「構わんさ。彼に任せた任務は改良型ホムンクルスの稼動実験とイスラム原理主義者への武力供給だ。
New Real IRAに関しては二次的なものに過ぎん。サムナー戦士長は立派に務めを果たしてくれた」
New Real IRAに関しては二次的なものに過ぎん。サムナー戦士長は立派に務めを果たしてくれた」
「しかし……」
「いいのだよ。今回はサムナーに命じた任務の成功以外にも、たくさんの“収穫”があったからね。
アレクサンド・アンデルセン神父の戦闘解析と、日本の戦士達の始末が同時に行える。
まあ、“同士討ち”が最も理想的なのだが、あまり多くを求めすぎてもいかんしな。
それと、だ。ウィンストン大戦士長をどう思う? 彼はあまりにも無能だとは思わんか?
自分の部下を掌握し切れず、サムナー戦士長のような恐ろしい“裏切り者”を生み出した責任を
取らせるべきではないかな。大戦士長職の解任という形でね。フフフ……」
アレクサンド・アンデルセン神父の戦闘解析と、日本の戦士達の始末が同時に行える。
まあ、“同士討ち”が最も理想的なのだが、あまり多くを求めすぎてもいかんしな。
それと、だ。ウィンストン大戦士長をどう思う? 彼はあまりにも無能だとは思わんか?
自分の部下を掌握し切れず、サムナー戦士長のような恐ろしい“裏切り者”を生み出した責任を
取らせるべきではないかな。大戦士長職の解任という形でね。フフフ……」
「とはいえ、現在の大英帝国支部の戦力はあまりにも薄すぎます。このままでは“敵対勢力”への
攻撃もままなりません。現在育成中の“戦士”達が使い物になるまでは、未だ長い訓練期間を要します。
それにマーティン評議員……。あなたには、その……あまり時間が……」
攻撃もままなりません。現在育成中の“戦士”達が使い物になるまでは、未だ長い訓練期間を要します。
それにマーティン評議員……。あなたには、その……あまり時間が……」
「もちろん、戦力不足という点には私も頭を痛めている。欧州を代表する二人の戦士を失うのは
大英帝国支部にとって大打撃と言ってもいいだろう。
しかし、物事を成すには長期的展望に立たなくてはいかん。私はね、この大仕事を私の代だけで
終わらせられるとは思っていないよ。むしろ『終わらせてはいけない』とも考えている。
大英帝国支部にとって大打撃と言ってもいいだろう。
しかし、物事を成すには長期的展望に立たなくてはいかん。私はね、この大仕事を私の代だけで
終わらせられるとは思っていないよ。むしろ『終わらせてはいけない』とも考えている。
“大英帝国支部復興”は我々の悲願であると同時に、達成が極めて困難な一大事業なのだ。
充分な準備と入念な計画を以って当たらねばならん。その為には時間も、資金も、どれだけ掛けても
掛け過ぎとは言わん。私の“寿命”も考慮に入れる必要など無いのだ。
私が死んでも誰かが私の遺志を引き継げば良い。これは、“私”の計画ではない。“我々”の計画なのだから。
そして、君の言うとおり我々には“敵”が多い。ホムンクルスを手に入れたイスラム系テロリスト、
ヴァチカン第13課。……そして、錬金戦団日本支部。彼らに対抗するにはまだまだ足りないものだらけだ。
人員も、装備も……」
充分な準備と入念な計画を以って当たらねばならん。その為には時間も、資金も、どれだけ掛けても
掛け過ぎとは言わん。私の“寿命”も考慮に入れる必要など無いのだ。
私が死んでも誰かが私の遺志を引き継げば良い。これは、“私”の計画ではない。“我々”の計画なのだから。
そして、君の言うとおり我々には“敵”が多い。ホムンクルスを手に入れたイスラム系テロリスト、
ヴァチカン第13課。……そして、錬金戦団日本支部。彼らに対抗するにはまだまだ足りないものだらけだ。
人員も、装備も……」
「お、仰るとおりです……」
「ところで、だ。君に任せた“対錬金の戦士用”錬金の戦士の育成だが……――」
サムナーの死体には一瞥もくれず、アンデルセンは火渡に大股で歩み寄る。
火渡もまた再び前進を開始している。
“錬金の戦士”と“第13課 聖堂騎士(イスカリオテ・パラディン)”の二度目の対峙である。
紅蓮の拳に軍配が上がった“死にぞこないの夜(ナイト・オブ・ザ・リビングデッド)”。
そして、陽はまた昇り、銃剣が再来した“皆殺しの朝(ドーン・オブ・ザ・デッド)”へ。
白々と光る夜明けの陽が徐々に廊下を、二人の男を、躊躇無く歩を進める脚を、笑みを浮かべる口元を照らしてゆく。
やがて胸と胸が、顔と顔が触れ合わんばかりに接近するに至り、両者はようやく脚を止めた。
眼を見開き、歯を剥き出した、二つの歓喜の表情が真正面から睨み合う。
どちらも眼力だけで相手を殺傷せしめんとする程の殺気を放っている。
177cmの火渡は怯む事無く2mのアンデルセンを見上げながら、再会の挨拶を吐きかけた。
「よォ、ヴァチカンの犬っコロ」
「ほざくな、手品師風情がァ……」
アンデルセンもまた、この異端の重罪人との再会を心待ちにしていたのだ。
二人は尚も鼻先数cmの距離で、常人には到底耐えられないであろう殺伐とした世間話を続ける。
「テメエ、上から来たんだよな? てことはテロリストの野郎共は――」
「ああ、上の連中はすべて始末した。パトリック・オコーネルはなかなか骨のある奴だったぞ?
貴様らが作り出した化物(ホムンクルス)なんぞより、ずっとなァ……」
火渡もまた再び前進を開始している。
“錬金の戦士”と“第13課 聖堂騎士(イスカリオテ・パラディン)”の二度目の対峙である。
紅蓮の拳に軍配が上がった“死にぞこないの夜(ナイト・オブ・ザ・リビングデッド)”。
そして、陽はまた昇り、銃剣が再来した“皆殺しの朝(ドーン・オブ・ザ・デッド)”へ。
白々と光る夜明けの陽が徐々に廊下を、二人の男を、躊躇無く歩を進める脚を、笑みを浮かべる口元を照らしてゆく。
やがて胸と胸が、顔と顔が触れ合わんばかりに接近するに至り、両者はようやく脚を止めた。
眼を見開き、歯を剥き出した、二つの歓喜の表情が真正面から睨み合う。
どちらも眼力だけで相手を殺傷せしめんとする程の殺気を放っている。
177cmの火渡は怯む事無く2mのアンデルセンを見上げながら、再会の挨拶を吐きかけた。
「よォ、ヴァチカンの犬っコロ」
「ほざくな、手品師風情がァ……」
アンデルセンもまた、この異端の重罪人との再会を心待ちにしていたのだ。
二人は尚も鼻先数cmの距離で、常人には到底耐えられないであろう殺伐とした世間話を続ける。
「テメエ、上から来たんだよな? てことはテロリストの野郎共は――」
「ああ、上の連中はすべて始末した。パトリック・オコーネルはなかなか骨のある奴だったぞ?
貴様らが作り出した化物(ホムンクルス)なんぞより、ずっとなァ……」
アンデルセンはこう認識しているだけだ。
『自分が殺したNew Real IRAのギャラクシアン兄弟を作り出し、操っていたのは錬金戦団。
そして、目の前にいるこの錬金の戦士はその構成員』
そして、目の前にいるこの錬金の戦士はその構成員』
錬金戦団大英帝国支部の思惑とテロリスト、そして日本の戦士の関係性に気づかないでもなかったのだが、
アンデルセンは上記の認識以上の事をあえて考えようとはしなかった。
異教徒・異端者は皆殺しにすればいい。それでこの世に存在する問題はすべて解決するのだから。
一方の火渡にしてみれば、ホムンクルスを世界にバラ撒く裏切り者と同列に並べられるのは
腹立たしい限りであろう。
「あァ? 何、ワケのわからねえ事を言ってんだ」
「ククク……。まあ、いい」
自分で振った話題に無関心のアンデルセンに対し、火渡は多少のおかしさを覚えた。
いや、この血で血を洗う鉄火場でそんなおかしさを覚える自分のシュールさにおかしさを覚えるのか。
どちらが先かはわからないが、いずれにせよアンデルセンの意見には賛成だ。
「ハハッ、だよなァ。“俺達”にゃどうでもいい事だ」
そうなのだ。まったくもって“どうでもいい事”なのだ。
武器を握り向かい合う戦士達にとっては。獲物をその眼に捉えた捕食者にとっては。
やがて“それ”は静かに、かつ唐突に始まった。どちらからともなく――
アンデルセンは上記の認識以上の事をあえて考えようとはしなかった。
異教徒・異端者は皆殺しにすればいい。それでこの世に存在する問題はすべて解決するのだから。
一方の火渡にしてみれば、ホムンクルスを世界にバラ撒く裏切り者と同列に並べられるのは
腹立たしい限りであろう。
「あァ? 何、ワケのわからねえ事を言ってんだ」
「ククク……。まあ、いい」
自分で振った話題に無関心のアンデルセンに対し、火渡は多少のおかしさを覚えた。
いや、この血で血を洗う鉄火場でそんなおかしさを覚える自分のシュールさにおかしさを覚えるのか。
どちらが先かはわからないが、いずれにせよアンデルセンの意見には賛成だ。
「ハハッ、だよなァ。“俺達”にゃどうでもいい事だ」
そうなのだ。まったくもって“どうでもいい事”なのだ。
武器を握り向かい合う戦士達にとっては。獲物をその眼に捉えた捕食者にとっては。
やがて“それ”は静かに、かつ唐突に始まった。どちらからともなく――
「フッ、ククッ、クックックックッ……」
「ヘッ、ヘヘヘヘヘヘヘッ……」
二人はただ不気味な低い笑い声を発しながら、肩を揺らしている。
お互いがお互いから眼をそらさず、ただ笑い続ける。
火渡がアンデルセンと共に織り成す病的なこの光景。千歳は我が友人ながら、背中に走る何とも言えない
怖気を禁じ得ずにいる。
同じだ。まるで同じだ。まるで同じ二人の狂人がこの場に存在するかのようだ。
“同類”という言葉が頭に浮かんだ千歳であったが、急いで頭を振ってそれを打ち消した。
お互いがお互いから眼をそらさず、ただ笑い続ける。
火渡がアンデルセンと共に織り成す病的なこの光景。千歳は我が友人ながら、背中に走る何とも言えない
怖気を禁じ得ずにいる。
同じだ。まるで同じだ。まるで同じ二人の狂人がこの場に存在するかのようだ。
“同類”という言葉が頭に浮かんだ千歳であったが、急いで頭を振ってそれを打ち消した。
付き合いはそれなりに長いとはいえ、彼女はここまでの火渡の姿を見た事が無かった。
まるで、あの神父に共鳴しているかのような……。
まるで、あの神父に共鳴しているかのような……。
「!」
二人の笑い声が途絶えた。
火渡は笑いの表情すらも消えている。
ただし、アンデルセンの顔には狂喜の笑みが貼りついたままであったが。
いつの間にか、火渡の腹に銃剣が深々と突き立てられていた。アンデルセンが左手に握る銃剣だ。
二人の笑い声が途絶えた。
火渡は笑いの表情すらも消えている。
ただし、アンデルセンの顔には狂喜の笑みが貼りついたままであったが。
いつの間にか、火渡の腹に銃剣が深々と突き立てられていた。アンデルセンが左手に握る銃剣だ。