SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 永遠の扉 第018話「歪(前編)」50-2


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「御前様もいってるでしょ? 色々あったのよ。最初は敵に飛ばされちゃった千歳さんを探し
てたんだけど、ついさっき、聖サンジェルマン病院にいるって連絡があって」
艶やかな声に遅れて歩いてきたのは、黒い髪を腰まで伸ばした長身の女性。
もちろん、いうまでもなく早坂桜花だ。
「そっちにゃ例の出歯亀ニンジャがGO! で、今度はブラ坊の奴からゴーチン探せって命令!」
生意気な声に、剛太は眼をはしはしと瞬かせると、小声で斗貴子と相談し始めた。
(え? ブラボーは知ってるんですか? 俺たちが分断されたって)
(当然だ。私が連絡しておいたからな。報告と連絡と相談は基本だぞ)
(その点はバッチリ。ホラ、何か忘れちゃいましたけど、重要なコトを連絡したでしょ?)
グッと親指を立てて嬉しそうに白い歯を見せる剛太に、斗貴子は鼻白んだ。
(ったく。キミは昔から何か手柄を立てるとすぐ調子に乗るな)
(はは。すいません)
(本当は戦士・千歳に探してほしかったんだがな、敵襲を受けていたせいで)
「俺サマたちが探すハメになったってワケだ! まったく大変だったぞ。桜花はか弱いんだか
ら、夜の山の中を歩くのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!!」
「あ、それは、まぁ、スイマセン」
剛太は桜花を見ると、不承不承謝った。
それはいかにも「うるさい奴に説教されたから仕方なく」という様子で、斗貴子との温度差が」
露骨すぎる。
男性諸子にもてはやされるコトこそあれ、邪険に扱われるコトはなかった桜花だ。
適当に扱われて面白い筈がない。
「ともかく、剛太クンの保護は私たちがやるから」
桜花はニコリと笑うと、森の奥を指差した。
「分かった。追撃に移……」
いいかけた斗貴子の頭が一瞬ぐらりとゆらめいたのはその時だ。
この変調に一座はみな顔色を変え、御前などは頬を両手で押えて驚愕を示した。
「先輩! 大丈夫ですか!」
「気にするな。ちょっと息が……切れただけだ」」
支え替わりに処刑鎌を地面に突き立て、軽く息をあげる様子はとても言葉通りには見えない。
実際のところ、彼女は河原で五十六体ものホムンクルスと闘っているのだ。
いかに錬金の戦士といえど、十七歳の少女。消耗は激しいようだ。
「ところで剛太」

「……すみません。俺、肝心な時に斗貴子先輩の力になれなくて」
「気にするな。キミは十分よく戦った。奴らが残りの割符を総て持っているコトを知らせてくれ
ただけでも、十分偉い。よく知らせてくれたな」
フッと女副部長のような柔和な笑みを浮かべて褒める声は、剛太の心に沁みてしまう。
乾いた土に慈雨が浸透するという意味でも、申し訳ない心痛が起こるという意味でも。
負けてなお褒められるコトは正直辛い。まだ怒鳴られた方が気楽だ。
「核鉄なら私が取り返してやる。だからキミはゆっくり休め。いいな」
地面からバルキリスカートを勢いよく抜き出すと、斗貴子は森の奥へと駆けていく。

その足音が遠ざかったころ、剛太は俯き、軽く打ち震え始めた。
(なー、桜花、ひょっとしてゴーチンへこんでね?)
(でしょうね。核鉄取られちゃったんですもの。戦士なら当然)
桜花の返事を得た御前は、猪よりも不格好で短い首をうんうんと縦に振った。
桜花や秋水もL・X・E時代、核鉄の希少性をいやというほどムーンフェイス(酷薄な性質から
は意外な話になるが、彼は子供の信奉者を育てるのをよく好み、進んで教育係を引き受け
ていた)から教え込まれたので、それを奪われた剛太の失意は察するに余りある。
(せっかくだし桜花、ゴーチンなぐさめてやれ)
え? と奇麗な瞳をあどけなく見開いて、桜花は自分の武装錬金を見た。
(トボけたって無駄! お前、ホントはゴーチン落としたいんだろ!)
御前の瞳には湯たんぽみたいにミラージュな起伏がある。そのまなじりを恵比寿みたいに両
脇に垂れ唇を尖らすと、御前の顔は創造者の桜花の気にすら召さないだらしなさを醸し出した。
(あらあら。それは誤解よ御前様。あたしはただちょっかいが出したいだけだし)
桜花はやれやれと肩をすくめて、いかにも御前が的外れな意見をいっているという雰囲気を
作り出した。それからわざと偽悪的な笑みを浮かべて
(あ、でも、ここで慰めておいた方が、後々のためかしら。だから一応)
などともったいつけてはいるが、その実本心では、つい慰めたくなっている。


腹黒い彼女にしては驚くほど純粋な気持が湧いてきているのは、近頃秋水の心がまひろに
向いているがゆえの孤独感だろうか。
(それとももっと別の、何か?)
とくとくと柄にもなく心臓を高鳴らせ、頬に紅差し、ためらいの色を一生懸命払拭してから、
深呼吸。と同時に剛太がようやく面を上げた。それをきっかけに声をかけ……
「やった! 先輩に褒められた!」
桜花はその気楽な大声に肩からコケそうになった。
「色々あったけど、やっぱいいなぁ。スパルタンじゃない先輩っていいなぁ」
えへえへと白い歯をむき幸福そうに笑う剛太に、桜花は頬をちょっとむくませた。
そこからの対応は残虐にして神速であった。
「核鉄取られたクセに喜んでるんじゃねー!!」
御前が垂直一直線にスピンしながら剛太のみぞおちへ蹴りを叩き込んだ。
その後、剛太がしばらく海老みたいに腹を丸めて痙攣した後、御前と口論したのは割愛。

「とにかく、まず傷の治療から。アレ使うのもいいけど、ゴメン御前様。ちょっとだけいい?」
と自分の武装錬金に呼びかけた。
「しょーがねーなぁ。やいゴーチン。今回だけは特別だからな! ちゃんと恩に着ろよ!」
「うっせ。誰が感謝するか似非キューピー。さっさと核鉄に戻……え?」
剛太は目をまんまるくしながら、御前が核鉄に戻る光景を見た。
腹をさすっていた手が止まる。
そりゃ武装錬金なんだから、核鉄に戻るのは当然といえるだろう。
だが。
「ちょっとまさか、あの似非キューピーの創造者って!?」
傷の痛みも忘れて目を白黒させる剛太の掌に、桜花はにこやかに核鉄を乗せてやる。
「あ。言い忘れてたかしら。私の武装錬金はエンゼル御前。形状は弓と自動人形よ」
剛太の掌からじわじわと熱が広がるのは、治癒効果のせいだけではない。
今までの桜花に対する引っかかりが一つの結論へ昇華し始めている高揚感がある。
(そうか。あの似非キューピーが俺の逃避行を見てたもんな。いやに事情に詳しい筈だ)
カズキも「人型ホムンクルスと元・信奉者の仲間がいる」といっていた。で、桜花も元・信奉者。
「そーいえばニュートンアップル女学院で、あなたの声を聞いたような」


「あら、やっと思い出してくれた? あの時は災難だったわね。パピヨンの服なんか着る羽目
になっちゃったんですもの。流石に思わず

『やめてー!! 気持ちは分かるけど、人としての最低限の尊厳は捨てちゃダメッ!!』

とか叫んじゃって」
満足そうに笑う桜花を、剛太は持て余し気味に眺めた。
(そういや、自動人形の武装錬金って創造者の人格を反映するんだったよな。確か講習で
聞いた話じゃ、だいぶ前に坂口大戦士長と戦った共同体の中にいた軍医だったか看護婦
だったかの自動人形も、創造者とは百八十度逆の医療精神溢れる奴とか何とか。とはいう
けど…… ギャップありすぎだろ!!)
片やお世辞にもカワイイとはいえない、似非キューピー。
片や斗貴子一筋の剛太ですら、油断すれば目を奪われかねない楚々とした美女。
満面の笑みでいろいろなコトを誤魔化している桜花に、剛太は慄然たる思いをした。
「ともかく町まで連れてくわね」
「え、大丈夫ッス。もうちょっと休めば一人で歩けますから」
「まぁまぁ」
剛太を支えようとしゃがみ込む桜花の制服は、ところどころ破れてて、かすり傷が見えている。
あちこち泥や葉っぱもついている。
きっと彼女は山歩きに不慣れなのだろう。何度転んだか分らない。
(ったく。自動人形使えるなら、創造者が山道歩く必要ないっての。なのになんでこんな効率
悪い方法とるんだ? あの似非キューピーで俺達見つけ出してから、核鉄に戻せばいいん
じゃねェか? これだから元・信奉者はワケわかんねェ!)
それを抜きにしても、桜花が華奢な体で剛太を支えようとするのは無理が見える。
というか策略の匂いすらしてきたので、
「さっき体調悪そうだったでしょ。だから別にいいですよ」
ともっともらしい理由をでっちあげた。
「……違うの」
「え?」
「その、実は、弟のコトで悩みがあって。だからホラ、体調とかは大丈夫だから」
ちょっと悲しそうな影を湛えて笑う桜花に、共感のような感情を覚えてしまう剛太である。


「追いついたぞホムンクルス!」
香美は「うげっ!」と背筋をのけぞらしながら後ろを振り返った。
この一帯には木がない。代わりに、規則正しく節くれだった緑の影が、数百本と天に向かっ
て伸びている。
竹林。
桜花たちがいる所よりは麓に近い。あと十分も歩けば下山できるだろう。
ちなみにココは銀成市でも有名なタケノコ堀りのスポットで、春ともなれば多くの市民がこぞっ
て訪れるという。
そのせいか、山中に比べるとずいぶん歩きやすい。
竹が伐採されちょっとした広場ができあがっているからだ。
その中心で振り返った香美は、汗ばみながら激しく息をつく斗貴子を認めた。
「うあ。えちぜんもーもーは、しどーふかくごとかいうけどさ」
『敵前逃亡は士道不覚悟、だ! ふはは! 逃げるような奴は追いつかれるのが定めか!
できれば割符のコト、もりもり氏たちに知らせたかったが……』
香美の両脇は、それこそネコの子一匹通さなそうな竹藪。
唯一の広場の入口、つまり香美の後ろには斗貴子。
そして正面には八メートルほどの岩肌厳しい切り立った崖がそびえている。
いくらタケノコ堀のスポットといえど、崖を削って階段を設けるコトまではしなかったらしい。
崖の上を見れば、転落防止用の柵や看板が設けてあるのでその点は評価できるが、灰色
の崖それ自体は貴信たちにとり、監獄の壁のようにおぞましい。
万全の態勢なら一気呵成に駆け上がって逃げれただろうが、今の貴信・香美では無理だろう。
ふくらはぎへの傷のせいでスピードが出ない。だから斗貴子に追いつかれている。
手首が癒着するまで鎖分銅の威力は半分以下。例の掌からの物体射出も使用不可。
『……悪いな。一度ならずも二度もお前を死なすコトになるかも知れないが、……いいか?』
「なにいってるのさ。ご主人に拾われなければ、あたし赤ちゃんのころに死んでたしさ、ま、恩
返しとゆーコトで異論ナシ!」
『よし! ならば……』
斗貴子が踏み込んでバルキリースカートを打ち下ろす瞬間、貴信は首を回転させ、剛太と
闘っていた時の姿へ変貌した。つまり、豊満な猫娘から短髪奇相の男へと。