「ぐうううう……!」
血管を浮き出させて、シドウが唸る。
全身を満遍なく覆ったチャクラが、別の生物のように激しく蠢き、影真似の束縛を振り払わんとしていた。
シカマルも全力で術をかけてはいるのだが、シドウの力はそれを上回る。
影真似の持続時間は、長く見積もっても、あと一~二分ぐらいだろう。
まったく。敵ながら大した奴だ……シカマルは、心中で感嘆した。
まさか、影真似からの脱出を一人で成してしまえるほどの力があるとは。
シカマルは回想する。確か、前にも音の四人衆――多由也に、力技で影首縛りを破られそうになった経験があった。
ベストを尽くしたつもりだった。それでも、ギリギリまで追い詰められた。
あの時は……いくら考えても起死回生の一手が浮かばず、絶望したものだ。
しかし、今回はあの時とは状況が違う。彼女の常人離れした力は、大蛇丸の寵愛の証である呪印での補正あってのものである。
呪印は身体能力の大幅な強化と引き換えに、体を蝕む。サスケは自分の意志で里を抜けた……と言うが。
結局は呪印に、大蛇丸に、囚われているだけなのだ、と。そのような話をナルトから聞いた記憶がある。
だが、この男の力は、呪印に依存していない。チャクラコントロールだけを用いて、ここまでの力を引き出している。
潜入の都合上、木の葉の中忍の装備を身につけているのだろうが、実力的には上忍クラスと見て間違いない。
それでも――シカマルの表情に焦りは微塵もなかった。むしろ、勝利を確信したかのように、余裕ですらある。
そう。シカマルは、チョウジに『大丈夫』と言った。だから、例え影真似が破られようとも負けはしない。
とは言っても、シカマルの自信は、約束、信念、といった、戦場においては何ら信頼の置けない要素に裏打ちされたものではない。
勝利への布石を地道に積み重ね、勝つべくして勝つ。それがシカマルの戦闘スタイルなのだから。
シカマルはシドウに向き直り、バックパックを探ると、そっと、一本のクナイを取り出した。
血管を浮き出させて、シドウが唸る。
全身を満遍なく覆ったチャクラが、別の生物のように激しく蠢き、影真似の束縛を振り払わんとしていた。
シカマルも全力で術をかけてはいるのだが、シドウの力はそれを上回る。
影真似の持続時間は、長く見積もっても、あと一~二分ぐらいだろう。
まったく。敵ながら大した奴だ……シカマルは、心中で感嘆した。
まさか、影真似からの脱出を一人で成してしまえるほどの力があるとは。
シカマルは回想する。確か、前にも音の四人衆――多由也に、力技で影首縛りを破られそうになった経験があった。
ベストを尽くしたつもりだった。それでも、ギリギリまで追い詰められた。
あの時は……いくら考えても起死回生の一手が浮かばず、絶望したものだ。
しかし、今回はあの時とは状況が違う。彼女の常人離れした力は、大蛇丸の寵愛の証である呪印での補正あってのものである。
呪印は身体能力の大幅な強化と引き換えに、体を蝕む。サスケは自分の意志で里を抜けた……と言うが。
結局は呪印に、大蛇丸に、囚われているだけなのだ、と。そのような話をナルトから聞いた記憶がある。
だが、この男の力は、呪印に依存していない。チャクラコントロールだけを用いて、ここまでの力を引き出している。
潜入の都合上、木の葉の中忍の装備を身につけているのだろうが、実力的には上忍クラスと見て間違いない。
それでも――シカマルの表情に焦りは微塵もなかった。むしろ、勝利を確信したかのように、余裕ですらある。
そう。シカマルは、チョウジに『大丈夫』と言った。だから、例え影真似が破られようとも負けはしない。
とは言っても、シカマルの自信は、約束、信念、といった、戦場においては何ら信頼の置けない要素に裏打ちされたものではない。
勝利への布石を地道に積み重ね、勝つべくして勝つ。それがシカマルの戦闘スタイルなのだから。
シカマルはシドウに向き直り、バックパックを探ると、そっと、一本のクナイを取り出した。
シドウの肉体は、自身の意思とは無関係に、目の前にいるシカマルの動作をトレースした。
結果、シカマルとシドウは、お互い、クナイを構えて向かい合うような格好になる。
シドウは一刻も早く術から逃れようと、歯を食い縛る。『影真似』と言うフレーズから容易に予想はできたが、やはり厄介な術だ。
接触予定ポイント付近は木々の少ない、割合見通しの良い場所。利用できそうな地形はない……が。
シドウが最も恐れていたのは、このまま術が破られれば敗北するだけと判断しての『相打ち狙い』だった。
影真似の効果がある内に、クナイで急所を一突きされれば、こちらも無事では済まない。
この状況でクナイを取り出した、と言うのは、つまりはそういう理由なのではないだろうか……!?
結果、シカマルとシドウは、お互い、クナイを構えて向かい合うような格好になる。
シドウは一刻も早く術から逃れようと、歯を食い縛る。『影真似』と言うフレーズから容易に予想はできたが、やはり厄介な術だ。
接触予定ポイント付近は木々の少ない、割合見通しの良い場所。利用できそうな地形はない……が。
シドウが最も恐れていたのは、このまま術が破られれば敗北するだけと判断しての『相打ち狙い』だった。
影真似の効果がある内に、クナイで急所を一突きされれば、こちらも無事では済まない。
この状況でクナイを取り出した、と言うのは、つまりはそういう理由なのではないだろうか……!?
戦々恐々とするシドウをよそに、シカマルはクナイをシドウに向かって投擲せんと振り被る。
シドウもまた同じように、クナイをシカマルに向かって振り被る。
それにしても、おかしい。今投げられようとしているこのクナイが『相打ち狙い』だと仮定すると……腑に落ちない。
いかに訓練を積んだ忍でも、相打ち覚悟の一撃ともなれば、発する気配に変化が生じる。
なのに、今対峙しているこの忍からは、そういった心の揺らぎが、一切感じ取れなかった。
言葉を交わさなくとも、わかる。こいつは、自分を犠牲にしない。それでいて、俺を『確実に倒す』つもりだ……!
では、どうやって? この不遜なまでの自信の理由を、事前に看破する事ができれば、或いは対処可能かもしれない。
ここでシドウが着目したのは、シカマルの『投げる』と言うアクションだった。
お互い近付いて突き刺すのではなく、あえてクナイを投げる。その行動には、何らかの意味があるように思えた。
そして。シドウは自然と、一つの結論に思い至る。こいつは……おそらく、投擲から命中までの、タイムラグを利用する作戦だ。
クナイを全力で投げておいて、命中の瞬間、ギリギリ回避可能なタイミングで、影真似の術を解く。
術を解く瞬間――行動可能になる瞬間を自分の意志で制御できるのだから、間一髪でクナイを回避する事など容易い筈だ。
しかし、解除のタイミングが掴めない上、下手をすれば術を解く事すら予想していない俺は、バランスを崩した挙句、クナイの直撃を受ける。
もし。奴の作戦が、自信の理由が、今予想した通りだとするならば……俺を舐めすぎている。
命中直前に術を解除する。その可能性さえ頭の片隅にでも置いておけば、何も恐れる事はない。
奴の動作を逐一観察。全神経を集中して、解除の気配を察知。襲い掛かるクナイの軌道を見切り、即座に反撃に移る。
大丈夫。一対一の戦いならば、絶対に遅れは取らない相手だ……!
シドウもまた同じように、クナイをシカマルに向かって振り被る。
それにしても、おかしい。今投げられようとしているこのクナイが『相打ち狙い』だと仮定すると……腑に落ちない。
いかに訓練を積んだ忍でも、相打ち覚悟の一撃ともなれば、発する気配に変化が生じる。
なのに、今対峙しているこの忍からは、そういった心の揺らぎが、一切感じ取れなかった。
言葉を交わさなくとも、わかる。こいつは、自分を犠牲にしない。それでいて、俺を『確実に倒す』つもりだ……!
では、どうやって? この不遜なまでの自信の理由を、事前に看破する事ができれば、或いは対処可能かもしれない。
ここでシドウが着目したのは、シカマルの『投げる』と言うアクションだった。
お互い近付いて突き刺すのではなく、あえてクナイを投げる。その行動には、何らかの意味があるように思えた。
そして。シドウは自然と、一つの結論に思い至る。こいつは……おそらく、投擲から命中までの、タイムラグを利用する作戦だ。
クナイを全力で投げておいて、命中の瞬間、ギリギリ回避可能なタイミングで、影真似の術を解く。
術を解く瞬間――行動可能になる瞬間を自分の意志で制御できるのだから、間一髪でクナイを回避する事など容易い筈だ。
しかし、解除のタイミングが掴めない上、下手をすれば術を解く事すら予想していない俺は、バランスを崩した挙句、クナイの直撃を受ける。
もし。奴の作戦が、自信の理由が、今予想した通りだとするならば……俺を舐めすぎている。
命中直前に術を解除する。その可能性さえ頭の片隅にでも置いておけば、何も恐れる事はない。
奴の動作を逐一観察。全神経を集中して、解除の気配を察知。襲い掛かるクナイの軌道を見切り、即座に反撃に移る。
大丈夫。一対一の戦いならば、絶対に遅れは取らない相手だ……!
クナイが、両者の手を離れた。シドウは、そのスピードの『遅さ』に驚く。
明らかに、本気で投げていない。直撃した所で、致命傷どころか、軽傷を負わせられるかどうかも怪しい。
そして、シカマルは……シドウの予想に反して、命中の瞬間まで、術を解かなかった。
軽い衝撃。シドウの肩には、クナイが突き立っていた。出血こそしているが、傷は浅い。
シドウの見る限り、シカマルも、軽傷と言うにも生温い、掠り傷を負っただけのようだった。
これでは、以前、移動中に小枝で頬を切ったのと大差ないではないか……!?
そんな愚にも付かない事を考えていると、不意に影真似が解けた。シカマルはふぅ、と息を吐いて、肩に刺さったクナイを抜く。
明らかに、本気で投げていない。直撃した所で、致命傷どころか、軽傷を負わせられるかどうかも怪しい。
そして、シカマルは……シドウの予想に反して、命中の瞬間まで、術を解かなかった。
軽い衝撃。シドウの肩には、クナイが突き立っていた。出血こそしているが、傷は浅い。
シドウの見る限り、シカマルも、軽傷と言うにも生温い、掠り傷を負っただけのようだった。
これでは、以前、移動中に小枝で頬を切ったのと大差ないではないか……!?
そんな愚にも付かない事を考えていると、不意に影真似が解けた。シカマルはふぅ、と息を吐いて、肩に刺さったクナイを抜く。
「舐めるなあっ!」
影真似が解けるが早いか、肩にクナイを生やしたまま、シドウはシカマル目掛けて突撃した。
が、二、三歩進んだだけで、足が縺れて、地面に突っ伏すようにして倒れてしまう。
シドウが全てを理解した時には、何もかも遅かった。全身が痙攣して、満足に声を出す事すらままならない。
「クナイに、麻痺毒を塗布しておいた……悪ぃが、暫く寝ててくれ」
通常、標準装備のクナイに毒は塗られていない。バックパックの性質上、咄嗟に取り出す時など、取り扱い次第では自滅もあり得るからだ。
シカマルは任務の内容を聞いた日の夜から、この作戦を……影真似と麻痺毒を塗ったクナイの組み合わせを考えていた。
シドウは、自分の愚かさを呪う他なかった。影真似にかかった時点で、敗北は確定していたのだ。
影真似が解けるが早いか、肩にクナイを生やしたまま、シドウはシカマル目掛けて突撃した。
が、二、三歩進んだだけで、足が縺れて、地面に突っ伏すようにして倒れてしまう。
シドウが全てを理解した時には、何もかも遅かった。全身が痙攣して、満足に声を出す事すらままならない。
「クナイに、麻痺毒を塗布しておいた……悪ぃが、暫く寝ててくれ」
通常、標準装備のクナイに毒は塗られていない。バックパックの性質上、咄嗟に取り出す時など、取り扱い次第では自滅もあり得るからだ。
シカマルは任務の内容を聞いた日の夜から、この作戦を……影真似と麻痺毒を塗ったクナイの組み合わせを考えていた。
シドウは、自分の愚かさを呪う他なかった。影真似にかかった時点で、敗北は確定していたのだ。
カイとゲンは、先行したフォルテツーの三人を追っていた。
向こうも巻物を所持している以上、追い縋られぬよう全力で移動しているのだろう。すぐには差が縮まりそうもない。
ふと、後ろに気配を感じて、カイは振り向く。見れば、早くもトウバが追いついて来ていた。
「フォルテツーは?」
トウバは、長い前髪を右手で鬱陶しそうにかきあげながら聞く。
「まだ追いついていません……が、時間の問題です」
「奴等もこちらを追ってきている。ペースを上げるぞ。カイは先頭に立て。ゲンは後方索敵を」
「了解」
カイは言われるまま、先頭に立ち、隊を先導する。だが……何か、違和感がある。何か、おかしい。
少しばかり考えてみて、カイはその違和感の正体に気が付いた。
そうだ。おかしいのは、トウバ隊長が出した『指示』だ。
トウバ隊長は、何故、千里眼を持つ僕ではなく、ゲンに後方索敵を指示した……?
これは、合理を信条としているトウバ隊長らしからぬ判断と言わざるを得ない。
仲間が先行している前方より、敵が追撃してきている後方を優先して監視しなければならないのは明白である。
問い質そうと、再び後ろを振り向く。トウバは、ゲンの隣に陣取っていた。その右手は、バックパックの中を弄っている。
と。カイは、何気なく見たトウバの所作から『ある事実』に勘付き、愕然とした。
向こうも巻物を所持している以上、追い縋られぬよう全力で移動しているのだろう。すぐには差が縮まりそうもない。
ふと、後ろに気配を感じて、カイは振り向く。見れば、早くもトウバが追いついて来ていた。
「フォルテツーは?」
トウバは、長い前髪を右手で鬱陶しそうにかきあげながら聞く。
「まだ追いついていません……が、時間の問題です」
「奴等もこちらを追ってきている。ペースを上げるぞ。カイは先頭に立て。ゲンは後方索敵を」
「了解」
カイは言われるまま、先頭に立ち、隊を先導する。だが……何か、違和感がある。何か、おかしい。
少しばかり考えてみて、カイはその違和感の正体に気が付いた。
そうだ。おかしいのは、トウバ隊長が出した『指示』だ。
トウバ隊長は、何故、千里眼を持つ僕ではなく、ゲンに後方索敵を指示した……?
これは、合理を信条としているトウバ隊長らしからぬ判断と言わざるを得ない。
仲間が先行している前方より、敵が追撃してきている後方を優先して監視しなければならないのは明白である。
問い質そうと、再び後ろを振り向く。トウバは、ゲンの隣に陣取っていた。その右手は、バックパックの中を弄っている。
と。カイは、何気なく見たトウバの所作から『ある事実』に勘付き、愕然とした。
カイが『違和感』を覚えたのは、指示のミスだけではなかったのだ。
カイの脳裏に、今までのトウバの行動が、走馬燈の如く過ぎる。
カイの脳裏に、今までのトウバの行動が、走馬燈の如く過ぎる。
――額当ての位置を、神経質そうに何度も左手で調節しながら――
――トウバは左手を顎に添えて、ううむ、と唸った――
利き手だ……利き手が違う……!
疑惑は確信に変わる。それはあまりにも、致命的な見落としだった。
本来なら、気付けた筈だ。トウバが『フォルテツーは?』と聞いた、その時点で。
だが、トウバが開口一番『フォルテツー』との単語を口に出したものだから、それで警戒を解いてしまった。
何たる不覚。『フォルテツー』も『カイ』も『ゲン』も全部……奴等の前で僕らが交わした会話に含まれているではないか……!
難しい話ではない。ちょっと想像を働かせたなら、前後の台詞から、固有名詞の意味くらいは簡単に推測出来る……!
「千里眼!」
迷う時間すら惜しかった。咄嗟に、童術を発動する。ポイント付近の索敵で大分消耗していたが、今はそれどころではない。
カイの瞳に映ったのは……ゲンと、長い金髪をたなびかせた、女の姿。
「ゲン! そいつは、トウバ隊長じゃない!」
「なに!?」
「遅いわ」
ゲンが声をあげると同時に、その喉元をトウバの(姿をした何者かの)振るったクナイが一閃する。
頚部を切り裂かれたゲンは、大量の血液を惜し気もなく撒き散らしながら、暗い森の底へと落ちて行った。
疑惑は確信に変わる。それはあまりにも、致命的な見落としだった。
本来なら、気付けた筈だ。トウバが『フォルテツーは?』と聞いた、その時点で。
だが、トウバが開口一番『フォルテツー』との単語を口に出したものだから、それで警戒を解いてしまった。
何たる不覚。『フォルテツー』も『カイ』も『ゲン』も全部……奴等の前で僕らが交わした会話に含まれているではないか……!
難しい話ではない。ちょっと想像を働かせたなら、前後の台詞から、固有名詞の意味くらいは簡単に推測出来る……!
「千里眼!」
迷う時間すら惜しかった。咄嗟に、童術を発動する。ポイント付近の索敵で大分消耗していたが、今はそれどころではない。
カイの瞳に映ったのは……ゲンと、長い金髪をたなびかせた、女の姿。
「ゲン! そいつは、トウバ隊長じゃない!」
「なに!?」
「遅いわ」
ゲンが声をあげると同時に、その喉元をトウバの(姿をした何者かの)振るったクナイが一閃する。
頚部を切り裂かれたゲンは、大量の血液を惜し気もなく撒き散らしながら、暗い森の底へと落ちて行った。