第018話 「歪(前編)」
割符の大半を敵に奪われていると知ったいま、斗貴子としては敵の情報が欲しい。
けれど、戦略的劣勢にある以上、少しでも敵の数を減らさねば立ち行かないというのもある。
つまり、敵を生け捕りにすべきでもあり、敵を確実に殺すべきでもある二律背反の状況だ。
よって彼女は、貴信の首をまず刎ねた。
しかるのち、貴信と香美の章印の位置を確認し、片方は刺し片方は捨て置く。
片方を殺し片方を生け捕りにせねばならないというのは、斗貴子自身にももどかしく、正直
いえば背後からの奇襲で両者とも殺しておきたかったが、しかし貴信らを殺したところで肝
心の残る割符の所在が分からなければ、いずれ『もう一つの調整体』なる正体不明の怪物
の跋扈を許すはめになる。それでは勝利とはいえない。
ともかく。
けれど、戦略的劣勢にある以上、少しでも敵の数を減らさねば立ち行かないというのもある。
つまり、敵を生け捕りにすべきでもあり、敵を確実に殺すべきでもある二律背反の状況だ。
よって彼女は、貴信の首をまず刎ねた。
しかるのち、貴信と香美の章印の位置を確認し、片方は刺し片方は捨て置く。
片方を殺し片方を生け捕りにせねばならないというのは、斗貴子自身にももどかしく、正直
いえば背後からの奇襲で両者とも殺しておきたかったが、しかし貴信らを殺したところで肝
心の残る割符の所在が分からなければ、いずれ『もう一つの調整体』なる正体不明の怪物
の跋扈を許すはめになる。それでは勝利とはいえない。
ともかく。
森の中。六歩も横に動けば木に当たりそうな、狭い木立の中。
首なしの体の手が動いたと見えた瞬間、りりーっと甲高い音が鳴った。
斗貴子は落ち葉で柔らかな地面を咄嗟に蹴り上げ、大きく跳躍した。しばし自由な浮力が全
身にみなぎり、やがて夜露まみれの青葉にまで頬が達した。
その眼下では互い違いの鎖輪どもが月光に陰影をけぶらせながら、一直線に疾駆している。
形容としては踏切を過ぎる列車のそれを、貴信は首なしでありながら、果敢にも放ったとみえる。
「少しは動けるようだな」
『僕のエネルギーを舐めてもらっては困るな!! 毎日毎日全身隅々まで充溢して火中の水
素ガスより爆発寸前の輝かしさだ! 叫んで散らさねば回遊をやめたマグロのように僕の呼
吸器系を自壊させかねん騒々しさだッ! だから首切断など動きを止める理由にはなりえん!
なりえんのだああああああ!!!』
首を斬られているというのに、貴信の声は割れんばかりにやかましい。
『伯耆星よ! 不落を穿てぇぇぇぇ!』」
型分銅の後方四か所にライトグリーンの光が点火すると、上空の斗貴子の背後めがけ、爆発
的にはねあがった!
自然、鎖は分銅に誘導される形で斜め四十五度にはねあがる。
しかし哀れなるかな、バルキリースカートにぐわんと弾かれ木の葉の中を舞う。
と同時に斗貴子は残る三本の処刑鎌を地面と水平に旋回。
首なしの体の手が動いたと見えた瞬間、りりーっと甲高い音が鳴った。
斗貴子は落ち葉で柔らかな地面を咄嗟に蹴り上げ、大きく跳躍した。しばし自由な浮力が全
身にみなぎり、やがて夜露まみれの青葉にまで頬が達した。
その眼下では互い違いの鎖輪どもが月光に陰影をけぶらせながら、一直線に疾駆している。
形容としては踏切を過ぎる列車のそれを、貴信は首なしでありながら、果敢にも放ったとみえる。
「少しは動けるようだな」
『僕のエネルギーを舐めてもらっては困るな!! 毎日毎日全身隅々まで充溢して火中の水
素ガスより爆発寸前の輝かしさだ! 叫んで散らさねば回遊をやめたマグロのように僕の呼
吸器系を自壊させかねん騒々しさだッ! だから首切断など動きを止める理由にはなりえん!
なりえんのだああああああ!!!』
首を斬られているというのに、貴信の声は割れんばかりにやかましい。
『伯耆星よ! 不落を穿てぇぇぇぇ!』」
型分銅の後方四か所にライトグリーンの光が点火すると、上空の斗貴子の背後めがけ、爆発
的にはねあがった!
自然、鎖は分銅に誘導される形で斜め四十五度にはねあがる。
しかし哀れなるかな、バルキリースカートにぐわんと弾かれ木の葉の中を舞う。
と同時に斗貴子は残る三本の処刑鎌を地面と水平に旋回。
青い光が扇状に尾を引いたとみるや、大気を重圧するぶきみな風切り音がぶぅん響き、周り
の木々をまるで大根のように切り飛ばした。
青々とした枝葉が満天の星空をざわざわとすべりおち、やがて地面に重苦しく激突。
地響き響くたび、下敷きになった枝が折れ、バチバチと燃えるような恐ろしい音が重なった。
この間、斗貴子は背後を一顧だにしていない。
音と気配だけで攻撃を読み取り、迎撃したのだ。
そして鎖分銅は瞬時に断ち切られた十数本の木に埋もれ、攻撃を封じられている。
斗貴子の狙いはコレ。いかに縦横無尽に動く鎖も、木の下敷きでは動けない。
『もっとも、こうするコトは予想していたがな!! はーっはっは!』
その正体を判断した瞬間、さしもの斗貴子も背中に鳥肌が立つのを感じた。
生首だ。
香美の生首が、処刑鎌に唇を密着させつつそこにいた!
どちらかといえば強気な美少女然とした香美ではあるが、貴信との交替の影響で顔一面に
びっしりとはりついてた茶髪から、ビー玉のようにすきとおったアーモンド型の瞳だけがキラ
キラとのぞいていて、いやはや凄惨な色気のようなただ凄惨なだけか、ともかくも異質な光を
放っている。
『そう来ると思っていたからな! 回避がてら首だけでジャンプして噛ませて貰った!』
香美はというと気楽な調子で、鎖を噛んだり鎌を舐めたりしている。
『その武装錬金おいしいか! どうだ香美おいしいか!』
「うん! なかなか!」
「ええい、鬱陶しい……」
斗貴子は青筋をひくつかせながら、香美の髪をむんずとつかんだ。
「人の武装錬金を舐めるな!!」
「えー、やだやだ。コレおいしいし! 鉄分とりたいじゃん鉄分! ほらネコってさ鉄」
「離れろぉぉぉぉぉぉ!!」
風呂に入れられるのを嫌がるネコみたいにもがく香美を強引に引き剥がす。
投げられた香美はすごい音を立てながら林間をピンボールのようにべこべこ反射。
斗貴子はなんとか倒木の上に着地するなり、ぜぇぜぇと肩で息をした。
の木々をまるで大根のように切り飛ばした。
青々とした枝葉が満天の星空をざわざわとすべりおち、やがて地面に重苦しく激突。
地響き響くたび、下敷きになった枝が折れ、バチバチと燃えるような恐ろしい音が重なった。
この間、斗貴子は背後を一顧だにしていない。
音と気配だけで攻撃を読み取り、迎撃したのだ。
そして鎖分銅は瞬時に断ち切られた十数本の木に埋もれ、攻撃を封じられている。
斗貴子の狙いはコレ。いかに縦横無尽に動く鎖も、木の下敷きでは動けない。
『もっとも、こうするコトは予想していたがな!! はーっはっは!』
その正体を判断した瞬間、さしもの斗貴子も背中に鳥肌が立つのを感じた。
生首だ。
香美の生首が、処刑鎌に唇を密着させつつそこにいた!
どちらかといえば強気な美少女然とした香美ではあるが、貴信との交替の影響で顔一面に
びっしりとはりついてた茶髪から、ビー玉のようにすきとおったアーモンド型の瞳だけがキラ
キラとのぞいていて、いやはや凄惨な色気のようなただ凄惨なだけか、ともかくも異質な光を
放っている。
『そう来ると思っていたからな! 回避がてら首だけでジャンプして噛ませて貰った!』
香美はというと気楽な調子で、鎖を噛んだり鎌を舐めたりしている。
『その武装錬金おいしいか! どうだ香美おいしいか!』
「うん! なかなか!」
「ええい、鬱陶しい……」
斗貴子は青筋をひくつかせながら、香美の髪をむんずとつかんだ。
「人の武装錬金を舐めるな!!」
「えー、やだやだ。コレおいしいし! 鉄分とりたいじゃん鉄分! ほらネコってさ鉄」
「離れろぉぉぉぉぉぉ!!」
風呂に入れられるのを嫌がるネコみたいにもがく香美を強引に引き剥がす。
投げられた香美はすごい音を立てながら林間をピンボールのようにべこべこ反射。
斗貴子はなんとか倒木の上に着地するなり、ぜぇぜぇと肩で息をした。
「しまった。ついいつものクセで。クソ…… 今のは突っ込むより殺すべきだった」
足場のぐらつきや軽い酸素不足があいまって、かすかに眩暈がする。
その時である。
木々の間から黒い球が飛びだしたとみるや、それは貴信の胴体の首に乗っかってひゅるひ
ゅると豆電球をねじこむように回転した。
「ふっふっふー、ご主人の計算通りっ! やっぱ投げると思ってたじゃん!」
『木の間をバウンドしたぞ! 普通に胴体に向かってちゃ、攻撃の的だからなぁ!!』
復活をとげた胴体は、グーを元気よく天に突き上げ喜びを表現した。
ただし顔は香美のそれだ。
体もふっくらと丸みを帯び、タンクトップの中で豊かなふくらみがゆったりと息づいている。
「ええい調子が狂う! とにかくブチ撒けだ、ブチ撒け!」
『悪いが!』
木の下で金属が分解する軽やかな音が響いた。
「さんじゅーろっけーなんたかかんたか!」
香美は無邪気な笑顔で手をひらひらさせると、勢いよく踵を返した。
見ればその手には核鉄。
「武装解除。逃げる気か!」
『ふはは! 木の下敷きになった鎖を回収するヒマはなさそうだしな!』
「うんニャ。さんじゅーろっけーなんたかかんたかぁー!
逃走はさせじと突き出された処刑鎌をひらりと柔らかく避けると、香美は跳躍し逃げ去った。
(追うか? しかし剛太を放っておくワケにも……)
倒れた後輩を見る斗貴子に逡巡の光が射したのも無理はない。
さすがに倒されたとあっては、どれだけの重傷を負っているかも分らない。
斗貴子にとっては弟のように思える少年だ。あくまで後輩で、弟みたいな存在だ。
「先輩……」
仰向けに倒れてた体が、か細く震えながら首だけが所在無げに斗貴子を見た。
足場のぐらつきや軽い酸素不足があいまって、かすかに眩暈がする。
その時である。
木々の間から黒い球が飛びだしたとみるや、それは貴信の胴体の首に乗っかってひゅるひ
ゅると豆電球をねじこむように回転した。
「ふっふっふー、ご主人の計算通りっ! やっぱ投げると思ってたじゃん!」
『木の間をバウンドしたぞ! 普通に胴体に向かってちゃ、攻撃の的だからなぁ!!』
復活をとげた胴体は、グーを元気よく天に突き上げ喜びを表現した。
ただし顔は香美のそれだ。
体もふっくらと丸みを帯び、タンクトップの中で豊かなふくらみがゆったりと息づいている。
「ええい調子が狂う! とにかくブチ撒けだ、ブチ撒け!」
『悪いが!』
木の下で金属が分解する軽やかな音が響いた。
「さんじゅーろっけーなんたかかんたか!」
香美は無邪気な笑顔で手をひらひらさせると、勢いよく踵を返した。
見ればその手には核鉄。
「武装解除。逃げる気か!」
『ふはは! 木の下敷きになった鎖を回収するヒマはなさそうだしな!』
「うんニャ。さんじゅーろっけーなんたかかんたかぁー!
逃走はさせじと突き出された処刑鎌をひらりと柔らかく避けると、香美は跳躍し逃げ去った。
(追うか? しかし剛太を放っておくワケにも……)
倒れた後輩を見る斗貴子に逡巡の光が射したのも無理はない。
さすがに倒されたとあっては、どれだけの重傷を負っているかも分らない。
斗貴子にとっては弟のように思える少年だ。あくまで後輩で、弟みたいな存在だ。
「先輩……」
仰向けに倒れてた体が、か細く震えながら首だけが所在無げに斗貴子を見た。
どうも意識が戻っているらしい。
もともとだらしない垂れ目の少年が、疲労と消耗でさらに眠たそうに歪んでいる。
「剛太! 大丈夫か剛太!」
慌てて斗貴子が駆け寄ると、剛太はちらりと彼女の太ももを盗み見て、さりげなくスカートの
中まで見ようとした。あくまで見ようとしただけで、ちゃんと思い直してやめたが。
もともとだらしない垂れ目の少年が、疲労と消耗でさらに眠たそうに歪んでいる。
「剛太! 大丈夫か剛太!」
慌てて斗貴子が駆け寄ると、剛太はちらりと彼女の太ももを盗み見て、さりげなくスカートの
中まで見ようとした。あくまで見ようとしただけで、ちゃんと思い直してやめたが。
「俺のコトより、アイツを追うのを優先して下さい」
目をつぶって深く息を吐いたのは、合わせる顔がないと思ったからだ。
(畜生。さっき「しばらく戦いから離れてて下さい」とか思っておいて)
血がかすかに滲む掌で両目を覆うと、やるせない嘆息が漏れた。
(このザマかよ。結局俺は先輩を頼るしかないのかよ)
「だが」
困惑したように呟く声を遮って、剛太は手短に貴信の戦闘方法を報告した。
いわく、吸収したエネルギーを放出できるコト。
いわく、ハイテンションワイヤーの特性が、ヒットの一瞬だけエネルギーを抜き出せるコト。
そして。
「俺さっき、アイツの足にモーターギアを当ててやりましたから、そんなに早く逃げれないと思
います。鎖分銅だって俺が斬りおとした手首がひっつくまで、十分には」
「一理ある。その上、私からのダメージがあるし」
「切り札だって割れてますから、斃すなら……」
いいかけてから、剛太は自分でも得体のしれない感情に襲われた。
香美はホムンクルスだ。人喰いの化け物だ。だのに、枝に止まったカナブン一匹を殺すまい
として、地上に落ちかけていた。それも高いところが苦手で、落ちる時はすごく涙目だったと
いうのに、彼女は自分の落下防止よりカナブンの命を優先した。
そして無事を確認すると、心底安心したような顔をしていた。
貴信もやかましいし、ちょっと小ずるい嘘吐きの気もあるが、基本は正々堂々とした男だ。
敵を手当しようと申し出るようなホムンクルスはちょっとお目にかかれない。
両者とも今まで見てきた連中とは違う。なのにホムンクルスという理由だけでためらいなく殺
そうとする姿勢は、はたしてどうなのか。
以前、カズキとの会話で芽生えた疑問が、また心で渦を巻く。
ホムンクルスに両親を殺された剛太ではあるが、それは物心つく前の出来事だから、ホムン
クルスに対する憎悪そのものは薄い。
ただ斗貴子が戦士をやっているから剛太も戦士をやっているだけで、斗貴子が「敵を殺す」
コトを当然と捉えているから、剛太自身もそう考えているだけだ。
でも、今の剛太の感情と憧憬に基づく姿勢はひどく矛盾していて、ぐわぐわと痛む頭がもっと
深く痛んでくる。
「どうした?」
目をつぶって深く息を吐いたのは、合わせる顔がないと思ったからだ。
(畜生。さっき「しばらく戦いから離れてて下さい」とか思っておいて)
血がかすかに滲む掌で両目を覆うと、やるせない嘆息が漏れた。
(このザマかよ。結局俺は先輩を頼るしかないのかよ)
「だが」
困惑したように呟く声を遮って、剛太は手短に貴信の戦闘方法を報告した。
いわく、吸収したエネルギーを放出できるコト。
いわく、ハイテンションワイヤーの特性が、ヒットの一瞬だけエネルギーを抜き出せるコト。
そして。
「俺さっき、アイツの足にモーターギアを当ててやりましたから、そんなに早く逃げれないと思
います。鎖分銅だって俺が斬りおとした手首がひっつくまで、十分には」
「一理ある。その上、私からのダメージがあるし」
「切り札だって割れてますから、斃すなら……」
いいかけてから、剛太は自分でも得体のしれない感情に襲われた。
香美はホムンクルスだ。人喰いの化け物だ。だのに、枝に止まったカナブン一匹を殺すまい
として、地上に落ちかけていた。それも高いところが苦手で、落ちる時はすごく涙目だったと
いうのに、彼女は自分の落下防止よりカナブンの命を優先した。
そして無事を確認すると、心底安心したような顔をしていた。
貴信もやかましいし、ちょっと小ずるい嘘吐きの気もあるが、基本は正々堂々とした男だ。
敵を手当しようと申し出るようなホムンクルスはちょっとお目にかかれない。
両者とも今まで見てきた連中とは違う。なのにホムンクルスという理由だけでためらいなく殺
そうとする姿勢は、はたしてどうなのか。
以前、カズキとの会話で芽生えた疑問が、また心で渦を巻く。
ホムンクルスに両親を殺された剛太ではあるが、それは物心つく前の出来事だから、ホムン
クルスに対する憎悪そのものは薄い。
ただ斗貴子が戦士をやっているから剛太も戦士をやっているだけで、斗貴子が「敵を殺す」
コトを当然と捉えているから、剛太自身もそう考えているだけだ。
でも、今の剛太の感情と憧憬に基づく姿勢はひどく矛盾していて、ぐわぐわと痛む頭がもっと
深く痛んでくる。
「どうした?」
「い、いえ。斃すにしろ捕獲するにしろ、今はチャンスだから、追ってください」
剛太は慌てて言葉を柔らかい方向に変換した。
「確かに奴らにはさんざん探索を妨害された。ここで捨ておけば堂々巡りだ。しかしキミの手」
気絶している間にもかなりの血が流失したらしく、あたりの地面は血でぬかるんでいる。
「早く手当てしないと命にかかわる」
「それなら大丈夫!」
意気込んで上体だけを跳ね起きさせると、剛太は周囲を見回した。
「これ、モーターギアでやったんスよ。なら今度は核鉄に戻して当て……」
太ももの横を見下ろす。ない。首をちょっと無理して捻り、斜め後ろまでくまなく見る。ない。
貴信の立っていた辺りに、山肌へそぐわぬ無機質な物体を発見し、一瞬それかと喜んだが
自分の携帯電話だと分かって落胆した。
血相を変えて傷の浅い手でおたおたとポケットをまさぐってみるが、もちろんある筈がない。
それだけやって、剛太はようやく事態を把握した。
核鉄を取られている。
「くそ。さんざん奇麗事いっておいて、結局ホムンクルスかよ……」
それを認識すると、どうしようもない寒気が剛太の裡から湧き始めた。
アバラも思い出したように熱を持つ。全身の微細な傷も、尻馬にのって騒ぎ出す。
「分かっただろう。キミは歩くコトもできない。私の核鉄を貸すから、止血しながら下山しよう」
「けど、それじゃせっかくのチャンスが……」
ピンク色の影が木立を縫って出現したのは、この時だ。
「おー、いたいた! いろいろあったけどゴーチン発見! ってか」
しわがれた声の主は、宙をプカプカ浮きながら、剛太をじろじろ観察して
「何があったか分らないけどボロ負けじゃねーか! そんなんだからカズキンに勝てねーんだ!
勝手に怒り始めた。
実に不細工で珍妙な人形だ。
巨大な肉まんに自動車のライトをはめ込んで、適当な体をひっつけたという感じである。
エンゼル御前。彼女と面識のある剛太は一瞬面食らったが、すぐにすさまじい反撃のマシン
ガントークを唇から射出した。
「誰かと思えばこの間の似非キューピーかよ! お前にゃ関係ない話だからちょっと
黙ってろ! というかなんでお前までココにいるんだ。
斗貴子も腕組みしながら、あたふたする剛太と好き勝手いう御前の口喧嘩に割って入った。
「そうだ。御前、どうしてお前がココにいるんだ?」
剛太は慌てて言葉を柔らかい方向に変換した。
「確かに奴らにはさんざん探索を妨害された。ここで捨ておけば堂々巡りだ。しかしキミの手」
気絶している間にもかなりの血が流失したらしく、あたりの地面は血でぬかるんでいる。
「早く手当てしないと命にかかわる」
「それなら大丈夫!」
意気込んで上体だけを跳ね起きさせると、剛太は周囲を見回した。
「これ、モーターギアでやったんスよ。なら今度は核鉄に戻して当て……」
太ももの横を見下ろす。ない。首をちょっと無理して捻り、斜め後ろまでくまなく見る。ない。
貴信の立っていた辺りに、山肌へそぐわぬ無機質な物体を発見し、一瞬それかと喜んだが
自分の携帯電話だと分かって落胆した。
血相を変えて傷の浅い手でおたおたとポケットをまさぐってみるが、もちろんある筈がない。
それだけやって、剛太はようやく事態を把握した。
核鉄を取られている。
「くそ。さんざん奇麗事いっておいて、結局ホムンクルスかよ……」
それを認識すると、どうしようもない寒気が剛太の裡から湧き始めた。
アバラも思い出したように熱を持つ。全身の微細な傷も、尻馬にのって騒ぎ出す。
「分かっただろう。キミは歩くコトもできない。私の核鉄を貸すから、止血しながら下山しよう」
「けど、それじゃせっかくのチャンスが……」
ピンク色の影が木立を縫って出現したのは、この時だ。
「おー、いたいた! いろいろあったけどゴーチン発見! ってか」
しわがれた声の主は、宙をプカプカ浮きながら、剛太をじろじろ観察して
「何があったか分らないけどボロ負けじゃねーか! そんなんだからカズキンに勝てねーんだ!
勝手に怒り始めた。
実に不細工で珍妙な人形だ。
巨大な肉まんに自動車のライトをはめ込んで、適当な体をひっつけたという感じである。
エンゼル御前。彼女と面識のある剛太は一瞬面食らったが、すぐにすさまじい反撃のマシン
ガントークを唇から射出した。
「誰かと思えばこの間の似非キューピーかよ! お前にゃ関係ない話だからちょっと
黙ってろ! というかなんでお前までココにいるんだ。
斗貴子も腕組みしながら、あたふたする剛太と好き勝手いう御前の口喧嘩に割って入った。
「そうだ。御前、どうしてお前がココにいるんだ?」