第五話「第三勢力」
それは、こことはまた違う世界で。
―――深い闇の中、巨大な影が鎮座していた。
彼は何をするでもなくたった一人、ただ目を閉じて座っている。やがてその口が開いた。
「―――この世には、百八の地獄あり」
その声をどう表現したらよいのだろう。憎しみ、軽蔑、怒り―――あらゆる負の感情を煮詰めたようなそれを。
天突くような巨体に燃え上がるように逆立った髪、四本腕の異形。インドの古い神話あたりに登場する邪神さながらの
不気味な影。
「このワシが…このマンダラ王が治めしこのマンダラ地獄は序列にして八番目の地獄!―――そして」
マンダラ王と名乗った男の声が、ますます大きくなっていく。
「バサラ王が治めし地獄など…たかだか百一番目の地獄にすぎぬ!」
あまりにも衝撃的な事実―――それを彼は、あまりにも唐突に、あっさりと告げた。
「それだけならばいい―――所詮は取るに足らぬ連中だ。放っておけばよい…だが奴らはあろうことか!人間のような
虫ケラと手を取り合って暮らしておるというではないか!」
怒りと共に吐き捨てる。同時に天が奮え、雷鳴が轟く。その怒りは、自然と呼応しているのだ。
怒りを覚えた―――ただそれだけのことで、彼は大いなる自然すらも従えるのだ。
「人間に敗れ、あまつさえ手を組むとは―――腑抜けた鬼共め!」
マンダラ王は立ち上がった。そして、嗤う。嗤い続ける。
「ハーーーーーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!ハッハハハハハハ…ハーハッハッハ!」
嗤いながら、そのどこにも楽しげな様子はない。天がそれに応えるように、さらに激しく雷鳴を轟かす。
「そのような堕落した鬼族など、もはや鬼族ではないわ!そのような者共―――ワシが懲らしめてくれる!」
マンダラ王は巨大な四本腕を振り翳し、叫んだ。
「いでよ、マンダラ地獄界最強の戦士―――四天王よ!」
同時に、まずは地面が裂けた。そこから吹き出したのは、灼熱のマグマ。全てを焼き尽くす煉獄火炎。
―――その灼熱地獄の中に、彼は平然と佇んでいた。その姿はまるで東洋の神話にのみ存在する伝説の怪物。
そう―――<龍>と呼ばれる幻獣そのものだ。
―――深い闇の中、巨大な影が鎮座していた。
彼は何をするでもなくたった一人、ただ目を閉じて座っている。やがてその口が開いた。
「―――この世には、百八の地獄あり」
その声をどう表現したらよいのだろう。憎しみ、軽蔑、怒り―――あらゆる負の感情を煮詰めたようなそれを。
天突くような巨体に燃え上がるように逆立った髪、四本腕の異形。インドの古い神話あたりに登場する邪神さながらの
不気味な影。
「このワシが…このマンダラ王が治めしこのマンダラ地獄は序列にして八番目の地獄!―――そして」
マンダラ王と名乗った男の声が、ますます大きくなっていく。
「バサラ王が治めし地獄など…たかだか百一番目の地獄にすぎぬ!」
あまりにも衝撃的な事実―――それを彼は、あまりにも唐突に、あっさりと告げた。
「それだけならばいい―――所詮は取るに足らぬ連中だ。放っておけばよい…だが奴らはあろうことか!人間のような
虫ケラと手を取り合って暮らしておるというではないか!」
怒りと共に吐き捨てる。同時に天が奮え、雷鳴が轟く。その怒りは、自然と呼応しているのだ。
怒りを覚えた―――ただそれだけのことで、彼は大いなる自然すらも従えるのだ。
「人間に敗れ、あまつさえ手を組むとは―――腑抜けた鬼共め!」
マンダラ王は立ち上がった。そして、嗤う。嗤い続ける。
「ハーーーーーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!ハッハハハハハハ…ハーハッハッハ!」
嗤いながら、そのどこにも楽しげな様子はない。天がそれに応えるように、さらに激しく雷鳴を轟かす。
「そのような堕落した鬼族など、もはや鬼族ではないわ!そのような者共―――ワシが懲らしめてくれる!」
マンダラ王は巨大な四本腕を振り翳し、叫んだ。
「いでよ、マンダラ地獄界最強の戦士―――四天王よ!」
同時に、まずは地面が裂けた。そこから吹き出したのは、灼熱のマグマ。全てを焼き尽くす煉獄火炎。
―――その灼熱地獄の中に、彼は平然と佇んでいた。その姿はまるで東洋の神話にのみ存在する伝説の怪物。
そう―――<龍>と呼ばれる幻獣そのものだ。
「―――<龍神>バラム!絶対なる炎の使い手!」
「グゴガガガガガガン!マンダラ王様!わしら四天王をお呼びとは、何事ですかな!?」
凶悪な唸り声と共に緑色の巨体をくねらす<龍神>。その口からは、絶え間なく炎が溢れ出している。
―――続いて、辺りを妖しい気配が包み込んだ。それは魅入られた者を究極の快楽に誘うような、それでいてこの上ない
悪夢の中に誘い込むような、形容し難い瘴気。
それを撒き散らしながら現れたのは、長身痩躯の美女だった。雪よりも白い肌に、ウェーブのかかった長い髪。だがその
瞳は限りなく鋭く冷ややかだ。視線で人が殺せるのなら、彼女は一晩で数千人を殺してのけるだろう。
「―――<鬼女(きじょ)>ランバ!華麗なる地獄の舞姫!」
「オ~ホッホッホッ!マンダラ王様!わたしたち四天王に収集をかけるとは、大きな戦の始まりかしら?オホホホッ!」
高飛車な笑いを響かせる<鬼女>。その姿はまさに地獄の舞姫と言うに相応しかろう。
―――そして、辺りに腐臭が漂い始めた。同時に世にも恐ろしい光景がその場を支配した。
半透明の人間や鬼たちが、周囲を飛び交っているのだ!それは死した時そのままの表情を貼り付けた亡者の魂だった。
彼らは苦しそうな呻き声を漏らしつつ宙を漂い続けている。それはいつまで続くのか、あるいは永遠にそのままなのか。
そんな地獄絵図を意に介さず、一人の男が鼻歌交じりに歩いてくる。まるで鯰のように真ん丸く、気味の悪い顔をした
その男は、キョンシーのような服装に身を包んでいる。
「―――<死神>マンダラ!ワシと同じ名を与えられし呪いの使い手!」
「呼んだか?呼んだか?マンダラ王様がわしら四天王を呼んだぞ!呼んだぞ!」
山彦のように同じ言葉を連呼する男。その不気味な様は、まさに<死神>としか言いようがない。
「これで三人揃ったか―――最後は」
「ボクならもうここにいるよ、マンダラ王様」
―――最後の一人は、さも当然のようにそこにいた。派手な登場もなにもなく、当たり前のように。
驚くべきことに、その場の誰にも―――マンダラ王にすら―――その存在を悟られることなく。
「実は一番最初に到着してたんだけど、誰も気付いてくれなくて寂しかったよ。ま、気配を消してたボクのいうこと
じゃないけど、ね」
「くはははは…相変わらずだな―――<戦士>ハヌマン!四天王最強の男よ!」
王である自分を前にしても飄々とした態度のその男を、むしろ好ましく眺め回し、マンダラ王は笑った。
ハヌマン。猿人類と人間を掛け合わせたような、どことなく愛嬌のある風貌。身に付けているのは簡素な腰巻一枚だけ。
その姿と物腰からは、四天王最強などとは到底信じられまい。
だが、その肩書きは事実である。己の実力に絶対の自信を持つ他の四天王でさえも、それだけは認めている。
ハヌマンの、最強を。故に―――<戦士>。彼に、それ以外の呼び名など必要ない。
「グゴガガガガガガン!マンダラ王様!わしら四天王をお呼びとは、何事ですかな!?」
凶悪な唸り声と共に緑色の巨体をくねらす<龍神>。その口からは、絶え間なく炎が溢れ出している。
―――続いて、辺りを妖しい気配が包み込んだ。それは魅入られた者を究極の快楽に誘うような、それでいてこの上ない
悪夢の中に誘い込むような、形容し難い瘴気。
それを撒き散らしながら現れたのは、長身痩躯の美女だった。雪よりも白い肌に、ウェーブのかかった長い髪。だがその
瞳は限りなく鋭く冷ややかだ。視線で人が殺せるのなら、彼女は一晩で数千人を殺してのけるだろう。
「―――<鬼女(きじょ)>ランバ!華麗なる地獄の舞姫!」
「オ~ホッホッホッ!マンダラ王様!わたしたち四天王に収集をかけるとは、大きな戦の始まりかしら?オホホホッ!」
高飛車な笑いを響かせる<鬼女>。その姿はまさに地獄の舞姫と言うに相応しかろう。
―――そして、辺りに腐臭が漂い始めた。同時に世にも恐ろしい光景がその場を支配した。
半透明の人間や鬼たちが、周囲を飛び交っているのだ!それは死した時そのままの表情を貼り付けた亡者の魂だった。
彼らは苦しそうな呻き声を漏らしつつ宙を漂い続けている。それはいつまで続くのか、あるいは永遠にそのままなのか。
そんな地獄絵図を意に介さず、一人の男が鼻歌交じりに歩いてくる。まるで鯰のように真ん丸く、気味の悪い顔をした
その男は、キョンシーのような服装に身を包んでいる。
「―――<死神>マンダラ!ワシと同じ名を与えられし呪いの使い手!」
「呼んだか?呼んだか?マンダラ王様がわしら四天王を呼んだぞ!呼んだぞ!」
山彦のように同じ言葉を連呼する男。その不気味な様は、まさに<死神>としか言いようがない。
「これで三人揃ったか―――最後は」
「ボクならもうここにいるよ、マンダラ王様」
―――最後の一人は、さも当然のようにそこにいた。派手な登場もなにもなく、当たり前のように。
驚くべきことに、その場の誰にも―――マンダラ王にすら―――その存在を悟られることなく。
「実は一番最初に到着してたんだけど、誰も気付いてくれなくて寂しかったよ。ま、気配を消してたボクのいうこと
じゃないけど、ね」
「くはははは…相変わらずだな―――<戦士>ハヌマン!四天王最強の男よ!」
王である自分を前にしても飄々とした態度のその男を、むしろ好ましく眺め回し、マンダラ王は笑った。
ハヌマン。猿人類と人間を掛け合わせたような、どことなく愛嬌のある風貌。身に付けているのは簡素な腰巻一枚だけ。
その姿と物腰からは、四天王最強などとは到底信じられまい。
だが、その肩書きは事実である。己の実力に絶対の自信を持つ他の四天王でさえも、それだけは認めている。
ハヌマンの、最強を。故に―――<戦士>。彼に、それ以外の呼び名など必要ない。
「四天王よ―――お前たちを呼んだのは他でもない!ワシと共に、百一番目の地獄へと攻め入るのだ!」
「グゴガガガガガガン!百一番目の地獄ですと!?」
<龍神>バラムが巨体を奮わせる。
「オホホホッ!あそこはバサラ王の力だけで持っているような弱小の地獄!何故わざわざ?」
<鬼女>ランバが高笑いしながら疑問をぶつける。
「知ってるか?知ってるか?知ってるぞ!知ってるぞ!バサラ王は人間と手を結び、共に暮らし始めたと!」
<死神>マンダラがそれに答える。
「ふふふ…ついでに彼には初孫ができたそうだよ。それ以来、すっかり骨抜きとのもっぱらの噂だね。本当なら全く、
一つの地獄を治める王とも思えない甘っちょろさだ!」
<戦士>ハヌマンが無邪気とさえ思える口調で嘲る。
「―――そうだ!しかも奴らは愛だの!勇気だの!つまらぬ戯言を触れ回っているそうだ!そんな鬼が存在している
というだけでも腹立たしいわ!」
マンダラ王が天に向かって怒りの雄叫びをあげ―――同時に、いくつもの落雷が発生した。
「奴らは現在、妙な連中と小競り合いをしているという―――モノのついでだ、そやつらもまた我らの刀の錆にして
くれようではないか!」
そしてついに、マンダラ王が悪しき命令を下す―――!
「百一番目の地獄を制圧し―――人間も、鬼も、何もかも皆殺しにするのだ!」
「グゴガガガガガガン!百一番目の地獄ですと!?」
<龍神>バラムが巨体を奮わせる。
「オホホホッ!あそこはバサラ王の力だけで持っているような弱小の地獄!何故わざわざ?」
<鬼女>ランバが高笑いしながら疑問をぶつける。
「知ってるか?知ってるか?知ってるぞ!知ってるぞ!バサラ王は人間と手を結び、共に暮らし始めたと!」
<死神>マンダラがそれに答える。
「ふふふ…ついでに彼には初孫ができたそうだよ。それ以来、すっかり骨抜きとのもっぱらの噂だね。本当なら全く、
一つの地獄を治める王とも思えない甘っちょろさだ!」
<戦士>ハヌマンが無邪気とさえ思える口調で嘲る。
「―――そうだ!しかも奴らは愛だの!勇気だの!つまらぬ戯言を触れ回っているそうだ!そんな鬼が存在している
というだけでも腹立たしいわ!」
マンダラ王が天に向かって怒りの雄叫びをあげ―――同時に、いくつもの落雷が発生した。
「奴らは現在、妙な連中と小競り合いをしているという―――モノのついでだ、そやつらもまた我らの刀の錆にして
くれようではないか!」
そしてついに、マンダラ王が悪しき命令を下す―――!
「百一番目の地獄を制圧し―――人間も、鬼も、何もかも皆殺しにするのだ!」
かぐや姫が予言した異世界からの侵略者―――それをドラえもんたちは、ギガゾンビの事だと解釈した。
それは間違ってはいない。だが、それだけでは不十分だった。
侵略者は、さらにいたのだ。
その名も第八地獄―――マンダラ地獄界―――!
ドラえもんたちはまだ、それを知ることはない―――!
それは間違ってはいない。だが、それだけでは不十分だった。
侵略者は、さらにいたのだ。
その名も第八地獄―――マンダラ地獄界―――!
ドラえもんたちはまだ、それを知ることはない―――!
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