SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 永遠の扉 第015話 「降り注ぐ数多の星に思い馳せて」 (2)


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【解説】貴信の流星群について

  • 彼は掌より生体エネルギーを放出して、攻撃に転化するコトが可能!
  • が、生体エネルギーはいわば血や水分と同じ。
  • 大量に放出すれば衰弱する。(例えば学校で桜花に放出した後は、しばらくぐったりした)
  • そこで彼はハイテンションワイヤーの「物体からエネルギーを抜き出せる」特性に着眼。
  • 物体のエネルギーであれば疲労は少ない。(若干はある)
  • 掌の穴に鎖を接続。抜き出したエネルギーを避雷針のように伝わせ、体内に吸収。
  • 肩の部分にある「貴信ぶくろ」に蓄積し、必要に応じて放出している。
  • 「貴信ぶくろ」はニラと一緒に味噌で炒めるとうまい。一番合うのはビール。
                                                  以上。

核鉄。
武装錬金を織り成す六角形の金属片の名称である。
剛太たち錬金の戦士にとり 得るコトは戦団から認められたという得がたい証である。
よって紛失などはもってのほか。
まして敵に奪われるようなコトがあれば戦士失格の烙印を押されても仕方がない。
また、核鉄には一から百までの固有のシリアルナンバーが割り振られており、剛太の物は──…
「LV(55番)か」
貴信は掌にある核鉄を、残念そうに眺めた。
剛太は気絶し、闘争本能の具現たる武装錬金が解除され、核鉄として敵の手中にある。
上記だけで軍配がどちらに上がったか、既に明瞭である。
「惜しいなぁ。LXXXV(85番)なら80番台がコンプで、もりもり氏も喜んだろうに」
斬られた手首はすでにひっつけてある。まだ痛む。流星群の放出も無理そうだ。
「はぁ…… 男だから放出直後はダルいなぁ。だんだんいろいろ減退して、二十五歳ぐらいに
は二日に一度ぐらいが限度になるんだろうなぁ」
『何の話してるのご主人』
(なぜに香美を鬱陶しく思ってしまうのか。好きだがたまには離れててくれないかなあ。事後
はすり寄ってこないで欲しいなあ。隣でぐーぐー寝てて欲しいなあ。あーしんどい)
微妙な男の機微など、香美には分かろうはずもない。
ともかく、ポケットに核鉄をすべりこませてテンション復帰させる男が一人。
そう、いかに辛かろうとも頑張らねばならんのが男なのだ!
「さてまずは核鉄を手に入れた。次は割符のコトを忘れて貰おうか!! 手当は最後だ!」
治りたての掌から鎖を引き抜き、持ち手を変える。金属の輪がやかましく垂れた。
「これは総ての真髄を捉える! 真髄たるエネルギーを抜き出せるのは直撃の一瞬だけだ
が、読むだけなら触れるだけでもOKだ!! 例えば、パソコンからある銀成学園生徒の情
報を読むコトも可能。というか早坂桜花と遭遇したあの夜、現にした!!」
貴信の声はうるさい。山びこにすら化している。
近隣に住居があれば、血相を変えた住民が文句をいいに駆けつけてくるかも知れない。
『えーと。ひかり副長のためだっけ。忘れたけど』
「そしてコレは人の記憶とて例外では……ないッ!!」
星型の分銅をくしゃくしゃの剛太の頭に当てる。
貴信から漏れるふいごのような息。瞳孔も忙しく収縮して興奮を外界に散らしている。
「やろうと思えば記憶総てを知るコトもできるが! それは礼に反するから記憶のみ頂く!!」
『ごめんね垂れ目。でも仕方ないじゃんこれは』
「でりゃあああ!!」
手につられて鎖がたわみ、分銅が直撃。といっても威力は弱く、小石が当たった程度の衝撃だ。
(記憶は……そこだあ!!)
ハイテンションワイヤーを薄い火花が駆けあがり、やがて反対側の手首からバチリと放出された。
これで。
剛太のつかんだ、彼が斗貴子たちに伝えるべき重要情報は……露と消えた。
その深刻さを知らぬ香美は髪の中でざらざらした舌を出して、へぇへぇと呼吸を始めた。
猫は暑さに弱い。無風となれば直だ。
余談だが、猫は基本的に鼻で呼吸を行う。
口での呼吸ももちろん可能ではあるが、それは重大な病気・ケガ(例えば肺に穴があるなど)
がほとんだ。
もっとも、香美のように暑いだけで口呼吸をする猫もいる。あと激しい運動の後にもだ。
だから一概には危険視できないが、まぁ、参考までに。
香美はせめてもの慰めに、遠くに涼しい音を求めて耳をそばだてた。
幸いというか、かなり先の方で枝葉がこすれあう音を察知。
(あっちで風吹いてるってコトは、もーすぐこっちでも吹くってコトじゃん。やた!)
「おぉっと! 危うく忘れるところだったな!! 割符っ、割符の回収だあああ!」
そういいながらしゃがみ、剛太をひっくり返し、いざポケットをまさぐろうとした所で。
貴信は悄然と動きを止めて軽くうめいた。
「妙だな!」
『何がよ』
「彼の手だ!!」
先ほどの流星群により傷つき、うっすらと血をにじませている。
それ自体はいい。他の部分と同じだ。だが。
腰のあたりに不自然な形で吸い付いている。
そこにはポケットがあるから、ちょうど覆い隠す形だ。
『割符をまもってるんだと思うけど。壊れたら困るし』
「いや! ならばポケットに手を突っ込むべきだろう!! ……何か引っかかるな!」
風のない夜だ。晩夏であれど、まだ大気から熱が撤退する気配がない。
太陽の見えざる残り火が闇をジワジワと沸き、不快指数を高め、人の思考力を奪っていく。
貴信も然り。
短気を起こしたのか。無遠慮なしぐさで剛太の手を払いのけ、ポケットに掌を突っ込んだ。
「ふはは! 考えても仕方ない! どうせ割符を探すついでだ!」
磊落に笑い飛ばして石のような拳を乱雑に抜き取ると、小銭が巻き添えでこぼれ落ち、銀や
銅の光が地上に芽吹いた。
香美はそのちゃりちゃりという音に混じって、木々が再びざわめくのを聞いた。
(んにゃ? さっきより近いのに風ふいてないじゃん。なんで? てかどっかで聞いたよーな)
不思議に思ったが、貴信の大声に吹き飛ばされた。吹き飛ばされて、しまった。
「予感的中! コイツを守っていたらしい! だが何だコレは!!」
掌を開いた貴信は喜悦と戸惑いを順序よく浮かべた。
割符を見つけ、核鉄同様しまったまではいい。
問題なのは剛太の掌に残した不可解な物体だ。
目当ての割符よりかなり大きい。掌の半分ほどだ。
無機質な楕円形で、色はシルバー。端からは、小指ほどの長さの筒が伸びている。
その対辺上には蝶番(ちょうつがい)のような切れ込みがある。
首を捻りながら、むんずとつかみとった。
不用心だが、まさか爆弾などの危険物ではないだろう。戦士の武器は核鉄だけで十分だ。
第一、仮に危険物であったとしてもホムンクルスの貴信には通じないというのもある。
「む! 徐々に分かってきたぞ!!」
”それ”をぱちりと開く。
『な、何なのご主人!!』
「携帯電話だ!!」
貴信の頬がホオジロザメのようにニンマリ裂けた。我が意を得た、というところだろう。
しかしこの夜はまったくもって、暑い。
天気予報も、夜半からはまったく風がないとお茶の間に伝達している。
さて。貴信の額からこぼれた汗が画面に付着したのは、果たして暑さのせいだったのか。
「はっはっは! 香美、一つ重大な事実が判明したぞ!」
少し離れた樹上では青々とした葉っぱがざざざと宙を舞う。
無風の夜でありながら、吹き飛ばされるように。まるで貴信の大声に向かうように。
『なーにご主人』
「やられた! あの新人戦士、戦闘中にこっそりメールで知らせていた!」
『なにをよ?』
「貴様たちが残りの割符を総て持っているコトをだ!」
突如として!
怖気をもたらす黒い暴風が貴信を背後から貫いた!
するとなぜか彼の視界は天空に向かって跳ね上がり、枝を数本ヘシ折ると反転!
わずかな急下降を経て、鼻先が地面に激突。
鈍痛激しく地面をもんどり打ちながら、彼はようやく気づいた。
ありえぬ声に。
視界の異常に。
または上記の疑問に捻るべき首が、その機能を失っているコトに。
香美も気付き、しっぽがあれば膨らまさずにはいられぬおぞましい気分になった。
毛が逆立つ。
なぜなら、視界いっぱいに広がるショートヘアーの隙間から見てしまったからだ
首のない、自分の体を。
無風の夜に風が吹く。
翻り、明確な攻撃意思を孕み、直立不動の首なしを狙い。
いや。風そのものが、ではない。正確にいえば風を生む元凶たる──…
処刑鎌(デスサイズ)!
「ようやく見つけたぞホムンクルス!! よくも剛太を!!」
踵を返した風は4条の青白い狂乱光をまとう影と化し、貴信に殺到!
「首は飛ばした! 後は章印を貫くだけ!!」
津村斗貴子の絶叫に山鳥の飛び立つ音が重なり合い、辺りはそれきり静寂に包まれた。

「フ。昔の俺なら口笛の一つでも吹いているところだな」
おおげさに肩をすくめると、あたりの惨状を見回してみる。
ひどいものだ。
せめて動物型や植物型なら印象は違ったのだろうが、あいにくここにいるのは人型ばかり。
だからひどい。
散らばっているパーツがどれも人間めいているからそぞろに戦慄を禁じえない。
手や足、それからもろもろの臓物が散乱している。
それらはあちこちに生い茂る茂みの中や、近くの橋柱の陰にもあるかも知れない。
すでに塵と化した死骸はまだ空気を漂っているようだ。
自分でも形のいいと自慢の鼻を引くつかせてみる。
流れ込む死臭の濃度と散らばる屍骸の数で、見当がついた。
「総勢五十六体、か。よくもまぁこんな短時間でやったな。セーラー服美少女戦士」
河原にたたずむ総角は、山に向かって拍手(かしわで)を打ってみた。
もちろんこの河原は斗貴子と剛太が先ほどまでいた場所で、散らばる死骸は一人になった
斗貴子に攻撃をしかけたL・X・Eの残党たちだ。
それをことごとく返り討ちにしているところに、斗貴子の恐ろしさと凄まじさがうかがえる。
「お前はおそらく貴信には勝てるだろう。貴信には、な」
意味深な言葉を発してから、あたりをぐるりと余裕のある仕草で見まわしてみる。
すると右側頭部が処刑鎌の形に陥没した死体が目についた。
ちょうど左大腿骨頚部(骨盤と太ももの付け根)から右大腿骨の中ほどをナナメに薙がれた
うつ伏せの死体もあった。
珍しいので総角は歩み寄り、検視官のように観察してから微苦笑を浮かべた。
これまた酸鼻をきわめている。
背中一面を執拗に刺されているのだ。二十余傷はあろうか。
足を失い倒れた相手への仕打ちとしては古今まれにみる残虐さである。
「数では圧倒的不利の戦いでよくコレだけ刺せたな。普通なら邪魔が入るだろうに。残党ども
は怯えて遠巻きに見ているだけだったのか? そういえば社会心理学では困った人間を助け
る時の条件を五つぐらい上げていたが、何だったかな。少なくても残党共にはなかったから、
こういう死体ができあがると思うのだが」
一人ごちりながら歩みを進めると、仲間の生首が鼻っ面にめり込んでいるのも見つけた。
これは刎ねられた勢いでなったのか意図して突き刺したのか、もっと偶発的な事態が起こっ
たのか。よくわからない。
陥没した顔面に、つぶれた顔面が埋まって、引き剥がすのは困難そうだ。
もっともできたとして、不快な光景を見るだけだが。
ともかく乱戦であり、されど一方的な虐殺だったのは、口をぱくつかせながらかすれた声をあ
げる一ダースほどの生首が証明している。
総角に助けを求めているらしい。まるで蜘蛛の糸にすがる亡者だ。
「フ。無駄だ。もはや長くはない。ところで」
認識票を握る。黒い蝶が背後で閃くと、一メートル八十センチほどの火柱が地面に刺さった。
轟々と燃え盛るそれは、奇妙なコトに手を生やし、何事かを喚きながら右往左往してから力
尽き、どうっ! と横に倒れこんだ。
「詰めが甘いな。あのセーラー服美少女戦士も残党も」
いまや消し炭になった火柱は、かろうじての生き残りらしい。
斗貴子が剛太との合流を焦るあまり、見逃したのだろうか。
「俺が前者なら一気呵成かつ百パーセント確実に全滅させる。後者ならうまく統制を取って
消耗させ、隙をつく。少なくても何らかの策は錬るな。力押しは下策。運頼み数頼みは論外」
憎々しいほど余裕たっぷりの総角の前で、消し炭の粒子が闇に散っていく。
「それと。生首どもの呻きは俺の注意を引きつけるための囮と見たが…………違うか? 
なぁ、そこの連中」
眼には見えなかったが。
一瞬だけ空気に奇妙な震動が走った。それは恐怖や驚愕、絶望といった感情の波だ。
まだ隠れているのがいたらしい。おそらく斗貴子をやり過ごしたはいいが、入れ替わりに総角
がやってきたから、ひとまず隠れて様子を見ていたのだろう。
あわよくば倒して核鉄を奪おうとも。
「やれやれ。剣士相手に動揺するから位置を悟られる」
また微苦笑の総角から、感情の波めがけて蝶が飛ぶ。
「策は悪くなかったが、緊張状態が災いだ。不意打ちを悟られ、簡単なカマにすら乗る。策
を成すには静かな精神と余裕こそが重要だ。俺はそう思っている。まぁ、強要はしないが」
立ち込める新鮮な火葬臭を黒い蝶が飛び交って、あちこちで爆発と断末魔が巻き起こる。
生首どもにも引火して、彼らは作成途中のポップコーンのようにポンポン飛び上った。
さすがホムンクルスだけあって、首だけでもそういう芸当ができるらしい。もっとも芸は身を
助けるというが、この場合は正反対。なまじ生命力があるせいで、生首が燃え尽きるまで炎
熱地獄をのたうち回らなければならないから。
やがて一ダースほどのポップコーンが炎に喰い尽され、そこかしこの断末魔も途切れた。
「これで全滅。フ。ホムンクルスの俺が街の安全に一役買うというのもおかしな話だがな。
そういえば条件の一つは『自己中心的じゃない人間』だったか。社会心理学上、人助けをす
る人間の条件は。なるほど。人間という要素を除けば部下思いの俺に当てはまるな。やは
りさすがだ。俺は誰よりカッコいい」
アゴに手を当てて目もとにキラリと光を浮かべる総角の周りでは、紅蓮の炎が河原いっぱい
に伝播して黒い水面にゆらゆら揺れているる。
「さて。小札はうまくやっているかな。できれば早く戻ってこい。離れているのは寂しいからな。
お前も、俺も」

郊外。2kmほど先に大きな病院が見える場所。
「ときをこえろっ! そらをかけろ! このほっしのためぇ! デテンテンテン!」
舌っ足らずの歌声に混じり、ぽかぽかと珍妙な音が響く。
路上を小さな影が走っていた。
影は自転車ぐらいならすいすい追い抜ける速度で、ゴミ捨て場の前を通りすぎ角を「うおおー、
激突するかも知れませぬぅー!」と必死に曲がり、行き止まりを飛び越え屋根を踏みつけ、路
上に着地。
何の変哲もない道に出た。
歩道はなく、あまり舗装されていない2車線道路が申し訳程度に伸びている。
人家よりは畑が多く、街の光もやや程遠い。
そこに佇む影は、手にしたロッドをバババッ! といたるところに向けて何かを確認している
ようだ。
背丈も顔も体型も小学生ほど。かぶったシルクハットも背丈を誤魔化せないほど小学生。
それらが瑣末になるほど奇妙な造型をしている。足が四本あるのだ。無機的なロバの足が。
さながら神話上のオノケンタウロス。ぽかぽかという珍妙な音は、蹄の響きらしい。
「君は見たかっ! あーいが! 真赤に燃・え・る・のを!」
少女──小札は叫んだ。
「探索モード! ブラックマスクドライダー!」
するとロッド尖端、六角形の宝石部分から黒い光が稲妻のように迸り、道の向こうに消えていく。
「なるほど! 不肖の探し物はあちらとゆーワケですね! ならば不肖は駆けるのみ!」
速度が上がった。暴走族と並走してもぐんぐん引き離せるだろう。
「ちなみに不肖のセリフはすべてふだんより小さき声。ゆえに睡眠中の皆様方をお騒がせさせる
コトなきサイレントボイス。うぉおという接続詞ならびに、やさしい目をしただれかに逢いたいと
助詞をつけるべきサイレントボイス!」
小札の両脇に家屋が現れ小規模なビルが現れ、やがて十字路を渡ると茶色の壁が出現した。
ここで小札は速度を緩め、壁沿いに歩き出す。
1分もしない内に壁は途切れ、五十メートルほど先に大きな建物が現れた。
すかさず彼女は茶目っ気のある仕草で、マシンガンシャッフルを口に当てた。
「皆さま左手をご覧下さい。あちらに見えまするは聖サンジェルマン病院であります」
左手を慣れた調子で突き出す彼女はもちろん一人。皆様というのはノリなのだろう。
「昭和63年に建てられましたこの病院は、ベッド数100、 当初の目的は二次医療が主では
ありますが、夜間・休日などの一次救急も総て受け入れるべく数少ないお医者さん形と職員
さん形が日夜奮闘いたしております! 医療というものはかくも素晴らしきもの。さー、不肖の
声にも熱が篭ってまいりましたぁっ!」
くるりと踵を返して走りだしたところをみると、どうやらココは目的地じゃなかったらしい。
「探し物を見つけるまで、銀成市各所を一人ガイドいたしましょう。香美どのほど暗所を恐れて
はおりません不肖ではありますが、いやいやしかしそこは一応女の子。この頃はやりではあ
りませんが女の子。……きゅう。お尻は小さくありますが、いやいやしかしそれに言及しては
テンションが下がる一方、一人で走る夜道に寂しさが募る一方。よって不肖は実況ガイドを
ぐぎぇ!!」
突如として奇怪な現象が小札の体にまき起こった。
彼女は前足を軸に勢いよく傾き、長方形の石を敷き詰めた歩道へ吸い込まれ、顔面をぶつ
けた。
要するにすっ転んで顔面を打ちつけた。
幸い、ホムンクルスだから鼻血は出てない。むしろ歩道に軽いヒビが入ったぐらいだ。
「ててて敵襲でありますか! し、しかし不肖のマシンガンシャッフルとてそれなりであります
よ! ありますから! ぬををー! あくりょーたいさん、あくりょーたいさん!」
素早く身を立て直し女の子ずわりであわあわと目を白黒させてロッドを振る小札の前には
何もいない。ただ、歩道のヒビはなぜか淡い光の糸で結ばれ始めているが、彼女はあまり
気にしていない。むしろ当然だと認識しているようだ。
とりあえず小札はぱちぱちと瞬きをしてから、「きゅう?」と首をひねった。
転蓮華をかけられて2秒目ぐらいのセルゲイ・タクタロフぐらいにひねった。
やがて「これは」とか「しかしそれでは……」とか「ぐぬぬぅ」とかひとしきり呟いてから、マシン
ガンシャッフルの先っぽで鼻をぽりぽりと掻いた。
そして転んだ個所から2mほど東を確認すると、何があったのか「こきん」と首をうなだれた。
肩にかかった可愛らしいおさげの先で両手をブルブルさせる。
太もものあたりで布を握りしめるもんだから、パリっとしたタキシードに皺が走った。
震える声が夜道に響く。
「不肖は重大事実に気がつきました。アレをご覧下さい。そう。空き缶です! スチール製
の空き缶が転がっております! 爆走中の不肖はあれを踏みつけ転倒した模様。ぐむむ。
ここはゴミを捨てる心無き人に怒るべきでしょーか。いやはやしかし踏みつけたのは不肖。
不覚を反省すべきでしょう。ともかく第二第三の悲劇を防ぐべく……」
ぱっぱかぱっぱか空き缶に歩み寄り、拾い、首を左右にせわしなく振る。
はす向かいにタバコ屋さんにジュースの自動販売機とゴミ箱が備え付けてあるのを発見。
空き缶を捨てて、走り出す。
先ほどガイドした聖サンジェルマン病院地下で、妖気をはらんだ戦いが展開されているとは
つゆ知らず。

一方。河原。
総角はバケツに汲んだ川の水を、バサー、バサーと燃え盛る炎にかけていた。
「フ、こうなるなら他の武装錬金を使えば良かったな……」
消火と水汲みの単調な繰り返しに、彼の背中は哀愁を帯びていたという。