SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 強伝説の戦士 黒沢 50-4


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クモ男騒動の翌日。崖上の工事現場は、活気に包まれていた。
死者九名と重傷者三名を出した惨劇の場として警察が大掛かりな現場検証を
行っており、怪物が暴れるというショッキングな事件にマスコミが大勢詰め掛けている。
もちろん工事は中止されており職人も来ていないが、事務所兼宿舎のプレハブで
取材を受けているのは作業着姿の浅井。
「いや~、あの時は本当に、僕も死ぬかと思いましたけどね。キャハ」
何本ものマイクを突きつけられ、眩いばかりのフラッシュを浴びて、得意満面である。
警察官たちを惨殺し、イングラムさえ倒してしまったクモ男をショベルカーで崖下に叩き込んだ
英雄、ということになっているらしい。でマスコミ各社の大挙取材攻勢というわけだ。
黒沢はその取材陣の後ろで、壁にもたれて悠然と腕を組んでいた。
『クククク……よしよし、読み通りだ……っ』

あの戦いの後。浅井は崖下に降り、川岸で倒れている黒沢を発見した。一緒に落ちたクモ男
は行方不明、黒沢は死ぬ思いで岸まで泳ぎ着き、いつの間にか変身も解けていたとのこと。
「黒沢さんが無事で良かったですけど、こんな大事件になっちゃったらもう、さすがに警察も
隠し切れないでしょうね。明日の新聞やニュース、間違いなく今朝以上の大騒ぎですよ」
「ああ……そりゃまあ……そうだろうな……」
九死に一生を得た黒沢は、もう何も考えられなかった。浅井に肩を借りてどうにか
立ち上がるが、今は何を言われてもその言葉の内容がぼ~っとしててどうにも……
「……ん? 待てよ……テレビや新聞で大騒ぎ……そうか! それだ、浅井!」
「は?」
「ううっ……苦節44年……疎んじられることはあっても尊敬されることなどなく、
キモがられることはあってもモテたことなどなかったが……だが遂に、遂にオレが、
絶大なる賞賛のスポットライトを浴びる時が来たのだ……っ、ぅぐ、あぐ、えぐ、ぉぐっ」
感涙しながら狂喜して喘いで悶える黒沢。ブキミだ。
「あの、黒沢さん。一体何を?」
「安心しろ浅井っ、お前も一緒だ。但しオレが主役でお前は脇役、オレが孫悟空なら
お前は三蔵の馬、オレが焼肉盛り合わせならお前はレジで貰う消臭ガムってとこだが」
「だから何なんです?」
「クククク……クク……まぁよく聞け。段取りが肝心だからな、段取りが……」

で翌朝のプレハブにて。
『よしよしよしよし……っ。何もかも予定通りだ……諸葛孔明のデビュー戦、博望坡の戦い
の如く……全ての事態、全ての流れが、オレの読み通り……イケる……イケる……っ!』
記者団から浅井への質問は、まず怪物が現れた時の状況に始まり、警察官たちの惨殺シーン
へと時系列に沿って進んでいった。やがてクライマックス、浅井の戦いに辿り着く。
「え~っと、ですね。あの時僕は一人戦ったわけではなくて、」
『よしいいぞ、浅井っ』
「今正に、あのバケモノ……クモ男に殺されそうになった時に、」
『颯爽と超人が現れた、正義のヒーローが舞い降りた、だ!』
「さっそうと……」
「ああ、第2号ですね?」
記者の一人が言った言葉に、浅井のセリフと黒沢の思考が止まった。
「ほんと、運がいいですよねえ浅井さん。イングラムを易々と潰してしまうようなバケモノが
二匹も現れたその場に居合わせて、大したケガもなく生き延びたんですから」
「え、いやあの、二匹っ……て、その、」
「あ、ほら。あれでも言ってますよ」
と記者の一人が壁際を指差した。つけっぱなしだったテレビで、ワイドショーをやっている。
《……で、警視庁が公式にその存在を発表するに到りました。こちらの映像をご覧下さい。
この糸を吐いているのが未確認生命体第1号、それと争っている白いのが第2号です。
この異形の怪物たち、仲間割れの原因は不明ですが先日の遺跡調査隊の事件と関連……》
浅井と黒沢の世界から、このテレビ以外の全てが、束の間だが消え失せた。
《この正体不明の怪物たちに対抗するため、警察は異例の武装強化を進めています。
一刻も早い事件の解決、凶悪な未確認生命体の駆除に全力を……》
番組はその後、いろんなエラい人たちのコメントだか解説だかに移っていった。
で記者たちの浅井への質問が再開されたが、
「え、え~と、その」
記者たちの後ろから、ぐるるぅ……っ! と獣の唸り声が聞こえてきそうな目で黒沢が
睨みつけてくるので、
「あ、後のことはよく覚えてないんです~、キャハ。いやぁ無我夢中でしたから、そりゃもう」
「では未確認生命体第2号について何かありませんか? 1号との違いなど詳しく」
「え、えと……2号は、ですね……その、」
『あぁ~さぁ~いいぃぃっ!』
黒沢の吊り上がった目から放たれる熱々の殺気が、浅井に突き刺さる。
「し、知りません何も! 僕、2号の知り合いでも何でもないですから、彼の素性とか全然っ」
「いや、それはそうでしょうけど。ですが現場におられたわけですし、」
記者団はなおもしつこく浅井に食い下がる。少しでも未確認生命体に関する情報が欲しいの
だろう。そりゃそうだ、彼らはそれが仕事なんだから。殺人凶悪モンスターなんて、
美味し過ぎる話題だ。それこそ警察並に食いついてくるのが当然……警察? といえば、
「黒沢さん、でしたよね」
いつの間にか俯いていた黒沢に、声がかけられた。何だか可愛らしい、けど低く押さえた声。
そちらを見ると、小さな靴。そこから視線を上げると、きゅっと引き締まった表情をした
紅顔の美少年……ではなく、オレンジ色の制服を着た婦警さんがいた。野明だ。
「聞きたいことがあります。ここでは何ですから、外へ出ましょう。来て下さい」
黒沢はもう抵抗する気力もなく、フラフラと着いていった。野明の小さな肩と背を見つめて……
そう、見つめていると……何だか見える気がする……ドロドロと音を立てて渦巻き
燃え盛っている、野明の怒りだか悲しみだか憎しみだか嘆きだか、そういう類の感情が。
『ああ……そういやぁ心のどこかで……いや、結構ど真ん中で……期待、してたな……オレ。
あの時、オレが「やめろ」って叫んで、オレが変身して戦って……それでこの子が助かった……
完全に、命の恩人……正にヒーロー、白馬の王子……いや、もちろん、恩に着せてどうこう
なんて気はねえよ、だけど……だけどせめて、せめて……っ、こう、アレだ。この子の、
輝くような弾けるような笑顔で、たったひとこと……「黒沢さん、ありがとうっ♪」ぐらい……
それぐらい期待したって、バチは当たらねえだろうがよ……っ!』
今や叶わぬ夢となったそれが、野明の笑顔が、黒沢の胸の中で跡形なく崩れ去っていった。