《EPISODE11:Hear the trumpets,hear the pipers,one hundred million angels singing》
走る。ただ走る、走り続ける。飛ぶが如く、飛ぶが如く。
サムナー、火渡、千歳の三名は広い廊下を駆け抜ける。
ここは三つ巴の闘争劇が繰り広げられているビルの四階。
長い廊下の右手には大きめの窓、左手には各部屋へのドアが延々と続いている。
「これ以上の階を中央階段で上るのは危険だ」というサムナーの判断で、三人はフロア内を抜けて
非常階段に向かっていた。
サムナーは再びインヴィジブルサンを透明化させ、今はその饒舌な口を閉じて黙々と走っている。
千歳は、ホムンクルスと戦う為に一階に残った防人の事がずっと気にかかっている。
それは自分でも気づかない、いや気づいてはいるが押し隠している彼への恋心がさせているに他ならない。
残る火渡は――
火渡はこの先に待ち受けている敵との戦いしか頭に無かった。防人への心配など微塵も無い。
彼は防人の強さを信じている。鍛え上げた肉体の強さを、無双の防御力を誇る武装錬金の強さを。
総じて、錬金の戦士としての強さを。
ただし、“俺の次に”という認識は片時も忘れない。防人は仲間であると同時に、あくまでも戦友(ライバル)
なのだから。
そして、待ち受けている敵。火渡が決着を熱望する敵。
ただの人間であるNew Real IRAの首魁パトリック・オコーネルには用は無かった。
火渡が雌雄を決したい人物はただ一人。サムナーに邪魔をされ、中断を余儀無くされたあの車上の血闘。
彼はここにも現れるだろう。必ず。絶対に。
火渡はその時を心待ちにしている。
サムナー、火渡、千歳の三名は広い廊下を駆け抜ける。
ここは三つ巴の闘争劇が繰り広げられているビルの四階。
長い廊下の右手には大きめの窓、左手には各部屋へのドアが延々と続いている。
「これ以上の階を中央階段で上るのは危険だ」というサムナーの判断で、三人はフロア内を抜けて
非常階段に向かっていた。
サムナーは再びインヴィジブルサンを透明化させ、今はその饒舌な口を閉じて黙々と走っている。
千歳は、ホムンクルスと戦う為に一階に残った防人の事がずっと気にかかっている。
それは自分でも気づかない、いや気づいてはいるが押し隠している彼への恋心がさせているに他ならない。
残る火渡は――
火渡はこの先に待ち受けている敵との戦いしか頭に無かった。防人への心配など微塵も無い。
彼は防人の強さを信じている。鍛え上げた肉体の強さを、無双の防御力を誇る武装錬金の強さを。
総じて、錬金の戦士としての強さを。
ただし、“俺の次に”という認識は片時も忘れない。防人は仲間であると同時に、あくまでも戦友(ライバル)
なのだから。
そして、待ち受けている敵。火渡が決着を熱望する敵。
ただの人間であるNew Real IRAの首魁パトリック・オコーネルには用は無かった。
火渡が雌雄を決したい人物はただ一人。サムナーに邪魔をされ、中断を余儀無くされたあの車上の血闘。
彼はここにも現れるだろう。必ず。絶対に。
火渡はその時を心待ちにしている。
ふと、急にサムナーが立ち止まった。
二人に背を向けたまま、無言で身じろぎひとつしない。
遅れて火渡と千歳も立ち止まり、周囲を警戒した。サムナーが敵の存在を感じ取ったと、
二人は判断している。
「どうされたんですか……? サムナー戦士長」
周囲に注意を払う事を怠らず、千歳がサムナーに声を掛ける。
火渡も無言のまま、近くのドアや窓に眼を配る。
二人に背を向けたまま、無言で身じろぎひとつしない。
遅れて火渡と千歳も立ち止まり、周囲を警戒した。サムナーが敵の存在を感じ取ったと、
二人は判断している。
「どうされたんですか……? サムナー戦士長」
周囲に注意を払う事を怠らず、千歳がサムナーに声を掛ける。
火渡も無言のまま、近くのドアや窓に眼を配る。
そう。
当たり前ではあるが、二人とも“指揮官であるサムナー”そのものには無警戒だったのだ。
突然、サムナーの周囲から派手な射出音と共に、眩いばかりの閃光が発せられた。
眼にも止まらぬ速さで三条のレーザーが火渡の胸板を、一条のレーザーが千歳の左大腿部をそれぞれ貫く。
光学迷彩により透明化しているサムナーのインヴィジブルサンから放たれたものだ。
「あうっ!!」
「なっ!? 千歳ェ!!」
千歳は脚を押さえてその場に倒れ込んだ。あまりの予想外の出来事に我が身に何が起きたか理解出来ず、
苦痛と驚愕の表情が同居している。
千歳に駆け寄る火渡は何一つダメージを受けていない。
ビルの前で車を降りた際に武装錬金を発動させてからは、常にその身を火炎同化させているからだ。
つまり今の火渡は“火渡の形をした炎の塊”と言っても過言では無い。
実体を持つ筈もないその炎にレーザーが効く道理があろうか。それは拳にも銃弾にも言える。
そしておそらくは銃剣すらも。
「テメエ! 何しやがんだァ!!」
「フン、やはりな……。お前に物理攻撃はまったく通用しないか」
激怒を露にした火渡の声に振り向いたサムナーは、嫌悪感に満ちた眼差しで彼を睨む。
だが、すぐにその顔は圧倒的優位に立つ勝者の笑みへと変わった。
「しかし――」
サムナーは多分に気取りを交えた仕草でゆっくりと右腕を上げ、パチリと指を鳴らす。
「――これではどうかな?」
合図と同時に、二機のビットが青白い電光を発しながら、千歳の顔を両脇から挟む形で姿を現した。
まるで千歳の愛らしい顔をじっくりと観察するかのように、ビットはフワフワと浮かびながら
射出口を細かく動かしている。
「クッ……!」
火渡は今更ながらの思いに歯噛みした。
そうだ。もしコイツが敵ならこうやって俺達を攻撃するだろう。
“俺達が気を抜いている時を狙い、透明化させた武装錬金を忍び寄らせて攻撃する”
けどよ、それは“コイツが敵だったら”の話だぞ。
やられちまった。なんてこった。ちきしょう。どういう事だ。
当たり前ではあるが、二人とも“指揮官であるサムナー”そのものには無警戒だったのだ。
突然、サムナーの周囲から派手な射出音と共に、眩いばかりの閃光が発せられた。
眼にも止まらぬ速さで三条のレーザーが火渡の胸板を、一条のレーザーが千歳の左大腿部をそれぞれ貫く。
光学迷彩により透明化しているサムナーのインヴィジブルサンから放たれたものだ。
「あうっ!!」
「なっ!? 千歳ェ!!」
千歳は脚を押さえてその場に倒れ込んだ。あまりの予想外の出来事に我が身に何が起きたか理解出来ず、
苦痛と驚愕の表情が同居している。
千歳に駆け寄る火渡は何一つダメージを受けていない。
ビルの前で車を降りた際に武装錬金を発動させてからは、常にその身を火炎同化させているからだ。
つまり今の火渡は“火渡の形をした炎の塊”と言っても過言では無い。
実体を持つ筈もないその炎にレーザーが効く道理があろうか。それは拳にも銃弾にも言える。
そしておそらくは銃剣すらも。
「テメエ! 何しやがんだァ!!」
「フン、やはりな……。お前に物理攻撃はまったく通用しないか」
激怒を露にした火渡の声に振り向いたサムナーは、嫌悪感に満ちた眼差しで彼を睨む。
だが、すぐにその顔は圧倒的優位に立つ勝者の笑みへと変わった。
「しかし――」
サムナーは多分に気取りを交えた仕草でゆっくりと右腕を上げ、パチリと指を鳴らす。
「――これではどうかな?」
合図と同時に、二機のビットが青白い電光を発しながら、千歳の顔を両脇から挟む形で姿を現した。
まるで千歳の愛らしい顔をじっくりと観察するかのように、ビットはフワフワと浮かびながら
射出口を細かく動かしている。
「クッ……!」
火渡は今更ながらの思いに歯噛みした。
そうだ。もしコイツが敵ならこうやって俺達を攻撃するだろう。
“俺達が気を抜いている時を狙い、透明化させた武装錬金を忍び寄らせて攻撃する”
けどよ、それは“コイツが敵だったら”の話だぞ。
やられちまった。なんてこった。ちきしょう。どういう事だ。
火渡の表情から何事かを感じ取ったのか、サムナーが多少ヒステリックに声を上げる。
「私がレーザー乱射一辺倒の能力バカとでも思っていたのか? このインヴィジブルサンにかかれば
暗殺、騙撃もお手の物なのだよ。君達とは“ここ”の出来が違うのだ!」
欧州第二の実力を持つ戦士長は、自らのこめかみ辺りを指でトントンと叩きながら傲然と胸を張った。
「ひ、火渡君……」
千歳が自分の非を詫びるような色を込めた眼差しを火渡に送る。
火渡は何とも言えないやるせなさに襲われた。
馬鹿野郎。そんな眼をすんじゃねえ。オメエが悪いワケじゃねえだろ。
しかし、満足感に酔ったサムナーはそんな二人にはお構い無しだ。
「いくら下品で粗野で低能な君でもわかるだろう? 君が炎を発するのが早いか、私のインヴィジブルサンが
レーザーを放つのが早いか」
「クソッタレが……!」
火渡なら一瞬でサムナーを業火に包んで灰燼に帰せるだろう。いや、その気になれば一瞬で
このフロア全体を火の海に変え、焦熱地獄と化す事も不可能ではない。
だが、“一瞬”のレベルが違う。サムナーのインヴィジブルサンは文字通り光の速度だ。
火渡が千歳を助け出そうと、サムナーを攻撃しようと行動を起こした瞬間、レーザーが千歳の頭に
大きな穴を開けるに違いない。
「さあ、戦士・楯山。ゆっくりこちらに来るんだ。まあ、どのみちその脚ではゆっくりとしか
来られんだろうがねェ……」
レーザーは千歳の大腿骨を股関節付近の骨幹近位部で焼き砕いている。たしかにそんな脚では歩くどころか、
動かす事や体重を支える事さえ不可能だろう。
「うっ……」
千歳は右脚だけで立ち上がり、左脚を引きずりながらヒョコヒョコと片脚跳びでサムナーの元に近づいていく。
火渡は拳を握り締め、ただ見ているしかない。
やがて千歳が手に届く位置と確認するや、サムナーは彼女の胸倉を掴み、手荒く引き寄せた。
「きゃあっ!」
左腕で千歳の首を締め上げるようにその身をしっかりと抱え込む。
いつの間にかビットは四つに増え、いつでも鼻や口以外の孔を増やせるように千歳の周囲を漂っている。
「私がレーザー乱射一辺倒の能力バカとでも思っていたのか? このインヴィジブルサンにかかれば
暗殺、騙撃もお手の物なのだよ。君達とは“ここ”の出来が違うのだ!」
欧州第二の実力を持つ戦士長は、自らのこめかみ辺りを指でトントンと叩きながら傲然と胸を張った。
「ひ、火渡君……」
千歳が自分の非を詫びるような色を込めた眼差しを火渡に送る。
火渡は何とも言えないやるせなさに襲われた。
馬鹿野郎。そんな眼をすんじゃねえ。オメエが悪いワケじゃねえだろ。
しかし、満足感に酔ったサムナーはそんな二人にはお構い無しだ。
「いくら下品で粗野で低能な君でもわかるだろう? 君が炎を発するのが早いか、私のインヴィジブルサンが
レーザーを放つのが早いか」
「クソッタレが……!」
火渡なら一瞬でサムナーを業火に包んで灰燼に帰せるだろう。いや、その気になれば一瞬で
このフロア全体を火の海に変え、焦熱地獄と化す事も不可能ではない。
だが、“一瞬”のレベルが違う。サムナーのインヴィジブルサンは文字通り光の速度だ。
火渡が千歳を助け出そうと、サムナーを攻撃しようと行動を起こした瞬間、レーザーが千歳の頭に
大きな穴を開けるに違いない。
「さあ、戦士・楯山。ゆっくりこちらに来るんだ。まあ、どのみちその脚ではゆっくりとしか
来られんだろうがねェ……」
レーザーは千歳の大腿骨を股関節付近の骨幹近位部で焼き砕いている。たしかにそんな脚では歩くどころか、
動かす事や体重を支える事さえ不可能だろう。
「うっ……」
千歳は右脚だけで立ち上がり、左脚を引きずりながらヒョコヒョコと片脚跳びでサムナーの元に近づいていく。
火渡は拳を握り締め、ただ見ているしかない。
やがて千歳が手に届く位置と確認するや、サムナーは彼女の胸倉を掴み、手荒く引き寄せた。
「きゃあっ!」
左腕で千歳の首を締め上げるようにその身をしっかりと抱え込む。
いつの間にかビットは四つに増え、いつでも鼻や口以外の孔を増やせるように千歳の周囲を漂っている。
「フハハハハハッ! 無敵の『ブレイズオブグローリー』を操る戦士・火渡も、人質を取られては形無しだな?」
剥き出しの犬歯をギリギリと軋ませながら、火渡は当然かつ唯一の疑問をサムナーにぶつけた。
「一体、何のつもりだ……? 何で俺達を裏切りやがる!?」
サムナーはお得意の芝居掛かった調子で、「これは心外」とばかりに肩をすくめる。
「『裏切る』だと? 失敬な。裏切り者は君達の方だよ」
「んだとォ!?」
千歳を抱えたままのサムナーは、空いている方の掌を気障ったらしくヒラヒラと宙に舞わせた。
「筋書き(シナリオ)はこうだ。戦士・キャプテンブラボーは敵の開発したホムンクルスの襲撃によって
命を落としてしまった。そして、顔を合わせた当初から徹底的に私と不仲だった戦士・火渡赤馬は
戦闘中の裏切り行為により粛清される。この私にな……」
そこまで言うと彼は千歳をグイと引き寄せ、汗の匂いと若い女性特有の香りを楽しむように
彼女の耳元に顔を近づける。
「や、やめて……」
「戦士・楯山千歳は……そうだな、裏切り者である戦士・火渡に手を貸そうとした為、
やむなく私が殺さざるを得なかった。……こんなところだろう」
わざとらしく残念そうな表情を浮かべているが、それもまったくの嘘とも言い切れないのかもしれない。
彼は今まで東洋人の女性などは、抱いた事はおろか興味を持った事も無かった。
この場で殺すのが少し惜しくなっているようにも見受けられる。
「テメエ、頭がおかしくなったのかよ……?」
火渡の罵りに片眉をピクリと上げるも、サムナーの顔は未だ余裕の微笑を形作っている。
「本当に貴様は失敬、いや無礼な奴だ。私の頭脳は至って正常だよ……。いや、それどころか
“計画”完遂の為に人生最高のフル回転をしていると言ってもいい。君達の任務参加やテロリストの
阿呆共の失敗で狂ってしまった計画の為にね……」
「計画、だと……?」
「そう、“計画”だ。誉れ高き錬金戦団大英帝国支部が、再び世界の盟主(リーダー・オブ・ザ・ワールド)になる為の
壮大な計画……。その一環なのだよ、これは……」
剥き出しの犬歯をギリギリと軋ませながら、火渡は当然かつ唯一の疑問をサムナーにぶつけた。
「一体、何のつもりだ……? 何で俺達を裏切りやがる!?」
サムナーはお得意の芝居掛かった調子で、「これは心外」とばかりに肩をすくめる。
「『裏切る』だと? 失敬な。裏切り者は君達の方だよ」
「んだとォ!?」
千歳を抱えたままのサムナーは、空いている方の掌を気障ったらしくヒラヒラと宙に舞わせた。
「筋書き(シナリオ)はこうだ。戦士・キャプテンブラボーは敵の開発したホムンクルスの襲撃によって
命を落としてしまった。そして、顔を合わせた当初から徹底的に私と不仲だった戦士・火渡赤馬は
戦闘中の裏切り行為により粛清される。この私にな……」
そこまで言うと彼は千歳をグイと引き寄せ、汗の匂いと若い女性特有の香りを楽しむように
彼女の耳元に顔を近づける。
「や、やめて……」
「戦士・楯山千歳は……そうだな、裏切り者である戦士・火渡に手を貸そうとした為、
やむなく私が殺さざるを得なかった。……こんなところだろう」
わざとらしく残念そうな表情を浮かべているが、それもまったくの嘘とも言い切れないのかもしれない。
彼は今まで東洋人の女性などは、抱いた事はおろか興味を持った事も無かった。
この場で殺すのが少し惜しくなっているようにも見受けられる。
「テメエ、頭がおかしくなったのかよ……?」
火渡の罵りに片眉をピクリと上げるも、サムナーの顔は未だ余裕の微笑を形作っている。
「本当に貴様は失敬、いや無礼な奴だ。私の頭脳は至って正常だよ……。いや、それどころか
“計画”完遂の為に人生最高のフル回転をしていると言ってもいい。君達の任務参加やテロリストの
阿呆共の失敗で狂ってしまった計画の為にね……」
「計画、だと……?」
「そう、“計画”だ。誉れ高き錬金戦団大英帝国支部が、再び世界の盟主(リーダー・オブ・ザ・ワールド)になる為の
壮大な計画……。その一環なのだよ、これは……」
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