第九十八話「さよなら!」
―――そして、共に戦った仲間たちとの別れの時がやってきた。
「当たり前だけど・・・やっぱ、のびちゃんたちは元の世界に帰っちゃうのよね」
亜沙は名残惜しそうに口を開いた。
「うん・・・だけどさ、前みたいには悲しくないよ。だって、ほら」
のび太はCPSを指し示した。
「これがあれば、ほら、これからはいつだって会えるんだから。だからさ・・・」
「ちょっとだけ・・・ちょっとだけさよなら」
プリムラは、小さく微笑む。
「そうだよね?また、会えるもの」
「そうそう。ちょっと寂しいけど、会いたくなったらいつでも会いに行くぞ」
へへー、とフー子が屈託なく笑う。今の彼女はサイバスターに宿る精霊という立場上、サイバスターから遠く離れる
ことはできない。というわけで、フー子は稟の元でお世話になることになったのであった。
サイバスターと一緒に。
「―――って、サイバスターは俺が所有することに決定したのか!?あんなとんでもない代物を!?」
土見稟。神にも魔王にも凡人にもなれて巨大ロボットを所有する男。余りにもアレなキャッチフレーズだった。
<いいんだよ、稟。元の持ち主の俺が許可してるんだ。変にどっかに封印するよか、俺やお前、それに神王様や魔王様
の目の届くところに置いといた方がむしろ安心ってもんだ。なあ?>
「ま、そういうわけだ。どっかに隠したところで、妙な奴らに掘り出されて悪用されるかもしれねえからな。それを
考えたらマサキの提案通りにするのが吉ってもんだ」
神王は豪気に言い放った。仮にも伝説の古代兵器というのに、それでいいのか。
「そうそう。あ、置き場所ならこっちで用意するから心配しないでね。なあに、世の中これでどうにかならないことも
あるけど、それでも大概何とかなっちゃうものなんだよ。ふふふ・・・」
魔王は指で円マークを作り、にやりと笑った。大人って汚いと、のび太は思った。
「そういやマサキさんはそのままなの?シュウを倒したんだから、成仏とかは?」
<あ、ああ・・・それがよ、その・・・考えてなかったんだ・・・>
「?何を?」
<いや・・・どうやったら成仏できんのか、その方法をな・・・何せ、死んだってシュウを倒してやるって、それしか俺は
考えてなかったからさ。この後どうすんのかってのは・・・>
凄い無計画ぶりだった。稟は呆れつつも笑いながら言ってやった。
「ま、どうすればいいのかなんて、ゆっくり考えればいいだろ。これからも俺と共同生活を続けるのも悪くないさ」
<へへっ・・・そうか。稟、お前っていい奴だな>
マサキも朗らかに返す。二人とも、すっかりいいコンビといったところだ。
「ま、とにかく・・・色々あったが見事大団円!こいつはめでたいじゃないか!」
アスランがさっぱりした口調で快哉を叫んだ。
「特にニコル。お前が生き残ってくれて本当によかった。スパロボですら生存ルートのないお前のことだ、最終決戦で
ポックリ逝っても不思議じゃなかったからなあ・・・」
「・・・アスラン、いい加減しつこいですよ。それとも何ですか?実はあなた僕のこと嫌いなんですか?」
「心外だな。俺はお前やイザーク、それにディアッカのことは魔導物語はなまる大幼稚園児における戦闘前の掛け合い
漫才システム並に大事に思っているというのに」
「全然大事に思ってないし例えが分かり辛い!?」
「ちなみにキラやリルルのことはバキスレにおけるバレさんの存在並に大事に思っている」
「酷い差別だ!」
「ま、小粋なコントはこのくらいにしといて」
「コント扱いになった!?」
さすがにショックだった。
「貴様というやつは・・・!」
「まあ、いいじゃねえか。面倒なことがとりあえず片付いて、やっと一息付けるんだ。ちょっとくらいは多めに見ようぜ」
ぶち切れそうになるイザークをしっかり抑えるディアッカ。こちらもまたいいコンビと言えよう。
「全くもう、アスランは・・・」
キラは困ったように言いつつも、笑いがこみ上げてくるのを感じていた。最初はアスランの大変貌振りに面食らっていたが、
今ではすっかり慣れてしまった。
むしろ、こっちの方がしっくりくるくらいだとすら思えてきた自分が怖かったりもする。
「ふふ、だけど、みんな楽しそうね」
微笑むリルルの視線の先には、さらに調子をこきすぎて堪忍袋の緒が切れたニコル、イザーク、ディアッカに三人がかりで
ボコられているアスランの姿があった。確かに楽しそうだった。
「本当に・・・こうして皆とずっと一緒にいれたらと思うのですが」
ペコは寂しそうだった。そんな彼に、そっと小さな手が差し伸べられた。
プリムラだ。彼女は微笑みながら、ペコに向かって手を差し出していた。
「プリムラさん・・・」
思えば彼女とは色々あった。非常食扱いされたり、ペット扱いされたり・・・よく考えたらロクな目に会ってない気もしたが、
それでも今思えばそれすらも楽しかった。
ペコはふっと笑って、プリムラの手に自分の手を乗せて―――気付いてしまった。
これは―――この体勢は!
「お手、完成」
「・・・・・・」
ああ、何ということか。これまで決して人様に媚びることなどなかったというのに!その象徴たる<お手>など、犬の王
としての誇りに懸けて決して行うものかと心に誓っていたのに!
ついに―――ついに、その禁忌を破ってしまった!
ぼくは―――負けた。文字通り、負け犬だ・・・。
「はは・・・いいんだ。いいんですとも。ぼくは結局、こういうキャラなんですから・・・」
のび太は見た。爪が肉に食い込むほどに強く握り締められたペコの掌から、真っ赤な血が流れるのを。
「だはは、流石の王様も結局可愛いこちゃんには勝てねえってこったな」
USDマンは茶化すように言ってやった。
「可哀想に、ペコ・・・」
そしてのび太はそっと涙を拭ったのであった・・・。
その時である。
「お、おいおい。なんかみんなもうまとめに入っちゃってるけど、これで本当にお終いにする気なのかい?」
バカ王子が急に慌て始めた。非常に怪しい。
「おや、どうした?ラストバトルで素で作者に存在を忘れられてたバカ王子よ」
「そんな屈辱的な上に説明的なセリフはよせ、アスラン。まあそれはともかく、この結末は僕は納得がいかないんだよ」
「どうして?ちゃんとハッピーエンドじゃない。何が不満なの?」
のび太が聞くと、バカ王子はニヤリと不敵に笑った。実に悪どい雰囲気だった。
「ふふふ・・・こうなったら明かそうか。僕が君たちの仲間になった本当の理由を・・・」
バカ王子はインターネットでバキSSまとめサイトを開き、超機神大戦四十五話の最後辺りの部分を見せた。もう一回
同じ説明をするのが面倒くさかったようである(作者が)。
「な・・・なんてことだ・・・真の敵は味方の中にいたのか!?」
「ちくしょう!今までおれたちを騙してやがったのか!」
ドラえもんは愕然とし、ジャイアンは悔しそうに歯噛みした。
「はーーーーーはっはっはっは!その通り!実は僕こそこのSSにおいて最もタチが悪い男だったのだよ!そんなこと
も気付かなかったとは愚かなり、地球人どもめ!わっはっはっはっは!」
バカ王子はとうとう開き直ったかのように高笑いをかます!
「しかしだ―――こんな中途半端に温いエンディングを迎えてしまうのでは、僕が全然楽しくないのだ!そこで・・・
こんな物をジェバンニの如く一晩で造ってしまいました!」
パチィン!と指を鳴らすバカ王子。その瞬間、大地が裂け、その中から数百メートルはあろうかという超々巨大ロボット
が姿を現した。
「これぞ超弩級究極絶対最強最大ロボ、イデゲタゼオラガオガイマジンデスティニー大龍虎王!その性能はグランゾン・F
の実に数十倍!こいつは凄い!無茶苦茶に凄いぞ!・・・と、いうことで予定変更だ。この無駄に長いSSを更に長くする
ために、僕がこれに乗って真のラスボスになろう!」
バカ王子は更にとんでもないことを言い出した。もはや完全に悪党そのものだ。
「さあ、戦え少年たちよ!血も涙もない修羅と化さねば僕を倒す事は叶わないぞ!わぁ~はっはっはっはっ・・・!」
笑い続けるバカ王子。そんな彼の前に、ずかずかと歩み寄る二人がいた。
神王と魔王である。二人とも、紛うことなき殺気を放っていた。
「へっ・・・まさか、こんな近くに神罰を食らわせてやらなきゃならねえ輩がいたとはな・・・」
「全くだね。これはもう、魔界にご招待してあげようかな?」
流石のバカ王子もたらり、と冷や汗を流す。
「―――なんていうのは冗談だよ。OK。話せば分かる、ブラザー」
「分かるかこのドチクショウがぁぁぁぁーーーーーーっ!」
そして二人が完璧な呼吸で世にも美しい軌道を描くアッパーカットをバカ王子に向けて放った!
「「―――神王・魔王合体奥義―――<神魔剛竜拳>!」」
「う・・・うおおおおお!こういうシチュエーションがあったならば一度は言ってみたかったセリフがある!」
吹っ飛ばされながらもバカ王子は己の魂を振り絞り、そしてあまりにも有名なあの言葉を叫んだ―――
「ばいばいきーーーーーーーーーん!!!!」
キラーーーン・・・バカ王子は宇宙(そら)に輝くお星様となった・・・。
その一部始終をのび太たちは、ただ呆然と見守るだけであった。そして、気付いた。
最後に美味しいところをこいつらに全部持ってかれた、と。
そしてクラフトが一同を代表するかのように神王と魔王の前に立ち、握手を求めた。
「グッジョブ!」
―――彼は本当に満ち足りた笑顔だった。未だかつて、これほどにいい笑顔はなかったとすら思わせるほどに。
三人はがっちりと手を取り合った。巨悪を倒し、その跡に咲いた一輪の花。
漢の歌がそこにはあった・・・。
「・・・なんていうか・・・もう・・・なんだ・・・」
のび太は呆れ果て、逆に清々しい気分ですらあった。
「こんな終わり方も、ぼくららしいと言ったららしいかな・・・」
「同感だ。けどな、のび太。一つ聞きたいことがあるんだ」
「え?」
そう尋ねてきたのはムウだった。彼はいつになく難しい顔をしている。
「君はあの最後の戦いの後で、<狐>と会ったんだろう?結局、奴はどうしたんだ?」
「・・・・・・」
「君は・・・本当に奴を殺したのか?」
「そうしないと、一生あの人に付き合わされるかもしれなかったからさ。それは嫌だった。けど・・・」
のび太は頭を掻きながら言った。
「あの人を殺すのは、もっと嫌な気がしたから・・・結局殺せなかったよ」
―――そう。のび太は結局、西東を殺さなかった。最後の弾丸は・・・虚空に向けて撃った。
西東には、掠りもしないように撃った。
そして西東は、もはや一言も発さずに、どこかへと去っていった。
「だからさ・・・逃がしちゃった」
そして、苦笑した。まさに、苦々しい笑いというにピッタリだ。
「・・・そうか。奴は、生きて逃げ延びた・・・結果的にはそうなるか」
「ひょっとして、ぼく、まずい事しちゃったかな?」
「そうかもな。奴がこれまでにやったことや、後々のことを考えると、引導を渡しとくべきだったかもしれん・・・けど、
終わっちまったもんは仕方ないさ」
ムウもまた苦笑した。
「タイムパトロールへの報告は上手く誤魔化しとくから、その辺は心配するな。明日からはまたいつも通り、平和に
暮らせるはずさ」
ムウはそう言ってのび太の肩を叩いたが、のび太は曖昧に頷くばかりだった。確かに明日からまた、静かな日常が戻って
くることだろう。けれど。
<世界はお前を放っておかない。直に第二・第三の俺が現れる。今回の一件などほんの前哨戦と思えるほどの無数の怪物
たちが、お前の行く手に待っている。幾多の不幸と幾多の不運が、あまねく異形が全ての異能が、お前に牙を剥くだろう。
全ての伏線を消化したなどと思うな。全ての世界を知ったなどと思うな。お前の知ったことなど、ほんの僅かだ>
それが真実ならば―――その日常も、呆気なく崩れ去るのかもしれない。新たなる脅威によって。
あるいは、最悪の狐の再来によって。
だけど、それもしょうがない。だって、自分で決めたことだから。
―――決めたからさ。一生付き合うって。
今回の物語は、ひとまずはこれで終わり。少年たちは、少女たちは、それぞれの世界へと帰っていく―――
―――そんな彼らを、物陰から隠れて見つめる人影があった。
眼鏡をかけた白衣の美女―――<ドクター>絵本園樹。
そしてもう一人。黒く長い髪を風に靡かせる女・・・。
それは、死んだはずのアザミだった。
「あ・・・あの・・・いいの?みんなの前に出なくて。友達なんでしょ?」
絵本がアザミに語りかけたが、彼女は素っ気無く答えた。
「こんな死に損ないのことなど、死んだままにしておいていいのですよ」
「そ・・・そうなんだ・・・あ、あたし、余計なこと言っちゃったよね・・・ご、ごめんなさい。なんであたしはいつも
いつもこうなんだろ。黙ってればいいのに勝手に口を挟んで場の空気を乱して邪魔して(略)」
文に直せば数十行は書けそうな勢いで、絵本はぶつぶつと呟き続ける。そんな彼女の姿に、流石にアザミも苦笑した。
「別に余計なことを言われたとは思いません。ただ私が偏屈なだけです・・・それにしても、あなた、一体どういう人
なんです?完全に死んだはずの私を蘇生させるなど、通常の医術の範疇を大きく越えています。いや、そもそも、何故に
私を助けたのです?あなたにそんな義理などないでしょうに」
「・・・だからあたしなんていなくなった方が世のため人のため・・・え?あ、あの・・・ごめんなさい。よく、聞こえなかった
から、出来たらもう一度・・・」
「・・・・・・」
「あ!ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさい!あたしったら人の話を聞かないなんて、我ながらどれだけ最低なら気が済むんだろ!本当に
本当に本当に本当にあたしときたら(以下略)」
―――アザミはやってられない、とばかりに、明後日の方向に向けて歩き出した。目的地、なし。理由も、なし。
何もなしに、ただ、歩いてみよう。そう思った。
そして―――もしも。もしも、縁が<合った>なら。いつかまた、あの賑やかしい連中と会えるだろう。
彼女はもはや振り返ることなく、歩き続ける。不確定な未来に向けて。
―――そして、一人残されて未だにぶつぶつネガティブな独り言を続ける絵本は。
「・・・おい」
「ひゃっ!?」
背後から乱暴に声をかけられ、驚いて振り向いた。そこにいたのは狐面―――いや、もはや素顔のままの西東だった。
「用事は済んだのか?ならもう行くぞ。時間に余裕がないわけじゃないが、それでも無為に過ごすのは実に愚かしい
ことだ。今回の舞台の幕は降りた。さっさと次のステージへと進もうじゃないか」
それだけ言って、さっさと歩き去ろうとする。絵本はぽかんとして動けない。
「ついて来い。置いてくぞ」
そう言われて、ようやく西東の後を追って駆け出した。そして、尋ねてみた。
「あの・・・狐さん?そうは言っても、これからどうするの?」
「<これからどうするの>ふん。とりあえずは、十三階段の再結成だ。それなりに当てはあるから、そいつらに片っ端
から粉をかけてみる。集まってからのことは、集まってから考えるさ」
「そ・・・そうなんだ。でもそれ、ようするに、何も考えてないってことじゃ・・・」
「そうだとも。何も考えてないぞ、俺は」
平然と言い放ち―――彼は、犯しそうに笑った。
「くっくっく―――まあいいさ。何せあいつは俺に、一生付き合ってくれるそうだからな。焦ることはない」
そして、誰にともなく呟いた。
「じゃあな、俺の敵―――俺とお前はどこまでも縁が<合う>ようだし・・・また会おう」
さて、次に、少年と共に戦った仲間たちのその後から―――
―――そして、共に戦った仲間たちとの別れの時がやってきた。
「当たり前だけど・・・やっぱ、のびちゃんたちは元の世界に帰っちゃうのよね」
亜沙は名残惜しそうに口を開いた。
「うん・・・だけどさ、前みたいには悲しくないよ。だって、ほら」
のび太はCPSを指し示した。
「これがあれば、ほら、これからはいつだって会えるんだから。だからさ・・・」
「ちょっとだけ・・・ちょっとだけさよなら」
プリムラは、小さく微笑む。
「そうだよね?また、会えるもの」
「そうそう。ちょっと寂しいけど、会いたくなったらいつでも会いに行くぞ」
へへー、とフー子が屈託なく笑う。今の彼女はサイバスターに宿る精霊という立場上、サイバスターから遠く離れる
ことはできない。というわけで、フー子は稟の元でお世話になることになったのであった。
サイバスターと一緒に。
「―――って、サイバスターは俺が所有することに決定したのか!?あんなとんでもない代物を!?」
土見稟。神にも魔王にも凡人にもなれて巨大ロボットを所有する男。余りにもアレなキャッチフレーズだった。
<いいんだよ、稟。元の持ち主の俺が許可してるんだ。変にどっかに封印するよか、俺やお前、それに神王様や魔王様
の目の届くところに置いといた方がむしろ安心ってもんだ。なあ?>
「ま、そういうわけだ。どっかに隠したところで、妙な奴らに掘り出されて悪用されるかもしれねえからな。それを
考えたらマサキの提案通りにするのが吉ってもんだ」
神王は豪気に言い放った。仮にも伝説の古代兵器というのに、それでいいのか。
「そうそう。あ、置き場所ならこっちで用意するから心配しないでね。なあに、世の中これでどうにかならないことも
あるけど、それでも大概何とかなっちゃうものなんだよ。ふふふ・・・」
魔王は指で円マークを作り、にやりと笑った。大人って汚いと、のび太は思った。
「そういやマサキさんはそのままなの?シュウを倒したんだから、成仏とかは?」
<あ、ああ・・・それがよ、その・・・考えてなかったんだ・・・>
「?何を?」
<いや・・・どうやったら成仏できんのか、その方法をな・・・何せ、死んだってシュウを倒してやるって、それしか俺は
考えてなかったからさ。この後どうすんのかってのは・・・>
凄い無計画ぶりだった。稟は呆れつつも笑いながら言ってやった。
「ま、どうすればいいのかなんて、ゆっくり考えればいいだろ。これからも俺と共同生活を続けるのも悪くないさ」
<へへっ・・・そうか。稟、お前っていい奴だな>
マサキも朗らかに返す。二人とも、すっかりいいコンビといったところだ。
「ま、とにかく・・・色々あったが見事大団円!こいつはめでたいじゃないか!」
アスランがさっぱりした口調で快哉を叫んだ。
「特にニコル。お前が生き残ってくれて本当によかった。スパロボですら生存ルートのないお前のことだ、最終決戦で
ポックリ逝っても不思議じゃなかったからなあ・・・」
「・・・アスラン、いい加減しつこいですよ。それとも何ですか?実はあなた僕のこと嫌いなんですか?」
「心外だな。俺はお前やイザーク、それにディアッカのことは魔導物語はなまる大幼稚園児における戦闘前の掛け合い
漫才システム並に大事に思っているというのに」
「全然大事に思ってないし例えが分かり辛い!?」
「ちなみにキラやリルルのことはバキスレにおけるバレさんの存在並に大事に思っている」
「酷い差別だ!」
「ま、小粋なコントはこのくらいにしといて」
「コント扱いになった!?」
さすがにショックだった。
「貴様というやつは・・・!」
「まあ、いいじゃねえか。面倒なことがとりあえず片付いて、やっと一息付けるんだ。ちょっとくらいは多めに見ようぜ」
ぶち切れそうになるイザークをしっかり抑えるディアッカ。こちらもまたいいコンビと言えよう。
「全くもう、アスランは・・・」
キラは困ったように言いつつも、笑いがこみ上げてくるのを感じていた。最初はアスランの大変貌振りに面食らっていたが、
今ではすっかり慣れてしまった。
むしろ、こっちの方がしっくりくるくらいだとすら思えてきた自分が怖かったりもする。
「ふふ、だけど、みんな楽しそうね」
微笑むリルルの視線の先には、さらに調子をこきすぎて堪忍袋の緒が切れたニコル、イザーク、ディアッカに三人がかりで
ボコられているアスランの姿があった。確かに楽しそうだった。
「本当に・・・こうして皆とずっと一緒にいれたらと思うのですが」
ペコは寂しそうだった。そんな彼に、そっと小さな手が差し伸べられた。
プリムラだ。彼女は微笑みながら、ペコに向かって手を差し出していた。
「プリムラさん・・・」
思えば彼女とは色々あった。非常食扱いされたり、ペット扱いされたり・・・よく考えたらロクな目に会ってない気もしたが、
それでも今思えばそれすらも楽しかった。
ペコはふっと笑って、プリムラの手に自分の手を乗せて―――気付いてしまった。
これは―――この体勢は!
「お手、完成」
「・・・・・・」
ああ、何ということか。これまで決して人様に媚びることなどなかったというのに!その象徴たる<お手>など、犬の王
としての誇りに懸けて決して行うものかと心に誓っていたのに!
ついに―――ついに、その禁忌を破ってしまった!
ぼくは―――負けた。文字通り、負け犬だ・・・。
「はは・・・いいんだ。いいんですとも。ぼくは結局、こういうキャラなんですから・・・」
のび太は見た。爪が肉に食い込むほどに強く握り締められたペコの掌から、真っ赤な血が流れるのを。
「だはは、流石の王様も結局可愛いこちゃんには勝てねえってこったな」
USDマンは茶化すように言ってやった。
「可哀想に、ペコ・・・」
そしてのび太はそっと涙を拭ったのであった・・・。
その時である。
「お、おいおい。なんかみんなもうまとめに入っちゃってるけど、これで本当にお終いにする気なのかい?」
バカ王子が急に慌て始めた。非常に怪しい。
「おや、どうした?ラストバトルで素で作者に存在を忘れられてたバカ王子よ」
「そんな屈辱的な上に説明的なセリフはよせ、アスラン。まあそれはともかく、この結末は僕は納得がいかないんだよ」
「どうして?ちゃんとハッピーエンドじゃない。何が不満なの?」
のび太が聞くと、バカ王子はニヤリと不敵に笑った。実に悪どい雰囲気だった。
「ふふふ・・・こうなったら明かそうか。僕が君たちの仲間になった本当の理由を・・・」
バカ王子はインターネットでバキSSまとめサイトを開き、超機神大戦四十五話の最後辺りの部分を見せた。もう一回
同じ説明をするのが面倒くさかったようである(作者が)。
「な・・・なんてことだ・・・真の敵は味方の中にいたのか!?」
「ちくしょう!今までおれたちを騙してやがったのか!」
ドラえもんは愕然とし、ジャイアンは悔しそうに歯噛みした。
「はーーーーーはっはっはっは!その通り!実は僕こそこのSSにおいて最もタチが悪い男だったのだよ!そんなこと
も気付かなかったとは愚かなり、地球人どもめ!わっはっはっはっは!」
バカ王子はとうとう開き直ったかのように高笑いをかます!
「しかしだ―――こんな中途半端に温いエンディングを迎えてしまうのでは、僕が全然楽しくないのだ!そこで・・・
こんな物をジェバンニの如く一晩で造ってしまいました!」
パチィン!と指を鳴らすバカ王子。その瞬間、大地が裂け、その中から数百メートルはあろうかという超々巨大ロボット
が姿を現した。
「これぞ超弩級究極絶対最強最大ロボ、イデゲタゼオラガオガイマジンデスティニー大龍虎王!その性能はグランゾン・F
の実に数十倍!こいつは凄い!無茶苦茶に凄いぞ!・・・と、いうことで予定変更だ。この無駄に長いSSを更に長くする
ために、僕がこれに乗って真のラスボスになろう!」
バカ王子は更にとんでもないことを言い出した。もはや完全に悪党そのものだ。
「さあ、戦え少年たちよ!血も涙もない修羅と化さねば僕を倒す事は叶わないぞ!わぁ~はっはっはっはっ・・・!」
笑い続けるバカ王子。そんな彼の前に、ずかずかと歩み寄る二人がいた。
神王と魔王である。二人とも、紛うことなき殺気を放っていた。
「へっ・・・まさか、こんな近くに神罰を食らわせてやらなきゃならねえ輩がいたとはな・・・」
「全くだね。これはもう、魔界にご招待してあげようかな?」
流石のバカ王子もたらり、と冷や汗を流す。
「―――なんていうのは冗談だよ。OK。話せば分かる、ブラザー」
「分かるかこのドチクショウがぁぁぁぁーーーーーーっ!」
そして二人が完璧な呼吸で世にも美しい軌道を描くアッパーカットをバカ王子に向けて放った!
「「―――神王・魔王合体奥義―――<神魔剛竜拳>!」」
「う・・・うおおおおお!こういうシチュエーションがあったならば一度は言ってみたかったセリフがある!」
吹っ飛ばされながらもバカ王子は己の魂を振り絞り、そしてあまりにも有名なあの言葉を叫んだ―――
「ばいばいきーーーーーーーーーん!!!!」
キラーーーン・・・バカ王子は宇宙(そら)に輝くお星様となった・・・。
その一部始終をのび太たちは、ただ呆然と見守るだけであった。そして、気付いた。
最後に美味しいところをこいつらに全部持ってかれた、と。
そしてクラフトが一同を代表するかのように神王と魔王の前に立ち、握手を求めた。
「グッジョブ!」
―――彼は本当に満ち足りた笑顔だった。未だかつて、これほどにいい笑顔はなかったとすら思わせるほどに。
三人はがっちりと手を取り合った。巨悪を倒し、その跡に咲いた一輪の花。
漢の歌がそこにはあった・・・。
「・・・なんていうか・・・もう・・・なんだ・・・」
のび太は呆れ果て、逆に清々しい気分ですらあった。
「こんな終わり方も、ぼくららしいと言ったららしいかな・・・」
「同感だ。けどな、のび太。一つ聞きたいことがあるんだ」
「え?」
そう尋ねてきたのはムウだった。彼はいつになく難しい顔をしている。
「君はあの最後の戦いの後で、<狐>と会ったんだろう?結局、奴はどうしたんだ?」
「・・・・・・」
「君は・・・本当に奴を殺したのか?」
「そうしないと、一生あの人に付き合わされるかもしれなかったからさ。それは嫌だった。けど・・・」
のび太は頭を掻きながら言った。
「あの人を殺すのは、もっと嫌な気がしたから・・・結局殺せなかったよ」
―――そう。のび太は結局、西東を殺さなかった。最後の弾丸は・・・虚空に向けて撃った。
西東には、掠りもしないように撃った。
そして西東は、もはや一言も発さずに、どこかへと去っていった。
「だからさ・・・逃がしちゃった」
そして、苦笑した。まさに、苦々しい笑いというにピッタリだ。
「・・・そうか。奴は、生きて逃げ延びた・・・結果的にはそうなるか」
「ひょっとして、ぼく、まずい事しちゃったかな?」
「そうかもな。奴がこれまでにやったことや、後々のことを考えると、引導を渡しとくべきだったかもしれん・・・けど、
終わっちまったもんは仕方ないさ」
ムウもまた苦笑した。
「タイムパトロールへの報告は上手く誤魔化しとくから、その辺は心配するな。明日からはまたいつも通り、平和に
暮らせるはずさ」
ムウはそう言ってのび太の肩を叩いたが、のび太は曖昧に頷くばかりだった。確かに明日からまた、静かな日常が戻って
くることだろう。けれど。
<世界はお前を放っておかない。直に第二・第三の俺が現れる。今回の一件などほんの前哨戦と思えるほどの無数の怪物
たちが、お前の行く手に待っている。幾多の不幸と幾多の不運が、あまねく異形が全ての異能が、お前に牙を剥くだろう。
全ての伏線を消化したなどと思うな。全ての世界を知ったなどと思うな。お前の知ったことなど、ほんの僅かだ>
それが真実ならば―――その日常も、呆気なく崩れ去るのかもしれない。新たなる脅威によって。
あるいは、最悪の狐の再来によって。
だけど、それもしょうがない。だって、自分で決めたことだから。
―――決めたからさ。一生付き合うって。
今回の物語は、ひとまずはこれで終わり。少年たちは、少女たちは、それぞれの世界へと帰っていく―――
―――そんな彼らを、物陰から隠れて見つめる人影があった。
眼鏡をかけた白衣の美女―――<ドクター>絵本園樹。
そしてもう一人。黒く長い髪を風に靡かせる女・・・。
それは、死んだはずのアザミだった。
「あ・・・あの・・・いいの?みんなの前に出なくて。友達なんでしょ?」
絵本がアザミに語りかけたが、彼女は素っ気無く答えた。
「こんな死に損ないのことなど、死んだままにしておいていいのですよ」
「そ・・・そうなんだ・・・あ、あたし、余計なこと言っちゃったよね・・・ご、ごめんなさい。なんであたしはいつも
いつもこうなんだろ。黙ってればいいのに勝手に口を挟んで場の空気を乱して邪魔して(略)」
文に直せば数十行は書けそうな勢いで、絵本はぶつぶつと呟き続ける。そんな彼女の姿に、流石にアザミも苦笑した。
「別に余計なことを言われたとは思いません。ただ私が偏屈なだけです・・・それにしても、あなた、一体どういう人
なんです?完全に死んだはずの私を蘇生させるなど、通常の医術の範疇を大きく越えています。いや、そもそも、何故に
私を助けたのです?あなたにそんな義理などないでしょうに」
「・・・だからあたしなんていなくなった方が世のため人のため・・・え?あ、あの・・・ごめんなさい。よく、聞こえなかった
から、出来たらもう一度・・・」
「・・・・・・」
「あ!ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさい!あたしったら人の話を聞かないなんて、我ながらどれだけ最低なら気が済むんだろ!本当に
本当に本当に本当にあたしときたら(以下略)」
―――アザミはやってられない、とばかりに、明後日の方向に向けて歩き出した。目的地、なし。理由も、なし。
何もなしに、ただ、歩いてみよう。そう思った。
そして―――もしも。もしも、縁が<合った>なら。いつかまた、あの賑やかしい連中と会えるだろう。
彼女はもはや振り返ることなく、歩き続ける。不確定な未来に向けて。
―――そして、一人残されて未だにぶつぶつネガティブな独り言を続ける絵本は。
「・・・おい」
「ひゃっ!?」
背後から乱暴に声をかけられ、驚いて振り向いた。そこにいたのは狐面―――いや、もはや素顔のままの西東だった。
「用事は済んだのか?ならもう行くぞ。時間に余裕がないわけじゃないが、それでも無為に過ごすのは実に愚かしい
ことだ。今回の舞台の幕は降りた。さっさと次のステージへと進もうじゃないか」
それだけ言って、さっさと歩き去ろうとする。絵本はぽかんとして動けない。
「ついて来い。置いてくぞ」
そう言われて、ようやく西東の後を追って駆け出した。そして、尋ねてみた。
「あの・・・狐さん?そうは言っても、これからどうするの?」
「<これからどうするの>ふん。とりあえずは、十三階段の再結成だ。それなりに当てはあるから、そいつらに片っ端
から粉をかけてみる。集まってからのことは、集まってから考えるさ」
「そ・・・そうなんだ。でもそれ、ようするに、何も考えてないってことじゃ・・・」
「そうだとも。何も考えてないぞ、俺は」
平然と言い放ち―――彼は、犯しそうに笑った。
「くっくっく―――まあいいさ。何せあいつは俺に、一生付き合ってくれるそうだからな。焦ることはない」
そして、誰にともなく呟いた。
「じゃあな、俺の敵―――俺とお前はどこまでも縁が<合う>ようだし・・・また会おう」
さて、次に、少年と共に戦った仲間たちのその後から―――