SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ WHEN THE MAN COMES ARROUND 49-3


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突如、上階から爆発音が響いた。
窓ガラスは細かく震え、靴底からも地鳴りのような振動が伝わってくる。
「上が随分と騒がしいようだ……」
サムナーはわずかに天井を見上げると、またすぐに火渡の方へ視線を戻した。
怒りの形相をこちらに向ける火渡の方へ。

火渡はその場を動かない。
炎に似たる激情の男、火渡でさえも充分すぎる程にわかりきっていた。
負傷を抱えて身体の自由が利かない千歳を人質に取られている。
そして敵は、火渡の速さを遥かに凌ぐ光速の武装錬金を千歳に向けている。

敵?
そう、彼はもはや敵なのだ。
指揮官であった筈のサムナーが、今や憎むべき敵となって自分達の命を脅かしている。
彼の意にそぐわない行動を取ればどうなるかは、それこそ“火”を見るより明らかだ。
火渡は充分に自分の置かれた状況を理解していた。

さて、どうするべきか。

“憎むべき敵”マシュー・サムナー戦士長は、火渡からスッと視線を外した。
どこを見ているのか。火渡からロックオンを解除し、己の射程内全体を見渡しているようにも見受けられる。
その実、どこも見ていないようにも。
やがてサムナーはその独特の、低く渋味のある声を紡がせて、ひとつのお伽噺を語り始めた。
楽しそうに。誇らしげに。


「百年前……。ほんの百年前まで我々大英帝国支部は欧州を中心とした、世界各地に存在する
錬金戦団各支部の盟主だった。
それも当然だ。本来、中世は大英帝国の錬金術師のギルドに端を発したのが、錬金戦団の始まり
なのだからな。
核鉄の管理、ホムンクルス共の討伐、そして賢者の石の精製……。すべては誇り高き我が大英帝国支部が
先頭に立って行っていたのだよ」
自尊心に満ちた声が、徐々に暗さと哀愁の色を帯びてゆく。
「だが……。それも一人の反逆者を生み出した事によって、何もかもが破滅した。
反逆者の手によって大英帝国支部は壊滅寸前にまで追い込まれ、核鉄もその多くが世に流出し、
失われてしまった。
そして、賢者の石の研究すらも永久凍結されたのだ……」

キッと眼を上げ、火渡を睨みつける。
火渡の髪を。火渡の瞳の色を。火渡の顔の骨格を。火渡の肌の色を。

「以来、大英帝国支部の権威は失墜してしまった。主導権(イニシアチブ)も日本支部に奪われた……。
あの低俗な黄色い猿共が住む島国に……! 反逆者が逃げ延びた国というだけで!」
憤りを孕んだサムナーの声は徐々に激しくなっていき、遂に爆発した。
「そんな事が許せるか!? 世界の錬金戦団の頂点に立つべきは我々、大英帝国(グレート・ブリテン)だ!!」
そして拳を握り締め、声を張り上げる。鉤十字の男さながらに。
「ならば、するべき事はひとつ……。私のするべき事はたったひとつ。錬金戦団をあるべき姿に還すのだ!
大英帝国支部の栄華を今一度、取り戻すのだ!! この私の手によって……!」
猛る胸のうちを吐き出して息を荒げるサムナー。
火渡は腕を組み、そんな彼を小馬鹿にするようにからかいの言葉を投げつけた。
「ケッ! それで? テメエの考えた“計画”ってなァ、俺達をこの場で殺して手柄を独り占めに
しようって事か? 安い野郎だぜ……!」
“この意外な程の激昂家の冷静さを失わせ、それに乗じて反撃の糸口を見つける”
火渡にも一応、“戦略”というものの心得くらいはある。



しかし、サムナーは挑発には乗らなかった。
荒げた息を整え、心持ち胸を反らせて火渡を下目使いに見ながら、火渡に向かって吐き捨てた。
「フッ、おめでたい……。実におめでたい脳の出来だな、君は」
「あァん!? もっぺん言ってみろコラァ!」
どうやら相手を苛立たせる技術にかけては、この皮肉屋の戦士長の方が一枚も二枚も上手のようだ。
慣れない策を弄する火渡を、千歳は危なっかしい眼で見ているしかない。
相変わらず精神的優位に立っているサムナーは、まるで「ヒントだ」と言わんばかりに
二人にある質問を投げ掛けた。
「君達にひとつ聞きたい事がある。ゴキブリのように地下をウロウロするだけの無能なテロリスト共が、
どうやって裏の存在であるホムンクルスをテロに利用しようと思いついたのだろう?
よしんば思いついたとしても、果たしてそう簡単に開発出来るもの、かな……?」
「……ま、まさか」
千歳は首を捻って、歪んだ笑いを浮かべるサムナーの顔を凝視する。
「ハハハハハ! そうだ、その『まさか』だ。すべてはこの私がお膳立てをしてやったのだよ。
ホムンクルスも! テロリスト共の活動資金も! すべてな!」
まるで狂気の沙汰だ。行動の意図するところがまるきりわからない。
火渡と千歳の理解の範疇を超えている。一体、どういう事なのか。
「何考えてんだ、このクソ野郎が……!」
「どうして……? 何の為にそんな……――うぐっ!」
千歳の発した疑問の声が喉で詰まる。
“私の話を邪魔するな”と言わんばかりにサムナーが、彼女の細く色白な首を締め上げたからだ。
「社会の敵(パブリック・エネミー)であるテロリスト、それも大英帝国や英国国教会に敵対するIRAからの分派集団。
更には、そのテロリストがあやつるホムンクルス。
どうだ? “錬金戦団”“大英帝国支部”が討伐するには相応しすぎる相手とは思わないかね?」
火渡にはサムナーの計画がようやく理解出来てきた。
そして、その理解の度合いに比例して、激怒のメーターを針が振り切りそうになっている。
サムナーはそんな火渡の怒りさえも楽しむかのような表情で話を続ける。

「どうやら残念な事に今回は芳しくない結果に終わりそうだ……。だが、悲観はしていない。
テロリスト共はNew Real IRAだけではない。私の広いコネクションを駆使して、また新たな組織と
“契約”を結んである。
彼らはNew Real IRAのような田舎のマイナー組織とは訳が違う。人員も、活動範囲も、狂信振りも。
君達も聞いた事くらいはあるだろう? イスラム系武装テロリスト・ネットワーク“アルカイダ”の名を……」
「何だと!?」
「何ですって!?」
予想だにしない事実に、火渡も千歳も眼を丸くした。
サムナーの言葉が本当ならば彼は錬金戦団だけではなく、イギリス国民として、更にはキリスト教徒として
英国国教会さえも裏切っている。
「彼らお得意の“自爆テロ”もホムンクルスを利用すれば、また変わったものとなるだろうな。
今から楽しみだよ……」

この戦いより数年後、新世紀を迎えた年の9月に起こるであろう未曾有のテロ事件。
それはこの野心家の不吉な“予言”が成就したものであろうか。

「ホムンクルスをあんな世界規模のテロリストなんかに渡したら大変な事になるわ。
奴らは普通の武器では倒せない。どんなに強い軍隊だって倒せっこない。世界のバランスが崩れてしまう……。
一体、どうするつもり……?」
千歳の問いに、サムナーは恍惚とした面持ちで答える。己の輝かしい未来を思い浮かべるよううに。
「決まっているじゃあないか! 錬金の戦士が倒すのだよ。それも我々大英帝国支部主導の下に、
戦士長であるこの私が指揮を取ってな……。
世界は感謝するだろう、絶対悪であるテロリスト共と恐ろしい化物を倒してくれた謎の存在に。
そして他国の戦団支部も大英帝国支部を、この私を尊崇の眼で見る……」
火渡の握る拳が一際強く震える。
「何もかもを自作自演するって事か……。テメエは……テメエは錬金の戦士なんかじゃねえッ!!」
サムナーはお得意の芝居掛かった仕草で肩をすくめると、フゥと短く溜息を吐いた。
「やれやれ……。いいかね? ご立派な倫理観や信仰心だけでは食ってもいけなければ、
栄光を掴み取る事も出来んのだよ。私は“プロフェッショナル”だ。“プロの戦士”だ。
大英帝国支部を再び元の姿に立ち還らせる為には、私はどんな事でもする。
いない敵を作り出すなんぞ簡単だ……」


「あなた最低だわ!!」
千歳のこれまでの人生で初めてと言っていいくらいの怒声。
己の野心と身勝手な組織愛の為に一切合切を裏切ったこの男に対しての、心底の憤怒と軽蔑が
千歳に声を上げさせた。
「フフフフフ、何とでも言いたまえ。もうこの“計画”は誰にも止められない。君達もここで死ぬ」
爆発寸前の火渡が静かに一歩を踏み出した。
「させるかよ……!」
その動きに反応して、すぐさま四つのビットが射出口を千歳の顔に集中させる。
「いいや、そうなる。私が君達を殺すのだから。それに、一階にいる戦士・ブラボーは“彼ら”が片付けてくれる。
私が新たに開発した合成獣(キメラ)型ホムンクルス“シャムロック”と、私の可愛い部下が!」
「部下……? そうか、あのクソガキもテメエの仲間だったってのか……。そんなら……」
あまりの激しい感情の嵐に、火渡は照星部隊以外の人間がすべて信じられなくなっている。
見直しかけていたウィンストンにすらも疑惑の念が止められない。
「それは違うな。私はただ、彼の望みを叶えてやっただけだ。まあ、手に入れた力をどう使うかは
彼の自由だがね……」
サムナーの言葉だけでは、防人とジュリアンの現在の状況を推し量るには難しすぎる。
千歳の脳裏には頼り甲斐のある防人のハツラツとした笑顔と、少年臭さが抜けないジュリアンの
可愛い笑顔が同時に浮かんでいた。
信じたい。二人の無事を。防人の強さを。ジュリアンの優しさを。

「防人君……。ジュリアン君……」

千歳が呟いた二つの名。防人衛と、ジュリアン・パウエル。
二人を待ち受けていた運命が、どんなに過酷で、陰惨で、悲痛なものか。
それはこの場の誰にも知る由は無い。少なくとも、今、この時は。



次回――
選択。必然。DEATH TALK。再度の対峙。
《EPISODE12:When the man comes around》