SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 永遠の扉 第018話「歪(前編)」50-3


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一本の処刑鎌がどうっと袈裟斬りに貴信の胸に吸い込まれ。
一本の処刑鎌が貴信の左脇を斬り上げ肩の付け根から吹き飛ばし。
一本の処刑鎌が地をすべったとみるや、それは貴信の両膝を伐採し。
一本の処刑鎌が貴信の目を狙う途中で鎖に絡みつかれた。
「悪いな! 元飼い主としちゃあ、元飼い猫がいたぶられるかも知れん時に、のほほんと後
ろばかり見てるワケにはいかない!! 傷を受けるなら僕の方がまだ心痛は少ない!!」
叫びと共に砕けんばかりの握力で鎖を握りしめ、背後に向かって振りぬける!
足を伐採されたにも関わらず、驚異的な力が湧いたのは、精神力のなせる技だ。
そして当然のコトながら鎖はバルキリースカートに絡まっている。
バルキリースカートは斗貴子の大腿部に装着されている。
よって彼女は成すすべなく宙を舞い飛び、上下逆さで崖の四メートル地点に叩きつけられた。
「今はさすがに即死させる威力はないが、どうだぁ!!」
「ぐっ!」
痺れた肺腑から苦しい息が搾り出される。ひび割れた崖を背中がなすすべなく滑り落ちていく。
「僕と香美は一心同体だから、受ける痛みは同じだが!! 力がある分僕が表立つ方が!」
「……ホムンクルス風情が」
斗貴子は意外な行動に出た。頭から落ちながらもバルキリースカートに絡みついた鎖を、残
りの処刑鎌で上向きに叩いたのだ。
一瞬のたわみに遅れて、猛烈な力が鎖を伝導。それを持ってる貴信を空に跳ね上げた。
ちゃりちゃりとうるさい音の中、風船が引かれるような沈降感の中。
貴信は見た。
着地した斗貴子を。見たコトもない殺意の光を瞳に充満させる斗貴子の姿を。
「ホムンクルス風情がその言葉を、一心同体などと口にするな!! 口にするなァァァ!!」
狂乱にも近い叫びをあげる斗貴子に、貴信も香美もまったく気押され、茫然とした。
彼らは知らない。斗貴子がかつて武藤カズキに『一心同体』と誓ったコトを。
そしてその誓いを破られ、カズキを手の届かないところを失ったコトを。
彼女にとってその言葉がいかに逆鱗かを。
「生け捕るのはもうやめだ!」
斗貴子は跳躍した。貴信はその姿を一瞬失念した。彼女の動きは人間としての運動性能を
はるかに逸脱していたからだ。それも負の情念のなせる技。

だから背中を斬りつけられ、香美の短い呻きを聞く時まで、斗貴子が一瞬で貴信の背後ま
で飛んでいるとは露ほども気付けなかった。鎖もいつの間にやらほどけている。
「私らしく、地獄の痛みの中で吐かせてやる!!」
バランスを崩して地面に叩きつけられた貴信の背中に上空から四本もの処刑鎌をブッ刺す
と、そのままピアノの鍵盤でも叩くような速度で断続的に刺しはじめた。
香美の口からネコ科特有の絞り出すような叫びが迸る。貴信も苦鳴を漏らす。
それでいて斗貴子は賞印を貫こうとしないから、いやはやまったく恐ろしい。
「さぁ、早く楽になりたくば、さっさと貴様たちの仲間の居場所を吐けッ!」
突っ伏す貴信はさすがに絶望を始めていた。
(駄目だ……抜け出そうにも隙がない。ふはは。あまり大声出さなかった方が良かったか?
でもせめて香美だけは助けてやりたかったが……都合良く救援なんて)
意識が遠のいていく。香美の声も聞こえなくなっていく。
指先から力が抜けて、痛覚さえ風の中で薄れていく。

「死んだか」
斗貴子は処刑鎌の動きを止めると、無感動につぶやいた。
「いや、まだだ。死体が消滅していない。ならば……」
斗貴子の内心にはうら寂しい風が吹いている。
敵を殺す。かつてはその理念を貫くのが総てだった。
でも斗貴子はカズキと出会ってしまい、敵を殺すコトでは得られない暖かな感情を貰っていた。
けれど彼はこの地にいない。
取り戻せるなら取り戻したい。けれどその術が絶望的なまでに見つからない。
一体、ホムンクルスを斃した所で何になるというのか。
そうした所で斗貴子の抱える葛藤に光明など射さない。
荒れ狂った傷が世界にバラ撒かれるだけだ。
(けれどどの道、カズキにできるコトなんてこれぐらいしかない……! してやれるコトなど……!)
バルキリースカートを四本ともカマキリのように構えると、貴信の背中越しに章印を狙う。
そして。
貴信を取り囲むように六角形の輪郭が地面に現出した。
それは一瞬にして穴となり、レンガ壁を覗かせながら貴信の体を地下へと落としていく。
この現象に、斗貴子は見覚えがある。どころかこの春先と夏に二度も体験した。

「……アンダーグラウンドサーチライト! ヴィクトリアの武装錬金か!!」
声に呼応するように、背後に人が現れる気配がした。
偶然、停止中のバルキリースカートにちらりと金髪が映って見えた。
冷えた目つきの小柄な外人少女の姿を瞬時に想起しながら、斗貴子は怒鳴りつつ振り返る。
「どういうつもりだヴィクトリア! 敵を助けるとは! 理由によってはただでは……」
「人間的な楽しみというのはそれこそ無数にある。未知の武装錬金を扱うのも然り」
いやに余裕ぶった声に息を呑む。同時に果てしのない怒りと屈辱の記憶が蘇る。
「また貴様か」
風が軽く吹いた。頭上に響くさらさらという音は、笹がこすれる音だろう。
「戦いもいいが、人間的な楽しみに浸るのもまた格別。さて、組織の長は代表者だ。難物う
ずまく共同体と折衝し、部下の不出来に悩み、分の悪い計画を成就させんと徹夜で頭をフル
活動させるのも、まぁよくあるコト。苦労は多いがやりがいもある」
生暖かくも緩やかな大気の呼吸が、斗貴子の短髪をなびかせ、笹の葉を流していく。
それを心地よさそうに捉えながら、金髪の乱入者は子どもに昔話でも聞かせるようなのどか
な調子で斗貴子に話しかけている。
「俺がいるのはなんとも人間的な楽しみの多い立場だ。徹夜の後に机に伏して寝たふりを
すれば、小札が毛布を掛けてくれもする。まったく優しくて可愛い、天使のようなロバさんだ。
そして」
悠然たる歩みを止め、その男・総角主税は、額に二本指を立てわざとらしいため息を吐いた。
「……やれやれ。この救援は特別だぞ。そうだな……嫌がる香美を無理やり駆り出したコト
への詫び料としておこう。いちおう女のコだから、な」
「貴様!」
「怒るな怒るな。代わりの獲物は用意してある」
声と同時に、斗貴子の首に何かがからみついた。
どこにでもあるような縄だ。崖の上から斗貴子に向かって伸びていて、首のあたりで鉤がミチ
リと縄に食い込んでいる。
「危険 柵を越えるな 銀成市役所」というまったく面白みのないシンプルな看板の横で、縄の
使い手はひゅうっと息を吹きつつ斗貴子を釣り上げた。
腕は一般人の太もものように太い。男はその太さに見合うだけの巨躯である。
そして頭にはあかぎれて古びた編笠。

鳩尾無銘。影が千歳と根来を苦しめていた男だ。
なお、彼の足もとでは、この前総角が拾ってきたチワワが今にも崖からこぼれそうな勢いで
ピョンピョンと跳ねまわったり地面の匂いをくんすかくんすか嗅いだり吠えたりしている。
「どうせ殺るなら、活きのいい方がいいだろう? それがお前の人間的な楽しみらしいしな」
瞬時に処刑鎌を背後に巡らし、縄を斬り裂いたのはさすが斗貴子という所か。
しかし地響きとともに彼女のこめかみに激痛が走り、なすすべなく宙に浮いた。
無銘だ。崖から斗貴子の眼前にずしりと着地するなりこめかみを掴み上げている。
万力のような力に締め付けられ、斗貴子の口からひきつった呻きが漏れる。
白い足が中空をバタバタともがき、処刑鎌が不快気にこすれあう。
「フ。お前の楽しみは見抜いているが、大事な部下を与えて叶えてやるほど甘くはないぞ。
俺にとって人間的な楽しみではないどころか、組織の長として許し難い」
総角は涼しい顔で例の六角形の穴を作成し、その中へ消え始めた。
「舐め……るなァ!!」
黒装束から覗く瞳がゆらめいた。下から繰り出された斗貴子の拳が、肘にめりこんでいる。
ホムンクルスから目玉を抉りだせる膂力の炸裂に、ほどけるアイアンクロー。
「どの道、貴様たちの手に割符があるとわかった以上、戦いを避ける理由もない!」
地面に踵がつくより早く、処刑鎌で地面を叩いて総角へ躍りかかる。
が、一拍遅い。変哲ない地面から土くれを巻き上げたのみに留まった。
(潜るなり入口部分を実際の空間に変えたか! ヴィクトリアより使いこなしている!)
からくりさえ見抜けば、根来のシークレットトレイルより侵入がたやすい避難壕(シェルター)だ。
(しかし、一体奴はどうやってこの武装錬金を……?)
軽い疑問が生じたが、本題ではない。
「まぁいい。殺せる奴から順番に殺して割符を奪い取るだけだ! そして最後は貴様の番だ!
首を洗って待っていろ!」
「フ。戦士らしからぬユーモラスな意見をありがとう。小札への小噺ができた」
総角の声に次いで、鳩尾の瞳が青白く光った。
「聞き及ぶ範囲において早坂秋水と比肩せし強者。されど堂々の姿勢を崩す事なかれ」
「行くぞ!」

津村斗貴子 vs 鳩尾無銘 開戦!