SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ Another Attraction BC 48-1


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「もう一発」
突如イヴの前に現れた鎧が振り下ろす拳槌を、副碗と本来の腕で受け止める。
「…ッッ!!」
迫撃に全身が軋むも、一瞬後には夢幻の如く消え失せる。
こうして正々堂々にして超威力の不意打ちを受け続けて十数分……リオンの宣言通り、全く対処のしようが無い。
走ろうにも飛ぼうにも、突然進路を鎧が制圧し、一撃加えて消失―――それを幾度も繰り返したのだ。
「…だから無理だって言ってんだろ。いい加減諦めろよ」
満身創痍のイヴとは対照的に、疲労すら無くリオンは諭す。
「お前は此処に居ろ。オレ達がこれ以上戦うのは、どう考えても無意味だ」
だがそう有る事は、彼女がようやく見付けた答えが許さない。此処で心が折れれば、まず間違い無くシンディが視た〝笑わない自分〟
が現実になる。それらが、彼女に未だ膝を折らせない。
―――しかしどうする? 屈さぬだけで現状を打破出来れば苦労は無い。リオンの力は圧倒的であり、近付く事すら叶わないと言うのに。

悔しいが相手は余りに強大だ。今まで自分より強い相手と戦った事の無いイヴにとって、初めての「どうにもならない状況」が
彼女の胸に弱気を吐かせた。初めから戦闘を放棄したデュラムの時と違い、今回は物理的劣勢に置かれている。
「勝てない…………って貌してるぜ。そう思ってんなら、もう止めろよ」 
言われて慌てて冷や汗を拭うが、気を抜けば泣いてしまいそうな胸中はそう簡単に戻らない。
誓いを忘れて逃げ出したい気分だったが、それをやったら何にもならない。今一度萎えた心を叱咤して拳を握る。
…そもそも彼は加減している。先刻現れた鎧達は武器を握っていたと言うのに、今現れるのは素手ばかり。それでこの有様なのだ。

「大体さ、オレを止めたいなら殺すつもりで来いよ。オレが子供だから…なんて、欺瞞だぜ」

胸中を読まれた驚きを噛み殺す様に、彼女の奥歯が軋んだ。
「いちいち驚くなよ。オレはこれから世界を獲る気でいるんだぜ? お前の本気くらい受け止められなくて、簒奪者が務まるかよ。
 それとも何か? お前の仲間でも殺さないと、その気になれないか?」
悪意も敵意も無い、そして或る意味害意すらない残虐な展望に総身が強張った。少年の言葉には嘘もまやかしも無い。そして彼女に
向けられた物ではないにしても殺気は本物だ。

…確かに、その弱い考えは捨てなければならない。そもそも相手が強大である時点で、手加減など出来る訳が無いのだ。
そして今彼女が臨む戦いは、撤退と敗北を許されない部類のものだ。
必勝に到る為手段を選ばない―――――。それは確かに正しい………が、

腹を据えた彼女の手が手近の鉄柵に触れる。
構造変換ナノマシンを掌から通わせるや、鉄柵はそれぞれが蛇の様に身をくねらし、形を変え―――――――十数本の投槍(ジャベリン)へと変貌を遂げる。
「……やっとその気になったかよ」
次の手を察したリオンが、幼相に獰猛な笑みを宿らせて彼女の攻勢を待ち構える。
「来い。そうでなきゃ、何の意味も無い」
返礼と言わんばかりに、投槍がリオンに襲来した。
「防げッ!!」
号令と共に現れた盾を構える鎧が、槍を弾き飛ばして消えた。
所詮は命令を終えれば消える存在……それを喰らい続けて理解したか、イヴの投槍は文字通り矢継ぎ早に繰り出される。
「防げ! もっと! もっとだ!!!」
耳に痛烈な金属音が、槍の代わりに突き刺さる。鎧達への命令を上回らんとする回転速度で、彼女は自分の手と髪の副腕で次々と投げて
いるのだ。
「あああぁぁぁ!!!」
既に作った分など投げ切っているのに、それでも投槍は彼女の手から尽きようとしない。それもその筈、投げ付けながら周囲からめぼしい金属をかき集め、後から槍に変えているのだから弾数は本人にすら望外と言って良い。
〝お………多い!?〟
命令を必死に馳せるリオンの眼前に、自動防御の黒い盾が突如立ちはだかる。その物量と連射に、遂に何本かは鎧の防衛線を越え出した
……と思いきやそうでは無い。越えたのは物量に押されてではなく、イヴが平行に動いて他方からも投げて来たからだ。
「く…ッ、くそぉッ!!! こっちもだ!」
鎧が立てば確かに攻撃は防げる、しかしイヴは兎も角リオンは一瞬相手を見失うのだ。そしてイヴも、わざわざ彼に合わせて
真正面から投げ続ける必要も無く、射線を次々変えればいい。自分で言い出した事とは言え、リオンは道を得て初めての窮地に
追い込まれる。だが―――――、
〝―――だけどな………これで勝てると思うなよ!〟
「防げ! そして…喰らわせッ!!!」
盾を持つ鎧が投槍を防ぐと同時に、イヴの横に組んだ両手を振り上げた鎧が出現した。
しかし彼女は横薙ぎの拳槌を五分の見切りで回避し、なおも投げる手は停まらない。
「あああああぁぁぁ!!!」
視界に入る金属と言う金属を槍に変え、リオンを中心に周回する形で射角を変えながらイヴは小型の砲弾とでも言える質量の嵐を
見舞い続ける。
思ったとおり向こうは防戦一方となり、そして時折攻勢に立つが流石に二体以上の鎧は出せても上手く操れないらしく、微妙に出現箇所が
決め手に欠けていた。
〝――――いける!〟
幾度と無く喰らい続けて、この能力の欠点(アナ)に気付き始めていた。
それは、リオンが飽くまで冷静に物を見れる立場に無くてはならない事だ。鎧自体の攻撃は有無を言わさず強力では有る、しかし
それを指定の場所に出すのは彼であり、その術者が平静ならざれば鎧は的を微妙に外してしまうのだ。
……彼の道は狙撃に近い。神出鬼没では有るが、予想出来ない訳でもないし、対策が無い訳でもない。
スヴェンがトレイン達を心理の罠に嵌めていたのを思い出しながら、彼女もその要諦を理解しつつあった。
勿論これで倒せると思ってはいない。この連射は単なる威圧、彼を守勢から外さない為のものだ。
そして何より、徐々に近付くのを悟らせないための物だ。

「くそお……ッ! 防げ!! 防げ防げえッッ!!!」
リオンは殆ど動かず防御に回らざるを得ない。
移動しながらの防御はこの道には難しく、出した所で自らが防御から逃れる訳だから其処を狙われたら何の意味も無い。
然るにこの城壁無しの篭城戦を強いられる危惧をしていたとは言え、まさか優勢からいきなりやって来るとは思っていなかった。
しかも何故か、威力と回転速度が少しずつでは有るが増していく。
〝押し切られ…る…!?〟
実は今まで優勢ではなく、まさか彼女の手心に助けられていたと言うのか? それとも無敵と自負するこの道は、実は少しの窮地に
錆びた地金を晒す脆弱な物なのか?
だとしても……先刻彼女が並べた甘い展望を思い出すだけに、彼もまた弱い考えを打ち消した。
勝つ、勝たなくてはならない。これはただ相手を戦闘不能に追い込む戦いではない、心を折る戦いなのだ。

「―――ブン、投げろぉッ!!!」

命令に応じて立ちはだかったのは、盾を持った鎧ではない。巨大な鎖鉄球を構える鎧だ。遂にリオンも、イヴに対する手心を捨てたのだ。
轟、と風を巻いてイヴに鉄球が迫る。
「はあッ!!」
しかし気合一喝、投槍で無理矢理横に弾くと彼女も策を捨てて一気に距離を詰めた。
「斬れ! 斬れ、斬れ、斬れェッ!!」
次々に生じる剣を握った鎧達。しかも配置はきっちり射角を遮る位置だ。
横薙ぎ。唐竹。逆袈裟。刺突。まるでガントレット(二列に並んだ間を左右の攻撃から無防備で歩き抜ける処罰法)さながらの斬撃の嵐を矮躯を生かして捌き切りながら、イヴの投撃もまた留まる事を知らない。そして近付けば近付くほど、彼女はリオンが弾いた槍をも
拾って投げ付ける。
「潰せェッ!」
遂に僅か五メートル弱に迫ったイヴの前に、大上段で巨大なハンマーを抱えた鎧が現れた。最早先刻の拳槌とは訳が違う、受ければ纏めて挽肉だ。掌中に投槍を握ってはいるが、この超重の前に意味は無い。
しかし彼女は、勝つ為に敢えて身を沈めた。そして、投槍を地面に突き立ててもう一方を強く握った。
転瞬――――槍が爆発的に伸び、鎧の股下を潜った。無論その先には、イヴが離すまいと掴まっている。結果、彼女の行動に驚愕する
リオンは目の前だ。
命令と行動のタイムラグが生じる以上、この距離で彼の道は意味が無い。だが彼女には、肉弾戦が可能なのだ。
まず一撃。自動防御の確かな手応えを確信し、消失に合わせて第二撃のブロンドの拳を放つ。だが…
――――リオンはその攻撃を、〝素手で〟捌いた。それと挙を同じくして、彼の掌底が深々とイヴの水月にめり込む。
「か……はッッ!?」
掌底を打ち込まれたまま、リオンの手に体重を預ける形でイヴは行動と呼吸を封じられた。
「…残念だったな……忘れたか? オレは道士だぜ。能力と動かないお陰で接近したら勝てると思ったか?」
身体能力は常人の数倍、事実この一撃はその辺の力自慢を上回る威力だ。機も位置も申し分無く、常ならばこれで三日は動けない。
「………知っ…てる…」
だが、苦しい呼吸が戻らないのをそのままに、イヴは無理矢理言葉を紡ぐ。
「…あ?」

「…だから――――――――…掴まえた!」

同時に手首を掴まれ、全身にブロンドが巻き付いた。
「はああぁぁぁあああぁぁぁッッッツッ!!!」
リオンの身体は、怒号と共に重力のくびきから解き放たれ、殆ど地面と水平に飛んだ。
「うわあああああぁぁぁ!!!」
絶叫のドップラー効果を道連れに、彼は屋台の一つに激しく突っ込んだ。
…そして、反撃に備えしばらく身構えていたイヴだったが………それ以上動きが無いのを見て取るや、ようやく其処で膝をついた。
息が荒い。腹が痛む。全力でナノマシンを総動員して快癒に勤しむが、ダメージが思ったより深く集中し切れない。
だが……勝ったのだ。初めての強敵との戦いに。
〝やったよ……スヴェン…〟
いよいよ使い果たした感が有るも、満ち足りた気分だった。これなのだろう、「人間である」と言う事は。
乗り越える事に意味が有り、守り切る事に価値が有り、矜持を貫く事にそれぞれの真実が有る。兵器として生まれ、そう有れかしと強制
された世界には無い本当の生き方に、彼女もようよう目覚めつつあった。
「…行かなくちゃ……皆の所に……」
覚束無かった足元もやっと普通に動ける様になり、彼女は広場を後にしようとしたその時………不意に周囲が暗くなった。
「!」
身の危険を感じて飛び退る一寸遅れで、背後から振り下ろされた大斧が石畳を激しく叩き割った。
着地して先刻リオンを投げた屋台を見れば――――――――其処から自分と同様矮躯の影が起き上がった。
「…良く………判ったぜ…」
その声は臨界間際の憤怒を帯びていた。
「お前が……オレを殺したくないってのが………良く、判ったぜ」
無傷ではない。到る所から血が滴り、呼吸もイヴと同じく負傷に喘ぐ。しかし、それが戦意を削ぐかと言ったらそうではない。
寧ろ一層の殺意を双眸にも漲らせ、その歩みは更に力強い。
リオンを投げ込んだ屋台は食料品や土産物を取り扱っていない。商い物は大小の縫いぐるみだった。
「わざとこんな所に投げ込みやがったな……何処まで甘けりゃ気が済むんだお前…」
これが店舗の壁や石畳、もしくは噴水なら其処でリオンの命は終わっていた。しかしその場所でも、仮にデュラムやギャンザなら其処で
戦闘は終わっていた。如何に緩衝材が有ろうと、あの速度が無傷で済むなど有り得ないからだ。
「そもそも投げるんじゃなくて……刺せば良かったんだよ。それを……舐めやがって……」
策は決して悪くない。相手が彼だと言う事が問題だった。既に彼は、殺さなければ止まらない領域の住人なのだ。
しかしイヴにも、その気迫を受けて萎縮する様は見られない。彼女もまた、死んでも折れない覚悟を決めている。
それを見て取ったリオンは、心底疲れた様に嘆息した。
「そうかよ……だったらお前はそうしてろ。
 オレは………もう、どっちかが死ぬまで決着にするつもりは無いぜ」
まるで空気が怒りに答える様に、彼の髪が浮き立った。