SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 永遠の扉 第019話「歪(後編)」50-4


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第019話 「歪(後編)」

竹藪の中に甲高い金属音が数合響き、影が何度目かの交差をした。
舞い飛んだのは一縷の黒きれ、一縷の白きれ。
掠め取られた黒装束からは浅黒い鉄のような肌がのぞき、裂かれたセーラー服の肩口から
白い鎖骨に切れ込んだ一条の傷が覗いた。
「少しは手練れた化物のようだが予定に変更はない! 貴様を殺して割符は貰うぞ!」
肩の流血に怯まず眉に皺寄せ睨む斗貴子はなかなかに凄然としているのだが、しかし無銘
はたじろいだ様子もなく、懐に手を入れると割符を見せた。
「我、偽らざる…… 欲するのであれば狙うがいい。我はただ守るのみ」
無銘の懐から筒のようなものが飛んだ。
それは竹笛を穴ぼこにしたような形状で、火を吹いている。
「古人に云う。S・O・S、S・O・S、平和が壊れる」

「むむっ!」
同時刻、食堂でまひろが何やら反応したが、秋水にはよく理由は分らない。

ともかく、無銘の投げた物体の名前は打竹という。
忍びは火器を使うために、火種を常に携帯する必要がある。
その火種を入れる入れ物を差し、「打竹」という。
だから本来ならばこういう火薬のような使い方はしないのだが、そこは処刑鎌が大腿部から
生え、風船爆弾にヘンな顔がついてアフンアフン鳴いて原作とアニメではまったく特性が異な
ったりする武装錬金だ。多少の齟齬はあって当然といえよう。
爆炎に軽く身を焦がされた斗貴子は、いよいよ疲弊と憤怒の濃さを形相に高めていく。
そこへ無銘は、印籠を取り出すやいなや、薬液を吹きかけた。
もちろん避けた斗貴子だが、地面に降りかかった薬液は白煙を巻き上げ、ふしゅうふしゅうと
化学的な臭いを辺りに散らした。
(書物によっては、「打竹」ではなく「火種」が、「薬」ではなく「印籠」が忍六具に挙げられてい
るが、本SSではそれぞれ前者を採用する)
きゅっと小鼻に走った痛覚にいよいよ形相を悪鬼のようにゆがめながら跳躍し、宙返りをし
ながら鉈のように重い処刑鎌を四本全て垂直に降らした。
それを腰だめで半歩後退して避けると、指を口に当て甲高い音を鳴らす無銘。

「忍六具(シノビロクグ)の武装錬金・無銘が肆。忍犬」
同時に崖の上から降り立ったものがある。それは中型犬の形状こそしているが、全身に金
属のベールをまといひどく無機質な殺気を斗貴子に対して振りまいている。
かつて無銘が再殺部隊の一同と戦った際、火渡を抑えていた自動人形である。
(桜花のように複数のパーツから成る武装錬金か。が!)
飛来する忍犬が、しかし轟然と竹の幹へはじき返されたと思う暇もあらばこそ。
「犬の自動人形(オートマトン)なら、あの再殺部隊の男の方がまだマシ!」
白煙をあげる地面が根こそぎまくり取られて、無銘の瞳に吹きかかった。
それらはもちろんバルキリースカートによるものではあるが、しかし相手がはなった薬液を
土くれとともに眼つぶしに用いようとは。常人なれば着想あれど実行できよう筈もない。
残虐さに満ち満ちている。
「ならば」
口を覆う黒くブ厚い布の下ですぅっと息を吐くと、無銘は左手に印籠、右手に打竹をあらん
限り出現させ、一気呵成に投げつけた。
「勝負を賭けたか!」
斗貴子から見て右端の処刑鎌から水けぶりが、左端の処刑鎌から爆炎が、それぞればしゃ
あと巻き起こった。
刃の腹が薬液や打竹を弾いたのはいうまでもない。
あたりに燃焼と溶解の硫黄臭まみれの白い煙がうっすらたなびき。
それらをつっきるように矢の雨が襲来した!
斗貴子は知らないが、根来に対してはミサイルランチャーのように注いだ驟雨である。
かつて相対した桜花の矢など比類にならない。
彼女のはせいぜい屋上の床に穴を空ける程度だが、無銘のは壁を爆砕する。
その威力の違いが分らぬほど斗貴子は短慮ではない。
足首に力を入れ前方に跳躍……
しようとした瞬間、押さえつけるような違和感を両足のはるか外側に感じた。
「っの……!」
原因を見とがめた斗貴子は切歯しながら”それら”を見た。
先ほど薬液と打竹を捌いた両翼の鎌に巻きついているものがあった。
右は三尺手拭。左は鉤縄。
無銘はそれらを右手に束ねつつ、左手で編笠を胴体の中心に備えていた。
回避も不可。跳躍も不可。普通に考えれば残る対処は二つ。

残り二本の処刑鎌で矢を捌ききるか、防ぎきるか。
しかしそのどちらも実効性が薄いのを、斗貴子は発案と同時に認めた。
捌くには無数の矢に対して二本の鎌は少なすぎる。防ぐには範囲が狭く、強度がもろ過ぎる。
屈辱にわななく金の瞳に、業火放つ矢たちが吸い込まれていき──…

斗貴子に備わっている種々の要素のうち、もっとも恐るべきものをあげるとすれば何か?
ホムンクルスへの憎悪? 残虐性? それともバルキリースカートの特性そのもの?
否。
空間把握力だ。
人は包丁さばきやマジックハンドの扱いにすら四苦八苦する。
例えば、すぐ手元にある魚の腹にさえうまく刃を入れられなかったり、マジックハンドで一メー
トル手前のタバコを取るにももどかしい思いをしたりする。
手に持っている道具ですらそうなのだ。
まして、大腿部から生えた四本の処刑鎌を高速かつ精密に操り、敵に当てるなどという芸当
は実は恐るべき事象といっていい。
なぜならば彼女は、手ではなく生体電流などという漠然した信号で、手の数の二倍もあるバ
ルキリースカートを操っているのだ。
それも高速かつ精密に、殺意を持って動く敵というまな板の魚や部屋のタバコよりも難解な
対象相手にだ。
よほどの空間把握力がなければ、これらの困難な条件の下で戦えはしないだろう。
余談だが、後にこの銀成市で悲劇的な末路を辿る『剣持真希士(ケンモチマキシ)』という戦
士も、斗貴子同様なかなかに空間把握を要する武装錬金の持ち主だが、本題でないゆえに
詳細は省く。

蒼い影が横殴りに猛然と飛び交う矢の下を、平蜘蛛のように奔った!
斗貴子だ。
彼女はするすると身をかがめるや否や、残る二本のバルキリースカートで地面を叩き、四足獣
のように地面すれすれを吶喊していた!!
彼女はとっさに見つけていた。足元の空白地帯を。
無銘が丸い編笠から矢を射出する以上、それは必然ともいえる空白である。
胴体を狙えばどうしても足元には矢が飛ばない。
それを斗貴子の空間把握の感覚がとっさに捉え、そして一挙にくぐり抜けた。

跳躍よりは体重が沈み込む分、行動の自由があるのだ。
こうなれば無銘の三尺手拭や鉤縄による拘束は逆効果。
斗貴子は地面との反発を利して、細い体からは想像もつかぬ強烈な力で以て拘束途中の
バルキリースカート後方に向かって最大馬力で稼働した!
当然のコトながら、逆(さかしま)に翻った無銘の視界の先には自らが放った矢が無数に迫っ
ており……
耳をふさぎたくなるやかましい音があたりに充溢。
黒装束の巨体が焦げて爆ぜつつ吹き飛んで行き、、十数本の竹をメシメシとへし折り終わ
ったところでようやく地面に解放された。
その体たるや達磨のように四肢が吹き飛び、顔を覆う黒装束も雑巾のように燃え尽きてお
り、そこから全身に灯る小さな炎のチロチロは、斗貴子の遠目にボロクズのような無銘を映
し出すサーチライトの役目を果たしている。
「とりあえず……まずは……一体」
息絶え絶えに呟きながら立ち上がると、膝がかすかに笑った。
疲労感がどっと押し寄せてきた。
心にみずみずしさを持った戦士ならば、それをもしのぐ任務達成の喜びがあるのだろうが、
斗貴子にはそういうプラスの感情がない。
(いや、これでいい筈なんだ。今は敵を倒して割符を回収するコトが先決……! そうすべ
きなんだ。どうせいくら手を伸ばしても、彼に届きはしない……)
黒い海の上でほどかれた手の感覚がじわりと全身に広がり、口の中を苦くする。
暇はなかった。

斗貴子はまったくそういう前兆を感じてはいなかった。
しかし感じているべきだった。警戒を怠るべきではなかった。
総角たちへの殺意に囚われ重要なコトを失念すべきでは、なかったのだ。
この町で争う勢力は、戦士と総角たちばかりではないというコトを。
現に先ほどはその勢力の手だしにより、剛太と分断されてしまった。
斗貴子は、覚えておくべきだったのだ。
L・X・E。超常選民同盟残党の存在を!!

闇を帯びた紫電が天蓋の笹を瞬間の中で焼き切りながら、斗貴子の体を貫いた!
声にならない呻きを上げながら、斗貴子は膝をつき、訳も分らないという様子で倒れた。

「ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズのうち、一名を殺害。一名は戦闘不能、か。さすが銀
成学園で調整体の群れを屠っただけのコトはある」
竹藪をのそりとかき分けながら、褐色肌の巨漢が現れた。
無銘とは違い、黒装束の類は一切まとっていない。
骨ばった顔と裸の上半身に西部の荒野を走る部族を思わせる真赤な刺青を入れている。
ホムンクルス浜崎。いうまでもなくL・X・Eの残党である。
その足もとにやわらかい感触が走った。
見ればチワワがまとわりつき、浜崎の足元を噛んだりひっかいたりして遊んでいる。
「ふむ」
浜崎は巨体を丸めるとチワワのうなじをなでようとして、やめた。
「私を舐めるな……!!!!」
まるで幽鬼だ。
わななく肢体を懸命に直立させながら、がくりと下げた頭で激しい吐息をつく少女が一人。
青い短髪は暴風にさざめく枝のように今にも吹き飛びそうな勢いだ。
「貴様はオレたちによほど災厄をまき散らしたいらしいな。思わば先ほどの新人戦士とネコ
型ホムンクルス、貴様さえ来なければ消耗したところを討てたものを。しかしむしろ、ある意味
では早坂桜花同伴の新人戦士ではなく貴様に狙いを変えたのは正解ともいえような」
「……消耗したところを狙い打つ。化物らしい汚い手段だな」
呼吸を整えながら雷による損壊を確認。
視覚はほぼゼロ。聴覚はかろうじて残っている。
下半身はバルキリスカートが偶然にも避雷針のように電撃を放流したせいか、ほぼ無傷に
近いが、首から背筋に走った電流は無慈悲にも足への神経情報を著しくロスしている。
両腕はさらに悪い。火傷と痺れで持ち上げるコトもかなわない。
「雑言結構。ココで貴様を討ち、復仇を成すのみ」
「たかがホムンクルス一体に何ができる! 先ほど斃した仲間の後を追わせてやる!」
斗貴子は初撃にかけた。焦点定かならぬ瞳で泳ぐように駆けた。
果たして蒼茫鮮やかな処刑鎌は浜崎の体表に達し。
赤いまだらのついた皮膚に芽生えた、ライトパープルの巨大な六角形の鱗にはじかれた。
細やかな六角形の光が浜崎の体表に散らばり、衝撃で斗貴子の重心が後方にブレた。
「くっ!」
「確かに何もできはしないなァ。『たかがホムンクルス』ならばなァ~ッ!」

変調。
浜崎の小さな白目はドロドロの汚濁にひくつき、肉厚の顎が暗い愉悦にアングリと開いた。
開いた口からは腐臭が漂い、斗貴子の攻撃本能を刺激した。
「切り裂け! バルキリースカート!!」
一気呵成に振りかざした処刑鎌が、六角形の鱗をあらん限り吹き飛ばし、ついで浜崎の
上半身を微塵と切り裂いた。
「口ほどにもない」
「いいや、無意味よなァ」
斗貴子の回復しつつある視覚は、異様な光景を捉えた。
高さ二メートルはある黄色い粘塊。それが浜崎の下半身を土台にうねっている。
生皮を剥いだコブラの生首のように粘膜生々しく光るそれの背後には羽が浮かんでいる。
「繋がって」いるのではなく、「浮いている」のだ。
大小様々のひし形の断片がいかなる原理か宙に浮き、自然に群れを形成する小魚の群れ
のように左右一対の巨大な蝶の羽を形成しているのだ。
それらはオレンジから水色へ、水色から再びオレンジ色へと絶え間ないグラデーションを繰り
返し、唖然とする斗貴子の顔を照らしている。
「真・蝶・成体! 試作品だがいまの貴様程度にはすぎる代物よ! さァ、ムーンフェイス様よ
り頂いたこの力、とくと見るがいい!」