SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ ドラえもん のび太の新説桃太郎伝 51-1


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第六話「追憶・1」

それは、とある雨の日の夜。
彼とその娘、そして彼女たちは、出会った。

土砂降りの雨の中、野良猫くらいしか寄り付かない薄汚れた路地裏に、その四人はいた。
そのうちの三人は子供。少女が二人と、一人の少年。そして、彼らをそっと抱きしめる女性―――
外見は、まだ二十そこそこの若い女だ。人形のように冷たくも整った顔立ち。粗末な服装が印象を貶めてはいるが、
それでもなお美しいといえるだろう。
果たして何があったのか、その身のあちらこちらが傷だらけだ。
その人形のような女は、子供たちをいたわるように。温もりを分け与えるように。それはまるで、母親のように。
三人の子供を、優しく、しっかりと抱きしめていた。
だがその子供たちの体からは、次第に力が失われていく。
―――当然だ。三人とも、女の怪我など比較にならない、一目で致命傷と分かる傷を負っているのだから。
「…お母…さん…」
長い髪の大人しそうな少女が、息も絶え絶えに呟いた。女は唇を噛み締め、少女の髪をそっと撫でてやった。
「…痛いのですか」
「…ううん…痛く…ない…だから…大丈夫…」
大丈夫な訳がない。痛みがないというのは、ただ単に―――痛みも感じられないほどに、終わっているだけだ。
そんなことは、女には分かり切っていた。けれど、それでも女は笑った。悲しくて、泣きたくて仕方ないのに。
子供たちを少しでも安心させるために、笑ってあげた。
「そうか…ならきっと、大丈夫でしょう」
「うん…そうだよ、ね…」
答えたのは、短い髪の少女。
「あたいたち…まだ…これからだもんね…これから…あたいたち…幸せに暮らせる場所…探すんだもんね…」
「…………」


「どこかに…あるよね…そんな場所…」
「ええ…きっとそこに、いつかは、辿り着けるでしょう」
そんなわけ、ないのに。きっとこの世界には―――自分たちを受け入れてくれる場所なんて、ないのに。
「お母さん…暖かい…気持ちいい…」
少年が女にしがみつく。その温もりを求めるように。重傷の上に冷たい雨に打たれ、その身は冷え切っていた。
「眠いんだ…眠っても…いいかな…」
「そうだね…疲れたろう。ゆっくりおやすみ」
言って、女もまた目を閉じた。
不意に、思い返していた。
これまでの、己の人生を―――

―――そこは、とある研究所だった。
どういう目的で設立されたのか、何の研究をしていたのか、今となっては知る由もなく、知ったところで意味はない。
そこで、彼女は産み出された。
どういう研究の過程で産まれたのかは分からないが、ともかく―――
彼女はこの世に、産み落とされた。

「な、なんだ…何なのだ、これは!?」
―――彼女がその意識を覚醒させた時、目の前には一人の白衣の男がいた。
彼女は産まれた瞬間には、既に高い知性と膨大な知識を持っていた。そして、自分が人工的に造られた存在であること、
目の前にいる男が、己の創造主であることを理解していた。
ただ、自分がどういった存在なのか、何を目的として造られたのか―――それだけは、分からなかった。
だから、彼女は尋ねた。
「私を造ったのはあなた…私は何?私は何をすればいい?」
答えはない。男は恐怖と嫌悪に顔を歪め、苦々しく呟くだけだ。
「なんということだ…こんなことが!」
「私を産み出せし者…創造主よ、お教えください。私は何なのです?何をするために造られたのです?お教え…」
「黙れ!私は…お前のようなモノなど、造るつもりなどなかった!」
男は激昂し、叫んだ。彼女は己の親であるはずの人間の冷たい拒絶の言葉に、二の句が継げなくなる。
「お前は、存在そのものが間違いだ…!」
「間違い…私は…間違い…?」
「そうだ!お前はただの間違い―――とんだ失敗作だ!」
よろよろと後ずさりながら、男は彼女を指差し、口汚く罵った。
「…お前はただの間違いだ。存在そのものが過ちなのだ!お前は―――デュミナスなのだ!」
―――それが何を意味する言葉なのか。何を思い、創造主は彼女をそう呼んだのか。彼女―――デュミナスには、もう
分からない。だがそれからのことは、はっきりと覚えている。
まずは目の前にいた創造主を、デュミナスは殺した。拳による一撃で、頭を吹っ飛ばしたのだ。デュミナスは、自分が
どうやら人外の力の持ち主であるらしいことを知った。知って―――躊躇うことなくそれを振るった。
施設を堂々と練り歩き、出くわす研究者や警備員、あるいは特に機密に関わっている風でもない、単なる作業員と思しき
者に至るまで―――全てを殺意の赴くままに、単なる肉塊に変えていった。
―――そして、最後に。デュミナスは、三人の子供たちに出会った。

二人の少女に、一人の少年。
その子供たちは―――檻の中に閉じ込められていた。
閉じ込められ、白衣の研究者たちに管理され、監視されていた。
その子らの前で、デュミナスは先程までと変わらず、殺戮の限りを尽くした。
だが子供たちは怯えるでもなく、悲鳴を上げるでもなく。
ただ、デュミナスを見つめていた。その様子に、デュミナスは興味を引かれた。
流石にこんな子供たちまで殺す気はなかったが、別段優しくしてやるつもりもなかったのに。
何故だか急に―――放ってはおけなくなった。
似ていたからかも、しれない。
産まれた瞬間に全てを否定された自分と、檻に閉ざされた子供たち。
「怖く―――ないのですか」
デュミナスは子供たちに尋ねた。
「あなたが」
少年はそれには答えず、逆に尋ねてきた。
「あなたが…僕らの、お母さんなんですか?」
「…お母さん…?」
余りにも予想外の答えに、思わず絶句した。
「私たちは、この檻の中でずっと、それだけを願っていました」
少女の片割れ、長い髪をしたその子は語った。
「いつかお母さんが、私たちを助けに来てくれるんだって…この檻の中から、外へと連れていってくれるんだって…」
「…………」
そんなことを言われてもデュミナスには答えようもない。檻の中、追い詰められた子供たちは、そんな幻想に逃げ込む
他なかったのかもしれない。哀れとは思うが、自分にはどうこうしてやる義理もなかった。
「あんた、あいつらをやっつけてくれたじゃない。あいつら、あたいたちに嫌なことばっかするんだ。あたいたちだけ
じゃない。あたいたちの他にも、たくさんの子供がいたんだ。でも皆死んじゃった…あたいたちも、いずれそうなって
たと思う。ここは…嫌だ。外に、出たいよ。外に出て―――幸せに暮らせる場所を、探したいよ」
短い髪の少女が言い募る。突如現れ、閉ざされた世界を打ち壊してみせたデュミナスに対し、縋り付きたいという思い
があったのかもしれない。
デュミナスはどうすべきか考えた。考えた末―――言った。

「残念ながら、私はお前たちのお母さんではありません。お前たちのお母さんというものが、今どうしているかも知り
ません。私は今からこの研究所を出ます。後は勝手になさい」
三人の瞳に、見る見る内に絶望が広がる。やっと巡り合えたと思った希望が、あっさりと消え失せたのだから、それも
当然だろう。だがデュミナスは言葉とは裏腹に、立ち去ることはなかった。檻に手をかけ、そのまま力を込める。鉄格子
がひしゃげ、子供たちが通れるほどの隙間ができた。三人はどうしていいのか分からず、顔を見合わせる。
「つまり―――お前たちが私についてくるのも勝手ですし、お母さんと呼ぶのも勝手です。面倒くさいなりに―――
面倒を見てあげましょう」
三人はわっと歓声を上げて、デュミナスに子犬のようにじゃれついた。お母さん、お母さんと連呼されるのは、どうにも
こそばゆいものがあったが、不快ではなかった。
しばらくされるがままになっていたところで、デュミナスは訊いた。
「…お前たち、名前はあるのですか?」
「名前…?ないよ、そんなの。ここに連れてこられたのはまだ物心つく前だったし…ここに来てからは、あいつらは
あたいたちのことを、わけ分かんない番号で呼んでた」
「そうか」
この子たちは―――名前すら、与えられなかったのか。ならば、せめて。
「ならば私が、名付けてあげましょう」
子供たちはきょとんとした顔で、デュミナスを見つめる。デュミナスは笑って言った。

「仮とはいえ、親ならば、子供に名前を与えるものでしょう―――あなたは、ラリアー」
「ラリアー…?」
三人の中で唯一の男の子は、戸惑ったように反芻する。
「あなたは…デスピニス」
「デスピニス…私の名前…」
長い髪の少女は、感慨深そうに胸に手を当てた。
「そして、あなたはティス」
「ティス…へへ、あたい、ティスだってさ」
短い髪の少女は、素直に嬉しそうな顔をした。
「気に入ってくれたのなら、なによりです。では…共に探しましょうか」

「私たちが、幸せに暮らせる場所を」

―――その日から、彼女たちの逃走と、闘争の日々は始まった。
デュミナスが生まれ、子供たちが囚われていた研究所は確かに完膚なきまでに破壊されたが、それで全て終わりとは
いかなかった。
どんなことであれ、情報とは漏れてしまうものである。その結果、危険な存在であるデュミナスを始末しようとする
もの、或いはその存在に興味を持ち、生け捕りにしようと企むもの…各々の思惑を持った連中が、少なからず現れた。
デュミナスはそういった輩が仕向けてきた刺客を―――全て返り討ちにした。
戦闘においてはハッキリ言って足枷でしかない子供たちを連れていながら、そんなことはまるで関係なく。
自分も、そして三人も、決して傷つけることなく。
それだけの力が、デュミナスにはあった。だが、それも―――限界があった。
明日はどこへいくともしれない当てもない旅。そしてそんなことはお構いなしに、自分たちを狙いやってくる刺客。
夜中、子供たちが眠っている間も、デュミナスは敵からの襲撃に備え常に神経を張り詰めていた。それはデュミナス
自身が自覚している以上に、彼女に負担をかける。それが積もり重なれば、どこかに隙は必ず出来てしまう。
その上、彼女が敵を倒せば倒すほど、その情報も伝わり―――結果、更に上手の相手がやってくる。
そして、とある雨の夜。ついに彼女は、子供たちを守りきることが出来なかった。
ただでさえ、相手が悪かった。三人組の、奇妙な<殺し屋>。男二人に、女が一人。それぞれ太刀、薙刀、そして
弓矢と、時代錯誤も甚だしい得物を手にしていた―――そんな珍妙な連中ではあったが、一人一人が今までの相手
とは別格の手練であり、それ以上に恐るべき、完全な連携を実現していた。


今の状態では勝てない―――そう判断し、デュミナスは逃げることに専念した。
こちらからの攻撃は一切捨てて。逃げ足と、相手の攻撃から自分たちを守ることだけに神経を集中させる。
だが、ほんの少し―――ほんの少しだけ油断したその時、血飛沫が舞った。太刀の一閃が、デュミナスの背を斬り
裂く。深い傷ではなかったが、一瞬動きが止まる。そこに放たれた二の太刀。
「…母さんっ!」
だがそれは、デュミナスではなく―――ラリアーを斬り伏せた。彼はデュミナスが斬られた瞬間、咄嗟に彼女を
庇ってその身を太刀の前に投げ出したのだ。彼は母親を―――庇ったのだ。
そして深々と、彼の身体は抉られた。ラリアーは大きく目を見開き、地面に崩れ落ちる。
「…ラリアー!」
自分の怪我も忘れ、狼狽するデュミナス。そこに襲い掛かる、薙刀。
「やめて!」
斬られる寸前―――デュミナスは誰かに突き飛ばされた。その勢いで地面に倒れながらデュミナスが見たのは、
ティスの姿だった。
彼女は身体ごとデュミナスにぶつかって、薙刀の軌道からデュミナスの身体を逸らさせたのだ。つまり―――
ティスが、薙刀の攻撃に晒されるということ!
彼女の胸から腹にかけてぱっくりと裂けて―――鮮血が自分の顔に降り注ぐ。
「そんな…」
何故―――こんな無茶を!こんな―――
一瞬の放心状態。視界の端で何かが自分に向けて放たれるのが見えたが、動けない。
「駄目!」
デスピニスが大きく手を広げ、デュミナスを守るようにその身を晒した。一瞬後―――その胸の真ん中を、何かが
射抜いた。それは、一本の矢。
デュミナスが見たのは、デスピニスが血反吐を撒き散らしながら、地に倒れ付す姿だった。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」
デュミナスは力の限り叫んだ。
怒り、悲しみ、自嘲、悔恨、憎しみ―――あらゆる負の感情が、彼女の中で荒れ狂っていた―――


―――其処から先は、どうやって切り抜けたのか覚えていない。
気が付けば路地裏で、瀕死の子供たちを抱きしめている自分がいた。
「もっと…私が強ければ…お前たちをこんな目に合わせずにすんだのに…許しておくれ…」
「いいんだよ…母さん」
ティスが笑った。きっとそれが、この世で最期の笑顔。
「あたいたち…母さんがいてくれて、幸せだった」
「…………」
「生まれ変わったらさ…あたい、ボインで色っぽいお姉ちゃんになれたらいいな…なんてね…」
「私は…」
デスピニスがそれに応えるように、死の淵の震える声で言った。
「健康な身体と…心が欲しい」
「僕は…みんなを…守れるくらい…強い力が欲しいな…」
ラリアーもそう言って、微笑んだ。
「…………」
デュミナスは何も言わない。何も言わず、子供たちを抱きしめ続けた。
―――私はこの世に生れ落ちて、何が出来たのだろう。
自分を慕い、愛してくれた三人を、守ることも出来ず―――どころか、最後には逆に守られた。
―――創造主が言ったとおり、私は、ただの間違いだったのだろうか。
この腕は悲しい程に短く、何にも届きはしない。差し出した手を握り返してくれる存在など、どこにもない。
―――私が―――この子たちが幸せに暮らせる場所など、結局は、どこにも―――
「お父様!大変なの!こっち、こっち!」
闇に沈みかけたデュミナスの意識は、その声で呼び起こされた。目の前には傘を差した見知らぬ女の子が一人。
ティスたちよりは、少し年上のようだ。
女の子は盛んに手を振り、<お父様>とやらに呼びかけ続けていた。そして、一人の男が姿を見せる。
特にハンサムでもない、パッとしない中年男性だったが、自分を呼んでいた女の子に向ける顔は優しく、穏やか
だった。
「テラ!どうしたんだ、こんな所に連れてきて…」
「猫ちゃん追いかけてたら、この人たちがいたの。酷い怪我してるの。助けてあげて!」
男はデュミナスたちを見遣り、はっと驚いたようだった。
「そんな…お前は…メガ…?」
「…?」
デュミナスは困惑した。この二人が何者か分からない上に、男の発したメガ、という言葉が何を示しているのか、よく
分からなかったからだ。
「いや…違う。メガは…死んだんだ…おっと、そんなことを言ってる場合じゃないな。確かに、酷い怪我だ…」
「…あなたは」
デュミナスは問うた。不思議なことに、この二人に対して警戒心はなかった。
「あなた方は…何者ですか」
「あ、ああ。すまん。この子はテラ。わしの娘だ。そしてわしは、山田博士という。ギガゾンビなんてよく分からん
あだ名で呼ぶ奴も多いがな」
「…あまりにもありふれ過ぎて、逆に印象に残る名前ですね。ギガゾンビの方が、まだパンチが利いています」
「初対面だというに、酷い言い様だな…」
「申し訳ない…それよりも、この子たちは…?この子たちは、助かるのですか?」
その問いに、男は難しい顔になった。
「…まともな医療では、ハッキリ言って助からん。この子らは肉体的には、ほぼ死んでしまっているからな。ただ…
幸いと言っていいかは分からんが、頭部―――つまり、脳は無事なようだ。それならば…やりようはある。かなり問題
のある方法ではあるがな」
「…それでも…」

デュミナスは言った。
「助けられるのならば…どうか、助けて欲しい。私は、この子たちに―――生きていて、ほしい」
「分かった…やれる限りのことはしよう」
男は頷き、そしてふと思い出したかのように、聞いた。
「そう言えば―――君の名前を聞いていなかったな」
「名前…私の、名前…」
そんなものを訊かれたのは―――この子たちと出会った時以来だ。それから出会った者たちは、そんなものを聞いては
こなかった。
当然だ。彼らはみんな、敵なのだ。わざわざ名を尋ねてくる必要などない。彼らにとってデュミナスなど殺すか、又は
生け捕りにする対象でしかない。
―――ならばこの男は、自分たちにとってどういう存在たりえるのか。
「私は…」
デュミナスはゆっくりと、己が名を、告げた。

「私は…デュミナス…」

―――それが、苛酷な日々の中で探し求めたものだとは、デュミナスはまだ気付いていない。
男―――ギガゾンビにとっても、デュミナスたち四人がこれから先、己の生き方すら大きく変えるほどの存在になる
など、今は知る由もなかった。
いつのまにか夜が空け、朝日が世界を照らしていた。
雨の中で出会った四人と二人。
<家族>となった、特別な朝―――




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